92 / 105
92
しおりを挟む◇side:タロ
「タロくん、ありがとうございました。
そろそろあがってください」
昼ご飯を食べて戻ってきた宮司さんが、授与所に座っていた僕に声をかけた。
「あ、はい。
けど、今日は学さんが歯医者さんに行ってて帰りにこちらに寄ってくれるので、それまでここで待たせてもらってもいいですか?
前にクラフトマーケットで絵を買ってくれた歯医者さんで、神社のすぐ近くらしいので」
「それは構いませんが……こんなお昼どきに歯医者やっているんですか?」
「あ、いえ。
ほんとは午前中の予約だったんですけど、歯医者さんから電話があって、予約のミスで他の人と時間が重なってしまったので時間をずらしてもらえないかって言われて、それでお昼になったらしいです」
僕が事情を説明すると、宮司さんはちょっと難しい顔になった。
「歯医者って、もしかして北側の通りのビルの2階に入っているところですか?」
「はい、神社のちょっと北って言ってましたから、たぶんそうだと思いますけど、それがどうかしたんですか?」
「それが実はですね。
たぶんなのですが、あそこの歯医者さんも男性を好きになる方ではないかと思うのですよ。
松下さんと似たタイプの若くてがっしりした体つきのかっこいい男性と一緒に歩いているところを、何回か見かけたことがあるので、もしかしたら松下さんのこともデートにでも誘うつもりなのではないかと、少し気になってしまいまして。
今日は木曜日ですから、歯医者は午後から休診というところも多いでしょうし」
「えっ! そんなの困ります!」
宮司さんの話を聞いた僕は慌てて立ち上がった。
「すいません、お先に失礼します!」
「あ、その歯医者、神社の裏から通りに出て右にちょっと行ったところですから」
「はい、ありがとうございます!」
そうして僕は荷物を持つと仕事着の作務衣を脱ぎつつ北へと走った。
————————————————
「タロくん、ありがとうございました。
そろそろあがってください」
昼ご飯を食べて戻ってきた宮司さんが、授与所に座っていた僕に声をかけた。
「あ、はい。
けど、今日は学さんが歯医者さんに行ってて帰りにこちらに寄ってくれるので、それまでここで待たせてもらってもいいですか?
前にクラフトマーケットで絵を買ってくれた歯医者さんで、神社のすぐ近くらしいので」
「それは構いませんが……こんなお昼どきに歯医者やっているんですか?」
「あ、いえ。
ほんとは午前中の予約だったんですけど、歯医者さんから電話があって、予約のミスで他の人と時間が重なってしまったので時間をずらしてもらえないかって言われて、それでお昼になったらしいです」
僕が事情を説明すると、宮司さんはちょっと難しい顔になった。
「歯医者って、もしかして北側の通りのビルの2階に入っているところですか?」
「はい、神社のちょっと北って言ってましたから、たぶんそうだと思いますけど、それがどうかしたんですか?」
「それが実はですね。
たぶんなのですが、あそこの歯医者さんも男性を好きになる方ではないかと思うのですよ。
松下さんと似たタイプの若くてがっしりした体つきのかっこいい男性と一緒に歩いているところを、何回か見かけたことがあるので、もしかしたら松下さんのこともデートにでも誘うつもりなのではないかと、少し気になってしまいまして。
今日は木曜日ですから、歯医者は午後から休診というところも多いでしょうし」
「えっ! そんなの困ります!」
宮司さんの話を聞いた僕は慌てて立ち上がった。
「すいません、お先に失礼します!」
「あ、その歯医者、神社の裏から通りに出て右にちょっと行ったところですから」
「はい、ありがとうございます!」
そうして僕は荷物を持つと仕事着の作務衣を脱ぎつつ北へと走った。
————————————————
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

金蝶の武者
ポテ吉
歴史・時代
時は天正十八年。
関東に覇を唱えた小田原北条氏は、関白豊臣秀吉により滅亡した。
小田原征伐に参陣していない常陸国府中大掾氏は、領地没収の危機になった。
御家存続のため、選ばれたのは当主大掾清幹の従弟三村春虎である。
「おんつぁま。いくらなんでもそったらこと、むりだっぺよ」
春虎は嘆いた。
金の揚羽の前立ての武者の奮戦記 ──
夢幻の飛鳥2~うつし世の結びつき~
藍原 由麗
歴史・時代
稚沙と椋毘登の2人は、彼女の提案で歌垣に参加するため海石榴市を訪れる。
そしてその歌垣の後、2人で歩いていた時である。
椋毘登が稚沙に、彼が以前から時々見ていた不思議な夢の話をする。
その夢の中では、毎回見知らぬ一人の青年が現れ、自身に何かを訴えかけてくるとのこと。
だが椋毘登は稚沙に、このことは気にするなと言ってくる。
そして椋毘登が稚沙にそんな話をしている時である。2人の前に突然、蘇我のもう一人の実力者である境部臣摩理勢が現れた。
蘇我一族内での権力闘争や、仏教建立の行方。そして椋毘登が見た夢の真相とは?
大王に仕える女官の少女と、蘇我一族の青年のその後の物語……
「夢幻の飛鳥~いにしえの記憶」の続編になる、日本和風ファンタジー!
※また前作同様に、話をスムーズに進める為、もう少し先の年代に近い生活感や、物を使用しております。
※ 法興寺→飛鳥寺の名前に変更しました。両方とも同じ寺の名前です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部
山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。
これからどうかよろしくお願い致します!
ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。
戦国三法師伝
kya
歴史・時代
歴史物だけれども、誰にでも見てもらえるような作品にしていこうと思っています。
異世界転生物を見る気分で読んでみてください。
本能寺の変は戦国の覇王織田信長ばかりではなく織田家当主織田信忠をも戦国の世から葬り去り、織田家没落の危機を迎えるはずだったが。
信忠が子、三法師は平成日本の人間が転生した者だった…
まほろば大戦
うさはら
ファンタジー
ぼくは人の考えがわかる。
頭の中が読めるのだ。
でもそれは、ある大きな役割を全うするために与えられたものだった・・・。
聖徳太子、法隆寺。
僕たちの知る歴史は真実なのか。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる