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56《裴世清の言葉と、その後の饗応》

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  その後数日間、小墾田宮おはりだのみやにて体の疲れを癒したのち、いよいよ炊屋姫かしきやひめとの対面を迎えることとなった。

  客人らは小墾田宮の朝庭へと案内される。
そして朝庭では、炊屋姫が彼らの到着を待っていた。

  裴世清はいせいせいは炊屋姫の前に出ると、隋から預かってきた信物を庭上に置いた。

  そして彼は国書を捧げ持ち、両度再拝する。
そして趣旨をその場で言上して、起立した。
※両度再拝:二拝を重ねて行なう



「皇帝から倭国の王に御挨拶申し上げる。

  この度使人の蘇因高そいんこうらが、隋にお越しになり、あなたの気持を聞かせていただいた。

  自身は天の命をつつしみ受けて、この国を治め、そしてその徳をもって広めて生きたいと願っている。

  そして人々をいつくしみ、国が平和で人々との思いを通わせていた。

  そんな中、誠意をつくしてわざわざはるばると朝貢してきたことを知って、その美しい真心を、私はとてもうれしく思う。

  それゆえ、鴻臚寺こうろじ掌客しょうきゃくである裴世清らを遣わして自分の気持を伝えるとともに、信物をお送りする」

※鴻臚寺:隋に置かれた役所(外国使節の接待、朝貢など)
※掌客:外国使臣の接待を担当する役人


  その後裴世清の読み上げた国書は大門の前に置かれた。

  そして大伴咋おおとものくいと呼ばれる者が大王の炊屋姫に奏上する。


  それを聞いた炊屋姫も、裴世清を通し隋の皇帝の言葉をしっかりと受けとめる。

  またその場には厩戸皇子も同席しており、この度の遣隋使の派遣は、彼の思惑でおこなわれたものであった。

  そして厩戸皇子もまた、裴世清の発する言葉を1つ1つを深く受け止めていた。

(どうやら今回の隋への派遣は、無事に成功したようだ。
  他国との関係を築き上げる上で、例え相手がどんな大国であったにせよ、あくまでも倭国は対等な関係を続けなければならない)

  厩戸皇子は、今後の倭国と他国の関係が、平和でより良きものになるよう、心のうちで祈りを捧げていた。


  そしてその後、この度の客人たちを歓迎するため、朝廷で饗応が開かれることとなった。
※饗応:客人を招いての接待

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