大和の風を感じて~運命に導かれた少女~【大和3部作シリーズ第1弾】

藍原 由麗

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瑞歯別皇子みずはわけのおうじと佐由良を乗せた馬は勢い良く道を走っていく。

(やっぱり馬に乗るのは気持ちい~)

佐由良は顔に当たる風をとても心地よく感じた。

「朝早くに出発したから、昼過ぎには目的地に着けると思う。途中に休憩も何度か入れる予定だ」

「思ってたよりも早く着くんですね。正直もっと掛かると思ってました」 

「まぁ、そんなに遠い訳ではないからな。俺も何度か行った事があるし」

(最初は2人だけで行くって言われたからちょっと心配はあったけど、何とかなりそうね)

「佐由良、もししんどかったら俺に持たれて構わないからな」

「あ、はい。今の所は大丈夫です。皇子は本当に力も体力もありますね」

自分なら1人で馬に乗るのが精一杯で、そんな余裕は全くないだろう。

とは言え、今の時点でも皇子はしっかりと佐由良を支えて馬を走らせている。
そこはやはり男性だなと彼女は思った。

「しかし、こうして2人で馬に乗るのは2週間ぶりだな」

瑞歯別皇子は佐由良の耳元で言った。恐らくこの間の娘の誘拐事件の事だろう。

(皇子に耳元で話されると、どうしても緊張してしまう)

「そ、そうですね」

佐由良は思わず俯いた。
彼女的にこう言った時にどう彼に言い返したら良いか分からず、困ってしまった。

すると瑞歯別皇子は佐由良に回してる腕に力を込めた。
こうすると異様に2人が密着してる事に意識が向く。

そして瑞歯別皇子は、少し意地悪そうに言った。

「何だ佐由良、お前緊張してるのか」

(皇子は2人になると何でこうなるの……)

「別に今更だろ。口付けまでした仲なんだから」

そう言って皇子は佐由良の首筋に唇を近づけた。同時に彼の息遣いの音も聞こえて来る。

「ちょ、ちょっと、皇子。お戯れは……」

佐由良は思わず、身体を反らせた。
だが皇子の力が強く、直ぐに引き戻される。

すると佐由良は体を強張らせ、その緊張が瑞歯別皇子にも伝わって来た。

それに気付いた皇子は、さっと佐由良から顔を離した。

「もう少し行った所で、一度休憩しよう」

「は、はい」

佐由良は皇子が、自分から離れた事にホッとした。

(皇子は一体何を考えてるの?)





瑞歯別皇子みずはわけのおうじは前回の誘拐事件から、気持ちの抑えが出来なくなっていると感じていた。
佐由良に口付けをした時、最初は少し軽くするだけのはずだった。
だが彼女に口付けた瞬間、彼女のくちびるの柔らかさに酔いしれ、一気に欲望が湧いた。

佐由良が綺麗な娘なのは、彼も流石に分かってはいた。でもまさかこれ程に彼女を欲しっていたとは、彼自身も全く気付いていなかった。

(くそ、コイツを怯えさせたくないのに。どうしても気持ちが出てしまう。何とか押さえ込まないと、大変な事になる)

その後は特に問題もなく、2人は物部伊莒弗もののべのいこふつの住む所へと向かった。
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