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第6獣
怪獣6-1 生を得た土偶
しおりを挟む「ぎゃあああああああ!」
全館の窓が割れんばかりの悲鳴が、聞こえて来た。
「何だ!?」
「まさか、蘭ちゃんの悲鳴じゃないの?」
二人は三階に駆け上がる。
「蘭! どこにいるんだ! 返事をしてくれ!」
「蘭ちゃん、大丈夫!」
何も聞こえない。
『こっちだ! 土偶の展示室近くだ!』
ゴリアスの声が、秀人の頭の中に響く。
「鏑木さん、こっちです!」
指さして案内する。廊下を曲がると、腰を抜かして倒れ込み、がくがく下半身を震わせている蘭がいた。
「大丈夫!?」
「蘭ちゃん、しっかりして!」
二人が声をかけると、蘭は平静を取り戻せた。
「二人共……、良かった……」
「蘭、安心して。今、鏑木さんが水を持ってくるからまだ、横になっていて」
起き上がろうとするのを止められる。廊下から足音が聞こえて来て、紙コップを持った鏑木が歩いてきた。
「蘭ちゃん水よ。飲める?」
「ええ、ありがとうございます」
一口飲むと、冷たさが浮ついていた頭と喉を刺激して、一気に現実に引き戻す。
「ふぅ……、落ち着いた……」
「一体何を見たんだ?」
「人魂だよ……。展示室の中に居て、ケースの中に入っていた……。土偶の中に入り込んで消えて行ったんだ。あそこにある……」
展示室のプラスチックケースを指さすと、確かに空になっていた。だが、消えた証拠はない。ただの入れ忘れを勘違いした可能性だってあり得る。
一応調べてみようと思い、プラスチックケースを手に取る。何かが入っていた痕跡、小さな欠片と固定してあった後が目についた。
「これだけじゃあ、分からないな」
「でも、何か入っていたのは事実ね」
何とも言えない。どうしたらいいのか微妙な顔になって、秀人と鏑木はアイコンタクトを取る。何だか笑えて来た。
「もしかしたら、同じことを思っているのかもね」
「そうですよ」
なんとなく笑った。少し緊張感が足りてないとか、空気が読めないと思うかもしれない。だけれども、笑えて来る。
「何しているんだよ? 二人で」
不満そうな蘭が展示室に入って来た。もう調子は戻ったみたいだ。
「なんでもいよ、ちょっと確認していただけさ」
秀人の言葉を聞いて、頬を膨らませる。
「疑っていたんだろ……」
「そんなことないよ、蘭が変な嘘をつくわけがないって、信じてはいるからさ」
「そうか、ありがとう……」
少し機嫌を戻したのか、明るい感じで答える。
「これからは三人で行こう、何があるか分からないから」
秀人の提案に蘭と鏑木は頷いた。三人一塊となって廊下を進んでは、電気を点けていく。
「後は反対側だけか?」
「そう、戻ってまた点けよう」
進んでいた廊下を引き返し、反対側に回る。電気がついているせいか、さっきまでの不気味さは全く感じられない、文明の利器のおかげだ。
「蘭、消えた土偶なんだけど、どこに行ったんだ?」
「それが、ケースを抜けだした瞬間、腰抜かしちゃったから、よく覚えてないんだ。まだここに居るかも知れないし……」
「もしここにいるなら、またどこかで遭遇するのかもね……」
緊張した声色で鏑木が呟いた。その声に蘭が真っ青になる。一気にテンションは逆戻り、相当に怖がっているようだ。
「会いたくないな……」
そう言っても、この博物館から脱出するのと、気配の手がかりを掴む為に、土偶を探さないといけない。
「今は、怖がっている状況じゃないんだよ」
「そうは言ってもさ……」
自信のない声で蘭は呟く。本当に苦手なのだ。
恐る恐る、廊下の電気のスイッチを押す。ぱっぱっと明るくなって生気が戻ってくる。
「ここにはいないのかな……」
「展示室も調べないとね」
秀人の声を聞いて、蘭は落胆する。
「大丈夫。元気出して行こう!」
鏑木が励ますように言うと、しぶしぶ着いて行く。
展示室の中に入って、電気を点け、土偶の痕跡が無いのか、天井、床、ケースの陰。死角になりそうな場所をしらみつぶしに確認するが、見当たらなかった。
全館の窓が割れんばかりの悲鳴が、聞こえて来た。
「何だ!?」
「まさか、蘭ちゃんの悲鳴じゃないの?」
二人は三階に駆け上がる。
「蘭! どこにいるんだ! 返事をしてくれ!」
「蘭ちゃん、大丈夫!」
何も聞こえない。
『こっちだ! 土偶の展示室近くだ!』
ゴリアスの声が、秀人の頭の中に響く。
「鏑木さん、こっちです!」
指さして案内する。廊下を曲がると、腰を抜かして倒れ込み、がくがく下半身を震わせている蘭がいた。
「大丈夫!?」
「蘭ちゃん、しっかりして!」
二人が声をかけると、蘭は平静を取り戻せた。
「二人共……、良かった……」
「蘭、安心して。今、鏑木さんが水を持ってくるからまだ、横になっていて」
起き上がろうとするのを止められる。廊下から足音が聞こえて来て、紙コップを持った鏑木が歩いてきた。
「蘭ちゃん水よ。飲める?」
「ええ、ありがとうございます」
一口飲むと、冷たさが浮ついていた頭と喉を刺激して、一気に現実に引き戻す。
「ふぅ……、落ち着いた……」
「一体何を見たんだ?」
「人魂だよ……。展示室の中に居て、ケースの中に入っていた……。土偶の中に入り込んで消えて行ったんだ。あそこにある……」
展示室のプラスチックケースを指さすと、確かに空になっていた。だが、消えた証拠はない。ただの入れ忘れを勘違いした可能性だってあり得る。
一応調べてみようと思い、プラスチックケースを手に取る。何かが入っていた痕跡、小さな欠片と固定してあった後が目についた。
「これだけじゃあ、分からないな」
「でも、何か入っていたのは事実ね」
何とも言えない。どうしたらいいのか微妙な顔になって、秀人と鏑木はアイコンタクトを取る。何だか笑えて来た。
「もしかしたら、同じことを思っているのかもね」
「そうですよ」
なんとなく笑った。少し緊張感が足りてないとか、空気が読めないと思うかもしれない。だけれども、笑えて来る。
「何しているんだよ? 二人で」
不満そうな蘭が展示室に入って来た。もう調子は戻ったみたいだ。
「なんでもいよ、ちょっと確認していただけさ」
秀人の言葉を聞いて、頬を膨らませる。
「疑っていたんだろ……」
「そんなことないよ、蘭が変な嘘をつくわけがないって、信じてはいるからさ」
「そうか、ありがとう……」
少し機嫌を戻したのか、明るい感じで答える。
「これからは三人で行こう、何があるか分からないから」
秀人の提案に蘭と鏑木は頷いた。三人一塊となって廊下を進んでは、電気を点けていく。
「後は反対側だけか?」
「そう、戻ってまた点けよう」
進んでいた廊下を引き返し、反対側に回る。電気がついているせいか、さっきまでの不気味さは全く感じられない、文明の利器のおかげだ。
「蘭、消えた土偶なんだけど、どこに行ったんだ?」
「それが、ケースを抜けだした瞬間、腰抜かしちゃったから、よく覚えてないんだ。まだここに居るかも知れないし……」
「もしここにいるなら、またどこかで遭遇するのかもね……」
緊張した声色で鏑木が呟いた。その声に蘭が真っ青になる。一気にテンションは逆戻り、相当に怖がっているようだ。
「会いたくないな……」
そう言っても、この博物館から脱出するのと、気配の手がかりを掴む為に、土偶を探さないといけない。
「今は、怖がっている状況じゃないんだよ」
「そうは言ってもさ……」
自信のない声で蘭は呟く。本当に苦手なのだ。
恐る恐る、廊下の電気のスイッチを押す。ぱっぱっと明るくなって生気が戻ってくる。
「ここにはいないのかな……」
「展示室も調べないとね」
秀人の声を聞いて、蘭は落胆する。
「大丈夫。元気出して行こう!」
鏑木が励ますように言うと、しぶしぶ着いて行く。
展示室の中に入って、電気を点け、土偶の痕跡が無いのか、天井、床、ケースの陰。死角になりそうな場所をしらみつぶしに確認するが、見当たらなかった。
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