6 / 48
第1獣
怪獣1-5
しおりを挟む
札幌市営地下鉄南北線が平岸駅を過ぎたあたりで、車窓の風景が住宅街から地下へと変わった。
『この地下鉄って言うのはよく分からんな……』
ゴリアスが怪訝な声で呟く。
「ゴリアス、何が分からないんだい?」
『地下鉄と言うからには、地下を走っているんだろう。でもこの地下鉄は少しの間だが、地上を走っているじゃないか』
最もらしいことをゴリアスは言った。
「それは、この地下鉄路線だけだよ。市営地下鉄南北線は一部の区間だけ、地上を走っているのさ。これは地下を走るよりは地上を走らせた方が都合がいいのさ」
秀人の説明をゴリアスは黙って聞く。
「当初の計画では外を走って、冬期間は除雪させる計画だったんだけど、積雪時に毎回除雪させていたら、問題が発生するから、地上を走らせるようになったのさ」
ゴリアスも必死に人間社会を学ぼうと、日々努力している。それはゴリアスという怪獣が人間社会の中で生きて行くのに必要な事だ。
「秀人ぉ、ゴリアスの教育も良いけど、本来の目的忘れてないよな?」
近くに座っていた、蘭が声をかける。
「分かっているよ、今日は怪獣騒ぎで亡くなった人の慰霊祭、自分たちのしてしまったこと償いに行く。忘れてないよ」
「それならいいが、もうあんな思いはしたくないな……」
そう言って、蘭は遠い目をする。
ゴリアスに変身してしまった蘭と秀人は、偶発的とは言え、多くの建物を破壊した。その罪と向き合っている。そして今、怪獣騒ぎで亡くなった人たちのために、献花に行くのであった。
地下鉄のアナウンスが、目的地である大通公園に着いたことを知らせ、蘭と秀人は降りる。
地下街は普段通りの雰囲気を取り戻していたがなんだか、居心地が悪い。
ここで避難民に詰め寄られて、パニックになった警察官が拳銃を乱射し、避難民を大勢射殺してしまう、大事件が起こったのを蘭と秀人は後になって知った。
これも、自分達のせいでパニックを引き起こした。そんな負い目を蘭と秀人は感じている。
足早に地下街を抜けると、テレビ塔近くに出られる階段を登りながら、地上に上がった。
大通公園、札幌市の中心に存在し、都心部の中に噴水や赤レンガやテレビ塔などの観光スポットが並ぶ道民と観光客の憩いの場だ。
二人の体が、太陽からの日差しに照らされ、体が汗ばんだ。汗が噴き出て額が湿る。しかし、怪獣騒ぎで死んだ人たちの無念さに比べれば、取るに足らないことだ。
白い天幕と看板が立ててあり、献花台だとすぐに分かった。買ってきた花を置いて拝んだ。
ゴリアスは一言も話さない。
ゴリアスにとって、この行為は何のことなのかさっぱり理解できなかった。こうやって手を合わせて魂が天に昇っていく。その祈りは何のために必要なのか?
しかし今、蘭と秀人を見てこれは人間が行う謝罪の一つである事を理解しかけている。
(これが、人間のしてしまったことに対する償いなのか……)
近くにはマスコミの取材が来ており、アナウンサーがこの様子を必死に伝えていた。
「巨大怪獣出現事件から数週間、我々は亡くなった人達のことを、絶対に忘れてはおりません。彼らの魂が天に昇って行く事を、日本国民全員で祈りましょう。そしてもう一つ忘れてはいけないことがあります。本日は終戦記念日です。怪獣騒ぎと同じく、終戦の事も忘れてはならないのです……」
奇しくも8月15日。この日は日本人にとって忘れてはならない、もう一つの日。これは単なる偶然なのだろうか? マスコミの報道を聞きながら、秀人は思う。
蘭と秀人にとってもう一つ忘れてはならないこともあった、それは献花台とその近くの、ゴミ拾いであった。これはボランティアなんかではなく、蘭と秀人の完全な自主的な行いであった。蘭と秀人は必ず献花台を訪れ、献花を行った後にゴミ拾いをしている。
二人は帽子を被り、作業をする姿になり。秀人が拾ったゴミを集めていると、同じようにゴミを拾っている一人の女性を見た。
『この地下鉄って言うのはよく分からんな……』
ゴリアスが怪訝な声で呟く。
「ゴリアス、何が分からないんだい?」
『地下鉄と言うからには、地下を走っているんだろう。でもこの地下鉄は少しの間だが、地上を走っているじゃないか』
最もらしいことをゴリアスは言った。
「それは、この地下鉄路線だけだよ。市営地下鉄南北線は一部の区間だけ、地上を走っているのさ。これは地下を走るよりは地上を走らせた方が都合がいいのさ」
秀人の説明をゴリアスは黙って聞く。
「当初の計画では外を走って、冬期間は除雪させる計画だったんだけど、積雪時に毎回除雪させていたら、問題が発生するから、地上を走らせるようになったのさ」
ゴリアスも必死に人間社会を学ぼうと、日々努力している。それはゴリアスという怪獣が人間社会の中で生きて行くのに必要な事だ。
「秀人ぉ、ゴリアスの教育も良いけど、本来の目的忘れてないよな?」
近くに座っていた、蘭が声をかける。
「分かっているよ、今日は怪獣騒ぎで亡くなった人の慰霊祭、自分たちのしてしまったこと償いに行く。忘れてないよ」
「それならいいが、もうあんな思いはしたくないな……」
そう言って、蘭は遠い目をする。
ゴリアスに変身してしまった蘭と秀人は、偶発的とは言え、多くの建物を破壊した。その罪と向き合っている。そして今、怪獣騒ぎで亡くなった人たちのために、献花に行くのであった。
地下鉄のアナウンスが、目的地である大通公園に着いたことを知らせ、蘭と秀人は降りる。
地下街は普段通りの雰囲気を取り戻していたがなんだか、居心地が悪い。
ここで避難民に詰め寄られて、パニックになった警察官が拳銃を乱射し、避難民を大勢射殺してしまう、大事件が起こったのを蘭と秀人は後になって知った。
これも、自分達のせいでパニックを引き起こした。そんな負い目を蘭と秀人は感じている。
足早に地下街を抜けると、テレビ塔近くに出られる階段を登りながら、地上に上がった。
大通公園、札幌市の中心に存在し、都心部の中に噴水や赤レンガやテレビ塔などの観光スポットが並ぶ道民と観光客の憩いの場だ。
二人の体が、太陽からの日差しに照らされ、体が汗ばんだ。汗が噴き出て額が湿る。しかし、怪獣騒ぎで死んだ人たちの無念さに比べれば、取るに足らないことだ。
白い天幕と看板が立ててあり、献花台だとすぐに分かった。買ってきた花を置いて拝んだ。
ゴリアスは一言も話さない。
ゴリアスにとって、この行為は何のことなのかさっぱり理解できなかった。こうやって手を合わせて魂が天に昇っていく。その祈りは何のために必要なのか?
しかし今、蘭と秀人を見てこれは人間が行う謝罪の一つである事を理解しかけている。
(これが、人間のしてしまったことに対する償いなのか……)
近くにはマスコミの取材が来ており、アナウンサーがこの様子を必死に伝えていた。
「巨大怪獣出現事件から数週間、我々は亡くなった人達のことを、絶対に忘れてはおりません。彼らの魂が天に昇って行く事を、日本国民全員で祈りましょう。そしてもう一つ忘れてはいけないことがあります。本日は終戦記念日です。怪獣騒ぎと同じく、終戦の事も忘れてはならないのです……」
奇しくも8月15日。この日は日本人にとって忘れてはならない、もう一つの日。これは単なる偶然なのだろうか? マスコミの報道を聞きながら、秀人は思う。
蘭と秀人にとってもう一つ忘れてはならないこともあった、それは献花台とその近くの、ゴミ拾いであった。これはボランティアなんかではなく、蘭と秀人の完全な自主的な行いであった。蘭と秀人は必ず献花台を訪れ、献花を行った後にゴミ拾いをしている。
二人は帽子を被り、作業をする姿になり。秀人が拾ったゴミを集めていると、同じようにゴミを拾っている一人の女性を見た。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
琥珀と二人の怪獣王 二大怪獣北海道の激闘
なべのすけ
SF
海底の奥深くに眠っている、巨大怪獣が目覚め、中国海軍の原子力潜水艦を襲撃する大事件が勃発する!
自衛隊が潜水艦を捜索に行くと、巨大怪獣が現れ攻撃を受けて全滅する大事件が起こった!そんな最中に、好みも性格も全く対照的な幼馴染、宝田秀人と五島蘭の二人は学校にあった琥珀を調べていると、光出し、琥珀の中に封印されていた、もう一体の巨大怪獣に変身してしまう。自分達が人間であることを、理解してもらおうとするが、自衛隊から攻撃を受け、更に他の怪獣からも攻撃を受けてしまい、なし崩し的に戦う事になってしまう!
襲い掛かる怪獣の魔の手に、祖国を守ろうとする自衛隊の戦力、三つ巴の戦いが起こる中、蘭と秀人の二人は平和な生活を取り戻し、人間の姿に戻る事が出来るのか?
(注意)
この作品は2021年2月から同年3月31日まで連載した、「琥珀色の怪獣王」のリブートとなっております。
「琥珀色の怪獣王」はリブート版公開に伴い公開を停止しております。
刻の唄――ゼロ・クロニクル――
@星屑の海
SF
遙か彼方の未来、人類の活動圏が天の川銀河全土に広がって二十万年の時を経た時代。二度の銀河全土を覆う動乱の時代を経た人類は、局所的な紛争はあるものの比較的平和な時代を生きていた。人工知能に代表されるインテリジェンスビーングが高度に進化した時代、それらに対抗するため作られた戦士キャバリアー達がグラディアートという戦闘兵器を用い戦いの主役となっていた。
零・六合は一年半前、ある存在に敗れ旅の巡礼者となり戦いから身を引いていたのだが、旅の途中ボルニア帝国の内乱に巻き込まれてしまう。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる