巨大魔物討滅作戦

広畝 K

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第十八章:強者

112話

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 確かな手応えは、しかし至らなかったと持ち主に告げた。

 毛皮を突き破り、肉を断ち切り、けれども強固な頭蓋を穿つこと能わず、ゆえに剣先は致命に届かない。

 そして『手負い』は、致命でなければ動きを止めることはない。
 痛痒などはもはや感じず、多少の傷が増えたところで、それが如何ほどのものであろうか。
 後頭に位置する敵を払わんとして、『手負い』は魔力の通わぬ白き碗を振るう。

 魔力が抜かれて強化が効力を果たしていないとはいえ、その腕の一振りは凶器として十分に通用するだけの攻撃力を有している。
 そこまで考慮しての行動ではなかったろうが、『手負い』としては攻撃できれば何でもよかったのだ。

 絶え間ない攻撃衝動に加えて生存本能までが絶叫を上げ、今までにない疾さをもって、腕を敵へと向かわせる。

 しかし、どれだけ疾かろうとも、短絡的で直線的な攻撃は上級冒険者にとって稚拙に過ぎず、予測するにも値しない。
 数瞬の余裕をもってペッパーはその腕を見切ってかわし、振るわれた巨腕は虚しく空を切るのみであった。

 そしてそれが、決定打へと繋がった。

 巨大な剛腕の空振りがもたらしたものは、体勢の不安定だ。
 腕が後頭部を過ぎて高所に届かんばかりになったとき、肉体は腕に引っ張られ、僅かに腹部を外へと晒したのだ。
 それは『手負い』が生み出してしまったこの上ない隙であり、その瞬間、グレープの鉄拳が巨体の胸部中央を貫いた。

 空を裂いた鉄拳によって伝播していく衝撃は、周囲の肉体すら破壊して、胸部に小さくない欠損を与えたのである。

 心臓に送られるはずだった血液が欠損から溢れ出して地に滴り、『手負い』の動きを鈍重へと誘い、感覚を痺れさせ、熱量を失わせ、大質量の生命を外界へと流出させてゆく。

 それでも動きを止めぬ『手負い』と呼ばれる魔物は既に、化け物と呼ばれる領域に足を踏み入れていた。
 心臓を潰され、感覚は失われ、意思と理性を消滅させておきながら、敵に対する攻撃性は微塵も衰えさせることはなく、人智を越えた超常によって敵を屠らんと肉体を動かし続けている。

 もはやそれには意識すらないだろうが、しかし彼らは生命に対する敬意を込めることを決して忘れず――、

「御免」

 その白く輝く首を的確に刈り、『手負い』の生命を完全に断ち切ったのであった。
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