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第5獣

怪獣5-6

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 蘭が秀人の手を強く握って、要求してくる。
「二手の方が効率が……」
「一緒に! お願いだ!」
 蘭に気おされ、秀人は同意する。
 片手に懐中電灯代わりのスマホを持ちながら、廊下を照らし注意深く歩く。展示室に入ってはどこか異常が無いのかを一つ一つ調べ、また次の展示室を調べる。それの繰り返す。凄く手がかかるが、何か分かったことを、突き止めないといけない。
「ゴリアス、何か分かるかい? 気配とかさ」
『何も感じられない』
「じゃあ次だ! 早く行くぞ! 早くっ!」
 蘭が急かすように言ってくる。その声にはどこか怯えた感情が籠っている。
『蘭の奴、どうしたんだ? 何かに怯えているような気がするんだが?』
「小さい時からね、暗闇とかお化けが苦手なんだよ」
 少しからかうように、秀人はゴリアスに言う。
 蘭は豪胆な性格をしている割には、幽霊や怖い話、肝試しの類が全部だめである。
 小学生の時にキャンプがあって、その中で肝試しがあったのだが、恐怖のあまり一歩も進めず、同級生何人かに引っ張られるようにして、ようやく歩き出したが、お化け役の先生が出てきた際に大声を上げて、一人で逃げ出し。テントの中で寝袋の中に頭を突っ込んで泣いていた。
 中学生の時にクラスメートと遊園地に行き、お化け屋敷に入ったが、恐怖で仕掛けを渾身の力で殴りつけ、破壊してしまったこともしているのだ。
 理由は簡単、自分の目で見えないから怖いの。目で見えないということは、倒すことが出来ないから、蘭にとっては、とんでもない恐怖を感じる。
『だが、どうしてお前は大丈夫なんだ? 怖くないのか?』
 蘭とは反対に、秀人は幽霊の類は平気である。
「怖くないよ、幽霊は説明がつくのさ。人間の脳のつくりは幽霊とかの存在を見るように出来ている。それは、目で見て必要な情報を抜き取るように出来ているからなんだよ。その際に誤ったエラーも抜き取る。そのエラーが引き起こすのが、幽霊とかの存在なんだ」
 ゴリアスには秀人の説明が分からなかったのか、疑問符が頭の中で浮かぶ。
『それなら、どうしてジラノと戦うのが出来たんだ?』
 それはゴリアスに取って、最大の謎だった。
 自分の体で倒すことが出来ない。それは幽霊も怪獣も同じだろう。比べて見たら、幽霊の方がある意味倒しやすいのかもしれない。
「ジラノの時は、こっちの攻撃が効いていただろう……。でも、幽霊は……。あいつら人に取りついて、操ったりするんだろ! 普通に考えて気持ち悪いだろ! それに、未練とか残していて、もう死んでいる癖に何が言いたいんだよぉ……。未練なんか残すんじゃねぇよぉ……」
 完全に声が上ずっていて、怯えている。
 自分もやっていること、やられていることは、ほぼ同じなのに、自分がするのは良いのか? 最大の矛盾を抱えているのに、蘭は気づいていないのだろうか? そんな疑問がゴリアスの中から湧いて来る。
『身勝手なもんだなぁ』
「人間って、そんなもんさ」
 秀人とゴリアスの間に、妙な連帯感が生まれた。
 そんな中、暗闇から、すすり泣くような声が聞こえてくる。蘭が秀人の服の袖を強く引っ張って泣きそうな声を出す。
「秀人ぉ……。すすり泣きが聞こえてくる……」
 いつもこうだったらかわいいのに、と思わずにいられないが、咄嗟に否定してしまう。
「まさか、何かの聞き間違いじゃないのか?」
だが、ゴリアスまでもが続く。
『いいや、確かに、人間の声だ。聞こえるぞ』
 ゴリアスの言葉を聞いて、秀人は耳を澄ます。すると、確かに人間のすすり泣きの声が聞こえて来た。
「本当だ、他に誰かいるのかも!」
 秀人は思わず走り出そうとしたが、蘭が腕を掴んで止めた。暗闇の中を走ると危険だからではない。置いていかれるのが怖いからだ。
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