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愚王と婚礼

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お父様の問いかけに是の返事を返した私は数日後に馬車に乗り20人の護衛と3人の侍女と共に大国に向かった。

王女の婚礼行列としてはかなり小規模だがなんせ小国なのだ。むしろお父様はかなり奮発したなと感心さえしたくらいだ。まぁお姉様のように逃さないためもあるだろうが。

大国を移動中に侍女達による私をいかにして婚礼衣装を美しく着飾らせれるかの議論を聞きながら、気付いたことがある。

それは各国から蔑まれる愚王の政治だと言うのに民の顔が明るいことだ。

流石に貧民街の方まで見てはいないがどこも賑やかで遠くの方から露店のかけ声も聞こえてきていた。

民の特性も様々で片や褐色肌で黒髪の男性と片や色白で金髪の女性が手を歩き仲睦まじそうにデートしているのが見える。別のところに目を向ければ同性同士でキスしあっているのも見えた。

「あらまぁ、随分と多様性ねぇ。これが大国の強みかしら」

「恐らくは。それに世界で人口がトップであることはもちろん、軍事教育も盛んらしいですね。国から有望な軍人が育つのは当然と言えましょう」

見てください、と言われメアリーの方を向くと「初心者でも分かりやすい!世界マップ!」となんともポップな冊子が握られていた。

「この本によるとこの国の国訓が『文を学び武を兼ね備え、誠の心を得よ』らしいです」

「……ますます愚王のイメージとかけ離れてしまうわね」

なんとも堅実な教訓だ。





とはいえ、嫌なものは嫌だ。

誰が好き好んで父親よりも少し上の親父に嫁がねばならないのだ。

目の前の鏡に写るまばゆいほどの純白なドレスを身に纏っている私は無表情ではあるものの輝かんばかりの花嫁だ。60のエロ親父に嫁ぐというのに。

「メアリー、私を醜女にしてちょうだい」

メアリーは私とお姉様の乳母の娘だ。私とは同い年で乳兄弟でもある。そして彼女も無表情だ。生まれた時から一緒にいるためか似たもの同士である。

「何を言い出すかと思えば…。私の腕を持ってしても幸薄美人になるだけです」

「私の顔を生かすのではなくて殺してちょうだいな。そうすれば国王陛下の夜枷の渡りもないはずよ」

「逆に新たな境地を開かれるかもしれません」

見境なしに手を出す噂は本当のようです。とメアリーの無表情な顔を見つめため息をついた。

「…ポックリと逝ってほしいわ」

「気持ちは分かりますが口に出てます」

メアリー以外の2人の侍女は母国と変わらないいつもの光景に見て見ぬふりだ。

コンコンと扉が叩かれ1人の侍女が応対すると式の時間だと告げてきた。

「覚悟を決めなければ」

「殺す覚悟は止めてくださいね」

「…なんのことかしら?メアリー」

全くお互い無表情なのに思考が似ているからか筒抜けになってしまうのも問題ね。
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