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51P《忍び寄る危険と胸騒ぎ》
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その頃瑞歯別大王達は、視察を終えて宮に戻る事にした。
ただ折角なので、この近辺の村を見ながら帰る事にした。そのため今は馬をかなりゆっくりめで走らせていた。
「季節も春になって、だいぶ温かくなって来たな。昨年は穀物も豊作だったので、今年もそうなると有り難いのだが」
瑞歯別大王は周りの村を見渡しながら話していた。彼自身日頃から忙しい合間をぬって、近辺の村を馬で見て回っている。
「そうですね。世間では大王が即位してから泰平の世なんて言われてますからね。本当にそうなる事を祈りたいです」
瑞歯別大王の横を走っている稚田彦が彼に同調して答えた。先の大王が病で急に亡くなった時はどうなるかと思っていたが、この若い大王が即位した事で、とりあえずの心配は無くなった。
(でもこの大王の事だ。自身にもしもの事があった時についても、しっかり考えているのだろう。彼はそう言う人だ。)
稚田彦はそう思って、彼の後ろにいる雄朝津間皇子を見た。まだ彼は若干18歳と若いが、あと数年もすれば立派な青年に成長する事だろう。
今の大和にとって、そんな彼はとても重要な存在である。ただ当の本人にどこまでその自覚があるかは疑問だが。
そんな雄朝津間皇子は、何故かずっと黙り込んでいた。
「雄朝津間、お前さっきからずっと無口だがどうかしたのか?」
瑞歯別大王はそんな弟皇子がふと気になり、声を掛けた。
「あぁ、別に何も無いよ」
雄朝津間皇子は素っ気なくそう答えた。
彼は何か少し考え事をしているみたいだった。
(何だろう、さっきから凄い嫌な胸騒ぎがする)
雄朝津間皇子はこの胸騒ぎが何なのか全く分からない。だがこれは何かただ事ではないような気がしていた。
(やっぱり、気になって仕方ない……)
「兄上、悪いけど先に宮に戻る事にするよ。さっきから何か変な予感があって、どうも気になるんだ」
「おい、雄朝津間。何言って……」
瑞歯別大王がそう言うのも聞かずに、彼は急に馬を走らせて宮へと向かった。
そんな彼の事を、瑞歯別大王と稚田彦は唖然と見ていた。
「あいつ、一体どうしたんだ?」
瑞歯別大王はそんな彼の行動が不思議に思えてならない。
それは稚田彦も同感のようだった。
「とにかく早く宮に戻ろう。別に問題がなければそれで良いんだから」
こうして、雄朝津間皇子はあっという間に宮に戻ってきた。
そして宮に着くと、馬小屋の男に馬を渡すなり、そのまま駆け足で忍坂姫のいるであろう部屋に向かった。
「おい、忍坂姫!」
彼が部屋の中に入るが、部屋の中には誰もいなかった。
「くそ、誰もいないな。皆どこに行ったんだ」
雄朝津間皇子が部屋に誰もいないので、このまま部屋を出ようとした丁度その時だ。太陽の光が部屋の中に入り、何かが光って見えた。
(うん、一体何が光っているんだ?)
彼が気になって、部屋の中にあるその物体に近づいた。それは台の上に置かれていて、手に取ってみるとそれは誰かの鏡のようだ。
「あれ、この鏡見たことあるぞ、確か忍坂姫の部屋にこんな鏡が置かれていたな。彼女はこの鏡も持って来ていたのか」
雄朝津間皇子がまじまじとその鏡を見ている時だった。
急に鏡に写っていた自分の顔とは別の物が写って見えた。
「な、何だこの鏡は!?」
驚きの余り、彼はその鏡から手を離してしまった。ただ鏡自体は割れてはなさそうだ。
皇子は思わず後ろを振り返り、辺りを見渡した。だがどこにも人の姿はなかった。
(一体どうなっているんだ……)
雄朝津間皇子はひとまず、その鏡の中に写っている光景を見て見る事にした。
そこには忍坂姫や佐由良が写っていた。そして2人は複数の男達に取り囲まれていた。
「何なんだ、この光景は。それにここはどこかの小高い丘のようにも見える」
皇子がそこまで見た丁度その時、そこでその光景は消えて、そのまま元の自分の顔に戻っていた。
彼は思わず、その鏡を元あった台の上に置いた。今の光景は偶然見えたにしては、余りに不自然だ。
「大和にも神器としての八咫鏡があるが、それとは恐らく別物だ。一体何故こんな物が存在するんだ?」
(さっきから妙な胸騒ぎがしていたのは、ひょっとしてこの事なのか。それに先程の光景が本当なら、彼女達が危ないんじゃ……)
雄朝津間皇子はそう思うなり、部屋を飛び出した。そして彼女達がどこに向かったのかを宮の使用人に聞くことにした。
そして、皇子はたまたまその近くにいた使用人の女性に声を掛けた。
そして彼に声を掛けられた女性は答えた。
「あぁ、佐由良様達でしたら、この近くの小高い丘の方へ皆で行かれましたよ」
それを聞いた雄朝津間皇子はとても驚いた。
(それはきっと、さっき鏡に写っていたあの場所だ)
「分かった。俺は大至急その丘に向かう。大王達が戻ってきたら、彼らにも急いで丘に来てもらうよう伝えてくれ。これは絶対だぞ」
彼は物凄い険しい顔をしてその使用人の女性に言った。
それを聞いた女性も彼の余りに怖い表情に驚き、「わ、分かりました。そのように必ずお伝えします」と答えた。
それから雄朝津間皇子は急いで馬小屋に行くと、そのまま馬に股がり、先ほど聞いた小高い丘に向かった。
ただ折角なので、この近辺の村を見ながら帰る事にした。そのため今は馬をかなりゆっくりめで走らせていた。
「季節も春になって、だいぶ温かくなって来たな。昨年は穀物も豊作だったので、今年もそうなると有り難いのだが」
瑞歯別大王は周りの村を見渡しながら話していた。彼自身日頃から忙しい合間をぬって、近辺の村を馬で見て回っている。
「そうですね。世間では大王が即位してから泰平の世なんて言われてますからね。本当にそうなる事を祈りたいです」
瑞歯別大王の横を走っている稚田彦が彼に同調して答えた。先の大王が病で急に亡くなった時はどうなるかと思っていたが、この若い大王が即位した事で、とりあえずの心配は無くなった。
(でもこの大王の事だ。自身にもしもの事があった時についても、しっかり考えているのだろう。彼はそう言う人だ。)
稚田彦はそう思って、彼の後ろにいる雄朝津間皇子を見た。まだ彼は若干18歳と若いが、あと数年もすれば立派な青年に成長する事だろう。
今の大和にとって、そんな彼はとても重要な存在である。ただ当の本人にどこまでその自覚があるかは疑問だが。
そんな雄朝津間皇子は、何故かずっと黙り込んでいた。
「雄朝津間、お前さっきからずっと無口だがどうかしたのか?」
瑞歯別大王はそんな弟皇子がふと気になり、声を掛けた。
「あぁ、別に何も無いよ」
雄朝津間皇子は素っ気なくそう答えた。
彼は何か少し考え事をしているみたいだった。
(何だろう、さっきから凄い嫌な胸騒ぎがする)
雄朝津間皇子はこの胸騒ぎが何なのか全く分からない。だがこれは何かただ事ではないような気がしていた。
(やっぱり、気になって仕方ない……)
「兄上、悪いけど先に宮に戻る事にするよ。さっきから何か変な予感があって、どうも気になるんだ」
「おい、雄朝津間。何言って……」
瑞歯別大王がそう言うのも聞かずに、彼は急に馬を走らせて宮へと向かった。
そんな彼の事を、瑞歯別大王と稚田彦は唖然と見ていた。
「あいつ、一体どうしたんだ?」
瑞歯別大王はそんな彼の行動が不思議に思えてならない。
それは稚田彦も同感のようだった。
「とにかく早く宮に戻ろう。別に問題がなければそれで良いんだから」
こうして、雄朝津間皇子はあっという間に宮に戻ってきた。
そして宮に着くと、馬小屋の男に馬を渡すなり、そのまま駆け足で忍坂姫のいるであろう部屋に向かった。
「おい、忍坂姫!」
彼が部屋の中に入るが、部屋の中には誰もいなかった。
「くそ、誰もいないな。皆どこに行ったんだ」
雄朝津間皇子が部屋に誰もいないので、このまま部屋を出ようとした丁度その時だ。太陽の光が部屋の中に入り、何かが光って見えた。
(うん、一体何が光っているんだ?)
彼が気になって、部屋の中にあるその物体に近づいた。それは台の上に置かれていて、手に取ってみるとそれは誰かの鏡のようだ。
「あれ、この鏡見たことあるぞ、確か忍坂姫の部屋にこんな鏡が置かれていたな。彼女はこの鏡も持って来ていたのか」
雄朝津間皇子がまじまじとその鏡を見ている時だった。
急に鏡に写っていた自分の顔とは別の物が写って見えた。
「な、何だこの鏡は!?」
驚きの余り、彼はその鏡から手を離してしまった。ただ鏡自体は割れてはなさそうだ。
皇子は思わず後ろを振り返り、辺りを見渡した。だがどこにも人の姿はなかった。
(一体どうなっているんだ……)
雄朝津間皇子はひとまず、その鏡の中に写っている光景を見て見る事にした。
そこには忍坂姫や佐由良が写っていた。そして2人は複数の男達に取り囲まれていた。
「何なんだ、この光景は。それにここはどこかの小高い丘のようにも見える」
皇子がそこまで見た丁度その時、そこでその光景は消えて、そのまま元の自分の顔に戻っていた。
彼は思わず、その鏡を元あった台の上に置いた。今の光景は偶然見えたにしては、余りに不自然だ。
「大和にも神器としての八咫鏡があるが、それとは恐らく別物だ。一体何故こんな物が存在するんだ?」
(さっきから妙な胸騒ぎがしていたのは、ひょっとしてこの事なのか。それに先程の光景が本当なら、彼女達が危ないんじゃ……)
雄朝津間皇子はそう思うなり、部屋を飛び出した。そして彼女達がどこに向かったのかを宮の使用人に聞くことにした。
そして、皇子はたまたまその近くにいた使用人の女性に声を掛けた。
そして彼に声を掛けられた女性は答えた。
「あぁ、佐由良様達でしたら、この近くの小高い丘の方へ皆で行かれましたよ」
それを聞いた雄朝津間皇子はとても驚いた。
(それはきっと、さっき鏡に写っていたあの場所だ)
「分かった。俺は大至急その丘に向かう。大王達が戻ってきたら、彼らにも急いで丘に来てもらうよう伝えてくれ。これは絶対だぞ」
彼は物凄い険しい顔をしてその使用人の女性に言った。
それを聞いた女性も彼の余りに怖い表情に驚き、「わ、分かりました。そのように必ずお伝えします」と答えた。
それから雄朝津間皇子は急いで馬小屋に行くと、そのまま馬に股がり、先ほど聞いた小高い丘に向かった。
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