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第2獣
怪獣2-1 病室での再会
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怪獣騒ぎで蘭や秀人の家族が巻き込まれて、ケガをしたり死亡したりすることは考えたくはないが、あり得ることだった。ジラノとの戦いの時だって、そうだ。
あの時、城南高校から怪獣が出現したことを避難民から聞いて、秀人の母親である恵美子が気絶をしただけで済んだのは、正直本当に幸運だった話だ。
ボランティアの方々が用意してくれたハイエースに乗りながら、蘭はずっと床を見つめていた。
青ざめた顔で下を向いていると言う表現が、ぴったり来る。
秀人はどんな言葉を掛けたらいいのか悩みながら、ただ蘭の隣に座っていた。
ゴリアスはその様子を見ながら、押し黙っている。蘭が感じている恐怖は、どれだけのもののか分かるのだろう。しかし、今はそっと見ていることしか出来ない。
蘭は震える手で、スマホを操作して、自分の母親に連絡を入れている。
「怪獣騒ぎで回線がパンクしているかもしれないけど、かけてみるよ……」
スマホを持っている事に気が付かず、連絡を入れるのが遅くなった。
ポケットからスマホを取り出し、親指でロックを解除すると、登録している母親の電話番号を押して電話を掛ける。幸運なことに回線はまだ生きていた。
スマホの向こうで着信音が鳴り母親が出た。母親が出たことに蘭は若干安堵するも、今はそれどころではなかった。
スマホ越しに恭平博士が、北大学病院に搬送された話をすると、秀人も自分のスマホを出して、連絡を入れると連絡を受けた、秀人の両親が病室に居るのが判明し、事情を聴いた。
事情を聴いて、秀人は安堵する。それに合わせて蘭の表情にも生気が戻ってきた。
スマホを切ってポケットにしまうと、蘭の表情は少し元気を取り戻していた。それを見て、秀人もようやく蘭と話をすること出来る。
「蘭、良かったね……。恭平博士無事だって!
秀人の言葉に蘭はゆっくりと頷く。その目には小さな涙が浮かんでいた。
蘭は本当に怯え、泣いていたのだ。自分の父親を失ってしまうのではないか? という恐怖心、不安。その恐ろしさを全身で感じながら、蘭は一人で耐えていた。秀人も蘭の気持ちを組み、手を握った。秀人の行動に蘭は目を丸くする。
「少し、落ち着いたかい?」
そう言って、秀人は小さな笑顔を見せる。
蘭が困った時、分からないことがあった時に見せていた笑顔。その笑顔に蘭は救われていた、そして自分の出来ることを教えてもくれた。だから、蘭は体を動かす事に特化できて、今の自分がいる。
蘭は小さく秀人の手を握り返した。
「ありがとう……」
優しい笑顔で小さくお礼を言った。
そこには普段の豪快な蘭の表情ではなく、一人の小さな少女の表情をした蘭がいた。
それを見て、蘭にも繊細な一面があることを思い出した。
ジラノとの最終決戦の夜、蘭はゴリアスに自分がずっと抱えていた思いを吐露していた。いつも秀人を巻き込んで、そのせいで秀人にもしものことがあったら……。蘭はずっとその気持ちを抱えていた。そして最終決戦の夜に行き場のない気持ちが全て吹き出した。
秀人は黙って全てを聞いていた。
その時に原因は蘭自身にあるのでは? と、ずっと悩んでいたことを知った。
蘭の事を良く知らない人が見たら、第一印象は猪突猛進の豪胆な性格で、細かいことには悩まない、プラス思考と楽天思考の塊のような印象を受けるが、実際は全然違う。
蘭の豪胆さは、自分の抱えている弱さや怯えを隠そうとする、自分の感情の裏返しから来る豪胆さだ、実際は酷く繊細な性格をしている。弱い女性ほど強く見えて、強い女性ほど弱く見える。蘭は前者のタイプだ。
誰かが隣に居ないと不安で仕方がないのだろう。だから、秀人といつまでもいるようになったのかもしれない。
「蘭、とにかく無事が確認されたんだから、今はそれを喜ぼうよ。蘭がいつまでも不安な顔していたら、病室に居る恭平博士だって、不安に思うからね」
秀人の言葉を聞いて、蘭は笑顔を作った。それは先ほど見せた、小さな笑顔なんかではなく、心の底から無事を喜んでいる嬉しい笑顔だ。
それを見て、秀人はやっぱり女性には笑顔がいちばん似合う。と、誰かから聞いた話を思い出した。
『どんな女性にも、笑顔は似合うなんていい言葉じゃないか』
今まで黙っていた、ゴリアスが口を開いた。
「ゴリアス……」
蘭は右手の怪獣型の痣見ながら、バツの悪い表情をした。
『無事が確認されたら、何よりだ。それより秀人、母親に何か聞くことは無いのか? まだあると思ったんだが……』
ゴリアスの言葉を聞いて、少し考える。
あの時、城南高校から怪獣が出現したことを避難民から聞いて、秀人の母親である恵美子が気絶をしただけで済んだのは、正直本当に幸運だった話だ。
ボランティアの方々が用意してくれたハイエースに乗りながら、蘭はずっと床を見つめていた。
青ざめた顔で下を向いていると言う表現が、ぴったり来る。
秀人はどんな言葉を掛けたらいいのか悩みながら、ただ蘭の隣に座っていた。
ゴリアスはその様子を見ながら、押し黙っている。蘭が感じている恐怖は、どれだけのもののか分かるのだろう。しかし、今はそっと見ていることしか出来ない。
蘭は震える手で、スマホを操作して、自分の母親に連絡を入れている。
「怪獣騒ぎで回線がパンクしているかもしれないけど、かけてみるよ……」
スマホを持っている事に気が付かず、連絡を入れるのが遅くなった。
ポケットからスマホを取り出し、親指でロックを解除すると、登録している母親の電話番号を押して電話を掛ける。幸運なことに回線はまだ生きていた。
スマホの向こうで着信音が鳴り母親が出た。母親が出たことに蘭は若干安堵するも、今はそれどころではなかった。
スマホ越しに恭平博士が、北大学病院に搬送された話をすると、秀人も自分のスマホを出して、連絡を入れると連絡を受けた、秀人の両親が病室に居るのが判明し、事情を聴いた。
事情を聴いて、秀人は安堵する。それに合わせて蘭の表情にも生気が戻ってきた。
スマホを切ってポケットにしまうと、蘭の表情は少し元気を取り戻していた。それを見て、秀人もようやく蘭と話をすること出来る。
「蘭、良かったね……。恭平博士無事だって!
秀人の言葉に蘭はゆっくりと頷く。その目には小さな涙が浮かんでいた。
蘭は本当に怯え、泣いていたのだ。自分の父親を失ってしまうのではないか? という恐怖心、不安。その恐ろしさを全身で感じながら、蘭は一人で耐えていた。秀人も蘭の気持ちを組み、手を握った。秀人の行動に蘭は目を丸くする。
「少し、落ち着いたかい?」
そう言って、秀人は小さな笑顔を見せる。
蘭が困った時、分からないことがあった時に見せていた笑顔。その笑顔に蘭は救われていた、そして自分の出来ることを教えてもくれた。だから、蘭は体を動かす事に特化できて、今の自分がいる。
蘭は小さく秀人の手を握り返した。
「ありがとう……」
優しい笑顔で小さくお礼を言った。
そこには普段の豪快な蘭の表情ではなく、一人の小さな少女の表情をした蘭がいた。
それを見て、蘭にも繊細な一面があることを思い出した。
ジラノとの最終決戦の夜、蘭はゴリアスに自分がずっと抱えていた思いを吐露していた。いつも秀人を巻き込んで、そのせいで秀人にもしものことがあったら……。蘭はずっとその気持ちを抱えていた。そして最終決戦の夜に行き場のない気持ちが全て吹き出した。
秀人は黙って全てを聞いていた。
その時に原因は蘭自身にあるのでは? と、ずっと悩んでいたことを知った。
蘭の事を良く知らない人が見たら、第一印象は猪突猛進の豪胆な性格で、細かいことには悩まない、プラス思考と楽天思考の塊のような印象を受けるが、実際は全然違う。
蘭の豪胆さは、自分の抱えている弱さや怯えを隠そうとする、自分の感情の裏返しから来る豪胆さだ、実際は酷く繊細な性格をしている。弱い女性ほど強く見えて、強い女性ほど弱く見える。蘭は前者のタイプだ。
誰かが隣に居ないと不安で仕方がないのだろう。だから、秀人といつまでもいるようになったのかもしれない。
「蘭、とにかく無事が確認されたんだから、今はそれを喜ぼうよ。蘭がいつまでも不安な顔していたら、病室に居る恭平博士だって、不安に思うからね」
秀人の言葉を聞いて、蘭は笑顔を作った。それは先ほど見せた、小さな笑顔なんかではなく、心の底から無事を喜んでいる嬉しい笑顔だ。
それを見て、秀人はやっぱり女性には笑顔がいちばん似合う。と、誰かから聞いた話を思い出した。
『どんな女性にも、笑顔は似合うなんていい言葉じゃないか』
今まで黙っていた、ゴリアスが口を開いた。
「ゴリアス……」
蘭は右手の怪獣型の痣見ながら、バツの悪い表情をした。
『無事が確認されたら、何よりだ。それより秀人、母親に何か聞くことは無いのか? まだあると思ったんだが……』
ゴリアスの言葉を聞いて、少し考える。
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