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56P《忍坂姫の決心》
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それから暫くして、一旦瑞歯別大王の丹比柴籬宮に戻る事にした。
雄朝津間皇子も少し傷を負っているが、少しかすった程度なので、そこまで酷くはないみたいだ。
そして佐由良は誘拐されそうになったので、大王の馬で一緒に帰る事にした。
また阿佐津姫は稚田彦の馬に乗っている。
こうすれば2人の危険が半減出来ると、大王が考えた。
忍坂姫は雄朝津間皇子に付き添った。とりあえず馬にはギリギリ乗れるみたいだった。
(こんな事、本当は今聞くべきではないんだろうけど)
「ねぇ、雄朝津間皇子。一つ聞きたい事があるんですけど」
忍坂姫は迷いながらも聞いて見る事にした。自分の予感がどうか当たらない事を祈って。
「うん?聞きたい事?」
雄朝津間皇子は何だろうと思って、彼女の質問に耳を傾けた。
(お願い、どうか違うと言って……)
「雄朝津間皇子は、もしかして佐由良様の事が本当は好きだったんじゃ?」
それを聞いた彼は一瞬目を丸くした。
まさか彼女からこんな質問をされるとは思っても見なかった。
(彼女に、嘘は付きたくない……)
「あぁ、そうだよ。もう何年も前の事だけどね。その時に彼女に自分の妃になって欲しいと言ったんだ。
でも彼女は当時、既に今の大王の事が好きだった。だからあっさり振られたんだけどね」
それを聞いた忍坂姫は衝撃を受けた。好きなだけだったなら知らず、まして彼は妃にしたいとまで言っていたのだ。
「そ、そうなの。今日ちょっとそんな気がしたんです。でも大丈夫、少し気になっただけだから」
忍坂姫は少し笑って答えた。
雄朝津間皇子に余計な心配はかけたくなかった。
「まぁ、俺にもそんな純粋な頃があったって所かな」
そう言うと、雄朝津間皇子はその場から立ち上がった。
「じゃあ一旦、大王の宮に戻ろうか」
それから2人は瑞歯別大王の宮へと向かった。
彼女がどうしてこの事を確認したかったかと言うと、今回の彼との婚姻の件で瑞歯別大王と再度話しをする為であった。
その為、その前にこの真実を確認したかった。
今回皇子達が視察に行く前に、大王から宮に帰ったら今回の婚姻の件で話しをしようと言われていた。
こうして、そんな事を思いながら忍坂姫は大王の宮へと向かった。
それから無事に大王の宮に戻って来る事が出来た。
雄朝津間皇子は傷の手当てをする為、宮に戻るなり別の部屋に連れて行かれた。
そして辺りは暗くなり、すっかり夜になっている。忍坂姫はふと夜の月を見上げると、月は丁度満月になっていた。
「本当にあともう少しで1ヶ月が経つのね。この一月は本当に怒涛の1ヶ月だったわ」
彼女がそうぼんやりと月を眺めている時だった。そこに誰かがやって来るのが見えた。誰だろうと思って見るとそれは瑞歯別大王であった。
「いや、忍坂姫本当に済まないね。こんな時間にならないと中々抜け出せなくて」
瑞歯別大王は少し申し訳なそうにしながら彼女に言った。
「いいえ、私は大丈夫です。でもこんな時間に来られて良かったんですか?佐由良様も心配されるんじゃ」
「あぁ、それは大丈夫だ。今日君と話しをする件は、佐由良にも言ってある」
それを聞いた忍坂姫はホッとした。大王と夜に2人きりで会うなんて、妃の彼女に対して申し訳ないと思っていたからだ。
「それなら、本当に良かったです」
忍坂姫は笑顔でそう答えた。
そして2人は並んで座って、夜の月を眺めた。今日の満月の月は本当に綺麗だと思った。
それから暫くして、大王が今回の件の話しをする為に口を開いた。
「それで今回君呼んだ件だが。そろそろ弟の婚姻の件で、君の結論を聞きたくてね」
忍坂姫はついにこの日が来たんだなと思った。
今回のこの婚姻に強制力は無い。なので双方どちらかでも承諾しなければ破談になる。その上で彼女は今回の婚姻に対して、結論を出す事にした。
「はい、その事なんですが。大王、本当に済みません!今回の雄朝津間皇子の婚姻の件は無かった事にして下さい!!」
忍坂姫ははっきりとそう答えた。これが悩み抜いた彼女の答えだった。
瑞歯別大王は彼女に予想外の事を言われてしまい、かなり驚いた。
「ち、ちょっと待ってくれ。忍坂姫、それは本当か。てっきり君は弟の事を好いてくれてるとばかりに」
忍坂姫も流石にこれは驚かれるだろうとは想像していた。だがこればかりはどうする事も出来ない。
「雄朝津間皇子は本当に素敵な方だと思います。でも私には無理でした……」
「忍坂姫、一体何が無理だったんだ?」
瑞歯別大王も、彼女の意図する事の意味が全く理解できない。
「私には彼をずっと好きでいられる自信がありません。ごめんなさい、これ以上は本当に言えないんです」
忍坂姫は思わずその場で泣き出してしまった。
今まで彼は、ずっと女性と割り切った関係を続けていた。だがそんな彼でも本当に好きになった人が過去にいたのだ。
もう何年も前の事と彼は言っていた。だが恐らく彼の心の中から、その女性が消える事はずっとないだろう。
しかもその相手は今の大王の妃で、彼にとっては義理の姉に当たる人だ。
そんな彼をずっと想い続けるのは、彼女にはよう耐えられないと考えたのだ。
それから彼女は瑞歯別大王の前でしばらく泣き続けた。
雄朝津間皇子も少し傷を負っているが、少しかすった程度なので、そこまで酷くはないみたいだ。
そして佐由良は誘拐されそうになったので、大王の馬で一緒に帰る事にした。
また阿佐津姫は稚田彦の馬に乗っている。
こうすれば2人の危険が半減出来ると、大王が考えた。
忍坂姫は雄朝津間皇子に付き添った。とりあえず馬にはギリギリ乗れるみたいだった。
(こんな事、本当は今聞くべきではないんだろうけど)
「ねぇ、雄朝津間皇子。一つ聞きたい事があるんですけど」
忍坂姫は迷いながらも聞いて見る事にした。自分の予感がどうか当たらない事を祈って。
「うん?聞きたい事?」
雄朝津間皇子は何だろうと思って、彼女の質問に耳を傾けた。
(お願い、どうか違うと言って……)
「雄朝津間皇子は、もしかして佐由良様の事が本当は好きだったんじゃ?」
それを聞いた彼は一瞬目を丸くした。
まさか彼女からこんな質問をされるとは思っても見なかった。
(彼女に、嘘は付きたくない……)
「あぁ、そうだよ。もう何年も前の事だけどね。その時に彼女に自分の妃になって欲しいと言ったんだ。
でも彼女は当時、既に今の大王の事が好きだった。だからあっさり振られたんだけどね」
それを聞いた忍坂姫は衝撃を受けた。好きなだけだったなら知らず、まして彼は妃にしたいとまで言っていたのだ。
「そ、そうなの。今日ちょっとそんな気がしたんです。でも大丈夫、少し気になっただけだから」
忍坂姫は少し笑って答えた。
雄朝津間皇子に余計な心配はかけたくなかった。
「まぁ、俺にもそんな純粋な頃があったって所かな」
そう言うと、雄朝津間皇子はその場から立ち上がった。
「じゃあ一旦、大王の宮に戻ろうか」
それから2人は瑞歯別大王の宮へと向かった。
彼女がどうしてこの事を確認したかったかと言うと、今回の彼との婚姻の件で瑞歯別大王と再度話しをする為であった。
その為、その前にこの真実を確認したかった。
今回皇子達が視察に行く前に、大王から宮に帰ったら今回の婚姻の件で話しをしようと言われていた。
こうして、そんな事を思いながら忍坂姫は大王の宮へと向かった。
それから無事に大王の宮に戻って来る事が出来た。
雄朝津間皇子は傷の手当てをする為、宮に戻るなり別の部屋に連れて行かれた。
そして辺りは暗くなり、すっかり夜になっている。忍坂姫はふと夜の月を見上げると、月は丁度満月になっていた。
「本当にあともう少しで1ヶ月が経つのね。この一月は本当に怒涛の1ヶ月だったわ」
彼女がそうぼんやりと月を眺めている時だった。そこに誰かがやって来るのが見えた。誰だろうと思って見るとそれは瑞歯別大王であった。
「いや、忍坂姫本当に済まないね。こんな時間にならないと中々抜け出せなくて」
瑞歯別大王は少し申し訳なそうにしながら彼女に言った。
「いいえ、私は大丈夫です。でもこんな時間に来られて良かったんですか?佐由良様も心配されるんじゃ」
「あぁ、それは大丈夫だ。今日君と話しをする件は、佐由良にも言ってある」
それを聞いた忍坂姫はホッとした。大王と夜に2人きりで会うなんて、妃の彼女に対して申し訳ないと思っていたからだ。
「それなら、本当に良かったです」
忍坂姫は笑顔でそう答えた。
そして2人は並んで座って、夜の月を眺めた。今日の満月の月は本当に綺麗だと思った。
それから暫くして、大王が今回の件の話しをする為に口を開いた。
「それで今回君呼んだ件だが。そろそろ弟の婚姻の件で、君の結論を聞きたくてね」
忍坂姫はついにこの日が来たんだなと思った。
今回のこの婚姻に強制力は無い。なので双方どちらかでも承諾しなければ破談になる。その上で彼女は今回の婚姻に対して、結論を出す事にした。
「はい、その事なんですが。大王、本当に済みません!今回の雄朝津間皇子の婚姻の件は無かった事にして下さい!!」
忍坂姫ははっきりとそう答えた。これが悩み抜いた彼女の答えだった。
瑞歯別大王は彼女に予想外の事を言われてしまい、かなり驚いた。
「ち、ちょっと待ってくれ。忍坂姫、それは本当か。てっきり君は弟の事を好いてくれてるとばかりに」
忍坂姫も流石にこれは驚かれるだろうとは想像していた。だがこればかりはどうする事も出来ない。
「雄朝津間皇子は本当に素敵な方だと思います。でも私には無理でした……」
「忍坂姫、一体何が無理だったんだ?」
瑞歯別大王も、彼女の意図する事の意味が全く理解できない。
「私には彼をずっと好きでいられる自信がありません。ごめんなさい、これ以上は本当に言えないんです」
忍坂姫は思わずその場で泣き出してしまった。
今まで彼は、ずっと女性と割り切った関係を続けていた。だがそんな彼でも本当に好きになった人が過去にいたのだ。
もう何年も前の事と彼は言っていた。だが恐らく彼の心の中から、その女性が消える事はずっとないだろう。
しかもその相手は今の大王の妃で、彼にとっては義理の姉に当たる人だ。
そんな彼をずっと想い続けるのは、彼女にはよう耐えられないと考えたのだ。
それから彼女は瑞歯別大王の前でしばらく泣き続けた。
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