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第1獣
怪獣1-17
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光に包まれた蘭と秀人の体は、一つ一つの部位が元に戻って行く。腕、足、胴体。全てが人間のものに戻る。最後は二人の意識からゴリアスの意識が抜けて、手の甲の痣の中にゴリアスの意識が戻って行く。
目を開けると、元の城南高校周辺に立っていた。
「戻れたのか……?」
蘭はまだ信じられないと言った表情で辺りを見回していた。
白い天幕型のテントに瓦礫の山や、猫車。スコップなどの作業道具が周辺に置いてある。間違いなくさっきまで、蘭と秀人がボランティアをしていた場所だ。
「戻れたみたいだよ、あそこに僕らの学校の仮設校舎が見えるし」
そう言うと、秀人はボランティア場所から見える、プレハブ二階建ての仮設校舎を指さした。この仮設校舎は校庭に建てられており、蘭と秀人の臨時の学び舎だ。
「変身しながら瞬間移動したんだな……。ゴリアス……、本当に凄いよ……」
蘭の言葉には感嘆の感情が籠っていたが、素直には喜べなかった。あの怪獣を取り逃がしてしまったのは、蘭と秀人、ゴリアスのミスだ。
しかし、そもそもロシア海軍のデルタⅣ級原子力潜水艦という乱入者によって邪魔されてしまった影響もある。
蘭とゴリアスは、自分達が怪獣を取り逃がした。そう考えているが、秀人だけは違っていた。どうしてあの怪獣は、ロシア海軍からの攻撃を受けていたのに、何もせず避けてしまったのか? それがどうしても気がかりだ。
しかし、そんな疑問もあまり長く考えている余裕はなかった。
「秀人、怪獣を取り逃がしたのに、悔しくないのか?」
「今は悔しさよりも、疑問に思わないの? あの怪獣がロシア海軍の原子力潜水艦の攻撃を受けていたのに、何もせず避けてしまったなんて」
こんな時に何を考えているんだ? ゴリアスと意識を共有しているせいで、秀人の考えていることも分かるようになっている。しかし今、秀人の考えは、蘭をイラつかせる材料にしかならなかった。
『蘭、今ここで怒りの感情に身を任せるのは賢くない。そして秀人、今疑問に思うのも大切だが、蘭と私の感情も少しは考えて欲しいな。。お前一人で動いたり、戦ったりしているのではないのだからな』
ゴリアスに指摘されて、蘭と秀人は少し気まずくなる。三人の力を合わせないと、怪獣を倒すことが出来ない。それは蘭と秀人よりゴリアス本人が一番知っている。。
『とにかく人共、今はちゃんと謝れ。話をするのはその後だ……』
咎める口調で、蘭と秀人に互いの謝罪を促す。
「分かった……、秀人ごめんな」
「こちらこそ、蘭……。ごめんなさい」
ゴリアスという怪獣に諭され、さっきまでお互いに何をいがみ合っていたのだろうかと、少し冷静になった。
蘭は怪獣を倒すのに集中しすぎて、怪獣の行動に対して全くの関心を持たなかった。
そして秀人は、怪獣の行動ばかりに集中しすぎていた。
二人共別の方向を向きながら、怪獣と戦っていたようなものだったのだ。こんなバラバラでは例えゴリアスより小さく、非力な怪獣であっても負けてしまうだろう。
『お互いに違う点ばかり見ていたんだ、それを反省するんだぞ。分かったな』
ゴリアスの言葉を聞いて、蘭と秀人の二人は気落ちする。それはゴリアスに諭された気持ちと、全くバラバラなことを考えていたことに対する自責の念だ。3か月前はお互いの気持ちを一つにして、北海道や青森を破壊した怪獣、ジラノを倒すことが出来たと言うのに。
「お互いにもう少し考えよう。何をするのが大事なのか……」
蘭が一人呟き、それに秀人が反応した。
「そうだね。何をするべきなのか、優先する点は何なのか……。それより、ボランティアの人たちの所に行こう……」
秀人の言葉で、蘭は一気に現実に引き戻された。何せボランティアをしていたのに、怪獣出現の報を聞いて、いきなり出現した怪獣の所にまで移動してしまったのだから。
少し急ぐような足取りで、ボランティアスタッフのいる天幕の所まで、蘭と秀人は連れ立って歩いた。
蘭と秀人がボランティアスタッフのいる天幕の中に入って行くと、すぐに若い男性スタッフが一人駆け寄って来た。
「五島さん! 宝田さんも、一体どこに居たんだい? 探していたんだぞ!」
「ごめんなさい! 怪獣のニュースに驚いて、飛び出してしまいました!」
蘭がそう言うと、秀人も頭を下げて謝罪する。
「今は怪獣なんかより、もっと大変なことが五島さんに起こっているんだ! 五島さんの父親の恭平さんが、怪獣出現のニュースで、パニックに巻き込まれたんだ! 今、北大学病院で治療を受けているから、車に乗って、早く!」
聞きたくもない、最悪のニュースが飛び込んできた。
目を開けると、元の城南高校周辺に立っていた。
「戻れたのか……?」
蘭はまだ信じられないと言った表情で辺りを見回していた。
白い天幕型のテントに瓦礫の山や、猫車。スコップなどの作業道具が周辺に置いてある。間違いなくさっきまで、蘭と秀人がボランティアをしていた場所だ。
「戻れたみたいだよ、あそこに僕らの学校の仮設校舎が見えるし」
そう言うと、秀人はボランティア場所から見える、プレハブ二階建ての仮設校舎を指さした。この仮設校舎は校庭に建てられており、蘭と秀人の臨時の学び舎だ。
「変身しながら瞬間移動したんだな……。ゴリアス……、本当に凄いよ……」
蘭の言葉には感嘆の感情が籠っていたが、素直には喜べなかった。あの怪獣を取り逃がしてしまったのは、蘭と秀人、ゴリアスのミスだ。
しかし、そもそもロシア海軍のデルタⅣ級原子力潜水艦という乱入者によって邪魔されてしまった影響もある。
蘭とゴリアスは、自分達が怪獣を取り逃がした。そう考えているが、秀人だけは違っていた。どうしてあの怪獣は、ロシア海軍からの攻撃を受けていたのに、何もせず避けてしまったのか? それがどうしても気がかりだ。
しかし、そんな疑問もあまり長く考えている余裕はなかった。
「秀人、怪獣を取り逃がしたのに、悔しくないのか?」
「今は悔しさよりも、疑問に思わないの? あの怪獣がロシア海軍の原子力潜水艦の攻撃を受けていたのに、何もせず避けてしまったなんて」
こんな時に何を考えているんだ? ゴリアスと意識を共有しているせいで、秀人の考えていることも分かるようになっている。しかし今、秀人の考えは、蘭をイラつかせる材料にしかならなかった。
『蘭、今ここで怒りの感情に身を任せるのは賢くない。そして秀人、今疑問に思うのも大切だが、蘭と私の感情も少しは考えて欲しいな。。お前一人で動いたり、戦ったりしているのではないのだからな』
ゴリアスに指摘されて、蘭と秀人は少し気まずくなる。三人の力を合わせないと、怪獣を倒すことが出来ない。それは蘭と秀人よりゴリアス本人が一番知っている。。
『とにかく人共、今はちゃんと謝れ。話をするのはその後だ……』
咎める口調で、蘭と秀人に互いの謝罪を促す。
「分かった……、秀人ごめんな」
「こちらこそ、蘭……。ごめんなさい」
ゴリアスという怪獣に諭され、さっきまでお互いに何をいがみ合っていたのだろうかと、少し冷静になった。
蘭は怪獣を倒すのに集中しすぎて、怪獣の行動に対して全くの関心を持たなかった。
そして秀人は、怪獣の行動ばかりに集中しすぎていた。
二人共別の方向を向きながら、怪獣と戦っていたようなものだったのだ。こんなバラバラでは例えゴリアスより小さく、非力な怪獣であっても負けてしまうだろう。
『お互いに違う点ばかり見ていたんだ、それを反省するんだぞ。分かったな』
ゴリアスの言葉を聞いて、蘭と秀人の二人は気落ちする。それはゴリアスに諭された気持ちと、全くバラバラなことを考えていたことに対する自責の念だ。3か月前はお互いの気持ちを一つにして、北海道や青森を破壊した怪獣、ジラノを倒すことが出来たと言うのに。
「お互いにもう少し考えよう。何をするのが大事なのか……」
蘭が一人呟き、それに秀人が反応した。
「そうだね。何をするべきなのか、優先する点は何なのか……。それより、ボランティアの人たちの所に行こう……」
秀人の言葉で、蘭は一気に現実に引き戻された。何せボランティアをしていたのに、怪獣出現の報を聞いて、いきなり出現した怪獣の所にまで移動してしまったのだから。
少し急ぐような足取りで、ボランティアスタッフのいる天幕の所まで、蘭と秀人は連れ立って歩いた。
蘭と秀人がボランティアスタッフのいる天幕の中に入って行くと、すぐに若い男性スタッフが一人駆け寄って来た。
「五島さん! 宝田さんも、一体どこに居たんだい? 探していたんだぞ!」
「ごめんなさい! 怪獣のニュースに驚いて、飛び出してしまいました!」
蘭がそう言うと、秀人も頭を下げて謝罪する。
「今は怪獣なんかより、もっと大変なことが五島さんに起こっているんだ! 五島さんの父親の恭平さんが、怪獣出現のニュースで、パニックに巻き込まれたんだ! 今、北大学病院で治療を受けているから、車に乗って、早く!」
聞きたくもない、最悪のニュースが飛び込んできた。
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