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  稚沙ちさはすぐさま今の現状を、ここの家の人達に説明する。

  それを聞いた人達は、すぐさま冷やした布や、飲み物等を用意してくれた。

  また食べやすい食事もこれから作ってもらえるとのことで、出来上がったら小屋まで持ってきてくれるとのことだった。

  そこで稚沙は、布と飲み水のみ受け取り再度小屋へと戻った。そしてまずは飲み水を椋毘登くらひとに飲ませ、そして額に冷たい布を被せてやった。

  それから彼がちょっとでも楽な体勢に出きるよう、頭の下に麻をまいて置き、頭の高さをあげてやる。

  すると椋毘登も少し楽になってきたのか、息が少し穏やかになってきた。

(とりあえずあとは、体力をつけるために食事をさせないと)

  椋毘登の容態が少し落ち着きだした丁度その頃、一人の女性が食事を持ってきてくれた。

  用意してくれた食事は、どうやら水分を多めにして炊いた穀物の粥のようである。

「本当に何から何まで、ありがとうございます!」

  稚沙はそう感謝をのべてから、できたての粥を受け取り、落とさないようにじゅうぶんに気を付けながら、椋毘登の元へと向かった。

「椋毘登、ここの人達が食事を持って来てくれたの。まだ辛いかもしれないけど、食べてくれる?」

  それから彼女は、粥をすくって椋毘登の口に持っていった。

  彼もまだしんどさはあるようだが、何とか口をあけて粥を飲み込んでいく。

  稚沙もそんな彼を見てとても安堵した。

(これなら、何とか食べてくれそう……)

  こうして彼女は根気よく椋毘登に粥を食べさせていった。

  流石の椋毘登も、今回ばかりは稚沙に素直にしたがってくれてるようで、食事はなんなく済ませることができた。

  その後も稚沙は、椋毘登に付きっきりで看病にあたる。

「とりあえず食事も終わったし、あとはゆっくり眠って体を休ませたら大丈夫そう」

  彼女はそういってから、椋毘登の頭を軽く撫でてやる。
  まさか彼の看病をすることになるとは、彼女も夢にも思わなかった。

  すると椋毘登が、ふと目をあけて稚沙を見上げた。

「稚沙、今回は本当にありがとうな」

  彼はそういうと、ふと自分の頭をなでていた彼女の手を握りしめた。

「椋毘登?」

  稚沙は思わず驚くが、彼はそのまま彼女の手を自身の頬に触れさせた。

「お前の手をひどく冷えさせてしまったな。でも今はこうしていると、とても冷たくて気持ちいい……」

  彼はとても安心したような表情をして、彼女にそういった。

  稚沙も、彼のこんな表情を見るのは初めてだと思った。

「それになんだろう。何だかとても気持ちが落ち着く感じがするよ」

稚沙もそれを聞いて、彼と同様に何ともいえない、不思議な感覚がした。

(確かに椋毘登にこうやって寄り添っていると、何だかとても安心した気持ちになる)

  それから彼は、稚沙の手を自分から離し、ふと何かを思い出したかのようにして、急に話を始めた。

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