大和の風を感じて~運命に導かれた少女~【大和3部作シリーズ第1弾】

藍原 由麗

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「一体、何事だ!」

その場に現れたのは瑞歯別皇子みずはわけのおうじだった。
そして皇子は、目の前で嵯多彦さたひこに捕まっている佐由良の光景を見て驚いた。

「お前、何をしてるんだ!!」

佐由良は皇子に助けを求めて言った。

「皇子、助けて……」

佐由良は必死で逃げようとするも、嵯多彦は離そうとしない。

そして嵯多彦は佐由良に刃物を突きつけた。

佐由良もその刃物を見て体を震わせた。この刃物がちょっとでも自分に当たれば、簡単に皮膚が切られてしまう。

「皇子、この娘を助けたいなら大声を出さないでもらえるか」

「何だと」

嵯多彦は刃物を佐由良の首もとに当てる。

それを見た瑞歯別皇子もさすがに慌てた。自分が1歩でも前に出れば、彼女の首に刃物が刺さってしまう。

「分かった。声は出さない。だからその娘を傷付けるな」

それを聞いた嵯多彦は、刃物を佐由良から離した。

その瞬間、瑞歯別皇子の背後から現れた2人の男が皇子を捕まえた。

「お前達は、こいつと一緒に来た奴らか」

2人掛かりで捕まったとあっては、さすがの彼でも振りほどく事が出来ない。

「さぁ皇子、これでお前もおしまいだな」

「何でお前達はこんな事を」

瑞歯別皇子は、目の前の嵯多彦を睨み付けて言った。

「前の大王と吉備の黒日売のせいで、磐之媛は死んだ。ただ今の大王を殺してもお前がいる。だから逆にお前が死ねば、大和もかなりぐらつくだろうからさ」

「それでお前は俺を」

それを聞いて、佐由良の目からも涙が出た来た。

「それと偶然、この吉備の娘を見て、吉備への復讐にもなるかと思ったんだが、何分綺麗な娘だったのでな。
それで、こいつは慰めものにしようと思った訳だ。まだお前も手を付けてないようだったんでね」

「な、何だと!」

瑞歯別皇子はこの一言で、かなりの怒りを覚えた。

それまで必死に押さえつけられていた男2人を、無理やり跳ね返した。

「動くなと言ったはずだ。この娘がどうなっても良いのか」

(駄目だわ、このままじゃあ皇子が殺されてしまう……)

「皇子、私の事は気にしないで。皇子の命に比べたら、私なんて代わりはいくらでもいる」

瑞歯別皇子はその場で、動けなくなった。

(くそ、この娘を見殺しになんて出来ない……)



(一体どうすれば。このままじゃ皇子が)

佐由良は思わずその刃物を自分の肩に刺した。

「お前、何するんだ」

その瞬間に嵯多彦の腕が緩んだ。

「よし、今だ」

瑞歯別皇子が、つかさず嵯多彦を殴り付けた。

「おい、誰かいないか!」

瑞歯別皇子はその場で大声で叫んだ。
するとその声を受けてようやく家臣達がやって来た。

「嵯多彦様、これはまずいですよ」

「仕方ない、ここは一旦逃げるぞ」

そう言って近くにとめてあった馬に乗り、嵯多彦達はいそいそと逃げて行った。

「皇子一体何事ですか」

家臣達は皆この光景を見て驚いた。

佐由良は肩にかなり深い傷を負おっていた。

「おい、大丈夫か。しっかりしろ!」

「皇子、ご無事で良かったです……」

だが、佐由良は意識がもうろうとしていた。

「おい、早く傷の手当てをしろ!!」

皇子にそう言われ、周りがあわただしく動き出した。

「何とか持ちこたえてくれ、おい、佐由良!!」

(皇子が始めて、私の事を名前で呼んでくれた)

そう思った瞬間佐由良の意識は途絶えた。
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