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第1獣

怪獣1-11

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 蘭と秀人がボランティアをしている、城南高校周辺

 この日も蘭と秀人はボランティア活動に勤しんでいる。蘭は全身から汗を噴き出し、猫車を押す。それに秀人も青色吐息で付いて行く。
「こら、坊主! 前に居る嬢ちゃんに負けるなよ!」
 明らかに肉体労働者らしい、中年男性から冷やかすような声が聞こえ、秀人が手を挙げて合図をする。
「うるさい! それに俺の名は蘭だよって教えたよな! ヒゲ親父!」
 冷やかすような言葉に蘭が反応する。それを聞いた中年親父は笑いながら片手をあげて答えた。
 その後休憩所でテレビを見ていると速報が流れた。それは網走市に3か月前に出現した怪獣とは違う、巨大不明生物が出現したという。それにより根室市は壊滅、航空自衛隊の戦闘機も全機撃墜されたと、アナウンサーが青ざめた顔で伝えていた。
「また怪獣かよ……」
「おいおい、冗談じゃねえぞ!」
 緊張感が休憩所に漂う。ここに居る全員は怪獣騒ぎと、それに付随して起こったパニックを知っているから、このニュースがどれだけ危険なのかを体で理解している。
 休憩所に居た全員が騒然とする中、蘭と秀人は休憩所を飛び出した。
「秀人、どうする?」
「どうするって、ここ札幌に入れないように何とかしないと!」
「そうなると変身して、あいつをあそこで倒すか。それとも別の方面に意識を逸らすしかないか!」
 蘭は変身する気満々である。正義のために怪獣に変身することが出来る、そんな気持ちが蘭の中に溢れてきた。
「蘭、簡単に言うけど、ここで変身は出来ないよ。そんなことしたらどうなるか分かるよね!」
 秀人の言葉に、蘭は一瞬固まる。確かに下手にこの場所で変身なんかしたら、パニックを引き起こすどころか、同じことを繰り返すことになる。
「だからと言って、あの怪獣を野放しにするのかよ……。あいつを放っておいたらまた犠牲者が出るぞ……。俺らゴリアスに変身することが出来るなら、その力を生かしてあの怪獣を即刻何とかするべきなんじゃないのか?」
 蘭の言っていることも、最もだ。今対抗できる力を持っているのは、蘭と秀人、そしてゴリアスしかいない。しかも今、航空自衛隊の戦闘機が全機撃墜されて、あの怪獣を攻撃する戦力はいない。対抗出来るのは今、ここに居る二人と一匹しかいない。
「仮に対抗するにしても、どこで変身して、どうやって網走まで行くんだ? ゴリアスに変身して歩いて行くなんて無茶だ……」
 秀人の言葉に蘭も諦めかける。その気持ちを感じたゴリアスが沈黙を破った。
『方法は一つだけある……』
 蘭と秀人の頭の中に、ゴリアスの声が響いた。
「どんな方法だよ。それ?」
 蘭が手の甲にある、ゴリアスの痣に向かって叫んだ。
『最後に変身を解いた時、覚えているか? 海中で変身を解いて、お前たち二人を海岸まで運んだ時だ……』
 ゴリアスの言葉を秀人は察する。
「あの時と逆のパターンで変身が出来るということなのかい?」
『そうだ、お前たちはあの生物がいる所に、怪獣の姿に変わっている』
「もう変身が終わっているっていうことか!」
 ゴリアスの言葉に蘭は色めき立った。
「よし! 早速するぞ! 秀人、準備は良いか?」
 蘭の右手にある、怪獣型の痣は小さく光り始めていた。それは秀人の痣も同じであった。
「分かったよ! ゴリアス、網走市の場所は分かる?」
『一応な、確かお前ら二人が昔行った場所じゃないか? その時は地図まで見せてくれただろう! 北海道の道東地方にあって、流氷が有名な街のはずだ!』
「そうだよ、小学生の時に修学旅行でね! 覚えていてよかったよ!」
 何気なく昔話をして、地図を見せて説明したのが、ここで役に立つとは思わなかった。
 蘭が秀人の右手を握ると、二人は光の塊となって空へ消えて行った。
「蘭ちゃんと、秀人君はどこへ行ったんだ……?」
 ボランティア作業をしている、中年男性が二人の姿をしばらく探していた。
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