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その翌日から、雄朝津間皇子は時々佐由良に話しかけるようになった。
彼女自身も、自分よりも少し年下の皇子とは思いの外話しやすく、直ぐに打ち解ける事が出来た。
(雄朝津間皇子は瑞歯別皇子と違って、本当に素直で優しい皇子ね……)
「でも、兄上が佐由良に対してあんなにムキになるのはちょっとびっくりだったなー」
雄朝津間皇子は、先日の佐由良との対面時の事を話していた。
「でも佐由良が僕の事を庇ってくれて本当に嬉しかった」
彼は本当に嬉しそうに佐由良に言った。
「そんな滅相もございません。私はただ思った事をその場で言っただけですから」
彼女にとってはどちらの皇子もしっかりとお仕えするべき存在である。
だから二人の仲が悪くなるなんて事はしたくなかった。
「あ~あぁ、兄上も早く妃の一人でも決めてくれたら少しは丸くなるのかな。去来穂別の兄上がそう言ってたし」
「まぁ、大王がそんな事言われてたんですか」
(きっと大王も、瑞歯別皇子の妃決めの事で、結構悩まれてるんだわ……)
「うん、そう。でも瑞歯別の兄上の場合、それについては余り関心示さないんだよね」
「確かに瑞歯別皇子は、政治的な事ばかりされていて、どこかの姫の元に行っているなんて話し聞いた事がないですね」
これは佐由良も実は意外に思っていた。
彼は見た目も綺麗で、常に女性の目を引いていた。そして何より大和の皇子と言う身分である。なので女性なんて選びほうだいのはずだ。
にも関わらず、そう言った女性との噂は全く聞こえて来ない。
「まぁ、今まで全く無かった訳でも無いみたいだけどね」
(皇子に気に入られたいと思っている娘達は多いみたいだけど。中々上手くいかないものね)
「瑞歯別皇子もご自身の立場をとても良く理解されてます。なのでいずれは、どこかの姫を娶られますよ」
(ただあの皇子が、どこかの姫と一緒になるなんて、実際には全くイメージつかないわね。)
それを聞いた雄朝津間皇子は佐由良を見て言った。
「でも、その相手が佐由良になるのは嫌だな」
皇子はポツリと佐由良に言った。
「え……」
思わぬ事を言われて、佐由良は驚ろく。
「佐由良は一緒にいて楽しいし、何か好きなんだよね僕」
(え、私が好き?)
この皇子は言っている事の意味を理解しているのだろうか。
それとも、単にお気に入りの人を取られたくないだけなのか。
雄朝津間皇子は不思議そうにしている佐由良を見ながら、無邪気に続けて言った。
「でも、瑞歯別の兄上に佐由良をちょうだいって言っても、今の感じだと駄目って言われそうだし……」
(それって私を自分の側に置きたいって事)
「皇子、それは私に側で仕えて貰いたいって事ですか?」
佐由良は皇子に問いた。
「あぁーそうじゃなくて......佐由良を僕の妃にしたいなと思って」
(え、私を妃に)
「君は命懸けで瑞歯別の兄上を守ってくれるぐらいとても勇敢だ。それにとても心の優しい人だと思う。
まぁ、純粋に一目惚れって事もあったんだけどね」
皇子は少し照れながら言った。
それを聞いた佐由良に動揺が走った。
「ただ僕もまだ子供だから、頑張って兄上に認めてもらえるよう、頑張るしかないかな」
「雄朝津間皇子……」
「とりあえずこの件は、僕がもっと大人になって自信がついたら、瑞歯別の兄上に申し立てしようと思う。
佐由良も、その時に決めてくれたら良いから」
佐由良は何て答えたら良いのか分からず、口から言葉が出てこない。
「はい、この話しはここまで!
一応、瑞歯別の兄上にはこの事は内緒だよ。じゃあ佐由良も仕事があるだろうから、ここで失礼するね」
そう言って雄朝津間皇子はスタスタと歩いて行った。
(皇子は本気なのかな……)
相手は自分よりも若いとはいえ、大和の皇子だ。佐由良にはどうすれば良いのか分からなかった。
(とりあえず、しばらくは様子を見るしかないわ。それに言われた通り瑞歯別皇子にも黙っておこう。
こんな事が瑞歯別皇子の耳に入ったら、何かと面倒な事になりそうだ)
彼女自身も、自分よりも少し年下の皇子とは思いの外話しやすく、直ぐに打ち解ける事が出来た。
(雄朝津間皇子は瑞歯別皇子と違って、本当に素直で優しい皇子ね……)
「でも、兄上が佐由良に対してあんなにムキになるのはちょっとびっくりだったなー」
雄朝津間皇子は、先日の佐由良との対面時の事を話していた。
「でも佐由良が僕の事を庇ってくれて本当に嬉しかった」
彼は本当に嬉しそうに佐由良に言った。
「そんな滅相もございません。私はただ思った事をその場で言っただけですから」
彼女にとってはどちらの皇子もしっかりとお仕えするべき存在である。
だから二人の仲が悪くなるなんて事はしたくなかった。
「あ~あぁ、兄上も早く妃の一人でも決めてくれたら少しは丸くなるのかな。去来穂別の兄上がそう言ってたし」
「まぁ、大王がそんな事言われてたんですか」
(きっと大王も、瑞歯別皇子の妃決めの事で、結構悩まれてるんだわ……)
「うん、そう。でも瑞歯別の兄上の場合、それについては余り関心示さないんだよね」
「確かに瑞歯別皇子は、政治的な事ばかりされていて、どこかの姫の元に行っているなんて話し聞いた事がないですね」
これは佐由良も実は意外に思っていた。
彼は見た目も綺麗で、常に女性の目を引いていた。そして何より大和の皇子と言う身分である。なので女性なんて選びほうだいのはずだ。
にも関わらず、そう言った女性との噂は全く聞こえて来ない。
「まぁ、今まで全く無かった訳でも無いみたいだけどね」
(皇子に気に入られたいと思っている娘達は多いみたいだけど。中々上手くいかないものね)
「瑞歯別皇子もご自身の立場をとても良く理解されてます。なのでいずれは、どこかの姫を娶られますよ」
(ただあの皇子が、どこかの姫と一緒になるなんて、実際には全くイメージつかないわね。)
それを聞いた雄朝津間皇子は佐由良を見て言った。
「でも、その相手が佐由良になるのは嫌だな」
皇子はポツリと佐由良に言った。
「え……」
思わぬ事を言われて、佐由良は驚ろく。
「佐由良は一緒にいて楽しいし、何か好きなんだよね僕」
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この皇子は言っている事の意味を理解しているのだろうか。
それとも、単にお気に入りの人を取られたくないだけなのか。
雄朝津間皇子は不思議そうにしている佐由良を見ながら、無邪気に続けて言った。
「でも、瑞歯別の兄上に佐由良をちょうだいって言っても、今の感じだと駄目って言われそうだし……」
(それって私を自分の側に置きたいって事)
「皇子、それは私に側で仕えて貰いたいって事ですか?」
佐由良は皇子に問いた。
「あぁーそうじゃなくて......佐由良を僕の妃にしたいなと思って」
(え、私を妃に)
「君は命懸けで瑞歯別の兄上を守ってくれるぐらいとても勇敢だ。それにとても心の優しい人だと思う。
まぁ、純粋に一目惚れって事もあったんだけどね」
皇子は少し照れながら言った。
それを聞いた佐由良に動揺が走った。
「ただ僕もまだ子供だから、頑張って兄上に認めてもらえるよう、頑張るしかないかな」
「雄朝津間皇子……」
「とりあえずこの件は、僕がもっと大人になって自信がついたら、瑞歯別の兄上に申し立てしようと思う。
佐由良も、その時に決めてくれたら良いから」
佐由良は何て答えたら良いのか分からず、口から言葉が出てこない。
「はい、この話しはここまで!
一応、瑞歯別の兄上にはこの事は内緒だよ。じゃあ佐由良も仕事があるだろうから、ここで失礼するね」
そう言って雄朝津間皇子はスタスタと歩いて行った。
(皇子は本気なのかな……)
相手は自分よりも若いとはいえ、大和の皇子だ。佐由良にはどうすれば良いのか分からなかった。
(とりあえず、しばらくは様子を見るしかないわ。それに言われた通り瑞歯別皇子にも黙っておこう。
こんな事が瑞歯別皇子の耳に入ったら、何かと面倒な事になりそうだ)
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