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第5獣
怪獣5-3
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(成長しているんだな……、秀人……)
ゴリアスに変身した時に、蘭はあの巨体で戦えることに、体の中から湧き上がる熱さを感じていた。それは自分の持っている身体能力を全身でぶつけることが出来る相手に、出会えたことに対する、悦びのだった。
(だけど、秀人は望んでんでいなかったんだよな……)
秀人の気持ちを忘れていたことに、蘭はどこか情けなくなる。
(自分の気持ちだけ、最優先させていたのが、恥ずかしいよ……)
「だけど蘭は恥ずかしがることはないよ……、蘭の力のおかげで、打ち勝つことが出来たんだからね」
「こいつ! わかっているじゃないか!」
そう言って蘭は、秀人の肩を叩いて笑った。秀人もつられて笑い、明るい声が部屋の中に響いた。
「秀人、ありがとうな。親父が読みたい本、探してくれて。俺分からないからさ」
「いいんだよ蘭、それよりタブレットPCの方は良い?」
「この鞄に入れたから大丈夫さ」
そう言って、蘭は鞄を指さして答える。
蘭の通話アプリに、五島教授からメッセージが来て、入院中に何冊か本を読みたいのと、論文をいくつか書きたいから、タブレットPCを持って来て欲しいと、メッセージが送られて来たのだ。だが、脳筋の蘭に取ってはよく分からず、秀人に協力を求めたのだ。
「親父らしいよなぁ。着替えなんかよりも本とかパソコンを持ってくるように言うんだから。お袋文句言って来たぞ。普通着替えとか持ってくるように言うんじゃないのってさ」
鞄を見ながら、蘭が呟く。
「まぁ、五島博士らしい思うけどね……」
自分の研究を最優先させることを理解できないと言わんばかりに、蘭は呆れている。しかし、秀人にしてみれば、蘭も同じようなものだ。
それは中学生の時の体育祭で、蘭は400メートル走に出たことがあるのだが、その際に足を捻って怪我をしてしまった。
普段ならここで、大人しく休んでいるのだが、この後の1500メートル走にピンチヒッターとして出るのが決まっていて、周囲の反対を押し切って出場。何とか一位を取ることは出来たのだが、足が大きく腫れあがっていて、病院に搬送。骨折していることが分かって、入院になった。
足を怪我して出場したことを説明して、医者は驚いていたのを今でも覚えているが、説明の際にピンチヒッターとして出るよりも、自分がやりたかったから出場した。と、話したのが印象に残っている。あの時の蘭の顔を一生忘れないだろうと、秀人は思っている。
「で、後は明日朝一で大学病院まで、持って行けばいいんだよね?」
「そ。また明日付き合ってもらうからな!」
「分かったよ」
大学病院に付き合うのに、秀人は嫌な気分はしなかった。あわよくば、今日と同じように彼女と再会できるのかもしれないのだから。もしまた会ったら、どんなことを話そう。何について聞こう。
もしかしたら、お互いの連絡先を交換して、たくさん連絡が取れるようになるのかも……。と、若干都合の良い妄想をしてしまい、顔がにやけてしまう。
すかさず、蘭が聞いて来る。
「ほう。秀人君は俺の父親の体や荷物よりも、女子大生の鏑木さんが気になってしょうがないみたいだねぇ」
「えっ! いやぁ、そんなことは無いですよ、蘭さん……」
必死で否定するが、それでも顔がにやけていて、全く説得力がなかった。
その様子を見て、蘭は指を鳴らしながら、秀人を見る。
瞳の中には嫉妬の怒りが籠っていて、今にも痛めつけてきそうな迫力があった。
「別に俺は、秀人がどんな奴を好きになるのか、それは関係ないんだよね。たださ、デレデレして、締まらないツラしているのが、気に入らないんだよね……」
独り言を呟きながら、秀人を見る。
秀人はといえば、体は凍り付くも、冷静にどうやって、この危機を乗り越えるのか考えを巡らせる。
ゴリアスに変身した時に、蘭はあの巨体で戦えることに、体の中から湧き上がる熱さを感じていた。それは自分の持っている身体能力を全身でぶつけることが出来る相手に、出会えたことに対する、悦びのだった。
(だけど、秀人は望んでんでいなかったんだよな……)
秀人の気持ちを忘れていたことに、蘭はどこか情けなくなる。
(自分の気持ちだけ、最優先させていたのが、恥ずかしいよ……)
「だけど蘭は恥ずかしがることはないよ……、蘭の力のおかげで、打ち勝つことが出来たんだからね」
「こいつ! わかっているじゃないか!」
そう言って蘭は、秀人の肩を叩いて笑った。秀人もつられて笑い、明るい声が部屋の中に響いた。
「秀人、ありがとうな。親父が読みたい本、探してくれて。俺分からないからさ」
「いいんだよ蘭、それよりタブレットPCの方は良い?」
「この鞄に入れたから大丈夫さ」
そう言って、蘭は鞄を指さして答える。
蘭の通話アプリに、五島教授からメッセージが来て、入院中に何冊か本を読みたいのと、論文をいくつか書きたいから、タブレットPCを持って来て欲しいと、メッセージが送られて来たのだ。だが、脳筋の蘭に取ってはよく分からず、秀人に協力を求めたのだ。
「親父らしいよなぁ。着替えなんかよりも本とかパソコンを持ってくるように言うんだから。お袋文句言って来たぞ。普通着替えとか持ってくるように言うんじゃないのってさ」
鞄を見ながら、蘭が呟く。
「まぁ、五島博士らしい思うけどね……」
自分の研究を最優先させることを理解できないと言わんばかりに、蘭は呆れている。しかし、秀人にしてみれば、蘭も同じようなものだ。
それは中学生の時の体育祭で、蘭は400メートル走に出たことがあるのだが、その際に足を捻って怪我をしてしまった。
普段ならここで、大人しく休んでいるのだが、この後の1500メートル走にピンチヒッターとして出るのが決まっていて、周囲の反対を押し切って出場。何とか一位を取ることは出来たのだが、足が大きく腫れあがっていて、病院に搬送。骨折していることが分かって、入院になった。
足を怪我して出場したことを説明して、医者は驚いていたのを今でも覚えているが、説明の際にピンチヒッターとして出るよりも、自分がやりたかったから出場した。と、話したのが印象に残っている。あの時の蘭の顔を一生忘れないだろうと、秀人は思っている。
「で、後は明日朝一で大学病院まで、持って行けばいいんだよね?」
「そ。また明日付き合ってもらうからな!」
「分かったよ」
大学病院に付き合うのに、秀人は嫌な気分はしなかった。あわよくば、今日と同じように彼女と再会できるのかもしれないのだから。もしまた会ったら、どんなことを話そう。何について聞こう。
もしかしたら、お互いの連絡先を交換して、たくさん連絡が取れるようになるのかも……。と、若干都合の良い妄想をしてしまい、顔がにやけてしまう。
すかさず、蘭が聞いて来る。
「ほう。秀人君は俺の父親の体や荷物よりも、女子大生の鏑木さんが気になってしょうがないみたいだねぇ」
「えっ! いやぁ、そんなことは無いですよ、蘭さん……」
必死で否定するが、それでも顔がにやけていて、全く説得力がなかった。
その様子を見て、蘭は指を鳴らしながら、秀人を見る。
瞳の中には嫉妬の怒りが籠っていて、今にも痛めつけてきそうな迫力があった。
「別に俺は、秀人がどんな奴を好きになるのか、それは関係ないんだよね。たださ、デレデレして、締まらないツラしているのが、気に入らないんだよね……」
独り言を呟きながら、秀人を見る。
秀人はといえば、体は凍り付くも、冷静にどうやって、この危機を乗り越えるのか考えを巡らせる。
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