上 下
10 / 42
第1獣

怪獣1-9

しおりを挟む
 爺爺岳は内部からの爆発力によって、爺爺岳全体が揺すられ、刻々と崩れて行く。
「何だあれは!」
「見ろ! 山が崩れて行く!」
 驚いた兵士たちは、AK74Mを爺爺岳に向けながら、崩れて行く光景を見ていた。
 その様子を確認した、ミハイル少佐の部隊は撤退命令を出そうとしたが、地面の下から突き上げる揺れに耐える方が先だった。
「ミハイル少佐! 山が崩れて行きます!」
「分かっている! 今はとにかく落ち着くんだ!」
 指揮官が動揺していれば、それは部下全体に伝播する。指揮官たるもの常に落ち着いて、対応しなくてはならない。ましてや、こんな突飛な事態であれば尚更だ。
 士官学校時代に教わったことを頭の中で反芻しながら、崩れ行く爺爺岳を見ていた。
 やがて揺れが完全に止まると、崩れ落ちた爺爺岳から、巨大不明生物が姿を現した。そしてその巨大不明生物は、辺りを軽く見回すと蝙蝠のような羽を羽ばたかせて飛び立とうとする。
「嘘だろ……!」
「あんなのが、山の中にいたのか?」
 驚いた声を漏らすも、その中でも冷静な部下はいた。
「少佐! 攻撃命令を!」
 部下が打診する。
「ダメだ、我々が今持っている兵器ではあいつにダメージを与えられん! それより、カシンリン博士とチェフスキー博士の安否を確認しろ!」
 部下に攻撃要請より、二人の博士の救助を命令した。ただ、同時に巨大不明生物はどこへ飛んで行ったのかという計算も忘れなかった。
「誰か、地図を持って来てくれ! それにコンパスも!」
 コンパスと定規の計算によると、北海道の網走方面へ向かっていることが判明した。
 最初に未確認生物の姿を捉えたのは、航空自衛隊根室分屯地第26警戒隊のJ/FPS-2対空警戒レーダーだった。近隣の戦闘航空団である、千歳基地へ緊急連絡を行う。
それが、第26警戒隊の最後の仕事になった。巨大不明生物は低空で、しかも音速で跳んでいた。だから音速に達することによるソニックブームが発生し、第26警戒隊は跡形もなく四散した。
勤務していた自衛官全員がバラバラの肉片となるなり、瓦礫や機材に押しつぶされる形で死んだ。生存者は誰もいなかった。
 それは根室市も同様だった。巨大不明生物の発生する、ソニックブームをもろに受け、根室市の建物全てが四散したのだ。根室市民にとっては、何が起こったのか確認する暇も無く、虫のように死んで行った。
 本来なら彼らを助けるはずの医者も死傷し、病院さえ破壊され何も残っていなかった。そしていざと言う時に国民の皆が頼りにしている、自衛隊も。今やその機能を完全に停止していて、助けに向かえる者はいなかった。
 彼らは地獄のような苦しみを味わいながら死んでいく。それしか道はなかった。
 運よく被害から逃れた市民もいたが、ほとんど傷ついた亡者を見捨て、根室市からの脱出を図っていた。
そんな中、巨大不明生物は一気に上空へ羽ばたくと、次の標的を探し始めた。
 それは人がなるべく多く存在する地域を探していた。そしてある地方都市が目に入ってきた。湖の近くにある小さな街、そこを目掛け飛んで行った。
 だが、そこに思わぬ乱入者が現れた。金属製のジェットエンジン音を響かせて、小さなものが複数飛んできた。それは緊急連絡を受け取って、スクランブル発進した、千歳第2航空団の戦闘機、F15Jイーグルの編隊だ。
 多数機編隊長の山崎三佐は、青森県三沢基地から転属してきたばかりだが。自分のやろうとしている職務に集中した。
「まさか、本当に戦うことになるとはな……」
 前の怪獣襲撃の際に、大規模EMPが発生し、多くのイーグルドライバーやF2のパイロットが犠牲になった。あの時、北部航空方面隊の航空戦力はゼロに近かった。
 三か月前のようなことは絶対に起こさせない、今度は我々自衛隊の完全勝利で終わらせる!と胸に誓う。
愛機であるF15Jを操縦し、自然と座席の真ん中あたりにある、操縦桿握る手に力が籠った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

琥珀と二人の怪獣王 二大怪獣北海道の激闘

なべのすけ
SF
 海底の奥深くに眠っている、巨大怪獣が目覚め、中国海軍の原子力潜水艦を襲撃する大事件が勃発する!  自衛隊が潜水艦を捜索に行くと、巨大怪獣が現れ攻撃を受けて全滅する大事件が起こった!そんな最中に、好みも性格も全く対照的な幼馴染、宝田秀人と五島蘭の二人は学校にあった琥珀を調べていると、光出し、琥珀の中に封印されていた、もう一体の巨大怪獣に変身してしまう。自分達が人間であることを、理解してもらおうとするが、自衛隊から攻撃を受け、更に他の怪獣からも攻撃を受けてしまい、なし崩し的に戦う事になってしまう!  襲い掛かる怪獣の魔の手に、祖国を守ろうとする自衛隊の戦力、三つ巴の戦いが起こる中、蘭と秀人の二人は平和な生活を取り戻し、人間の姿に戻る事が出来るのか? (注意) この作品は2021年2月から同年3月31日まで連載した、「琥珀色の怪獣王」のリブートとなっております。 「琥珀色の怪獣王」はリブート版公開に伴い公開を停止しております。

ワイルド・ソルジャー

アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。 世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。 主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。 旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。 ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。 世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。 他の小説サイトにも投稿しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サクラ・アンダーソンの不思議な体験

廣瀬純一
SF
女性のサクラ・アンダーソンが男性のコウイチ・アンダーソンに変わるまでの不思議な話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

幻想遊撃隊ブレイド・ダンサーズ

黒陽 光
SF
 その日、1973年のある日。空から降りてきたのは神の祝福などではなく、終わりのない戦いをもたらす招かれざる来訪者だった。  現れた地球外の不明生命体、"幻魔"と名付けられた異形の怪異たちは地球上の六ヶ所へ巣を落着させ、幻基巣と呼ばれるそこから無尽蔵に湧き出て地球人類に対しての侵略行動を開始した。コミュニケーションを取ることすら叶わぬ異形を相手に、人類は嘗てない絶滅戦争へと否応なく突入していくこととなる。  そんな中、人類は全高8mの人型機動兵器、T.A.M.S(タムス)の開発に成功。遂に人類は幻魔と対等に渡り合えるようにはなったものの、しかし戦いは膠着状態に陥り。四十年あまりの長きに渡り続く戦いは、しかし未だにその終わりが見えないでいた。  ――――これは、絶望に抗う少年少女たちの物語。多くの犠牲を払い、それでも生きて。いなくなってしまった愛しい者たちの遺した想いを道標とし、抗い続ける少年少女たちの物語だ。 表紙は頂き物です、ありがとうございます。 ※カクヨムさんでも重複掲載始めました。

身体交換

廣瀬純一
SF
男と女の身体を交換する話

未来への転送

廣瀬純一
SF
未来に転送された男女の体が入れ替わる話

処理中です...