大和の風を感じて~運命に導かれた少女~【大和3部作シリーズ第1弾】

藍原 由麗

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瑞歯別皇子みずはわけのおうじは少し離れている所から、佐由良を見ていた。

雄朝津間おあさづまのやつ、何で佐由良と一緒にいるんだ。例え弟と言えども、佐由良と一緒にいるのはどうも気に食わない)

「瑞歯別、何かあったの?」

「いや、阿倍姫あべのひめ。何でもない」

瑞歯別皇子は引き続き、酒を飲む事にした。


その頃、佐由良は宴の裏手まで来ていた。

「私、何でこんな思いしないといけないの」

佐由良はその場にうずくまって泣き出してしまった。

「佐由良一体どうしたの!」

どつやら、佐由良を追って雄朝津間皇子がここまでやって来たようだ。

雄朝津間皇子はその場で泣いている彼女を見て驚いた。

「佐由良、やっぱりさっきから何か変だよ。何かあったの?」

佐由良はそう言われて、さらに涙が出て来た。

そんな彼女を見て雄朝津間皇子は言った。

「それって、瑞歯別の兄様が原因?」

皇子にそう指摘され、佐由良は言葉を失った。

「やっぱりそうか。佐由良がこんな状態なのにそれにも気付かず、追いかけても来ない……」

「雄朝津間皇子?」

「やっぱり大人になるまでは待てないか」

雄朝津間皇子はここに来て決心した。

「ちょっと兄上の所に行ってくる」

そう言って、雄朝津間皇子は急いで催しの場に走っていた。

(え、雄朝津間皇子は何を。
何か嫌な予感がする。とにかく後を追いかけないと)

佐由良も慌てて、皇子の後を追った。




雄朝津間皇子おあさづまのおうじは兄の瑞歯別皇子の前までやって来た。

「おい、雄朝津間どうした。そんな怖い顔をして」

「兄上に話しがある」

瑞歯別皇子は、弟の雄朝津間皇子の雰囲気がただ事ではない事に気付いた。

「話しだって?では場所を変えようか」  

瑞歯別皇子はそう言った。

「いい、別にここで構わない」

(こいつはさっきまで、佐由良と一緒にいたんじゃ)


「兄上にお願いがあります。佐由良を俺に譲って欲しい」

それを聞いた瑞歯別皇子は、持っていた酒をその場に落とした。

「何、何だと!お前、一体何の冗談だ!!」

「冗談なんかじゃない、俺は佐由良を自分の妃にしたい」

(お前は……そんな話しが許せる訳ないだろう!!)

それを聞いた瑞歯別皇子は、思わず雄朝津間皇子を睨み付けて言った。

「佐由良はこの事知ってるのか」

「前に兄上の宮に行った時に話してる。どのみち了承が必要だったから、いずれ兄様に申し立てて、了承を貰えたら佐由良には再度話すつもりでいたさ」

(何だって!!)

瑞歯別皇子はその話しを聞いて。さらに怒りが込み上げて来た。

2人の皇子がお互いに睨み合ってる中、そこに遅れて佐由良がやって来た。

(え、一体何があったの?)


佐由良が来た事に気付いた瑞歯別皇子は、彼女に向かって言った。

「佐由良。お前が雄朝津間から妃の申込みを受けてたのは本当か!」

「え、その話は……」

彼女は思わず体が固まった。

「お前……その感じだと、その話しは本当なんだな」

瑞歯別皇子は酷く低い声で彼女に言った。

「はい。本当です。でもそれは直ぐに答えを出さなくて良いと言われてたので」 

「佐由良は何も悪くないよ。俺が無理言ってただけだから」


「雄朝津間お前は黙ってろ!!」

瑞歯別皇子は佐由良が今まで見た事もないような、凄い怖い顔をしていた。

するとその場に沈黙が走った。

「はぁーもう良い、好きにしろ」
 
彼の声には何の感情も無かった。

そう言って瑞歯別皇子は、そのまま宴の場を後にした。

その光景を近くで見ていた去来穂別大王いざほわけのおおきみは、これはただ事ではないと考え、慌てて側近の物部伊莒弗もののべのいこふつを呼ぶように指示した。

伊莒弗も今日はこの宴の場に来ていたようだ。


こうして宴の場はその後しばらくして終了となった。

大王はその後伊莒弗に状況を説明し、佐由良は一旦伊莒弗が連れて帰る事になった。

佐由良は伊莒弗の顔を見るなり、声を顕にして泣き出した。
そんな彼女を彼は何も言わずにただただ慰めてやった。
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