大和の風を感じて2〜花の舞姫〜【大和3部作シリーズ第2弾】

藍原 由麗

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15P《七支刀の行方》

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  忍坂姫おしさかのひめ市辺皇子いちのへのおうじが仲良くなって以降、どういう訳かこの2人に雄朝津間皇子おあさづまのおうじが加わって3人で食事をする機会が出てくるようになった。

  そして今日も3人で夕食を食べていた。
  相変わらず市辺皇子は忍坂姫にベッタリな状態だ。

「叔父上、最近夜は宮にいる事が増えたよね」

  市辺皇子は雄朝津間皇子にそう言った。普段雄朝津間皇子は日中しか構ってくれていなかったので、市辺皇子的には不思議に思っていた。
  これまで雄朝津間皇子は度々夜は宮をあけていたからだ。

「あれ、そうだっけ?」

  雄朝津間皇子は夕食を食べながら市辺皇子に言った。彼自身もこの3人での食事にだいぶ慣れたようで、これはこれで楽しいと最近感じるようになった。

「確か、夜はどこかの娘の家に行っているんですよね?ご無沙汰されてて大丈夫なんですか」

  忍坂姫は何の感情も入れずにそう言った。

  それを聞いた雄朝津間皇子は、思わず今飲んでいた汁物をその場で「ブーッ」と吐き出した。

「わぁ、叔父上汚いなー」

  市辺皇子は呆れながらそんな雄朝津間皇子を見て言った。仮にも彼はまだ6歳になったばかりの少年である。

  雄朝津間皇子は慌てて汁物が飛んだ場所を布で拭いた。
  ただ忍坂姫が自分のそんな行動を知っていたとは思いもしなかった。一体どこからそんな情報が漏れてしまったのだろう。

「てか、どうして君がそんな事知ってるんだ?」

  それを聞いた忍坂姫は、市辺皇子の食事に先程の汁が飛んでいないかを確認しながら、彼に言った。

「先日伊代乃いよのから聞きましたよ。どうせこの宮の人達は皆知ってるんでしょう」

  忍坂姫はその事に対して特に怒ってるふうでもなく、興味無さげな感じで答えた。

(どうせ男性って皆そんなもんなんでしょう。しかもこの人は大和の皇子なのだから、妾の1人や2人いてもおかしくはない)

  そう言う忍坂姫の父親である稚野毛皇子わかぬけのおうじはその点に関してはかなり不器用だったらしく、しかも母の百師木姫ももしきのひめを必死の思いで妻にした為、夫婦になってからはそう言った事は特になかったと聞いている。

「はぁーそんな事まで、君に知られていたのか」

  雄朝津間皇子はその場でため息をついた。市辺皇子もいる中で、何とも分の悪い話しになってしまった。

  ちなみに市辺皇子は、その変に関しては余り理解出来てないようで、もくもくとご飯を食べていた。


「まぁ、何の言い訳にもならないけど、君がこの宮にいる間は控えるようにしているよ」

  仮にも婚姻を勧められている姫がいる状態で、流石にそんな事はできないと思っていた。それにこの宮に仕えている人達の目もある。

「まぁそちらに関しては、私がとやかく言う事でもないので、お任せします」

  忍坂姫的に、本音としては皇子に他の娘の所になんか通って欲しくはない。ただこの時代、そんな考えが通るはずもないと思っている。

(そう言えば、今の大王は妃1人をとても大切にされていて、他の娘には一切興味を持たないと言っていたわね。どうせならそんな人が良かったわ)

  それから何とも言えない沈黙がその場を漂った。忍坂姫と雄朝津間皇子も仕方ないので、そのままもくもくと食事を続けた。

  そして市辺皇子は食事を終えると、どうやら眠くなってきたらしく、忍坂姫の膝の上でスヤスヤと眠りだした。

(この皇子だけは、将来女性想いな人になって貰いたいものだわ……)

  忍坂姫はそんな事を思いながら、皇子の頭を撫でてやった。

  雄朝津間皇子はそんな光景をとても微笑ましく見ていた。
  彼女がこの先誰の元に嫁ぐのかは分からないが、きっと良い母親になるだろう。

  そして食事を終えた雄朝津間皇子は「あ、そうだ!」と何か閃いたらしく、忍坂姫に話しかけた。

「実は明後日に、石上神宮いそのかみじんぐうに行こうと思っている」

  石上神宮はこの宮からちょっと行った先にある神社で、そこの管轄は豪族物部がおこなっていた。
  以前、先の大王である去来穂別大王いざほわけのおおきみがまだ皇子だった頃、弟の住吉仲皇子すみのえのなかつおうじの謀反から逃れる為に行った所でもある。

「石上神宮になんの用事があるんですか?」

  忍坂姫はこの神社に行った事はないが、確かこの神社には武器の倉庫が設けられてる事だけは聞いていた。

「近々、隣の半島から色々と武器やら物資等が贈られてくるらしく、それを石上神宮に置こうと思っている」

  皇子の話しによると、石上神宮がこの宮からとても近い為、雄朝津間皇子にその対応をして欲しいと大王から話しがあったとの事だった。

「まぁ、そうなんですね」

  ただそんな話しを何故自分にするのか、忍坂姫はちょっと不思議に思った。

「君もこの宮に来て退屈しているだろうから、気分転換も兼ねて一緒に行かないかなと思ってね。多分色々と珍しい物も色々届くだろうから」

  それを聞いた忍坂姫は目を輝かせた。向こうの半島から届く物を間近で色々見れるなんて滅多にない事だ。

「え、皇子本当に良いんですか!それは是非とも行きたいです」

  そう言って忍坂姫はかなり嬉しそうにしていた。先程まで重たい空気が流れていたが、皇子のこの話しで彼女もすっかり機嫌を取り戻したようだ。

「じゃあ、そうするとしよう。君は俺の馬に一緒に乗って行ったら良いよ」

  雄朝津間皇子も、彼女が機嫌を直してくれたようでほっとした。

「はい、分かりました!では明後日を楽しみにしています」

  こうして2人は、明後日に石上神宮に向かう事になった。
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