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聞きたいことがたくさんあるのですが
しおりを挟む結婚式が終わり色々と聞きたいことがあるのにのらりくらりと逃げられ時間が経ち夜になった。
結婚式の日の夜。
つまり初夜だ。
悩ましい夜着を身にまとい陛下の渡りを待つ。
ちなみにメアリーに醜女にしてと言ったが言葉なく却下されてしまった。
コンコンと扉を叩かれ「国王陛下が参りました」と侍女の声がする。どうぞと許可するとガウンを緩く羽織った男が部屋に入ってきた。
目元が隠れるくらいの前髪を軽く掻き上げ緩く開いた胸元は鍛えられた筋肉が盛り上がっているのがわかる。ぴっちりきっちりした式の時とは違い色気倍増だな……と無表情な顔をキープしながら夫となる男を眺めた。
「まずはこの国に嫁いで来てくれて感謝する。先王の第、……えーっと何番目か忘れたが、先王は2日前に崩御したためティアナ姫は俺の王妃になる」
おっけい?と尋ねられる。
「……いろいろ聞きたいことがありますがまず、先王陛下が亡くなったにもかかわらずこの国の皆様はとても明るい顔をされていますね」
最初は先王陛下の元に嫁ぐ予定だったとして、自国からこの国まで馬車で移動した日数は2週間。まぁ何かがあって儚くなったとして、普通喪に服すのではないだろうか。
陛下に手を引かれ2人がけのソファに座るり酒を飲むか?聞かれるが嗜まないので断ると自分の分の酒をグラスに注ぎ口を開いた。
「先王は自業自得だがあまり人望がなかったし大々的な国葬は先王が望まなかった。もう何年も病で動けない身体だったからこの国を動かしていたのは実質俺だ。まぁ普通は隠居という形になるんだがな」
「何年も病で動けない身体だったのならなぜ30人以上の側室を娶ったのですか?」
「この国に入って、随分と色んな人間がいたと思わなかったか?」
確かに様々な人種が歩いていた。中には遠い昔迫害を受け鎖国を貫いていた獣人の姿もあった。
「当時の宰相は狡賢い奴でなぁ、それはそれは手間だった。なんせ派閥関係なく奴に掌握されていて可哀想な人間が1人でもいれば良いのにどいつもこいつも碌な人間がいなかった。一斉粛清をやるのはいいが人材が居なくなっては国政が回らなくなり多くの犠牲を出してしまう。苦肉の策で各国から王女や爵位持ちの令嬢を娶り国交の繋がりを強くしたりスカウトしたり……」
その時のことを思い出したのか色気が倍増だったのに急に老け込んだような顔になって内心ギョッとしつつ空になった陛下のグラスに酒を注いだ。
「ありがとう。……まぁ絵姿が1番脂が乗っている頃の最高傑作の絵だったから嫁いでくる方も訳ありが多くてなぁ」
まさに絵姿と噂が原因で姉が逃亡し代わりに嫁いで来た私は何も言えない。陛下も薄々予想していたのかやっぱりなと愉快そうに笑った。
「内密に側室達とある契約をした。出来うる限り望みを叶える代わりに何人か優秀な人材を派遣してくれとね」
ある者は本に囲まれたいから王立図書館の司書に
ある者は周りから女性の嗜みではないと蔑まされ諦めていた医師に
ある者は剣の道に進むため騎士に
ある者は自分を虐げてきた家族たちに復讐するために
ある者は身分違いのため諦めていた恋を叶えるため平民に
ある者は一度引き離された獣人の番に
「それは彼女達にメリットが大きすぎるのでは?」
「そうでもない、ほとんどが死んだことになっている者たちだ。特に一から新しい道を歩む者とかな。頼れる実家も親しくしていた友人も、そもそも国にも帰れない。それでも彼女達は喜んで受け入れた」
「それなのに私は貴方の妃になると?」
じっと見つめると叱責と捉えたのか遮るように目を瞑ったがすぐに瞼を開ける。
「そうだ。だが母上のことや争う先王の側室達を間近で見てきたから妃を迎えるのは1人で良い。ティアナ姫だけだ。俺の王妃になってほしい」
「……貴方は大国の王なのですよ。跡取り問題はどうするのです」
もし私がそういう身体だった時どうするのかとそう思い聞くとニヤッと笑い、私は訝しげに眉を顰める。
「実は実力主義による王権にしようと思っている。この国の国訓は知っているか?」
ええ、と頷く。
『文を学び武を兼ね備え、誠の心を得よ』
「新しい人間も多く入った。貴族たちも一斉粛清したから新興貴族が多い。軍事国家なだけあって他国からの覚えもめでたいが内情は荒れに荒れている。それに前々から王族の血があるからこそ国が成り立つという思考が気に入らなかった。当時の宰相の方は知らんが父親は王族という血は特に拘っていた。再従兄弟同士である先王と母上の縁談をまとめたのもその父親だからな、拘りが強いのが伺える。……道のりはとても長いだろうが実現したいと思っている」
「そう言うことでしたら微力ながらお手伝いさせてください」
「……ありがとう。さて続きはまた明日話そう。夫婦の夜の時間にこれ以上政治な話は似合わない」
まだ続きが聞きたい私だったが、仕方なしにベッドまで連れていかれる。ベッドの端に座りじっと見つめられる。
「偶然とはいえ騙すような結婚式になったことは謝罪する。すまなかった。……ティアナ姫は俺のただ1人の妃だ。そもそも子どもは授かりものだ。俺としては老後まで夫婦2人だけがいいな」
真面目な顔で言うものだから元からあまりなかった怒りも綺麗さっぱり消え去った。
「子どもが立派に成人すれば老後は無事陛下と2人ですわ」
にこりと微笑んだが元から無表情なので伝わらないかと思ったが陛下も微笑んだので伝わったのだろう。
「じゃあ手始めにお互いの名前を呼び合うことから始めよう」
夜はまだ長いからな、と言う陛下、改めエドガー様の首に腕を回す。
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