琥珀と二人の怪獣王 建国の怪獣聖書

なべのすけ

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第1獣

怪獣1-7

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 その言葉に秀人が詰まっていると、肩を勢いよく叩かれた。
「こら! 秀人! 私一人に仕事を押し付けて、何をやっているんだ?」
 蘭だった。蘭は全身汗まみれになりながら、ゴミの入った袋を肩で担いでいる。
 その姿を見て、彼女は一瞬呆気に取られるが、小さく笑みをこぼす。
「とてもパワフルな人なのね」
 めったに聞かないだろう優しい言葉に蘭は面食らい、目をきょろきょろしたまま固まってしまう。
「蘭、自己紹介しなよ。こちらは同じボランティアをしている鏑木さん」
「えっと、蘭って言います。五島蘭です……」
「鏑木美矢子と申します」
 秀人に促されるように、蘭も自己紹介する。
 普段だったら、蘭らしく豪胆な自己紹介をするのだが、全身から漂ってきそうな、育ちの良いオーラに気おされたのか、蘭にしてはずいぶん大人しい自己紹介をした。
 その姿を見て、秀人も蘭も育ちの良さには敵わないなと、妙に納得する。
「お二人共、いつもお参りして、ゴミを拾ってくれているって話していたのこれはどちらから言い出したの?」
「二人で話し合って決めたんです。この日を忘れないようにって……」
蘭が戸惑ったように答える。秀人は、蘭が余計なことを言う前にそっと耳打ちする。
「蘭、怪獣騒ぎで友人を亡くされているんだよ!」
 秀人の言葉に蘭はしゅんとする。
「どうかしたのですか?」
「いえ……。お互いにこのことを忘れないようにって、そんな話をしたんですよ」
 秀人がはぐらかす様に答えて、取りつくろう。その様子を見て小さく首をかしげ、何を感じたのかすぐに理解した。
「もしかして、友人の死が重い話だったかしら。 それなら気にしないで下さい。悲しい気持ちをしているのはみんな同じです。その悲しい気持ちを、忘れないようにしているのが大切なんですから」
「ありがとうございます」
 秀人は頭を下げる。
「折角ですから、少し休んでアイスでも食べませんか? 頑張っているお二人に、なにかお礼がしたくって」
何度か押し問答をした結果、 大通公園近くのコンビニで、各自のアイスを買い、それをベンチに座りながら食べることになった。
 蘭と秀人の口の中に、ソーダ味の透き通った甘みと冷たさが広がって溶けていく。
『自分のせいで、悲劇に見舞われたんだな……』
 今まで黙っていた、ゴリアスが小さく呟く。その声はどこか悲しみが籠っていた。
「ゴリアス……」
 蘭が頭の中で声をかけるが、何を言っていいのか分からず言葉が詰まる。
『君たち二人と、一緒になって理解してきたんだ。様々な生活、文化、持っている感情。それはどれも素晴らしく、美しい。それを自分が壊してしまったなんて……』
「その気持ちを忘れないように、していけばいいと思うよ。そしてまた、怪獣が現れたら、持っている力をこの時代の人のために使っていけばいい」
 秀人が少し励ます感じで声をかける。
「そうだよ! 持っている力は誰かのために使うんだ! それが一番の有効活用なんじゃないかなって、俺は思うぜ!」
 蘭も後を追う。
『そうか……、ありがとう』
 蘭と秀人の言葉に、ゴリアスは少し元気を取り戻していた。
「さぁ、食べるもの食べて休んだんだから再開だ! 怠けていたら申し訳ないぞ! 鏑木さん、ありがとうございました!」
 アイスの棒をゴミ箱に入れて、礼を言うと、秀人の手を引いてゴミ拾いを始めた。
 その様子を見て、鏑木は笑うのであった。
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