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 今回は稚沙が歩けないこともあって、椋毘登は彼女の部屋の中まで送りとどけることにした。

 そして彼は辺りを見渡し、誰もいないことを確認すると、部屋の中に入り彼女を床におろした。

「椋毘登、今日は色々と有り難うね」

 稚沙は少し申し訳無さそうにしながら、椋毘登にお礼を伝えた。

「まぁ、お前の場合、いつものことだしな」

「本当に椋毘登ったら……でも今日は助けてもらえて本当に嬉しかったわ」

 だが稚沙はそれでも、椋毘登に対してとても感謝していた。

「椋毘登にはいつも本当に守られてるわね私は」

 彼女はそういうと「えへへ」といった表情をする。

 椋毘登はそんな彼女の表情を見て、ふと今日見た夢のことを思い出す。

(あの青年も、自身の妃を俺に助けて欲しいとかいっていたけど、本当にあれはどういうことなんだ)

 仮に彼の妃が本当にこの時代に生まれ変わってきているとしても、それがどこの誰で、何の助けを自分に求めてるのか、彼には全く検討がつかない。

 また同じ夢を見る機会でもあるなら、その時に再度確認も出来るのかもしれないが。

 稚沙は椋毘登が急に黙り込んでしまったので、ふと不思議に思って声を掛ける。

「椋毘登、どうかした?」

 そんな稚沙を見て、椋毘登は例の夢の件を話すべきか一瞬考える。だが余程のことがない限り、彼女に余計な心配をかけたくない。

 それにこの件に関してはまだ不透明なことが多すぎる。そんな中で迂闊に話すのは控えるべきなのでは?と彼は考えた。

「いや、何でもない。ちょっと拍子が抜けただけだよ」

「本当に大丈夫?私を背負ってたらきっと椋毘登も疲れたのね」

 稚沙はちょっと心配そうにして、椋毘登を見つめた。

(やっぱり駄目だ。稚沙を変なことに巻き込みたくない。あの皇子が妃を守りたいと思ってるように、俺だって守りたい子がいるんだ)

 それからふと椋毘登は立ち上がる。

「じゃあ、俺は行くよ。お前もちゃんと足を治せよ」

「うん、今日一緒に薬狩りにいった宮の人達が、小墾田宮には報告してくれるそうだし、とりあえず私は足を治すのに専念する」

「あぁ、それが良いさ。じゃあな」

 椋毘登はそういって、稚沙の家を後にすることにした。

 彼は小墾田宮に預けている馬を取りに行くため、宮へと向かって歩き出した。

 今日は稚沙の足の怪我でだいぶ帰りが遅れそうだが、何とか日が暮れるまでには、蘇我の自宅に戻れそうである。

「はぁ、今日はとんだ災難だったな~」

 椋毘登は歩きながら、これから何か良くないことが起こらないことを願うばかりだった。

「確かあの人は、自分のことを雄朝津間皇子とかいっていたな。本当に何なんだろう」

 こうして椋毘登は小墾田宮へと向かっていった。
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