大和の風を感じて~運命に導かれた少女~【大和3部作シリーズ第1弾】

藍原 由麗

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住吉仲皇子すみのえのなかつおうじの側近であった阿曇浜子あずみのはまこの命令で、後を追った淡路の野島の海人らは、去来穂別皇子いざほわけのおうじ去来穂別皇子に捕らえられてしまった。

また住吉仲皇子の味方にいた倭直吾子籠やまとのあごこも、去来穂別の兵に恐れをなし、妹の日之媛ひのひめを献上して許された。

こうして、住吉仲皇子は孤立していった。


その事を知った瑞歯別皇子みずはわけのおうじは、住吉仲皇子近習の隼人である刺領巾さしひれに近付いた。

「刺領巾、去来穂別皇子は住吉仲皇子を討つようにと仰せだ」

「やはり皇子はそのお考えか」

刺領巾は自分もこのまま殺されてしまうのかと思った。

だが瑞歯別皇子は、意外な提案を彼に持ちかけた。

「住吉仲皇子を討つのなら、彼の近場にいる者が殺すのが手っ取り早い。そこでお前に兄上を殺してもらいたい」

「私に住吉仲皇子を殺せと」

「さよう。さらに兄上を殺した暁には、お前を大臣にしてやってもよい。
どうだ、お前にとっても悪くない話しだろう」

刺領巾は無言で考えた。

恐らく断れば今この場で自分は殺されてもおかしくない。
であれば、この話しにのれば命が助かる上に、大臣の役にもつける……

「分かりました。住吉仲皇子は私が討ちましょう」

刺領巾は自らが皇子を殺す事を、瑞歯別皇子に誓った。

「そうか、やってくれるか」

瑞歯別皇子はそれを聞くと、出来るだけ早くに実行するよう伝えて、彼の側を離れた。


「住吉仲皇子、済まない。そうしなければ私が殺されてしまう」

刺領巾は、今尚孤立している住吉仲皇子が哀れに思えて仕方なかった。





瑞歯別皇子は住吉仲皇子が元々いた宮に寄った。

宮に使えているもの達は、皆集められていて、厳重に見張られていた。

調べによると、今回の住吉仲皇子の反乱は、皇子が独断で起こしたもので、宮仕えの者達は知らされていなかったようだ。

ただ皆とても怯えていた。
女達の中には泣いてる者さえいた。

その中には、吉備海部の娘である佐由良もいた。

(住吉仲皇子、どうか無事に助かりますように)

こんな事を願っているのがバレたら、自分も疑われて殺されてしまうかもしれない。

でも心の中ではずっと祈っていた。


瑞歯別皇子はふと佐由良を見た。
吉備から来た娘の為、裏切り行為がない場合は命を断つ事はさせない。
ただ噂によると、住吉仲皇子を慕っていたと聞く。

(まぁ、宮の女達の間ではよくある話だな)


佐由良はふと人の視線に気が付いた。
思わず振り向くと、その先には瑞歯別皇子が立っていた。
皇子は自分と目があった為か、慌てて顔を背けた。

(どうして私の事見てたんだろう?)

そんな彼の事が一瞬気にはなったが、今の彼女にはそれどころではない状況である。

(まぁ、今の私にはそんな事考えてる場合じゃないわね。)

その時ふと思い出した。
まだ自分が吉備にいた頃、大和に行かされる話を聞いたあの日。
黒日売の元から家に戻る途中に見た不思議な光景の事だ。

あの時見た光景の中にいた1人の青年。
その青年が瑞歯別皇子に似ているように思えた。
(あの時も身なりの良い服を来ていたし、背格好も似ている……)

「でもまぁ、そこまで気にする事でもないわね」
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