50 / 55
50
しおりを挟む
それから男の子の手を繋いで、2人でしばらくあたりを探してみることにした。
椋毘登には悪いが、流石にこの男の子をこのまま放っておくことはできない。
「この男の子のお父さん、いませんか?」
稚沙は歩きながら、男の子の父親を呼んだり、宮の人に色々と聞いてまわったりもした。
男の子の方も稚沙にならって「おっとう~」と自身の父親を呼んでみたりもした。
(もしこのまま父親が見つからなければ、この子は捨て子にされてしまう...)
女官の稚沙には、こうやって子供の父親を一緒に探してあげることしかできない。なので何とかして父親を見つけなければ。
だが男の子もだんだんと弱気になりはじめてしまい、目元に少し涙を見せるようになってきた。
「おっと~...」
「だ、大丈夫。お姉ちゃんがちゃんときみのお父さんを見つけてあげるから!」
稚沙は男の子を必死ではげましながら、宮の中をひたすら歩いてまわる。
(どうしよう、ここは一旦椋毘登と合流して、彼にも協力してもらうしかないかな)
だがそうなれば、恐らく今日の蛍を見に行く予定は駄目になってしまうだろう。
だがそれも今回は致し方ない。それにきっと彼なら、今回の件は分かってくれるはずである。
稚沙の脳裏にそんなことが過ったちょうどその時である。背後から彼女達に、誰かが声をかけてきた。
「あの、すみません」
二人が思わずふり返えると、そこには見た目からして、およそ15、6歳ぐらい青年が立っていた。
また身なりもそれなりに整っているので、そこそこ身分のありそうな人物である。
(あら、見たことない男の子ね)
「僕は中臣御食子っていいます。実は向この方で何やら子供を探している男性を見かけまして...」
「その男性って、こう大柄な男性ですか?」
稚沙は思わず手と体をどうじに動かして、男の子の父親の容姿を懸命に説明しようとする。
「はい、そうです」
(良かった、その男性がきっとこの子のお父さんだわ!)
「ありがとうございます!私もこの男の子のお父さんをちょうど探していたんです」
「やはり、そうでしたか。恐らくそうじゃないかと思ったんですよ」
相手の青年はそれを聞いて、思わず笑みを浮かべる。彼は稚沙が思うに言葉づかいも丁寧そうで、わりと好感を持てる人物に思えた。
(椋毘登も、普段からこれぐらい愛想が良ければ...って今はそんなことを考えてる場合じゃない!)
「じゃあ私達は、急いでその人のところに行ってることにします」
「ぜひそうしてあげて下さい。その男の子もずっと不安がってたでしょうし」
「本当に助かりました。あ、私はここの女官の者で、名前は稚沙といいます。生まれは額田部の者です」
「そうですか、それならまたお会いする機会もあるかもしれませんね」
「本当ですね。では、私達はこれで失礼します!」
稚沙はそういうと、軽くお辞儀をし、そして男の子を引き連れて、急いでその場を離れていってしまった。
相手の青年はそんな稚沙達をただただぼーぜんと眺めていた。
「ふーん、あの女の子稚沙っていうんだ...」
椋毘登には悪いが、流石にこの男の子をこのまま放っておくことはできない。
「この男の子のお父さん、いませんか?」
稚沙は歩きながら、男の子の父親を呼んだり、宮の人に色々と聞いてまわったりもした。
男の子の方も稚沙にならって「おっとう~」と自身の父親を呼んでみたりもした。
(もしこのまま父親が見つからなければ、この子は捨て子にされてしまう...)
女官の稚沙には、こうやって子供の父親を一緒に探してあげることしかできない。なので何とかして父親を見つけなければ。
だが男の子もだんだんと弱気になりはじめてしまい、目元に少し涙を見せるようになってきた。
「おっと~...」
「だ、大丈夫。お姉ちゃんがちゃんときみのお父さんを見つけてあげるから!」
稚沙は男の子を必死ではげましながら、宮の中をひたすら歩いてまわる。
(どうしよう、ここは一旦椋毘登と合流して、彼にも協力してもらうしかないかな)
だがそうなれば、恐らく今日の蛍を見に行く予定は駄目になってしまうだろう。
だがそれも今回は致し方ない。それにきっと彼なら、今回の件は分かってくれるはずである。
稚沙の脳裏にそんなことが過ったちょうどその時である。背後から彼女達に、誰かが声をかけてきた。
「あの、すみません」
二人が思わずふり返えると、そこには見た目からして、およそ15、6歳ぐらい青年が立っていた。
また身なりもそれなりに整っているので、そこそこ身分のありそうな人物である。
(あら、見たことない男の子ね)
「僕は中臣御食子っていいます。実は向この方で何やら子供を探している男性を見かけまして...」
「その男性って、こう大柄な男性ですか?」
稚沙は思わず手と体をどうじに動かして、男の子の父親の容姿を懸命に説明しようとする。
「はい、そうです」
(良かった、その男性がきっとこの子のお父さんだわ!)
「ありがとうございます!私もこの男の子のお父さんをちょうど探していたんです」
「やはり、そうでしたか。恐らくそうじゃないかと思ったんですよ」
相手の青年はそれを聞いて、思わず笑みを浮かべる。彼は稚沙が思うに言葉づかいも丁寧そうで、わりと好感を持てる人物に思えた。
(椋毘登も、普段からこれぐらい愛想が良ければ...って今はそんなことを考えてる場合じゃない!)
「じゃあ私達は、急いでその人のところに行ってることにします」
「ぜひそうしてあげて下さい。その男の子もずっと不安がってたでしょうし」
「本当に助かりました。あ、私はここの女官の者で、名前は稚沙といいます。生まれは額田部の者です」
「そうですか、それならまたお会いする機会もあるかもしれませんね」
「本当ですね。では、私達はこれで失礼します!」
稚沙はそういうと、軽くお辞儀をし、そして男の子を引き連れて、急いでその場を離れていってしまった。
相手の青年はそんな稚沙達をただただぼーぜんと眺めていた。
「ふーん、あの女の子稚沙っていうんだ...」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
夢幻の飛鳥~いにしえの記憶~
藍原 由麗
歴史・時代
時は600年代の飛鳥時代。
稚沙は女性皇族で初の大王となる炊屋姫の元に、女官として仕えていた。
彼女は豪族平群氏の額田部筋の生まれの娘である。
そんなある日、炊屋姫が誓願を発することになり、ここ小墾田宮には沢山の人達が集っていた。
その際に稚沙は、蘇我馬子の甥にあたる蘇我椋毘登と出会う。
だが自身が、蘇我馬子と椋毘登の会話を盗み聞きしてしまったことにより、椋毘登に刀を突きつけられてしまい……
その後厩戸皇子の助けで、何とか誤解は解けたものの、互いの印象は余り良くはなかった。
そんな中、小墾田宮では炊屋姫の倉庫が荒らさせる事件が起きてしまう。
そしてその事件後、稚沙は椋毘登の意外な姿を知る事に……
大和王権と蘇我氏の権力が入り交じるなか、仏教伝来を機に、この国は飛鳥という新しい時代を迎えた。
稚沙はそんな時代を、懸命に駆け巡っていくこととなる。
それは古と夢幻の世界。
7世紀の飛鳥の都を舞台にした、日本和風ファンタジー!
※ 推古朝時に存在したか不透明な物や事柄もありますが、話しをスムーズに進める為に使用しております。
また生活感的には、聖徳太子の時代というよりは、天智天皇・天武天皇以降の方が近いです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
おぼろ月
春想亭 桜木春緒
歴史・時代
「いずれ誰かに、身体をそうされるなら、初めては、貴方が良い。…教えて。男の人のすることを」貧しい武家に生まれた月子は、志を持って働く父と、病の母と弟妹の暮らしのために、身体を売る決意をした。
日照雨の主人公 逸の姉 月子の物語。
(ムーンライトノベルズ投稿版 https://novel18.syosetu.com/n3625s/)
まほろば大戦
うさはら
ファンタジー
ぼくは人の考えがわかる。
頭の中が読めるのだ。
でもそれは、ある大きな役割を全うするために与えられたものだった・・・。
聖徳太子、法隆寺。
僕たちの知る歴史は真実なのか。
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます!
平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。
『事実は小説よりも奇なり』
この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに……
歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。
過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い
【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形
【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人
【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある
【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる