大和の風を感じて~運命に導かれた少女~【大和3部作シリーズ第1弾】

藍原 由麗

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住吉仲皇子すみのえのなかつおうじは、1人空を見上げていた。

「私はこれからどうなるのだろうか」

ただ自分は黒媛が欲しかっただけだ。
その為には、去来穂別皇子いざほわけのおうじを倒すしかなかった。

だが兄の去来穂別皇子は上手く逃げてしまい、家臣もほんのわずかとなってしまった。

(このままどこか遠くに逃げてしまおうか……)


「住吉仲皇子」

名前を呼ばれ彼が振り向くと、そこには刺領巾さしひれが立っていた。

刺領巾は手に刃物を握っている。

「刺領巾一体どうした。刃物など握って」

住吉仲皇子が刺領巾の顔を見ると、彼の顔は凄い狂気に満ちていた。

そして何とも異様な空気を出している。

「皇子、去来穂別皇子はもう許しては下さいません。それで瑞歯別皇子みずはわけのおうじから話がありました」

「何?瑞歯別が」

刺領巾はゆっくりと住吉仲皇子に近付いていった。

その狂気の顔に恐れを感じ、彼は思わず後ずさりをした。

「瑞歯別は何と言って来たんだ」

「はい、皇子は……」

そう言った瞬間、刺領巾はすぐさま住吉仲皇子の元に走って来て、
握っていた刃物で住吉仲皇子の体をグサッと一気に刺した。

「何、何をするんだ刺領巾」

住吉仲皇子は思わず体をふらつかせて、その場に倒れた。

その様子を見ながら刺領巾は、

「瑞歯別皇子は、皇子を殺すよう私に命じられました」と冷たく言った。

「瑞歯別が私を殺せとだと。くそ、刺領巾……お前も裏切ったな」

住吉仲皇子の受けた傷は思いの外深かった。

そしてしばらくのたうち回った後に、彼は息を引き取った。

刺領巾は住吉仲皇子が亡くなったのを確認し、彼から刃物を抜いた。

そしてそのまま、彼は瑞歯別皇子の元へと向かって行った。





「瑞歯別皇子、住吉仲皇子を射ちました。これがその時に使った刃物です」

刺領巾は瑞歯別皇子に刃物を見せた。
刃物には人の血が着いている。

皇子はその刀を手にとってまじまじと見た。

「これは住吉仲皇子の血で間違いないのだな。刺領巾よくやってくれた」

刺領巾も「間違いないです」と答えた。

これで自分は大臣になれる。
そう刺領巾が思いを巡らせたその時だった。

瑞歯別皇子が素早く自らの剣を取り出して、刺領巾を刺した。

「お、皇子何故私を……」

「ふん、簡単に主君を裏切るようなやつは信用出来ないからな!」

彼はそう言って、刺領巾をさらに数回斬った。

「く、くそー!」

刺領巾はそう言いながら、その場でもがき苦しんだ。

(結局は私も利用されてただけだったか...)

こうして住吉仲皇子同様に、彼もそのまま死んでしまった。


刺領巾を殺した瑞歯別皇子は「ふぅー」と言ってそのままその場を後にした。
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