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顔も見られることなく王子に婚約を承諾された話

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 王宮の庭園をさくさく散策していますと、不意に横から茂みに引っ張り込まれました。

「静かにして下さい。不敬ですよ」

 あら王女様、ご機嫌麗しゅう。

 というか、こんなところで何をされてるんです?

「あれを御覧なさい」

 ははあ、王子ですね。それと侯爵令嬢のミューズ様ですか。

 告白の場面ですね。そりゃ邪魔しそうになった私を引っ張り込むのも納得です。

「でもね、兄様は目が肥えてるから必ず振るのよ。ほら、また振られた」

 ミューズ様でも振られるとか、相当ですね。

「外面だけじゃもう兄様は落とせないのよ。面倒なことに」

 面倒そうですね。

「そう、面倒なの。ところで貴女、兄様に告白しない?」

 しません。面倒なので。慎ましく生きていきたいので。

 優良物件? 結構です。そんな面倒事に手を出す暇なんて私には無いのです。

「分かるわ。貴女の家、借金があるものね。弟さんもまだ小さいし、それまで爵位は保てるのかしら?」

 もしかして、脅してます?

 没落したら没落したで、別に構わないんですけれども。

「そこよ。没落した先の計画も練ってあるという、その強かさが良い。お願いだから告白だけでもしてみて欲しいのよ。駄目でも、相応の見返りを用意させて貰うわ。具体的には王宮における貴女の役職ね。あとは、弟さんの後見を任せられる貴族の紹介とか、どう?」

 そこまでの権限が貴女にあるんですか?

 あ、良いです。やっぱり聞きたくないです。

 分かりました。告白してきますよ。してきますって。だから物騒な書類をちらつかせないで下さい。

「良し、ならば貴女にこれを授けましょう」

 なんです。この手紙。

「兄様への紹介状です。貴女の性格、頭の出来、価値観、将来性などについての分析評価が入っています」

 えぇ……。

 王女様ってそういうところが怖いですよね。

「有難う。最高の誉め言葉だわ」



 ちなみに、王子は私の顔を見もせずに紹介状を読んだだけで告白オッケーしました。

 うーん、この王族兄妹。
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