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王太后と王妃

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王妃の公務も慣れた頃、ある方に私は呼ばれた。

「婚礼式以来ね、ティアナ。この場は私たちだけだから気楽にしてね」

「感謝しますお義母さま」

茶会に呼ばれた私は王太后の離宮で振る舞われた。

目の前に大好物のマカロンがあり私がこれが大好きだと知っているのはエドガー様だけのはず、もしやとメアリーを見つめるとそっと顔をそらされた。お前か。

「ふふっごめんなさい。久しく茶会をしていなかったものだから若い子に出すものが分からなくて…。ティアナの侍女に貴女の好物を出したいと言ったら教えてくれたものだから」

「いえ構いませんわ。秘密の共有者が増えただけですもの」

ピンク色のマカロンに手を伸ばしやはり絶品の味に癒される。

「秘密なの?」

ふふっと楽しそうに微笑むお義母さまに頷く。

「私のこの顔を崩すのはこのマカロンだけですわ」

「まぁ、ふふっ。じゃあ2人での茶会の時は用意してあげるわね」

「この可愛さでありながら砂糖の塊でも呼ばれればすぐに行きますわ」

マカロン目当ての発言をしてもお義母さまはニコニコと微笑んで優雅に紅茶を飲んでいる。

お義母さまの趣味はとても良く部屋は淡い色でまとめられ、家具も必要最小限の繊細な物ばかりで控えめな性格だと分かる。

ふと部屋の一角に花が生けられているのを見つける。その周りには小さな額縁が並べられているのが分かった。

「あれは毎年私の誕生日にいつもエドガーが持ってきてくれるのよ」

私が見つめている先が分かったのか教えてくれた。

「…それにしては恋の言葉がある花が多いですわね」

というか恋の花しかない。子が母に贈るものにしてはいささか危険なのでは。エドガー様にあらぬ疑惑が浮上する。

「…え?」

「お義母さま花言葉には詳しいですか?」

「いいえ愛でるだけよ。ティアナ、詳しいのなら教えてくれる?」

「もちろんですわ」

部屋の一角に近づきよく観察するとやはり恋の花ばかりだ。しかしこれは…

「片想いのものばかりですわね…」

ますます危険な香りがしてきた。

サクラソウ「初恋」

ライラック「初恋」「恋の芽生え」

カトレア「優美な貴婦人」

他にも初恋や恋を連想させるものが飾られている。

「けれどこれはあの自信満々なエドガー様にしては控えめすぎるわね」

シバザクラ「臆病な心」

今年に送られた紫色のクロッカスにしても重いものだ。

「これは愛の後悔という言葉がありますわ」

初めて贈られ記念に王太后が描いてきたという額縁の花たちからは危険な香りがしていたが年月が経つにつれ見れば見るほどこれはエドガー様が贈ったものではないと確信する。

「では、誰が…」

「父上さ」

お義母さまの呟きに予期しなかった返答に振り返ればエドガー様が長い前髪を鬱陶しそうにかきあげながらだらけた格好で離宮に入ってくる。民の前に出る時はすごくキッチリしているのにギャップ狙いなのかしら。

その後ろにメアリーを見つけエドガー様を呼んできたのは彼女だと察した。

「自分が渡したところで何を口走るか分からないと母上を傷つけるのが怖くて俺に贈らせたんだよ。倒れてからはあんなに傷付けてきたのに今更顔を合わせられないともね。全く同情などできんがな」

全く同感だ。だが口にはせずにある花の額縁を手に取る。

「けれど想いを伝えたかったのですね、この青い薔薇には一目惚れという言葉がありますもの」

「…あの人が私に一目惚れを…?」

お義母さまは手を口に当て困惑した様子で花たちを見つめる。

「…ごめんなさい…1人にしてもらえるかしら…?」

「えぇもちろんですわ」

「近いうちにまた一緒にマカロン食べましょうね」

頷き、青い薔薇が描かれた額縁をお義母さまに渡してエドガー様と共に王太后の離宮から退出した。









息子とティアナが去り、長年連れ添ってきた侍女に1人がけの椅子に勧められる。

小さな額縁に描いてある青い薔薇を見つめ、先王と初めて会った時のことを思い出した。


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