巨大魔物討滅作戦

広畝 K

文字の大きさ
上 下
9 / 140
第二章:再会

9話

しおりを挟む
「……まあ、こうして無事でしたから。頭を上げてください」

「いや、ほんとにごめんなさい。
 お詫びってわけでもないけど、猪の処理は任せてくださ――」

 頭を上げている途中で、少女は言葉を止めてソルトの顔をじっと見始めた。

「んん?」

 そして再び遠慮も容赦もなく、彼の頭や身体をペタペタと触り始めた。
 フードを外し、髪の毛を梳き、掛けていた眼鏡も取り外す。
 睨むような彼の紅い眼をじっくりと注視しながら背の高さを測ったり、脇の下に手を差し入れて身体を持ち上げたりしている。

「……あの?」

 困惑を隠せないソルトの声を聞いて、少女はようやく合点がいったらしい。
 喜色を交えた笑いを上げつつ、少女は彼の頭をポンポンと軽く叩いた。

「君、ソルトでしょ?
 昔と全然変わってないから驚いたよ!
 背もほとんど伸びてない!
 声すら変わってないとは思わなかった!
 髪はすっごい伸びて跳ねてて、少し可愛くなってるけど!」

「……君、誰?」

「あれ? 忘れちゃった? 私だよ、わ・た・し!」

 少女はゴーグルを外し、頭を覆っていたメットを取った。

 炎のような赤い髪が一瞬舞うように広がり、すぐに白い首元へと毛先を揃える。
 短めの前髪の下では、澄み切った清水のような色を湛えた碧眼がソルトの紅眼を懐かしむように見つめている。
 顔貌のパーツは小さく綺麗に整っていて、美人と評される類の人間だ。

「ああ、シュガー姉さんだったのか……」

「そう! 私の正体は、君の姉貴分のシュガー姉さんだったのだよ!」

 シュガーは朗らかな笑みを浮かべながら、ソルトの顔を見下ろした。
 その太陽のように明るく眩しい表情は、彼の脳裏に幼い日々の記憶を呼び起こしてゆく。

 押されて転んで水たまりに飛び込んで泣いたところを笑われたり、服と背中の間にカエルを放り込まれたり、野生の毒キノコを共に食べて笑い死にそうになったり……。

(……うん、ロクでもない思い出ばっかりだな)

 しかしそれでも、懐かしいものだとソルトは思う。
 長じてからは道を分かち、彼は村を出て、彼女は村に残ったのだ。

 村を出てからはもっぱら知識と技術を吸収することに専念していた彼であるから、故郷から月に二、三度くる便りに目を通す暇も無かったが、どうやら彼女は立派に仕事を獲得し、彼女なりに職分を果たしているらしい。

(仕事に就けなかった僕とは大違いだな……)

 自身と相手の社会的立場を鑑みて、ソルトは静かに肩を落とした。

「ん? 久しぶりの再会なのに元気ないね? どしたの?」

「……いや、なんでもないよ」

「そう?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

外れスキル【転送】が最強だった件

名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。 意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。 失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。 そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

処理中です...