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完璧であること
しおりを挟む「お嬢様、午後からはマナー講師とピアノ講師の方が来られるそうです」
「まぁ朝から勉強していると言うのにお父様は鬼畜ね」
父は宣言通り数人の家庭教師を付けてきた。刺繍やレース編みなど貴族女性が嗜む趣味の先生や絵画の先生や社交ダンスの先生や、あぁ今言われたマナーの先生にピアノの先生だったり多様な方面の先生を連れてきた。
が、正直言って今更学ぶことがない。
本当になんでか分からないがメイド時代同僚達と一緒に厳しい教師を相手にしのぎを削ってきたのだ。メイドなのにお嬢様口調させられたわね……。
あの時雇ってくれたお貴族様は一体何をしたかったのか不明だが結果として役に立った。
「ま、マナーは申し分なしですわ……」
「ピアノも、私以上にお上手ですわね……」
当然ね。パーフェクトでなくては。
口では言わずに少し照れたような微笑みで先生達を見る。
「まぁ嬉しいですわ、先生方お疲れでしょうからお茶にしませんこと?」
「「……是非」」
午前中もこのやりとりをしたのでぶっちゃけお腹が紅茶でタプタプだ。
許すまじ、あのタヌキ親父。
「先生方は王太子殿下とその婚約者様の事を知っていますか?幸運にも貴族の娘になったのですから将来の国王陛下王妃殿下の事を知りたいですわ」
王太子の婚約者になれ、と言われたからといって素直に従うつもりはない。向こうが記憶が朧げだと言うならこっちだって知ったことか。
だが無闇に引っ掻き回して痛手を喰らうのは自分なので情報は必要だ。
質問されたマナーの先生は国王陛下の側近を夫に持ち、ピアノの先生は王家直属の騎士団長を夫に持つ。社交界の噂程度は耳に入っているだろう2人はお互いの顔を見合わせ困った顔をした。
「お二人は幼い頃から婚約されているのですがお互い、なんというか…」
「夜会などで出席されてもファーストダンスだけ踊ってその後は最後まで別行動されるくらい冷めているような感じですわね…」
「陛下の側近である主人が言うには言葉を交わす事も稀だとか」
「私も聞いたことがありますわ。…それに婚約者である御令嬢と何度か会話したことがありますが慎まやかで物腰も穏やかな人で、なぜあんなに距離があるのかしら」
「ええ、本当に…」
どうやら父が言っていた不仲は本当らしい。夫人達もなぜ2人が仲良くないのか分からないようだ。
まぁ幼い頃から交わされた婚約ならお互い良いところも嫌なところも散々見てしまうんだろう。軽く考えながらもう少しすればデビュタントがあるから運が良ければ話ができるかもしれない。
貴族令嬢は15歳でデビュタントを迎える。成人として認められ早い者は相手が成人していれば結婚する者もいる。
私は先月15歳になり、3ヶ月後デビュタントに参加することになった。
俗に言う貴族の庶子だが仮にも公爵令嬢という身分なので王家に挨拶しなければいけないらしい。
正直、かなり面倒だ。
ただえさえそう思っているのにデビュタントよりももっと面倒くさそうなことが出てきた、
公爵の妻、つまりは父の正妻様が領地から王都に帰ってきたらしい。むしろ存在さえ把握していなかったからそのまま引っ込んでいて欲しかったわ。いたのね、奥様。
あの父の、タヌキ親父の妻だ。ぜぇぇたっい面倒臭い。知らんけど。会った事ないけど。
あと数時間で屋敷に着くという手紙で屋敷中てんやわんやだ。正直ここまで忙しげにされるとメイド時代を思い出して手を貸したくなる。いけないいけない、私はお嬢様。嫌々だけども貴族のお嬢様よ。
そしてきっちり数時間後もうすぐ夕食の時間に父の正妻様は帰ってきた。
「おぉ!この子がマリアンヌか!緑の瞳は一緒だが全体的にオズに似なくて良かったなぁ~!カタリーナだ、よろしくな!私のことは母上とでも呼んでくれ!」
第一印象は、白馬の麗人。
一瞬男かと言うくらい高身長で銀髪金眼のスレンダーな美しい女性が逞しい白馬から降りて出迎えていた私に近寄って頭を撫でてきた。眩しい笑顔である。
ちなみにオズとは父の名前であるオズワルドのあだ名だ。覚えなくても問題ない。
「……カタリーナ、その男勝りな言葉なんとかならんのか。仮にも公爵夫人だろう」
苦虫潰したような顔をして苦言する父はどうやらカタリーナ様のことが苦手のようだ。なぜ結婚した。あれか、政略結婚か。
「仕方ないだろう?私は公爵夫人になる気はさらさらなかったしオズみたいな性格の悪い男に嫁いだ私は哀れな女だ!それに男の格好、私達が子作りしないこと、公爵夫人としての責務を放棄することを条件に王妹の私はお前との結婚を受け入れてやったんだ。恨むなら顔面はとても良いのに結婚適齢期を遥かに過ぎても嫁いでくれる女性がいない程最悪な自分の性格を恨むんだな」
怒涛の言い返しに王妹だというカタリーナ様に驚いたものの父の性格の悪さゆえに顔はそこそこ良いのに結婚を逃していた事実を知ってブフッと笑いが漏れてしまった。それをいち早く聞き取った父がギロリと睨んできたが、全く怖くない。
「それにこの子の母親のアリサのことだって私は認めていたというのにいざ妊娠と聞いたら自分の母親のように豹変するんじゃないのかって怖くなって会わなくなったと聞いて迎えに行けと散々しばいた筈だけど、マリアンヌがここにいるということはお前何か面倒な事を起こそうとしてるんじゃないよな?あ゛ぁ?」
ボキボキッと指の関節を鳴らして凄むカタリーナ様に少したじろいだ父が一歩後ずさる。
えぇえぇまさにその通りですわ。
だがそろそろお腹も空いてきたので言い合いーーカタリーナ様が一方的にーーをしている2人を食堂まで連れて行き、無事に一流の料理人達の自慢の品々を食すことができた。
「オズ、お前は料理人達と食材に敬意を示せ。少しだけならここまでうるさく言わないが最近は野菜にほとんど口付けていないようだな?そのくせ野菜が盛りつけていないと見栄えが悪い彩りがないと文句も言うそうだな?言うなら食えやおら」
「や、やめんか!カタリーナ!!むぐぅ!!」
どうやらカタリーナ様はとても愉快な人のようだ。
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