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第3獣
怪獣3-3
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そう言って小さな笑顔を浮かべた。その笑顔を見て秀人の心は若干ときめいて、少し妄想が膨らんでしまう。これから時間の許す限り、考古学や古生物学について徹底的に話をしながら、お互いを少しずつでもいいから話していきたい。そうして、二人の距離はだんだんと近づいて行って、そこから交際に発展する……。そんな下らない妄想が秀人の頭の中を駆け巡って顔が緩んでくる……。
(年上の女性って……、素敵だよな……。どんなわがままでも聞いてくれそうな感じで……。思いっきり甘えたくなる……。そんな雰囲気が素敵なんだよね……)
「何を考えているんだよ! 秀人!」
『どうやら男女の交際について、考えていたらしいな』
蘭とゴリアスの声で一気に現実に引き戻される。
「ほう……、秀人君は近くにこんな素敵な女の子がいるのに、年上の女が好きなのか」
蘭の声は落ち着いているが、怒気が籠っていた。どうやら下らない妄想をしたのを怒っているらしい。
「えっと……、落ち着いてね、今ここで怒ったらさ、迷惑かかるし……」
「蘭ちゃん、どうかしたの?」
蘭の声を聞いた鏑木が振り返る。
「いえいえ、何でもないんですよ」
「そうですよ、大丈夫ですから。安心してください……」
秀人は必死で笑顔を取りつくろうが、どこかぎこちなく感じられた。
「良かった、じゃあ次の展示に行こうか」
踵を返して、次の展示を案内した。
その様子を見て、秀人はほっと息を吐く。
「後で覚えておきなよ、秀人君……」
蘭はそう言って秀人の肩を力いっぱい掴んだ。指が肩に食い込み激痛が走るが、必死で堪える。
『秀人、覚悟した方が良いなぁ』
蘭の様子を見たゴリアスがそっと呟く。その声は秀人への同情が籠っていた。願わくば数分前に戻って欲しいと、心底思ったが、叶わぬ願いなのを、秀人が一番理解していた。
「秀人、何やっているんだ! 早く来てくれよ! 待っているぞ!」
展示室の入り口から、蘭が手を振っている。
「今行くよ……」
それだけ呟き、重い足取りで向かって行った。
その後いくつかの展示室を見て説明を受けたのだが、秀人の頭には全く入ってこなかった。
「今日はいろいろとありがとうございました。鏑木さん。アイスクリームごちそうさまでした! 博物館楽しかったです!」
「本当にありがとうございました。貴重なお時間を割いてまで、案内してくれて」
蘭と秀人がお礼を言って、深々と頭を下げる。
「こちらこそ、本当にありがとう。蘭ちゃんと秀人君を案内出来て良かったわ。また来ることがあったら、言ってね。また案内するから……」
「これからどうするんですか?」
秀人が聞いて来る。
「これからは研究室に戻って、レポートをまとめなくちゃいけないの。少し忙しくなるわ……」
「応援しています!」
笑顔で秀人は言う。心の底から鏑木に好意を持っていた。蘭とは違う雰囲気を持った知的な女性。生まれて初めて自分と話が合いそうだと感じた。
「ありがとう二人共。蘭ちゃん、五島教授が早く元気になるのを、祈っているからね」
「ありがとうございます」
心遣いに思わず蘭も見とれる。これが大人の女性の態度なのを、ひしひしと実感していた。
「良かったなぁ……、鏑木さん……」
うっとりとして、後ろ姿に見とれていると、蘭が声をかけて来る。
「さて秀人君、君は鏑木さんのどこが好きなのかね?」
「それは、蘭とは違った知的な雰囲気と大人の女性の感じが」
「だから、博物館でデレデレしていたのか、なるほどなるほど……」
蘭は秀人の両肩を掴むと、ミチミチと力を籠める。指が服を通して食い込んできて、激痛が走る。
「痛いよ、蘭!」
「秀人ぉ……、お前覚えていろって言ったよなぁ……」
落ち着いた怒気を含んだ声で言う。完全に嫉妬している証拠だ。
「えっと……、蘭落ち着いてね……」
「ちょっと、落ち着いてはいられないんだなぁ……」
嫉妬している、蘭を見るのは初めてだが、今はそんなことで感心している場合ではなかった。とにかく、この場を乗り越えることを模索するが、何も良いアイディアは出なかった。
(年上の女性って……、素敵だよな……。どんなわがままでも聞いてくれそうな感じで……。思いっきり甘えたくなる……。そんな雰囲気が素敵なんだよね……)
「何を考えているんだよ! 秀人!」
『どうやら男女の交際について、考えていたらしいな』
蘭とゴリアスの声で一気に現実に引き戻される。
「ほう……、秀人君は近くにこんな素敵な女の子がいるのに、年上の女が好きなのか」
蘭の声は落ち着いているが、怒気が籠っていた。どうやら下らない妄想をしたのを怒っているらしい。
「えっと……、落ち着いてね、今ここで怒ったらさ、迷惑かかるし……」
「蘭ちゃん、どうかしたの?」
蘭の声を聞いた鏑木が振り返る。
「いえいえ、何でもないんですよ」
「そうですよ、大丈夫ですから。安心してください……」
秀人は必死で笑顔を取りつくろうが、どこかぎこちなく感じられた。
「良かった、じゃあ次の展示に行こうか」
踵を返して、次の展示を案内した。
その様子を見て、秀人はほっと息を吐く。
「後で覚えておきなよ、秀人君……」
蘭はそう言って秀人の肩を力いっぱい掴んだ。指が肩に食い込み激痛が走るが、必死で堪える。
『秀人、覚悟した方が良いなぁ』
蘭の様子を見たゴリアスがそっと呟く。その声は秀人への同情が籠っていた。願わくば数分前に戻って欲しいと、心底思ったが、叶わぬ願いなのを、秀人が一番理解していた。
「秀人、何やっているんだ! 早く来てくれよ! 待っているぞ!」
展示室の入り口から、蘭が手を振っている。
「今行くよ……」
それだけ呟き、重い足取りで向かって行った。
その後いくつかの展示室を見て説明を受けたのだが、秀人の頭には全く入ってこなかった。
「今日はいろいろとありがとうございました。鏑木さん。アイスクリームごちそうさまでした! 博物館楽しかったです!」
「本当にありがとうございました。貴重なお時間を割いてまで、案内してくれて」
蘭と秀人がお礼を言って、深々と頭を下げる。
「こちらこそ、本当にありがとう。蘭ちゃんと秀人君を案内出来て良かったわ。また来ることがあったら、言ってね。また案内するから……」
「これからどうするんですか?」
秀人が聞いて来る。
「これからは研究室に戻って、レポートをまとめなくちゃいけないの。少し忙しくなるわ……」
「応援しています!」
笑顔で秀人は言う。心の底から鏑木に好意を持っていた。蘭とは違う雰囲気を持った知的な女性。生まれて初めて自分と話が合いそうだと感じた。
「ありがとう二人共。蘭ちゃん、五島教授が早く元気になるのを、祈っているからね」
「ありがとうございます」
心遣いに思わず蘭も見とれる。これが大人の女性の態度なのを、ひしひしと実感していた。
「良かったなぁ……、鏑木さん……」
うっとりとして、後ろ姿に見とれていると、蘭が声をかけて来る。
「さて秀人君、君は鏑木さんのどこが好きなのかね?」
「それは、蘭とは違った知的な雰囲気と大人の女性の感じが」
「だから、博物館でデレデレしていたのか、なるほどなるほど……」
蘭は秀人の両肩を掴むと、ミチミチと力を籠める。指が服を通して食い込んできて、激痛が走る。
「痛いよ、蘭!」
「秀人ぉ……、お前覚えていろって言ったよなぁ……」
落ち着いた怒気を含んだ声で言う。完全に嫉妬している証拠だ。
「えっと……、蘭落ち着いてね……」
「ちょっと、落ち着いてはいられないんだなぁ……」
嫉妬している、蘭を見るのは初めてだが、今はそんなことで感心している場合ではなかった。とにかく、この場を乗り越えることを模索するが、何も良いアイディアは出なかった。
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