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第3獣

怪獣3-5

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 CICのソナー員が、悲鳴交じりの報告をする。
「落ち着け、反応はどこなんだ?」
「それが、この下です……」
 正体はすぐに分かった。
「回避行動を取れ! 操舵員、取り舵一杯!」
 松野艦長は、ひゅうがの舵を取っている、操舵員に命令を飛ばした。操舵員は艦長の命令を聞くより早く、舵を取っていた。
「機関全開! 回避しろ! ここから逃げるんだ!」
 機関室に命令を下す。ひゅうがのエンジンが唸り、スクリューが高速で回りながら、この場所から逃げようとした。
 しかし、逃げることは敵わず、松野艦長の最後の命令になった。
 最初に見たのは、ひゅうがから離陸したSH60Jのパイロットだった。ひゅうがの周りに、黒い影が現れたと思うと、一瞬で水柱が上がった。さっき燃料の補給と搭乗員の交代に着陸した、ヘリコプター搭載護衛艦ひゅうがは巨大な船体を粉々に砕け砕かせながら、吹き飛んだ。
 粉々になった飛行甲板を周囲に飛び散らせ、航空母艦の艦橋とは少し違った、独特の形状の艦橋。それは宙に舞い上がると、そのまま海に落ちて沈み、小さな水泡を海底から泡立たせて、消えて行った。
 最初、海底火山が爆発したかのかと、誰もが思ったが違っていた。
 水柱が上がるのと同時に、翼で覆った巨体を震わせ、怪獣が姿を現した。丸い回転鋸の様な襟巻をきらめかせ、空中で羽を羽ばたかせながら、ホバリングし、顔を動かしていた。まるで次の標的を探しているように。
 音と共に、怪獣の体に黒煙の花が咲き、動きが一瞬止まる。
 ひゅうがの周りに居た、全ての艦船が一気に攻撃の火ぶたを切った。
こんごう型護衛艦のみょうこうの艦首前方に搭載している、艦載砲の54口径オート・メラーラ127ミリ砲と、ふゆつきの62口径5インチ単装砲、更には巡視船えちごの35ミリ単装機関砲とひだの、多砲身20ミリ機銃が唸って、怪獣を攻撃した。
 あらゆる火砲が、怪獣の体に向かって放たれる。黒煙と射撃音が海面に木霊する。
 4隻の艦船からの攻撃を受けても、怪獣は顔色一つ変えずに、周りを見ていた。巡視船ひだを見ると、一気に降下し、後ろ足でひだを掴んで再び空へと舞い戻った。
 一瞬、攻撃の手が緩んだ。これ以上攻撃するとひだに乗っている、乗組員を誤射しかねない。
 狙いを定めた怪獣は一気に降下した。みょうこうの近くまで一気に来ると、ひだを離した。ひだは一直線に、みょうこうまで落ちて行く。54口径オート・メラーラ127ミリ砲が、落ちてくるひだを破壊しようと、狙いを定めたが、間に合わなかった。
 勢い付いたひだは、みょうこうの艦橋に装備されている、左右二つの六角形のレーダー、右側に命中し、艦橋を破壊し爆破、炎上させた。みょうこうの艦橋は炎に包まれ、火山の様な火柱を立ち上らせながら、海面に浮かんでいる。やがて弾薬庫が誘爆したのか、天まで届くような火柱を立ち上らせ、ゆっくりと海中へ沈んで行った。
 残った2隻の艦艇、護衛艦ふゆつきと巡視船のえちごが艦首の砲を撃ちながら、その場で攻撃を続けていた。応援が来るまで、残った2隻で怪獣を止めるしか選択肢はない。
 上空から甲高い排気音が聞こえてくる。音の主が姿を現した。それは石川県小松市の基地を持っている、小松基地第6航空団の第303飛行隊のF15Jイーグルの部隊だ。
 イーグルドライバーたちは操縦桿を握りながら、命令を待っていた。そして攻撃命令が下った。
 全機待っていたかのように、操縦桿についている、赤いミサイル発射ボタンを押して、F15Jイーグルの装備である、AAM―4を撃った。
 パイロンから、一瞬落ちるような感じで、ブースターに火が点き、炎の尾を引きながら、標的である怪獣に向かって、何発も飛んで行く。全弾命中した。怪獣の周囲に赤と黄色の混ざった炎の花を咲かせて行く。
 しかし、怪獣は無傷だ。F15Jの方を見て、羽を羽ばたかせ、F15Jに向かって飛んで行く。
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