大和の風を感じて~運命に導かれた少女~【大和3部作シリーズ第1弾】

藍原 由麗

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「では、ここでお待ち下さい。後ほど瑞歯別皇子みずはわけのおうじがここに来られます」

佐由良は、嵯多彦達を部屋の中で座らせてからそう話した。

「分かりました。わざわざ有り難うございます」

嵯多彦さたひこは愛想良く佐由良に応えた。

「では私はこれで失礼します」

佐由良はそう言うと、軽くお辞儀をして部屋を出ていった。


そうしてしばらく待っていると、瑞歯別皇子が数名の供と一緒にやって来た。

そして瑞歯別皇子は部屋に入ってくるなり、嵯多彦の前に来てトシッと座った。

(ふーん、こいつが例の瑞歯別皇子か。何とも凛々しい感じの皇子だな)

嵯多彦は、瑞歯別皇子を見てそう思った。

「ようこそ、葛城からおいで下さった。大王の弟の瑞歯別みずはわけのと申す」

瑞歯別皇子は姿勢を正して、嵯多彦達に挨拶をした。

「こちらこそ、今回は急な訪問で申し訳ない。葛城の嵯多彦と申します」

嵯多彦も皇子に続いて挨拶をした。

「そなたの名前は母から聞いた事がある。確か母の従兄弟にあたる方とか」

「はい、その通りです。まさか皇子が私の名前をご存じとは驚きました」

(磐之媛いわのひめが私の事を話していたのは、これは意外だったな)

「何でも、子供の時からとても仲良くしていたと聞いてます」

(そんな磐之媛を死においやったのは、お前の父親と吉備の黒日売だ。そうだ、これはちょっと探ってみるか)

ふと嵯多彦はある事を思い付いた。

「そう言えば、ここに案内して下さった女性がたいそう綺麗な方でしたな。名を佐由良と伺いました。何でも吉備から来た方とか」

「えぇ、そうです。1ヶ月程前からこの宮に仕えている娘です」

(なんで、あの娘の話しが出てくるんだ?)

瑞歯別皇子はふと不思議に思った。

「あれほど綺麗な娘を側に置いてるとは羨ましい限りですね。皇子の妃にとお考えですか」

「え、妃」

瑞歯別皇子は思いもよらない事を言われ、一瞬体が固まってしまった。

(うん、何んとも妙な反応だな?)

嵯多彦はさらに続けて言った。

「これは失礼。てっきりもうそう言う扱いの娘かと思ってしまったもので。でもあれだけの娘であれば、他の男もさぞ欲しがってるでしょうね」

(こいつ、一体何を言ってるんだ……)

皇子の供で来た男達もはすがに、驚きを隠せない。

瑞歯別皇子も何とも言えない苛立ちを覚えた。

「確かに私には妃はおりません。それは今慎重に考えている所です。あの娘に関しても、彼女はこの宮に仕えている者です。軽々しい事は言わないで頂きたい」

(何で俺があんな娘の為に、ここまで説明しないといけないんだ……)

「いや、本当に申し訳ない。皇子がそれ程慎重なお方とは知りませんでした。
ただ先程の娘が余りに綺麗だったので、少し興味を持ったもので。まぁ、この話しは忘れて下さい」

(佐由良に興味を持っただと。何を言ってるんだ。仮にも釆女としてこの宮にやって来た娘だぞ)

瑞歯別皇子はそれを聞いてさらに苛立った。
だがそれでも何とか自身の感情を押さえ、話しを続ける。

「それで今回来られたご用件は」

「はい、ここ最近は前大王の崩御や、兄上様の謀反など、色々大変な事が続いたと伺っております。
そのお慰めと、葛城としましても今後も長くお付き合い頂きたいと思いまして。
あと個人的事ではありますが、磐之媛の嫁ぎ先を見てみたいと思い、葛城側に許可を頂いた次第です」

「そうですか。それはわざわざご配慮頂き有り難うございます。それでこれからどうなさるおつもりですか」

「はい、もしお許し頂ければ、数日ここにいさせて頂きたいと思います」

それを聞いた瑞歯別皇子は、葛城からの訪問者をぞんざいに扱うのも失礼だと思い、それは構わないと思った。

「それは構いません。是非ゆっくりしていって下さい。
大王の元にはその後行かれるのですか」

「いえ、その後は一旦葛城に帰りまして、大王の元にはまた改めて伺わせて頂きます」

(何、兄上の所には行かないだと。何ともおかしな話しだな……)

「そうですか。まぁ、今回はここに来て頂けただけでも有り難い。存分に休んでいかれて下さい。
では、私はこれで一旦失礼します」

「はい、わざわざご配慮頂き感謝します」

そうして瑞歯別皇は供を連れて、部屋を出ていった。

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