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第1獣

怪獣1-5

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 札幌市営地下鉄南北線が平岸駅を過ぎたあたりで、車窓の風景が住宅街から地下へと変わった。
『この地下鉄って言うのはよく分からんな……』
 ゴリアスが怪訝な声で呟く。
「ゴリアス、何が分からないんだい?」
『地下鉄と言うからには、地下を走っているんだろう。でもこの地下鉄は少しの間だが、地上を走っているじゃないか』
 最もらしいことをゴリアスは言った。
「それは、この地下鉄路線だけだよ。市営地下鉄南北線は一部の区間だけ、地上を走っているのさ。これは地下を走るよりは地上を走らせた方が都合がいいのさ」
 秀人の説明をゴリアスは黙って聞く。
「当初の計画では外を走って、冬期間は除雪させる計画だったんだけど、積雪時に毎回除雪させていたら、問題が発生するから、地上を走らせるようになったのさ」
 ゴリアスも必死に人間社会を学ぼうと、日々努力している。それはゴリアスという怪獣が人間社会の中で生きて行くのに必要な事だ。
「秀人ぉ、ゴリアスの教育も良いけど、本来の目的忘れてないよな?」
 近くに座っていた、蘭が声をかける。
「分かっているよ、今日は怪獣騒ぎで亡くなった人の慰霊祭、自分たちのしてしまったこと償いに行く。忘れてないよ」
「それならいいが、もうあんな思いはしたくないな……」
 そう言って、蘭は遠い目をする。
 ゴリアスに変身してしまった蘭と秀人は、偶発的とは言え、多くの建物を破壊した。その罪と向き合っている。そして今、怪獣騒ぎで亡くなった人たちのために、献花に行くのであった。
 地下鉄のアナウンスが、目的地である大通公園に着いたことを知らせ、蘭と秀人は降りる。
 地下街は普段通りの雰囲気を取り戻していたがなんだか、居心地が悪い。
 ここで避難民に詰め寄られて、パニックになった警察官が拳銃を乱射し、避難民を大勢射殺してしまう、大事件が起こったのを蘭と秀人は後になって知った。
 これも、自分達のせいでパニックを引き起こした。そんな負い目を蘭と秀人は感じている。
 足早に地下街を抜けると、テレビ塔近くに出られる階段を登りながら、地上に上がった。
 大通公園、札幌市の中心に存在し、都心部の中に噴水や赤レンガやテレビ塔などの観光スポットが並ぶ道民と観光客の憩いの場だ。
 二人の体が、太陽からの日差しに照らされ、体が汗ばんだ。汗が噴き出て額が湿る。しかし、怪獣騒ぎで死んだ人たちの無念さに比べれば、取るに足らないことだ。
 白い天幕と看板が立ててあり、献花台だとすぐに分かった。買ってきた花を置いて拝んだ。
 ゴリアスは一言も話さない。
 ゴリアスにとって、この行為は何のことなのかさっぱり理解できなかった。こうやって手を合わせて魂が天に昇っていく。その祈りは何のために必要なのか?
 しかし今、蘭と秀人を見てこれは人間が行う謝罪の一つである事を理解しかけている。
(これが、人間のしてしまったことに対する償いなのか……)
 近くにはマスコミの取材が来ており、アナウンサーがこの様子を必死に伝えていた。
「巨大怪獣出現事件から数週間、我々は亡くなった人達のことを、絶対に忘れてはおりません。彼らの魂が天に昇って行く事を、日本国民全員で祈りましょう。そしてもう一つ忘れてはいけないことがあります。本日は終戦記念日です。怪獣騒ぎと同じく、終戦の事も忘れてはならないのです……」
 奇しくも8月15日。この日は日本人にとって忘れてはならない、もう一つの日。これは単なる偶然なのだろうか? マスコミの報道を聞きながら、秀人は思う。
 蘭と秀人にとってもう一つ忘れてはならないこともあった、それは献花台とその近くの、ゴミ拾いであった。これはボランティアなんかではなく、蘭と秀人の完全な自主的な行いであった。蘭と秀人は必ず献花台を訪れ、献花を行った後にゴミ拾いをしている。
 二人は帽子を被り、作業をする姿になり。秀人が拾ったゴミを集めていると、同じようにゴミを拾っている一人の女性を見た。
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