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第6時 修正作業
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翌日。合否の結果を待つ生殺しの最中、俺は久しぶりにツキとデートをした。映画に食事、カラオケの三コンボ。映画はツキが見たいと言っていたSFミステリー。食事はお金もないのでファミレスに行き映画の感想を言い合った。そして最後のカラオケは、真っ最中。
「う~~イェイ!」
ノリノリで歌うツキ。その歌唱力は、調子に乗りすぎて外してしまう事はあるが、超上手い。対して俺は超平凡。花咲と比べる以前に、俺は何をしても人並以上の事はできないのかもしれない。
「凡人代表伊達イタチ」
「うん? 何か言った?」
「なんにも言ってないっす」
マイクを取って身体でリズムを取る。そしてツキとは比べるべくもなく平凡な歌声を披露する俺。なんだか一曲歌うごとに自尊心が削れていってるような気がするのは気のせいであってほしい。
俺とツキの音楽センスは合ってるともかけ離れてるとも言えない、微妙なものだ。基本的に明るい曲や恋愛ソングを好むツキに、後ろ向きな人への応援歌的なものが好きな俺。アニソンは二人とも好きだが、そこから機械音声に派生する俺に、そのボーカロイドを素人が歌う、歌ってみたの類しか聴かないツキ。
しかし大体の曲はお互いに既知であり、相手が知らない曲を歌い合うみたいな悲惨なものにはならない。といっても、歌唱力は絶望的に違うのだが。
自尊心が全て削ぎ落ちる前にカラオケを出て、遅い時間になってきたので最後にある場所に向かう。十分くらい歩いて着いたのは河原。意外と見落としがちだが、夜の川というのは、場所によっては街灯や月が反射して結構綺麗なのだ。
川を眺めながら、坂になっている草場に腰を下ろす。
「今日は楽しかったな」
「そうだねぇ。久しぶりだったし」
二人して遠い目をしながら、互いの顔も見ずに話す。
「今更だけど、久々のデートの映画って普通恋愛ものじゃない?」
「お前が見たがったんだろうが」
「そうだけど、う~ん……雰囲気を取るか好みを取るか、難しい選択ね」
「選択し終わった後だけどな。欲望の方を取って」
「欲望とか言わない」
「失礼。実利を取って」
「実利とか言わない」
「失敬。事件を取って」
「どこの刑事よ。ど、こ、の」
笑い合って、そんな馬鹿話を続ける。そんな中で、ツキが唐突に真面目なトーンで口を開いた。
「この半年、秀晴は頑張ったよ」
「俺も、そう思うよ」
自嘲気味に薄く笑う。
多分ツキも察しているのだろう。俺が受験の手応えに自信持っていない事を。訊かれたわけではなかったが、人一倍他人を機微に気を遣うツキには、隠せないとは思っていた。
「本当に、びっくりするくらい秀晴は頑張った。好きな事も全部我慢して、これ以上ないくらい頑張った。凄いと思う」
「そうかもしれないな。でも……」
「結果が出なきゃ意味ない?」
「そうだね。結局は……そういう事だよね」
下手に慰めたり臭い事を言わず、ツキは肯定した。寂しそうな、悲しそうな声音で。
それは一緒の大学に行けないかもしれないから、という理由だけでないのだろう。
「まだ結果は分からないさ。自信と結果ってのは、割とすれ違うもんだからな」
「確かに。私もサークルやってた頃は、予想外に勝ったり負けたりっていうのは結構あったよ」
「だろ?」
「うん」
沈黙が流れる。
言うならいまなのだろうと思った。花咲に言われた事を、自分のしてきた最低な行いを、告白するなら。
だが喉は肝心な言葉を堰き止めて、理性は言うべきでないとブレーキを掛けていた。
だって、たとえ言ったとしてもツキが得する事など何もないのだから。俺の罪悪感が薄れるだけで、ツキは恋人である俺を信じられなくなってしまう。それが原因で別れる事にでもなったら、俺もツキもつらい思いをするだけだ。第三者が見れば都合がいいと罵るかもしれないが、もうこの秘密は打ち明けたところで、俺の心を楽にするだけの効果しかないのだ。
月並みで勝手な言い分だが、知らない方が幸せな事もある。そう思えば思うほど、言ってしまいたいという感情とは逆に、言ってはいけないという強い自制心が働いた。
「ねぇ、もし……」
話し掛けた仮定が中途で止まる。
「なんだ?」
内容は分かっていたが、あえて促す。
ツキは一瞬黙って、すぐに笑って誤魔化した。
「ううん。なんでもない。……そろそろ帰ろっか。だいぶ遅くなっちゃったし」
「だな」
そしてその日は、ツキを送って家に帰った。
訊きたい事は訊けず、言いたい事は言えず。漠然とした不安が明瞭になって迫ってくるのを感じながら、それをどうする事もできないで。
ツキの不安を知りながら、それを払拭する事も、共有する事もしないで。
目的のために手段を選ばない卑怯さよりも、自分の弱さを見せられない弱さや臆病さが、俺は嫌いだ。
そんな俺の嫌いな俺が、ツキにはどう見えていたんだろう?
結果は不合格だった。ちなみにツキと花咲は合格。
二人は自分の合格を喜ぶよりも、俺の心配を先にしてくれたが、頭がごちゃごちゃになってつらさを誤魔化すだけで精いっぱいだった。
いままでやってきた全てが比喩でもなんでもなく水泡に帰した。受験勉強の知識なんてこれから先使う事なんてないだろうし、浪人してまで大学に行くつもりもない。努力した過程がかけがえのない経験だ、なんて名言のように言われるが、そんなのは自分を慰めたいだけの戯言だ。むしろ懸命な努力が無駄になるかもしれないと知って、また頑張れる人間は少ないだろう。経験は時に、マイナスに働く事もあるのだ。
そして俺の不合格は、否応なしにツキとの別れを意味していた。これからは、会うにしても、会える回数も、指で数えられる程度になるだろう。それならばと、デートを重ねようとしたが、俺のその後の進路の相談や、ツキの進学の準備が重なって、卒業式の後は一度も会えないまま時が過ぎ、結局会えたのは三月の終わりの日だった。
「久しぶり」
「久しぶり」
お互いに、どこかぎこちない挨拶だった。なんだか、胸が詰まってツキの顔をまともに見れない。
俺には合格できず一緒に行けない悔恨が、ツキにはそんな俺を置いて、進学する負い目が、それぞれあった。
「もう、行くんだな」
「うん」
「頑張れよ」
「うん」
「風邪、引くなよ」
「うん」
「元気で……やれよ」
「……うん」
言うべき事を必死に探すが、それ以上の言葉は出てこなかった。
ツキも同じなのか、俯いて何も喋ろうとはしない。
話したい事も伝えたい事も山ほどあるはずなのに、俺達はお互い口を開かないで、無為に時間を費やした。
そのまま言葉を交わす事もなく、出発の時間がやってくる。
「それじゃあ、行くね」
「あぁ」
悲しそうに告げるツキに、頷く事しかできない。なぜだか抱きしめる事も、キスする事も、できなかった。いままで何回もしたはずなのに、こんな時だけ、どうしてもできない。
「また、いつでも会える」
気休めみたいな、そんな誰にでも言えるくだらない言葉が出た。
「お金掛かるよ」
「働くさ」
「ニートにならないの?」
「俺にニートは勤まらんて」
「そっか」
小さく口元を綻ばしてツキが笑う。つられて俺も、少し笑った。
「バイバイ、秀晴」
「じゃあな、ツキ」
踵を返して、向かっていくツキ。俺も背を向けた、留美を見るのは、余計つらくなりそうだったからやめた。
空を眺める。
同じ空の下でつながってるとか、そんな赤の他人相手でも言えるような事をのたまうのは嫌だった。空の下だろうが、宇宙だろうが、それを同じ空だなんて言っても、説得力がない。
吸った事はないが、無性に煙草が吸いたくなった。ドラマの見過ぎかもしれない。だけど俺の別れには、ドラマみたいな爽やかさや感動なんて微塵もなかった。抱擁もキスもなく、ただひたすらに悲しさや愛しさが溢れてきて、どうしようもない無力感が渦巻くだけだった。
今度会えるのは、一体いつだろう? その時には、俺はちゃんと就職していて、胸を張って会えるだろうか?
ツキが大学院を卒業する頃には、将来を考えられるくらいの男になっていたい。
昨日なんて見ずに、明日だけを見て。
「う~~イェイ!」
ノリノリで歌うツキ。その歌唱力は、調子に乗りすぎて外してしまう事はあるが、超上手い。対して俺は超平凡。花咲と比べる以前に、俺は何をしても人並以上の事はできないのかもしれない。
「凡人代表伊達イタチ」
「うん? 何か言った?」
「なんにも言ってないっす」
マイクを取って身体でリズムを取る。そしてツキとは比べるべくもなく平凡な歌声を披露する俺。なんだか一曲歌うごとに自尊心が削れていってるような気がするのは気のせいであってほしい。
俺とツキの音楽センスは合ってるともかけ離れてるとも言えない、微妙なものだ。基本的に明るい曲や恋愛ソングを好むツキに、後ろ向きな人への応援歌的なものが好きな俺。アニソンは二人とも好きだが、そこから機械音声に派生する俺に、そのボーカロイドを素人が歌う、歌ってみたの類しか聴かないツキ。
しかし大体の曲はお互いに既知であり、相手が知らない曲を歌い合うみたいな悲惨なものにはならない。といっても、歌唱力は絶望的に違うのだが。
自尊心が全て削ぎ落ちる前にカラオケを出て、遅い時間になってきたので最後にある場所に向かう。十分くらい歩いて着いたのは河原。意外と見落としがちだが、夜の川というのは、場所によっては街灯や月が反射して結構綺麗なのだ。
川を眺めながら、坂になっている草場に腰を下ろす。
「今日は楽しかったな」
「そうだねぇ。久しぶりだったし」
二人して遠い目をしながら、互いの顔も見ずに話す。
「今更だけど、久々のデートの映画って普通恋愛ものじゃない?」
「お前が見たがったんだろうが」
「そうだけど、う~ん……雰囲気を取るか好みを取るか、難しい選択ね」
「選択し終わった後だけどな。欲望の方を取って」
「欲望とか言わない」
「失礼。実利を取って」
「実利とか言わない」
「失敬。事件を取って」
「どこの刑事よ。ど、こ、の」
笑い合って、そんな馬鹿話を続ける。そんな中で、ツキが唐突に真面目なトーンで口を開いた。
「この半年、秀晴は頑張ったよ」
「俺も、そう思うよ」
自嘲気味に薄く笑う。
多分ツキも察しているのだろう。俺が受験の手応えに自信持っていない事を。訊かれたわけではなかったが、人一倍他人を機微に気を遣うツキには、隠せないとは思っていた。
「本当に、びっくりするくらい秀晴は頑張った。好きな事も全部我慢して、これ以上ないくらい頑張った。凄いと思う」
「そうかもしれないな。でも……」
「結果が出なきゃ意味ない?」
「そうだね。結局は……そういう事だよね」
下手に慰めたり臭い事を言わず、ツキは肯定した。寂しそうな、悲しそうな声音で。
それは一緒の大学に行けないかもしれないから、という理由だけでないのだろう。
「まだ結果は分からないさ。自信と結果ってのは、割とすれ違うもんだからな」
「確かに。私もサークルやってた頃は、予想外に勝ったり負けたりっていうのは結構あったよ」
「だろ?」
「うん」
沈黙が流れる。
言うならいまなのだろうと思った。花咲に言われた事を、自分のしてきた最低な行いを、告白するなら。
だが喉は肝心な言葉を堰き止めて、理性は言うべきでないとブレーキを掛けていた。
だって、たとえ言ったとしてもツキが得する事など何もないのだから。俺の罪悪感が薄れるだけで、ツキは恋人である俺を信じられなくなってしまう。それが原因で別れる事にでもなったら、俺もツキもつらい思いをするだけだ。第三者が見れば都合がいいと罵るかもしれないが、もうこの秘密は打ち明けたところで、俺の心を楽にするだけの効果しかないのだ。
月並みで勝手な言い分だが、知らない方が幸せな事もある。そう思えば思うほど、言ってしまいたいという感情とは逆に、言ってはいけないという強い自制心が働いた。
「ねぇ、もし……」
話し掛けた仮定が中途で止まる。
「なんだ?」
内容は分かっていたが、あえて促す。
ツキは一瞬黙って、すぐに笑って誤魔化した。
「ううん。なんでもない。……そろそろ帰ろっか。だいぶ遅くなっちゃったし」
「だな」
そしてその日は、ツキを送って家に帰った。
訊きたい事は訊けず、言いたい事は言えず。漠然とした不安が明瞭になって迫ってくるのを感じながら、それをどうする事もできないで。
ツキの不安を知りながら、それを払拭する事も、共有する事もしないで。
目的のために手段を選ばない卑怯さよりも、自分の弱さを見せられない弱さや臆病さが、俺は嫌いだ。
そんな俺の嫌いな俺が、ツキにはどう見えていたんだろう?
結果は不合格だった。ちなみにツキと花咲は合格。
二人は自分の合格を喜ぶよりも、俺の心配を先にしてくれたが、頭がごちゃごちゃになってつらさを誤魔化すだけで精いっぱいだった。
いままでやってきた全てが比喩でもなんでもなく水泡に帰した。受験勉強の知識なんてこれから先使う事なんてないだろうし、浪人してまで大学に行くつもりもない。努力した過程がかけがえのない経験だ、なんて名言のように言われるが、そんなのは自分を慰めたいだけの戯言だ。むしろ懸命な努力が無駄になるかもしれないと知って、また頑張れる人間は少ないだろう。経験は時に、マイナスに働く事もあるのだ。
そして俺の不合格は、否応なしにツキとの別れを意味していた。これからは、会うにしても、会える回数も、指で数えられる程度になるだろう。それならばと、デートを重ねようとしたが、俺のその後の進路の相談や、ツキの進学の準備が重なって、卒業式の後は一度も会えないまま時が過ぎ、結局会えたのは三月の終わりの日だった。
「久しぶり」
「久しぶり」
お互いに、どこかぎこちない挨拶だった。なんだか、胸が詰まってツキの顔をまともに見れない。
俺には合格できず一緒に行けない悔恨が、ツキにはそんな俺を置いて、進学する負い目が、それぞれあった。
「もう、行くんだな」
「うん」
「頑張れよ」
「うん」
「風邪、引くなよ」
「うん」
「元気で……やれよ」
「……うん」
言うべき事を必死に探すが、それ以上の言葉は出てこなかった。
ツキも同じなのか、俯いて何も喋ろうとはしない。
話したい事も伝えたい事も山ほどあるはずなのに、俺達はお互い口を開かないで、無為に時間を費やした。
そのまま言葉を交わす事もなく、出発の時間がやってくる。
「それじゃあ、行くね」
「あぁ」
悲しそうに告げるツキに、頷く事しかできない。なぜだか抱きしめる事も、キスする事も、できなかった。いままで何回もしたはずなのに、こんな時だけ、どうしてもできない。
「また、いつでも会える」
気休めみたいな、そんな誰にでも言えるくだらない言葉が出た。
「お金掛かるよ」
「働くさ」
「ニートにならないの?」
「俺にニートは勤まらんて」
「そっか」
小さく口元を綻ばしてツキが笑う。つられて俺も、少し笑った。
「バイバイ、秀晴」
「じゃあな、ツキ」
踵を返して、向かっていくツキ。俺も背を向けた、留美を見るのは、余計つらくなりそうだったからやめた。
空を眺める。
同じ空の下でつながってるとか、そんな赤の他人相手でも言えるような事をのたまうのは嫌だった。空の下だろうが、宇宙だろうが、それを同じ空だなんて言っても、説得力がない。
吸った事はないが、無性に煙草が吸いたくなった。ドラマの見過ぎかもしれない。だけど俺の別れには、ドラマみたいな爽やかさや感動なんて微塵もなかった。抱擁もキスもなく、ただひたすらに悲しさや愛しさが溢れてきて、どうしようもない無力感が渦巻くだけだった。
今度会えるのは、一体いつだろう? その時には、俺はちゃんと就職していて、胸を張って会えるだろうか?
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