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42P《雄朝津間皇子への贈り物》
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忍坂姫はふと目を開けた。
時間的には夕方頃になっているようで、どうやら彼女は、自分の部屋で寝かされていたみたいだった。
「あれ、私なんで部屋にいるの?確か房千嘉と千佐名が上手くいって、それで安心して力が抜けてしまい、雄朝津間皇子に持たれていたのまでは覚えてる……」
もしかすると自分は、そのまま意識を失ってしまったのかもしれない。
だとすると、その場所から宮までどうやって戻って来れたのだろうか。
「とりあえず起きて、外に出てみようかしら?」
忍坂姫はそのまま起き上がって、部屋を出る事にした。
外では夕焼けが少し出ていて、春先の夕暮れを印象付けていた。
すると前から伊代乃がやって来ていた。
もしかすると、自分の様子を見に行こうとしていたのかもしれない。
「伊代乃、今丁度目が覚めた所よ。それとちょっと教えて欲しい事があるんだけど」
伊代乃は忍坂姫にそう言われて、彼女の側までやって来た。
「忍坂姫、お目覚めになられて本当に良かったです。私に教えて欲しい事とは何でしょうか?」
忍坂姫は自分がどうやってこの宮に戻って来たのか、伊代乃なら知っていると思った。
「私今日向かった先で、どうやら意識を失ってしまったみたいなの。だからどうやってこの宮に戻って来たのか知りたくて」
それを聞いた伊代乃は、思わずクスッと笑った。そして彼女はそのまま続けて言った。
「それなら、雄朝津間皇子が姫を背負って戻って来られましたよ。今日行かれていた花の咲いている場所は、そんなに遠い所でもないですから」
(え、雄朝津間皇子が私を背負って帰って来た!)
「そ、それは本当なの!ど、どうしましょう。私皇子に凄い迷惑を掛けてしまったわ」
忍坂姫は本当に申し訳ない事をしてしまったと思った。これは皇子にちゃんとお礼を言わないといけない。
「でも、雄朝津間皇子はそんなに怒っている感じでもなさそうでしたよ」
(怒っているとか、怒っていないとかそういう問題じゃ無いわ。とりあえず皇子の元に行ってみよう)
「有り難う伊代乃、とりあえずこれから雄朝津間皇子の所に行って来るわ」
そう言って忍坂姫は、急いで雄朝津間皇子の元に向かう事にした。
伊代乃はそんな彼女を呆然と見送った。
(雄朝津間皇子がこの宮に戻って来られた時は、特に疲れているふうでもなく、割りと元気そうでしたけど)
宮の者達は、雄朝津間皇子が忍坂姫を背負って宮に戻って来た為、始めとても驚いた。
だが皇子自身は至って普通だった。そのまま忍坂姫の部屋に行き、彼女をとても慎重そうに降ろし、そして横たわせた。
そして「あとは頼む」と伊代乃達に言って、本人はそのまま自身の部屋に戻って行ったのだった。
忍坂姫は、雄朝津間皇子の部屋の前までやって来た。
(とりあえず、お礼だけでも言わないと)
「雄朝津間皇子、忍坂姫です。突然来てしまって済みません。中に入っても宜しいでしょうか」
忍坂姫は部屋の外から、彼に声をかけた。
すると中から皇子の声が聞こえてきた。
どうやら雄朝津間皇子は部屋の中にいるようだ。
「あぁ、そのまま中に入って来て構わないよ」
雄朝津間皇子からそう返事が返ってきたので、忍坂姫は部屋の中に入った。
彼女が部屋の中に入ってみると、彼は普通に部屋でくつろいでいる感じのようだった。
そして雄朝津間皇子の前まで来ると、そのままその場に座った。
「あぁ良かった。やっと目が覚めたようだね。君も今日は色々と気を張っていたんだろう。今俺が見る限りでも顔色は良さそうだし、本当に安心したよ」
そう言って彼はホッとしたような表情を彼女に見せた。
「さっき、伊代乃から聞きました。何でも私が気を失ってから、皇子がここまで運んでくれたそうで。その……有り難うございました」
忍坂姫は、そう雄朝津間皇子にお礼を言った。今回皇子にこんな事をさせてしまった事に対して、本当に申し訳ないと思う。
「まぁ、そこまで大変じゃなかったし。あと途中で日田戸祢の家から出てきた房千嘉とも鉢合わせして、彼には馬を運んで貰ったよ。千佐名との事があったので、彼が進んで手伝ってくれると言ってくれたんだ」
(そっか、房千嘉まで協力してくれていたのね。また今度彼にもお礼を言わないと)
忍坂姫は雄朝津間皇子のみならず、房千嘉にまで助けて貰っていた事を知った。彼にはその後どうなったのかも気になるので、また会って話してみたいと思った。
「はぁ、本当に何から何まで済みませんでした」
(これは何かお礼でもしないと)
「皇子、何かお願いしたい事とかあったらおっしゃって下さいね。今回の事もありますし。その、変なお願い事じゃないもので……」
忍坂姫は以前、何でもするなんて言って散々な目にあった。
「あぁ、ありがとう。また何かあったらお願いするよ。もちろん変な事は言わないから安心して。また君に嫌われたくはないんでね」
雄朝津間皇子は少し苦笑いしながら、彼女にそう言った。
それを聞いた忍坂姫は少し安心した。また皇子に変な事を要求されたら、どうしようかと思ったからだ。
(今自分で言って思い出したわ。あの時は私不意に皇子に口付けられたんだっけ。
当時は酷く混乱していたから、その事については今まで余り考えないでいた)
彼女はふとあの時の事を、急に思い出してしまった。
時間的には夕方頃になっているようで、どうやら彼女は、自分の部屋で寝かされていたみたいだった。
「あれ、私なんで部屋にいるの?確か房千嘉と千佐名が上手くいって、それで安心して力が抜けてしまい、雄朝津間皇子に持たれていたのまでは覚えてる……」
もしかすると自分は、そのまま意識を失ってしまったのかもしれない。
だとすると、その場所から宮までどうやって戻って来れたのだろうか。
「とりあえず起きて、外に出てみようかしら?」
忍坂姫はそのまま起き上がって、部屋を出る事にした。
外では夕焼けが少し出ていて、春先の夕暮れを印象付けていた。
すると前から伊代乃がやって来ていた。
もしかすると、自分の様子を見に行こうとしていたのかもしれない。
「伊代乃、今丁度目が覚めた所よ。それとちょっと教えて欲しい事があるんだけど」
伊代乃は忍坂姫にそう言われて、彼女の側までやって来た。
「忍坂姫、お目覚めになられて本当に良かったです。私に教えて欲しい事とは何でしょうか?」
忍坂姫は自分がどうやってこの宮に戻って来たのか、伊代乃なら知っていると思った。
「私今日向かった先で、どうやら意識を失ってしまったみたいなの。だからどうやってこの宮に戻って来たのか知りたくて」
それを聞いた伊代乃は、思わずクスッと笑った。そして彼女はそのまま続けて言った。
「それなら、雄朝津間皇子が姫を背負って戻って来られましたよ。今日行かれていた花の咲いている場所は、そんなに遠い所でもないですから」
(え、雄朝津間皇子が私を背負って帰って来た!)
「そ、それは本当なの!ど、どうしましょう。私皇子に凄い迷惑を掛けてしまったわ」
忍坂姫は本当に申し訳ない事をしてしまったと思った。これは皇子にちゃんとお礼を言わないといけない。
「でも、雄朝津間皇子はそんなに怒っている感じでもなさそうでしたよ」
(怒っているとか、怒っていないとかそういう問題じゃ無いわ。とりあえず皇子の元に行ってみよう)
「有り難う伊代乃、とりあえずこれから雄朝津間皇子の所に行って来るわ」
そう言って忍坂姫は、急いで雄朝津間皇子の元に向かう事にした。
伊代乃はそんな彼女を呆然と見送った。
(雄朝津間皇子がこの宮に戻って来られた時は、特に疲れているふうでもなく、割りと元気そうでしたけど)
宮の者達は、雄朝津間皇子が忍坂姫を背負って宮に戻って来た為、始めとても驚いた。
だが皇子自身は至って普通だった。そのまま忍坂姫の部屋に行き、彼女をとても慎重そうに降ろし、そして横たわせた。
そして「あとは頼む」と伊代乃達に言って、本人はそのまま自身の部屋に戻って行ったのだった。
忍坂姫は、雄朝津間皇子の部屋の前までやって来た。
(とりあえず、お礼だけでも言わないと)
「雄朝津間皇子、忍坂姫です。突然来てしまって済みません。中に入っても宜しいでしょうか」
忍坂姫は部屋の外から、彼に声をかけた。
すると中から皇子の声が聞こえてきた。
どうやら雄朝津間皇子は部屋の中にいるようだ。
「あぁ、そのまま中に入って来て構わないよ」
雄朝津間皇子からそう返事が返ってきたので、忍坂姫は部屋の中に入った。
彼女が部屋の中に入ってみると、彼は普通に部屋でくつろいでいる感じのようだった。
そして雄朝津間皇子の前まで来ると、そのままその場に座った。
「あぁ良かった。やっと目が覚めたようだね。君も今日は色々と気を張っていたんだろう。今俺が見る限りでも顔色は良さそうだし、本当に安心したよ」
そう言って彼はホッとしたような表情を彼女に見せた。
「さっき、伊代乃から聞きました。何でも私が気を失ってから、皇子がここまで運んでくれたそうで。その……有り難うございました」
忍坂姫は、そう雄朝津間皇子にお礼を言った。今回皇子にこんな事をさせてしまった事に対して、本当に申し訳ないと思う。
「まぁ、そこまで大変じゃなかったし。あと途中で日田戸祢の家から出てきた房千嘉とも鉢合わせして、彼には馬を運んで貰ったよ。千佐名との事があったので、彼が進んで手伝ってくれると言ってくれたんだ」
(そっか、房千嘉まで協力してくれていたのね。また今度彼にもお礼を言わないと)
忍坂姫は雄朝津間皇子のみならず、房千嘉にまで助けて貰っていた事を知った。彼にはその後どうなったのかも気になるので、また会って話してみたいと思った。
「はぁ、本当に何から何まで済みませんでした」
(これは何かお礼でもしないと)
「皇子、何かお願いしたい事とかあったらおっしゃって下さいね。今回の事もありますし。その、変なお願い事じゃないもので……」
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「あぁ、ありがとう。また何かあったらお願いするよ。もちろん変な事は言わないから安心して。また君に嫌われたくはないんでね」
雄朝津間皇子は少し苦笑いしながら、彼女にそう言った。
それを聞いた忍坂姫は少し安心した。また皇子に変な事を要求されたら、どうしようかと思ったからだ。
(今自分で言って思い出したわ。あの時は私不意に皇子に口付けられたんだっけ。
当時は酷く混乱していたから、その事については今まで余り考えないでいた)
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