20 / 60
20
しおりを挟む
「でもまさかここで厩戸皇子にお会い出来るとは思ってもみませんでした。今日はどうしてここに?」
厩戸皇子が飛鳥寺にきているということは、何か仏教の調べごとでもあったのだろうか。彼は皇子で摂政を務めているのだが、それ以前にかなりの勤勉者でもあった。
「今日は、恵慈に用事があって寄ってみたのだけど。生憎彼は外に出払っているようで、いないみたいだね」
「まあ、それは残念ですね」
恵慈は飛鳥寺を住居として生活しながら、厩戸皇子と一緒になって、仏教の教えをこの国に広めようと、日々邁進している。
また厩戸皇子自身も、日頃の学びの成果として、炊屋姫の前で勝鬘経や法華経を講じたのだが、それを大王もたいそう喜ばれたようである。
(厩戸皇子は本当に何でもお出来になる方。その能力と才能を、私もほんの一握りでも良いから欲しいぐらい)
彼女がそんなことに思いを巡らせながら、ふと皇子の持っている麻布の包み物に目をやる。何となくこの包み物が、今もごもごと動いたような感じがした。
(うん?一体何だろう)
「厩戸皇子、手に持っている包み物が、何だかすこし動いているような気が……」
稚沙はとても不思議に感じて、思わずその包み物を凝視して見つめる。彼女がいうように、確かにそれは少しもごもごと動いていた。これは何かの生き物だろうか。
「ああ、この子のことか」
厩戸皇子は稚沙にそう話すと、ふと包み物の中に手を入れ、中にいる物体を外に出して彼女に見せてくれた。それはどうやら一匹の白い子犬ようだ。
「きゃ~!子犬だわ!か、可愛い!!」
「私が今回飼うことになった犬で、名前を雪丸っていうんだ」
厩戸皇子からそう説明された雪丸は、今はどうやら少し眠そうである。そして目が半分閉じかかったまま、大きく欠伸をしてみせる。またこの名前からして、恐らく雄の犬なのだろう。
稚沙は思わずそんな雪丸に歩み寄ると、じーと見つめたのち、少し体を突っ突いてみる。すると犬の方に反応があり、体を少しもぞもぞと動かしてくる。
(白い子犬なんて初めてみた。本当になんて可愛いんだろう)
そんな様子の稚沙を見て、厩戸皇子は「ちょっと抱いてみるかい」といって、彼女に子犬を渡してくれた。
彼女は浮き立つ思いのなか、雪丸を落とさないよう、慎重にしながらそっと腕に抱き寄せてみる。
すると雪丸は「くぅーん、くぅーん」と弱い声で鳴くものの、とくに暴れたりすることもなく、大人しく稚沙の腕の中で抱かれていた。
「この子、まだ生まれて数か月ぐらいですよね。それにとっても暖かい」
稚沙は、そんな厩戸皇子の雪丸にすっかり夢中になってしまった。
「今日は、元々雪丸の引き取りの約束をしていたんだ。それでその合間に恵慈の元にも行こうとしたんだけど、あいにく彼はいなくてね」
厩戸皇子が飛鳥寺にきているということは、何か仏教の調べごとでもあったのだろうか。彼は皇子で摂政を務めているのだが、それ以前にかなりの勤勉者でもあった。
「今日は、恵慈に用事があって寄ってみたのだけど。生憎彼は外に出払っているようで、いないみたいだね」
「まあ、それは残念ですね」
恵慈は飛鳥寺を住居として生活しながら、厩戸皇子と一緒になって、仏教の教えをこの国に広めようと、日々邁進している。
また厩戸皇子自身も、日頃の学びの成果として、炊屋姫の前で勝鬘経や法華経を講じたのだが、それを大王もたいそう喜ばれたようである。
(厩戸皇子は本当に何でもお出来になる方。その能力と才能を、私もほんの一握りでも良いから欲しいぐらい)
彼女がそんなことに思いを巡らせながら、ふと皇子の持っている麻布の包み物に目をやる。何となくこの包み物が、今もごもごと動いたような感じがした。
(うん?一体何だろう)
「厩戸皇子、手に持っている包み物が、何だかすこし動いているような気が……」
稚沙はとても不思議に感じて、思わずその包み物を凝視して見つめる。彼女がいうように、確かにそれは少しもごもごと動いていた。これは何かの生き物だろうか。
「ああ、この子のことか」
厩戸皇子は稚沙にそう話すと、ふと包み物の中に手を入れ、中にいる物体を外に出して彼女に見せてくれた。それはどうやら一匹の白い子犬ようだ。
「きゃ~!子犬だわ!か、可愛い!!」
「私が今回飼うことになった犬で、名前を雪丸っていうんだ」
厩戸皇子からそう説明された雪丸は、今はどうやら少し眠そうである。そして目が半分閉じかかったまま、大きく欠伸をしてみせる。またこの名前からして、恐らく雄の犬なのだろう。
稚沙は思わずそんな雪丸に歩み寄ると、じーと見つめたのち、少し体を突っ突いてみる。すると犬の方に反応があり、体を少しもぞもぞと動かしてくる。
(白い子犬なんて初めてみた。本当になんて可愛いんだろう)
そんな様子の稚沙を見て、厩戸皇子は「ちょっと抱いてみるかい」といって、彼女に子犬を渡してくれた。
彼女は浮き立つ思いのなか、雪丸を落とさないよう、慎重にしながらそっと腕に抱き寄せてみる。
すると雪丸は「くぅーん、くぅーん」と弱い声で鳴くものの、とくに暴れたりすることもなく、大人しく稚沙の腕の中で抱かれていた。
「この子、まだ生まれて数か月ぐらいですよね。それにとっても暖かい」
稚沙は、そんな厩戸皇子の雪丸にすっかり夢中になってしまった。
「今日は、元々雪丸の引き取りの約束をしていたんだ。それでその合間に恵慈の元にも行こうとしたんだけど、あいにく彼はいなくてね」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
夢幻の飛鳥~いにしえの記憶~
藍原 由麗
歴史・時代
時は600年代の飛鳥時代。
稚沙は女性皇族で初の大王となる炊屋姫の元に、女官として仕えていた。
彼女は豪族平群氏の額田部筋の生まれの娘である。
そんなある日、炊屋姫が誓願を発することになり、ここ小墾田宮には沢山の人達が集っていた。
その際に稚沙は、蘇我馬子の甥にあたる蘇我椋毘登と出会う。
だが自身が、蘇我馬子と椋毘登の会話を盗み聞きしてしまったことにより、椋毘登に刀を突きつけられてしまい……
その後厩戸皇子の助けで、何とか誤解は解けたものの、互いの印象は余り良くはなかった。
そんな中、小墾田宮では炊屋姫の倉庫が荒らさせる事件が起きてしまう。
そしてその事件後、稚沙は椋毘登の意外な姿を知る事に……
大和王権と蘇我氏の権力が入り交じるなか、仏教伝来を機に、この国は飛鳥という新しい時代を迎えた。
稚沙はそんな時代を、懸命に駆け巡っていくこととなる。
それは古と夢幻の世界。
7世紀の飛鳥の都を舞台にした、日本和風ファンタジー!
※ 推古朝時に存在したか不透明な物や事柄もありますが、話しをスムーズに進める為に使用しております。
また生活感的には、聖徳太子の時代というよりは、天智天皇・天武天皇以降の方が近いです。

大和の風を感じて3~泡沫の恋衣~【大和3部作シリーズ第3弾】
藍原 由麗
歴史・時代
豪族葛城の韓媛(からひめ)には1人の幼馴染みの青年がいた。名は大泊瀬皇子(おおはつせのおうじ)と言い、彼は大和の皇子である。
そして大泊瀬皇子が12歳、韓媛が10歳の時だった。
大泊瀬皇子が冗談のようにして、将来自分の妃にしたいと彼女に言ってくる。
しかしまだ恋に疎かった彼女は、その話しをあっさり断ってしまう。
そしてそれ以降、どういう訳か2人が会う事は無くなってしまった。
一方大和では、瑞歯別大王(みずはわけのおおきみ)が即位6年目にして急に崩御してしまう。
その為、弟の雄朝津間皇子(おあさづまのおうじ)が家臣や彼の妃である忍坂姫(おしさかのひめ)の必死の説得を受けて、次の新たな大王として即位する事となった。
雄朝津間皇子が新たな大王となってから、さらに21年の年月が流れていった。
大王となった雄朝津間大王(おあさづまのおおきみ)の第1皇子である木梨軽皇子(きなしのかるのおうじ)が、同母の妹の軽大娘皇女(かるのおおいらつめ)と道ならぬ恋に落ちてしまい、これが大和内で大問題となっていた。
そんな問題が起こっている中、大泊瀬皇子が 4年ぶりに韓媛のいる葛城の元に訪ねてくる。
また韓媛は、父である葛城円(かつらぎのつぶら)から娘が14歳になった事もあり、護身用も兼ねて1本の短剣を渡された。父親からこの剣は【災いごとを断ち切る剣】という言い伝えがある事を聞かされる。
そしてこの剣を譲り受けて以降から、大和内では様々な問題や災難が起こり始める。
韓媛はこの【災いごとを断ち切る剣】を手にして、その様々な災いごとに立ち向かっていく事となった。
~それは儚くも美しい、泡沫の恋をまとって~
前作『大和の風を感じて2~花の舞姫~』から27年後を舞台にした、日本古代ファンタジーの、大和3部作第3弾。
《この小説では、テーマにそった物があります。》
★運命に導く勾玉の首飾り★
大和の風を感じて~運命に導かれた少女~
【大和3部作シリーズ第1弾】
★見えないものを映す鏡★
大和の風を感じて2〜花の舞姫〜
【大和3部作シリーズ第2弾】
★災いごとを断ち切る剣★
大和の風を感じて3〜泡沫の恋衣〜
【大和3部作シリーズ第3弾】
※小説を書く上で、歴史とは少し異なる箇所が出てくると思います。何とぞご理解下さい。(>_<")
☆ご連絡とお詫び☆
2021年10月19日現在
今まで大王や皇子の妻を后と表記してましたが、これを后と妃に別けようと思います。
◎后→大王の正室でかつ皇女(一部の例外を除いて)
◎妃→第2位の妻もしくは、皇女以外の妻(豪族出身)
※小説内の会話は原則、妃にしたいと思います。
これから少しずつ訂正していきます。
ご迷惑をお掛けして、申し訳ありません。m(_ _)m

大和の風を感じて2〜花の舞姫〜【大和3部作シリーズ第2弾】
藍原 由麗
歴史・時代
息長(おきなが)筋の皇女の忍坂姫(おしさかのひめ)は今年15歳になった。
だがまだ嫁ぎ先が決まっていないのを懸念していた父の稚野毛皇子(わかぬけのおうじ)は、彼女の夫を雄朝津間皇子(おあさづまのおうじ)にと考える。
また大和では去来穂別大王(いざほわけのおおきみ)が病で崩御し、弟の瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)が新たに大王として即位する事になった。
忍坂姫と雄朝津間皇子の婚姻の話しは、稚野毛皇子と瑞歯別大王との間で進められていたが、その事を知った雄朝津間皇子はこの婚姻に反対する。
そんな事になっているとは知らずに、忍坂姫は大王の指示で、雄朝津間皇子に会いに行く事になった。
忍坂姫一行が皇子の元へと向かっている最中、彼女達は盗賊に襲われてしまう。
それを助けたのが、1人の見知らぬ青年だった。
そして宮にて対面した雄朝津間皇子は、何と彼女を盗賊から救ってくれたあの青年だった。
母親から譲り受けた【見えないものを映す鏡】とは?
この不思議な鏡の導きによって、彼女はどんな真実を知ることになるのだろうか。
前作『大和の風を感じて~運命に導かれた少女~』の続編にあたる日本古代ファンタジーの、大和3部作シリーズ第2弾。
《この小説では、テーマにそった物があります。》
★運命に導く勾玉の首飾り★
大和の風を感じて~運命に導かれた少女~
【大和3部作シリーズ第1弾】
★見えないものを映す鏡★
大和の風を感じて2〜花の舞姫〜
【大和3部作シリーズ第2弾】
★災いごとを断ち切る剣★
大和の風を感じて3〜泡沫の恋衣〜
【大和3部作シリーズ第3弾】
☆また表紙のイラストは小説の最後のページにも置いてます。
☆ご連絡とお詫び☆
2021年10月19日現在
今まで大王や皇子の妻を后と表記してましたが、これを后と妃に別けようと思います。
◎后→大王の正室でかつ皇女(一部の例外を除いて)
◎妃→第2位の妻もしくは、皇女以外の妻(豪族出身)
※小説内の会話は原則、妃にたいと思います。
これから少しずつ訂正していきます。
ご迷惑をお掛けして、申し訳ありません。m(_ _)m
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
西涼女侠伝
水城洋臣
歴史・時代
無敵の剣術を会得した男装の女剣士。立ち塞がるは三国志に名を刻む猛将馬超
舞台は三國志のハイライトとも言える時代、建安年間。曹操に敗れ関中を追われた馬超率いる反乱軍が涼州を襲う。正史に残る涼州動乱を、官位無き在野の侠客たちの視点で描く武侠譚。
役人の娘でありながら剣の道を選んだ男装の麗人・趙英。
家族の仇を追っている騎馬民族の少年・呼狐澹。
ふらりと現れた目的の分からぬ胡散臭い道士・緑風子。
荒野で出会った在野の流れ者たちの視点から描く、錦馬超の実態とは……。
主に正史を参考としていますが、随所で意図的に演義要素も残しており、また武侠小説としてのテイストも強く、一見重そうに見えて雰囲気は割とライトです。
三國志好きな人ならニヤニヤ出来る要素は散らしてますが、世界観説明のノリで注釈も多めなので、知らなくても楽しめるかと思います(多分)
涼州動乱と言えば馬超と王異ですが、ゲームやサブカル系でこの2人が好きな人はご注意。何せ基本正史ベースだもんで、2人とも現代人の感覚としちゃアレでして……。
大和の風を感じて~運命に導かれた少女~【大和3部作シリーズ第1弾】
藍原 由麗
歴史・時代
吉備国海部の娘、佐由良。
ある時彼女は祖父にあたる乙日根より、采女(うねめ)として大和の国へ行くよう、言い渡される。
大和では大雀大王(おおさざきのおおきみ)が崩御し、臣下達は次の大王を去来穂別皇子(いざほわけのおうじ)にと考えていた。
そして大和に辿り着いた佐由良は、そこで去来穂別皇子の弟にあたる、瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)と出会う。
だが瑞歯別皇子は亡き母の磐之媛(いわのひめ)の悲しみを見て育った為、吉備に対して良い感情を持ってはいなかった。
そんな中、彼女が仕えていた住吉仲皇子(すみのえのなかつおうじ)が暗殺されるという事件が起きてしまう。
そしてその暗殺計画の張本人が、その弟の瑞歯別皇子だった。
勾玉の首飾りに導かれた運命。
日本古代における大和の地で、主人公が運命に翻弄されていく古代ファンタジー。
《時代背景》
仁徳天皇の皇子たちの時代(大和王権)をテーマに書いてます。
大雀大王→仁徳天皇
去来穂別皇子→履中天皇
瑞歯別皇子→反正天皇
雄朝津間皇子→允恭天皇
《またこの小説では、テーマにそった物があります。》
★運命に導く勾玉の首飾り★
大和の風を感じて~運命に導かれた少女~
【大和3部作シリーズ第1弾】
★見えないものを映す鏡★
大和の風を感じて2〜花の舞姫〜
【大和3部作シリーズ第2弾】
★災いごとを断ち切る剣★
大和の風を感じて3〜泡沫の恋衣〜
【大和3部作シリーズ第3弾】
☆『外伝 吉備からの使者 阿止里の思い』の公開に合わせ。
外伝は『大和の風を感じて【外伝】』に移行しました。
※こちらは本編では書き切れなかった過去の話しや、その後の話しを書いてます♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる