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41P《2人での旅と瑞歯別皇子の思い》
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佐由良達は無事に宮に戻って来ていた。
そして娘の誘拐事件が一段落した事で、宮の人達も皆やっと安心した日常が送れるようになった。
瑞歯別皇子から、物部伊莒弗の事はまた何か分かり次第伝えると言われた。
(あの勾玉の首飾りが見せた光景は、本当に何を意味してるんだろう)
とりあえずこの件は、瑞歯別皇子に任せるしかない。
それから2週間が経過したが、皇子からは特に何の連絡も来ていない。
なので彼女はそれまでと変わらず、日々の仕事に励んでいた。
「それにしても、最初はあんなに自分の事を避けていた人が、まさかこんなに変わるなんて」
佐由良も瑞歯別皇子の変わりようには本当に驚いていた。
むしろ、最近は彼の事をとても頼もしく思えるようにさえなった。
(元々とても有能な人とは聞いてたけど)
「何か宮の娘から好かれている理由が分かったかも」
佐由良は少し「クスクス」と笑いながら言った。きっとそんな頼もしい所も、彼の魅力の1つなのであろう。
彼女がそんな事を考えていると、ふと後ろから人の声が聞こえて来た。
「何が好かれてるだって」
佐由良は慌てて後ろを振り返ると、そこには瑞歯別皇子本人が立っていた。
「まあ、皇子いらっしゃったんですね」
佐由良は、瑞歯別皇子に慌ててお辞儀をした。
「何、1人でブツブツ言ってるんだ。好かれてるがどうのって」
瑞歯別皇子は少し不思議そうな顔をして言った。だが彼女が自分の話しをしていた事には、どうも気付いていないようだ。
「いえ、何でもありません。余りお気になさらないで下さい。」
瑞歯別皇子はまだ気になったが、とりあえず用件を話す事にした。
「明後日に、物部伊莒弗に会いに行く事になった」
「あの、例の物部の方にですか」
「あぁ、それでお前にも一緒に行ってもらいたい。あの不思議な光景に出ていた男が物部伊莒弗なら、お前の顔を見たら何か反応があるはずだ。それにお前がいた方が説明もしやすいからな」
(確かに今回の件は私も一緒の方が、何かと話しがしやすい)
「皇子分かりました。では私も同行させて頂きます」
こうして2人は物部伊莒弗の元へ行く事となった。
「皇子、何でまた急に物部の方へなど?」
「いや、今回はちょっと用事が出来てしまったからな」
瑞歯別皇子は、今日乗る馬の様子を見ながら家臣達にそう言った。
(よし、こいつの状態は大丈夫そうだ)
彼らには、例の不思議な光景が見えた事は話していない。と言うより、そんな話しをしても恐らく信じてはもらえないだろう。
「それに、采女の佐由良まで連れて行かれるとは……」
家臣達は皇子のとなりにいる佐由良に思わず目を向けた。
佐由良もそんな家臣達の質問にどう答えて良いか分からず、思わず彼らから目を反らした。
「とにかく、お前達は気にしなくて良い」
どうやら、瑞歯別皇子は馬の状態の確認が全て終わったようだ。
「それにお二人だけで行かれるとは、お供も付けずにですよ」
(そう、それは私も同感だわ。まさか皇子と2人だけで行くなんて、思いもしなかった)
「まぁ、皇子はそんじょそこらの兵よりお強いですが……」
「片道だけでも半日も掛からないし、そんなに遠い場所じゃないんだ。いちいちとやかく言うな」
家臣達は、皇子にそう言われて渋々納得した。
(何か家臣の人達がちょっと気の毒に思えて来る)
「おい、佐由良早く馬に乗れ」
皇子にそう言われたので、佐由良は彼の手を借りながらさっと馬に乗った。
佐由良が馬に乗ると、続けて皇子も彼女の後ろに乗った。
「じぁ行ってくる。お前達は留守を頼む」
皇子は馬に乗った状態で家臣達に言った。
「はい、ではくれぐれもお気をつけて」
「じゃあ行くぞ、佐由良」
「はい、皇子」
こうして皇子は、馬を走らせて宮を後にした。
家臣達はそんな2人をただただ見送った。
「皇子、本当にお気を付けて下さいませ」
そして娘の誘拐事件が一段落した事で、宮の人達も皆やっと安心した日常が送れるようになった。
瑞歯別皇子から、物部伊莒弗の事はまた何か分かり次第伝えると言われた。
(あの勾玉の首飾りが見せた光景は、本当に何を意味してるんだろう)
とりあえずこの件は、瑞歯別皇子に任せるしかない。
それから2週間が経過したが、皇子からは特に何の連絡も来ていない。
なので彼女はそれまでと変わらず、日々の仕事に励んでいた。
「それにしても、最初はあんなに自分の事を避けていた人が、まさかこんなに変わるなんて」
佐由良も瑞歯別皇子の変わりようには本当に驚いていた。
むしろ、最近は彼の事をとても頼もしく思えるようにさえなった。
(元々とても有能な人とは聞いてたけど)
「何か宮の娘から好かれている理由が分かったかも」
佐由良は少し「クスクス」と笑いながら言った。きっとそんな頼もしい所も、彼の魅力の1つなのであろう。
彼女がそんな事を考えていると、ふと後ろから人の声が聞こえて来た。
「何が好かれてるだって」
佐由良は慌てて後ろを振り返ると、そこには瑞歯別皇子本人が立っていた。
「まあ、皇子いらっしゃったんですね」
佐由良は、瑞歯別皇子に慌ててお辞儀をした。
「何、1人でブツブツ言ってるんだ。好かれてるがどうのって」
瑞歯別皇子は少し不思議そうな顔をして言った。だが彼女が自分の話しをしていた事には、どうも気付いていないようだ。
「いえ、何でもありません。余りお気になさらないで下さい。」
瑞歯別皇子はまだ気になったが、とりあえず用件を話す事にした。
「明後日に、物部伊莒弗に会いに行く事になった」
「あの、例の物部の方にですか」
「あぁ、それでお前にも一緒に行ってもらいたい。あの不思議な光景に出ていた男が物部伊莒弗なら、お前の顔を見たら何か反応があるはずだ。それにお前がいた方が説明もしやすいからな」
(確かに今回の件は私も一緒の方が、何かと話しがしやすい)
「皇子分かりました。では私も同行させて頂きます」
こうして2人は物部伊莒弗の元へ行く事となった。
「皇子、何でまた急に物部の方へなど?」
「いや、今回はちょっと用事が出来てしまったからな」
瑞歯別皇子は、今日乗る馬の様子を見ながら家臣達にそう言った。
(よし、こいつの状態は大丈夫そうだ)
彼らには、例の不思議な光景が見えた事は話していない。と言うより、そんな話しをしても恐らく信じてはもらえないだろう。
「それに、采女の佐由良まで連れて行かれるとは……」
家臣達は皇子のとなりにいる佐由良に思わず目を向けた。
佐由良もそんな家臣達の質問にどう答えて良いか分からず、思わず彼らから目を反らした。
「とにかく、お前達は気にしなくて良い」
どうやら、瑞歯別皇子は馬の状態の確認が全て終わったようだ。
「それにお二人だけで行かれるとは、お供も付けずにですよ」
(そう、それは私も同感だわ。まさか皇子と2人だけで行くなんて、思いもしなかった)
「まぁ、皇子はそんじょそこらの兵よりお強いですが……」
「片道だけでも半日も掛からないし、そんなに遠い場所じゃないんだ。いちいちとやかく言うな」
家臣達は、皇子にそう言われて渋々納得した。
(何か家臣の人達がちょっと気の毒に思えて来る)
「おい、佐由良早く馬に乗れ」
皇子にそう言われたので、佐由良は彼の手を借りながらさっと馬に乗った。
佐由良が馬に乗ると、続けて皇子も彼女の後ろに乗った。
「じぁ行ってくる。お前達は留守を頼む」
皇子は馬に乗った状態で家臣達に言った。
「はい、ではくれぐれもお気をつけて」
「じゃあ行くぞ、佐由良」
「はい、皇子」
こうして皇子は、馬を走らせて宮を後にした。
家臣達はそんな2人をただただ見送った。
「皇子、本当にお気を付けて下さいませ」
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