琥珀と二人の怪獣王 建国の怪獣聖書

なべのすけ

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第5獣

怪獣5-7

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「秀人ぉぉぉ! お願いだぁぁぁあ! 置いて行かないでくれええぇえええー!」
 叫びながら蘭は懇願する。目尻の端には涙が浮かんでおり、瞳は血走り、口は歯がカタカタと歯の噛み合わない音を立てて、今にも腰を抜かしそうな形相をしている。
「分かったから、一緒に行こうよ! ね!」
「ああああ、ありがとう……! 秀人君……。後生だから、手離さないで……」
 何とか蘭を落ち着かせ、手を引きながらゆっくり歩きだす。
『案内するから行くぞ』
 蘭の頭の中にゴリアスの声が聞こえて来て、ようやく落ち着きを取り戻した。
 暗闇の中をスマホライトで照らし、中央階段を足元を注意しながら、ゆっくりと降りて行く、すすり泣きの声はますます強くなっている。近づいている証拠だ。
「なぁ、聞き間違いじゃなかったろ!」
「分かったから、蘭落ち着いてね」
 聞き間違いじゃなかったことを、蘭は安心し秀人に寄り添いながら歩く。まだ怖いのだ。
 中央階段を降り切って、ホールに出るとライトで周囲を確認する。すすり泣きの声は強く、ここから聞こえているので間違いない。
「誰もいないのか?」
 カフェ、ミュージアムショップを照らすも何も反応は無い。
「当然か……」
 誰かいるのかと思って照らしたが、全くの見当外れに秀人は苦笑する。
「誰? そこに居るのは?」
 声がして、蘭と秀人が声の方を向く。
「うわあああああっ! ついに出たあああああ! 助けてくれええええ! お化けの国には行きたくないいい!」
 ホール全体に響き渡る声で蘭が叫んで、秀人は思わず耳を塞ぐ。
「蘭! 大丈夫だから、落ち着いて!」
『とにかく落ち着け二人共!』
「蘭? まさかとは思うけど、その声はもしかして、蘭ちゃんと秀人君なの?」
 声の主が聞いて来る。しかも聞き覚えのある声だ。数時間前に聞いていた。
「その声は、まさか……! どこですか?」
 声のした方を照らすと、鏑木が立っていた。
 顔には泣きはらしたのか、涙のあとがついていて、信じられない表情で蘭と秀人を見ていた。
「良かった……。人に会えて……」
 安心したのか、膝からゆっくりと崩れ落ちそうになる彼女を、秀人が支えた。
「大丈夫です! 安心してください!」
「ありがとう、秀人君……」
 二人の声を聞いて、安心したのか微笑を浮かべる。
「安心して話せる場所に行きましょう」
「それなら、博物館事務室が良いわ」
 事務室に入ると、蘭と鏑木を落ち着かせるために、秀人が冷たい水を入れた。
「勝手に入れちゃったけど、大丈夫かな?」
「大丈夫よ。後で説明しておくから」
 場を和ますように、冗談めかして言う。
 水を飲んで、蘭は一息ついたのか、ようやく落ち着きを取り戻した。
「でもどうして、ここに居たんです?」
 蘭の問いかけに、鏑木の表情はこわばる。
「信じられないと思うけど、光の玉を見たの……、それを追いかけていたら、ここに入って行って、そこで閉じ込められたの……」
 信じられないと言ったが、今の蘭と秀人は、その言葉を信じていた。
 ゴリアスに気配を感じたと言われ、その場所に行ったら、同じ北大博物館に居て、違うけれども閉じ込められてしまったのだから。
「ゴリアス、一緒に脱出できないかな……」
 秀人は小声でゴリアスに聞いてみる。
『無理だろう……、正体を明かす事になるだろうし……。仮に出来たとしても、そいつが信頼のおける存在だという証拠がない。どこから情報が洩れるのか、分からないからな……。それに声が聞こえていないから、同じように移動させるのは出来ない』
 ゴリアスの言葉を聞いて、秀人は落胆する。このまま脱出するのは無理なようだ。
「でもあなた達、どうしてここに居るの?」
 落ち着きを取り戻した、鏑木が聞いて来る。
「それはその……」
 蘭は何と言っていいのか、言葉に詰まる。
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