夢幻の飛鳥~いにしえの記憶~

藍原 由麗

文字の大きさ
上 下
74 / 105

74《糠手姫皇女の婚姻》

しおりを挟む
  実家への里帰りから帰ってきてからも、稚沙ちさは相変わらず仕事に追われていた。

  そして今は仕事で使っている部屋の掃除をしている最中で、床を布でごしごしとふいていた。

  彼女が仕事をしている部屋は、わりとほこりがたまりやすい。そのため、定期的に掃除をするよういわれている。

「とりあえず、家族にも久々に会えて良かった。でもお父様達も、蘇我の人に送り迎えをお願いわことを聞いて、かなり驚いてたけど……」

  稚沙はその時のことを思い出して、思わずため息をつく。

「一応うちは平群の一族ではあるけど、日々馬の飼育に追われていて、政に何ら関わることもない平凡な家系なのよね」

  そして彼女の両親が、是非とも椋毘登くらひとにお礼がしたいとのことだったので、帰りに急遽彼に彼女の家に寄ってもらうことにしたのだ。

  そして稚沙の予想通り、椋毘登はその場で完璧なまでの好青年ぶりを見せた。

  そんな彼を見た彼女の両親は、かなりの驚きと感動を覚え、ひたすら感謝の言葉を彼に述べる。

  両親的には、一晩泊まっていって欲しいようだったが、稚沙の休みの関係もあり、そのまま泊まらずに帰ることにした。

  帰りの道中に椋毘登からも「本当に楽しい家族で良いな」といってもらえた。

  椋毘登の家族が色々と訳ありなのを聞いていたのと、ただただ自身の家族の態度に恥ずかしさを感じ、稚沙は余り素直に喜べる気がしなかった。

「とりあえず無事に帰ってこれて、本当に何よりだわ」

  彼女はそういって、再び床をごしごしとふき始めた。

  そしてもう1つ彼女が気になっているのが、椋毘登のあの発言である。

  彼は最初に、自分を妻にしたいみたいなことをいってきた。だがその後再度訪ねてみるも、肯定もしなければ否定もしなかったのだ。

(やっぱり、からかわれただけなの……)

  ただ彼の最近の行動は、少し不思議に思うこともある。先日のようにからかってくる時もあれば、妙に優しく接してくることもあるからだ。

「別に椋毘登のこと、嫌いではないんだけどな。多分根は優しいし、私にはわりと素の自分を見せてくれるっていうか……まぁ、ちょっと意地悪ではあるけど」

  だがここ最近、彼女にとって椋毘登の存在がとても大きくなってきているのは確かだった。

「せめてもう少し、彼の本心が分かれば良いんだけどなー」

  こうしてそんなことを、ぶつぶつといいながら掃除をしていると、目上の女官の女性がやってきて、彼女にいう。

「稚沙、そこの掃除が終わったら、ちょうにこの木簡もっかんを持っていってちょうだい。私は別の仕事に行くから頼むわよ!」

  その女性は稚沙にそう話すなり、その場にたくさんの木簡を置いた。

  そしてその後は何もいわずに、いそいそとその場を離れていった。

「はぁー、本当に人使いが荒い。まぁ私は下っ端の女官だから仕方ないけど」

  稚沙はある程度床の磨きを終えたのち、その木簡を持って、庁へと向かうことにした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

金蝶の武者 

ポテ吉
歴史・時代
時は天正十八年。 関東に覇を唱えた小田原北条氏は、関白豊臣秀吉により滅亡した。 小田原征伐に参陣していない常陸国府中大掾氏は、領地没収の危機になった。 御家存続のため、選ばれたのは当主大掾清幹の従弟三村春虎である。 「おんつぁま。いくらなんでもそったらこと、むりだっぺよ」 春虎は嘆いた。 金の揚羽の前立ての武者の奮戦記 ──

夢幻の飛鳥2~うつし世の結びつき~

藍原 由麗
歴史・時代
稚沙と椋毘登の2人は、彼女の提案で歌垣に参加するため海石榴市を訪れる。 そしてその歌垣の後、2人で歩いていた時である。 椋毘登が稚沙に、彼が以前から時々見ていた不思議な夢の話をする。 その夢の中では、毎回見知らぬ一人の青年が現れ、自身に何かを訴えかけてくるとのこと。 だが椋毘登は稚沙に、このことは気にするなと言ってくる。 そして椋毘登が稚沙にそんな話をしている時である。2人の前に突然、蘇我のもう一人の実力者である境部臣摩理勢が現れた。 蘇我一族内での権力闘争や、仏教建立の行方。そして椋毘登が見た夢の真相とは? 大王に仕える女官の少女と、蘇我一族の青年のその後の物語…… 「夢幻の飛鳥~いにしえの記憶」の続編になる、日本和風ファンタジー! ※また前作同様に、話をスムーズに進める為、もう少し先の年代に近い生活感や、物を使用しております。 ※ 法興寺→飛鳥寺の名前に変更しました。両方とも同じ寺の名前です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部

山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。 これからどうかよろしくお願い致します! ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。

戦国三法師伝

kya
歴史・時代
歴史物だけれども、誰にでも見てもらえるような作品にしていこうと思っています。 異世界転生物を見る気分で読んでみてください。 本能寺の変は戦国の覇王織田信長ばかりではなく織田家当主織田信忠をも戦国の世から葬り去り、織田家没落の危機を迎えるはずだったが。 信忠が子、三法師は平成日本の人間が転生した者だった…

まほろば大戦

うさはら
ファンタジー
ぼくは人の考えがわかる。 頭の中が読めるのだ。 でもそれは、ある大きな役割を全うするために与えられたものだった・・・。 聖徳太子、法隆寺。 僕たちの知る歴史は真実なのか。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

けもの

夢人
歴史・時代
この時代子供が間引きされるのは当たり前だ。捨てる場所から拾ってくるものもいる。この子らはけものとして育てられる。けものが脱皮して忍者となる。さあけものの人生が始まる。

処理中です...