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第1獣

怪獣1-8

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 翌日、北方領土国後島爺爺岳地底湖内

 ガスマスク付きの防護服で完全防護した、ロシア軍とチェフスキー博士、グレチェンコ博士のチームはLEDライトの明かりを頼りに、洞窟内を進んでいた。目的の地底湖へ入ると、天井はLEDライトが役に立たない程の暗闇が広がり、地底湖の湖面がLEDの光で散らばるように照らされる。その様子は幻想的だが、同時に不気味でもあった。
「ハラショー! ライトが役立たないぜ!」
 肩からAK74Mを吊るした、警護のロシア軍兵士が呟く。
「これは……、完全なる円形ね……」
 地底湖の天井を見ながら、チェフスキー博士は呟く。調査対象の地底湖はまるでスプーンか何かでくり抜かれたかのように、完全なる円形ドームの形を作っていた。
「チェフスキー博士、これを見てくれ」
 カシンリン博士がチェフスキー博士に声をかけて、洞窟の壁を指さす。
 そこには壁画が描かれていた。
「壁画ね……」
「そうだ。正確な時代はこれから計測してみるが、私の勘だが相当に古い」
「博士ともあろうお方が、勘を頼りにするなんて」
 チェフスキー博士は少し、冗談を言う。
「博士に大事なのは、勘とイマジネーションだよ。この二つから新しい発見をするんだ。特にあの生物にも、この二つは役に立つ」
 そう言って、地底湖の真ん中で体を羽で覆い、蹲っている不明生物を指さす。
 その姿は、写真で見た時よりも大きく、鼓動していることが分かった。今にも目覚めそうな感じがした。
(まさか、目覚めようとしているのか……?)
 チェフスキー博士の冗談は、恐怖心の裏返しのように感じられた。
 不明生物を警戒してか、警護の兵士の何人かは護身用に持ってきた、AK74Mの銃口を向けていた。
「君も、調査を開始したまえ。あの警護の連中が勝手に撃たないうちにな」
 ロシア軍の兵士たちは、二人の博士を脅威から守る命令を受けてはいるが、恐怖心に駆られて、勝手に発砲しないとも限らなかった。
 二人の博士は、ロシア軍兵士と巨大不明生物に警戒しながら、地底湖内の調査とデータ取りを始めた時。その時だった。
 途端に地響きがあった。地震かと思われたが違った。爆発にも近い揺れが起こり、不明生物が動き出し、洞窟内にろうする唸り声をあげた。
 それは、大地の神が怒りの鉄槌を浴びせようとする、一撃のように聞こえてきた。
「何だ一体!」
「博士あれを!」
 二人の博士は尻餅をついたが、警護の兵士がAK74Mのトリガーを引いていた。
「撃つな! 落ち着け!」
 チェフスキー博士の悲鳴交じりの声は、銃声と唸り声にかき消された。
 地響きの音に交じりAK74Mのマズルフラッシュとボルトハンドルの駆動音、そして排莢口から空薬莢の排出音の入り混じった音が地底湖内に小さく響いたが、やがて消えて行った。
 ただ、妙な地響の音だけが耳の中に残った。
(なんなのこれ……、一体何の冗談……?)
 唖然として、巨大不明生物を見るカシンリン博士をチェフスキー博士の声が、現実に引き戻した。
「カシンリン博士!」
 無事を確認するために、チェフスキー博士が叫ぶ。
「大丈夫だ! それよりあの怪物が!」
 カシンリン博士は震える指で、地底湖の真ん中に居た不明生物を指さす。
 揺れに合わせて、体を覆っていた羽が動き出し、洞窟内に突風が吹く。
 その姿、覗かせた顔は肉食獣を連想させる、針の様なたてがみと牙を剥き出しにした口。獰猛な複眼。動き出した羽は蝙蝠様に大きく、そして刃の様に鋭い。両手と両足は大きな鉤爪がついて、敵意を剥き出しにしたかのように巨大だ。
「これは……」
「悪魔が目覚めたとしか、言いようがない……」
 巨大不明生物は、羽を動かして体を浮かび上がらせて、壁に体をぶつけた。
「ここから出ようとしているんだ……!」
「この山の中から!」
 二人の博士の頭の上に、巨大な土砂の塊が落ちてくる。裂けた壁から青空が見えてきて、それが最後に見た光景になった。
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