夢幻の飛鳥~いにしえの記憶~

藍原 由麗

文字の大きさ
上 下
33 / 105

33

しおりを挟む
  一方の稚沙ちさは、山積みになっていた仕訳の仕事を、厩戸皇子うまやどのみこに会いたい一心で何とか終わらせる目処が立ってきた所だった。

「良かった、これなら大丈夫そう。それにそろそろ休憩の時間だし、厩戸皇子を探しに行こう!」

  こうして彼女は厩戸皇子を探すために、嬉しそうにしながら部屋の外へと出ていった。


「うーん、厩戸皇子がいない……」

  その後彼女は、宮内をあちこち歩き回って厩戸皇子を必死に探すも、中々彼を見つけられないでいる。

(うーん、もう小墾田宮おはりだのみやには既に来られてるはずなんだけど)

  稚沙がどうしたものかと、思い悩んでいる時だった。
  何やら、うまやの方から騒がしい声がきこえてくる。

「あれ、馬が暴れてるみたい。どうしたんだろ?」

  稚沙はどうも厩の方が気になったため、一度そちらの様子を見に行ってみることにした。


  そして彼女が厩の側に行ってみると、厩の外で1頭の馬が暴れていた。
  そして手綱を持った男性が、その馬を何とか必死で押さえようとしているのが見える。

  だが馬がかなり興奮気味のためか、中々思うようにいっていないようだ。

(わぁ、これは大変!早くあの馬を落ち着かせないと!!)

  稚沙はすぐさまその馬と手綱を持っている人の元に向かった。

  そして相手の顔を見るなり、彼女は思わず驚く。その手綱を持っていた男性は、何と彼女が今日出会った、あの蘇我蝦夷だった。

「え、蝦夷殿、大丈夫ですか!」

  蝦夷も急に声をかけられて、思わず彼女に振り向いた。

「君は確か今日見かけた……
とりあえず、この馬がひどい暴れようだ。君は危ないから、こっちに来るんじゃない!」

  だがそうはいっても、このままだと蝦夷自身も危ない。それほどまでにこの馬は酷く興奮している。

「蝦夷殿、私は平群の額田部の生まれの者です。なので馬の扱いには慣れてます!」

  彼女はそういいながら、彼の側までやってくると、一呼吸してから馬に声をかけだした。

「ほら、ほら、良い子だから。落ち着いてちょうだい……」

  稚沙はゆっくりとした口調で、その馬に声をかける。

  そして彼女が何度か繰り返し話していると、馬の方もだんだんと落ち着きを取り戻しだした。

  その様子を見た彼女は、今度は馬の首や背中を軽くたたいてやった。

「そうそう、ちょっと怖い思いでもしたのかな?本当にごめんね……」

  そして尚も彼女は馬に声をかけ続けた。

  すると馬の方もすっかり冷静さを取り戻したようで、思わず彼女の顔をペロペロと舐め出す。

  どうやら稚沙に対してひどく安心したようだ。

「やだ、くすぐったい!あなた意外と甘えん坊さんなのねー」

  だが稚沙は、特に嫌がる素振りをみせず、笑いながら馬にそのまま舐められていた。

  そんな光景を、蝦夷はただただ呆然として見ていた。

(まさかこんな簡単に、馬を落ち着かせるとは……)

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

金蝶の武者 

ポテ吉
歴史・時代
時は天正十八年。 関東に覇を唱えた小田原北条氏は、関白豊臣秀吉により滅亡した。 小田原征伐に参陣していない常陸国府中大掾氏は、領地没収の危機になった。 御家存続のため、選ばれたのは当主大掾清幹の従弟三村春虎である。 「おんつぁま。いくらなんでもそったらこと、むりだっぺよ」 春虎は嘆いた。 金の揚羽の前立ての武者の奮戦記 ──

夢幻の飛鳥2~うつし世の結びつき~

藍原 由麗
歴史・時代
稚沙と椋毘登の2人は、彼女の提案で歌垣に参加するため海石榴市を訪れる。 そしてその歌垣の後、2人で歩いていた時である。 椋毘登が稚沙に、彼が以前から時々見ていた不思議な夢の話をする。 その夢の中では、毎回見知らぬ一人の青年が現れ、自身に何かを訴えかけてくるとのこと。 だが椋毘登は稚沙に、このことは気にするなと言ってくる。 そして椋毘登が稚沙にそんな話をしている時である。2人の前に突然、蘇我のもう一人の実力者である境部臣摩理勢が現れた。 蘇我一族内での権力闘争や、仏教建立の行方。そして椋毘登が見た夢の真相とは? 大王に仕える女官の少女と、蘇我一族の青年のその後の物語…… 「夢幻の飛鳥~いにしえの記憶」の続編になる、日本和風ファンタジー! ※また前作同様に、話をスムーズに進める為、もう少し先の年代に近い生活感や、物を使用しております。 ※ 法興寺→飛鳥寺の名前に変更しました。両方とも同じ寺の名前です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部

山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。 これからどうかよろしくお願い致します! ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。

戦国三法師伝

kya
歴史・時代
歴史物だけれども、誰にでも見てもらえるような作品にしていこうと思っています。 異世界転生物を見る気分で読んでみてください。 本能寺の変は戦国の覇王織田信長ばかりではなく織田家当主織田信忠をも戦国の世から葬り去り、織田家没落の危機を迎えるはずだったが。 信忠が子、三法師は平成日本の人間が転生した者だった…

まほろば大戦

うさはら
ファンタジー
ぼくは人の考えがわかる。 頭の中が読めるのだ。 でもそれは、ある大きな役割を全うするために与えられたものだった・・・。 聖徳太子、法隆寺。 僕たちの知る歴史は真実なのか。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

けもの

夢人
歴史・時代
この時代子供が間引きされるのは当たり前だ。捨てる場所から拾ってくるものもいる。この子らはけものとして育てられる。けものが脱皮して忍者となる。さあけものの人生が始まる。

処理中です...