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「本当に、凄く立派な仏像ね。何とかならないのかしら?」

 稚沙ちさが困り果てたようにして、そう話していると、突然彼女の横に見知らぬ男性がやってきた。そして彼も稚沙と同様に、その仏像をふと見つめる。

「ふーん、これは何とも立派な仏像が出来たものだ」

 その人物はとなりにいる稚沙に構うことなく、独り言のようにしていった。

「はい、私もそう思います。でもこんなに大きな仏像では、金堂に入れるの難しそうですね」

「いやいや、そうとも限らないぞ。入れ方なんぞ、やり方次第で何とでもなるものさ」

 その人物は少し愉快そうにして、稚沙にそう話す。まるで自分ならこんな仏像でも難なく入れられるといっているように。


 すると厩戸皇子うまやどのみこがどうやら稚沙達に気が付いたようで、彼らの元にやってくる。

「あぁ、誰かと思ったら、止利とりじゃないか」

 彼は厩戸皇子に名前を呼ばれた途端、頭を下げて皇子に挨拶をする。

「これは厩戸皇子、どうもご無沙汰しております。またえらく大きな仏像でございますな」

「本当にそのようだ。この仏像の持ち主もほとほとに困りきっていて、私に何とかならないかと泣きつかれてしまったよ」

 厩戸皇子は少し苦笑いしながらそう答える。確かに誰もが厩戸皇子なら何とかしてくれそうだと、ついつい思いたくなってしまう。

(あれ、今厩戸皇子はこの人のことを止利って呼んでいたわね?)

 稚沙は皇子から聞いたその名前を、ふと思い返してみる。確かこの名前は彼女もどこかで聞いたことがあるはずだと。

(稚沙、思い出すのよ、この人の名前を!)

「ぶ、仏像……ひょっとして、あなた様は鞍作止利くらつくりのとり殿では?」

「おぉ、君は私の名前を知っているのだな。これは嬉しい限りだ」

 鞍作止利とは、炊屋姫かしきやひめが一丈六尺の金銅仏と繡仏の制作を始めることを命じた際に、造仏の工に命じられた人物である。

(そうだ、以前に炊屋姫様が小墾田宮おはりだのみやで誓願を発した際に、直々に造仏の工を彼に指名したんだった)

「そうとは知らずに本当にすみません。私は稚沙といいます。小墾田宮に女官として仕えていて、今日は偶々厩戸皇子に付き添って来てまして……」

「ほぉ、そうでしたか。あなたがいたく仏像を見ていたようだから、とてもご興味がおありかと」

「い、いえ、私は何となく見ていただけです。それよりもこの仏像はやり方次第で、金堂に入れられるというのは本当ですか?」

「はい、本当です。皆は見た目の大きさだけを見て判断しているようだが、そこは問題ないかと」

「そういえば、飛鳥寺でも同じようなことがあったが、その時も止利が上手く対処したのだったな」

「はい、さようで。今ここでという訳にはいきませんが、この仏像は後日、私が上手く金堂の中に入れることにしましょう」

 稚沙と厩戸皇子はそれを聞いて互いの顔を思わず見合わせる。皆が無理といっていたこの銅像でも、鞍作止利ならきっと戸を壊すことなく無事に入られるのだろう。

(彼がどうやって、この銅像を入れるのかは正直全く分からないけど、これで本当に何とかなるのかも)

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