おっさんが願うもの

猫の手

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王都編 〜狩猟祭 プロポーズ大作戦〜

173.おっさん、内緒で動く

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 心も体もポカポカして、嬉しくて楽しくて天幕に戻る間スキップしてしまいそうになるのを抑えた。
 さすがに40歳目前のおっさんのスキップはヤバいだろ、と理性が体を抑える。
 そんな俺にディーが近付くと、ニヤニヤしながら話しかけてきた。
「今日の添い寝は私の番です」
「あ、今日はいいよ。多分大丈夫だから」
 即答すると、ディーの顔が一瞬で凍りつく。
 実際、本当に大丈夫そうだった。
 ロイに心の深い所にあった恐怖を曝け出したせいもあるが、それよりも、2組の感動シーンが心を満たしていて幸せな気分で眠れそうだと微笑む。
「え…そんな…」
 ディーがガーンとショックを受けている。
「それに、周りの目もあるだろ」
 苦笑しながら言い、ポンポンとディーの肩を叩いて慰める。
「まぁしゃーないわな…俺たちどっちかが変わるがわる泊まり込みなんてバレたら何言われるか」
 ロイも苦笑した。
 護衛として最低1人は俺の天幕に常駐しているが、他にも護衛がいるのに夜の常駐が2人だけで交代、というわけにはいかない。
「じゃ、じゃぁ、私は今日どこで寝れば…」
 ディーが言い、あ、と気付く。
 キースは王族用天幕に、アランにお持ち帰りされるだろう。そうなればアランと一緒のディーの居場所はなくなる。
 そこは2人の邪魔をしたくはないディーの気持ちもわかる。
「こっちに来ればいい」
 グレイが騎士用の天幕に、と笑いを堪えて言った。
「王子様をこっちの天幕にというのも気が引けるが…」
 フィンが申し訳なさそうに言うが、言葉だけで全く気持ちがこもっていない。
「今日はオスカーとジャニスにショーヘーに護衛についてもらって、俺たちはあっちな」
 ロイが親友の肩に腕を回しニヤつく。
「自分の番じゃないからでしょ」
 ディーがジト目でロイを睨む。
「何言ってる。俺はきちんと状況を考えてだな」
 そう言いながらも、顔には抜け駆けさせねえ、ザマーミロと書いてあった。
「ショーヘイさ~ん、こんなむっさいヤローどもと同じ天幕なんて嫌ですよ~」
「失礼ね!私達もいるのよ!」
 オリヴィエとエミリアが文句を言った。
 そんな騎士達の会話を聞いて笑う。
「まぁ、我慢しろw」
 笑いながら言い、二つの天幕に続く分岐点で別れた。
「ほんとに大丈夫?」
 ジャニスが心配して聞いてくる。
「うん。大丈夫だよ」
 ニコリと微笑む。





 キースはいないので、着替えや寝る準備などは全部自分でして、オスカーとジャニスの分もお茶を用意して円卓に置いた。
 いつもはキースが全てやってくれる。
 本当にいい身分になったもんだ、と苦笑しながら2人を呼んだ。

「あのさ、2人に折り入って相談があるんだけど…」
 2人が椅子に座った所で、話を切り出した。
「なぁに?あ、やっぱり添い寝いる?あたしで良ければいつでもいいわよ」
「俺も構わねーぞ」
「その話じゃねーわw」
 2人のセリフにツッコミを入れて笑う。
「明日さ…」
 スンと真顔になって2人を見る。
「後夜祭は4時からだろ?それまで時間がたっぷりあるよな。
 んで、もし出来るならやりたいことがあってさ」
 真剣に言う俺に2人が身を乗り出す。

 そうして俺は2人に相談という形で、自分の考えたことが出来るかどうか確認をする。
「あー…なるほどね…」
「出来る…わよね?」
 ジャニスがオスカーを見る。
「無理な話じゃねぇが…本当にやるのか?」
 オスカーも顎を手で摩りながら考える。
「いいんじゃない?きっと出来るわよ。あたし達がサポートすればいいんだし」
「そうだな…。よしやるか」
「いいの!?ありがとう!」
「そうなると、色々誤魔化す必要も出てくるな。グレイ達にも協力してもらうか」
「そうね。明日の夕方まで時間があるのはみんな一緒だし、あたし達が見当たらないって探されるのは避けなきゃ」
「じゃぁ、3人で行動して、グレイ、フィン、オリヴィエ、エミリアにはロイ達のフォローに回ってもらおう。
 万が一バレても俺達がってことにすれば誤魔化せる。ショーヘーはそれにくっついてきたことにすればいい」
「ありがとう。オスカー、ジャニス」
 2人が俺のやりたいことに賛成してくれるだけでなく、その流れややり方を考えてくれることにお礼を行った。
「別に構わん。気にするな」
「そおよぉ。逆に頼ってくれて嬉しいわ」
 2人に笑顔を向けられて俺も破顔した。






 1人ベッドに入り天井を見上げる。

 2人にお願いしたやりたいこと。
 それは、俺も狩りをして、自分の手で魔石を手に入れることだった。


 俺も、ロイとディーに魔石を贈りたい。彼らの前に跪いてプロポーズしたい。


 ロイにもディーにも求婚者が現れた。
 それを見せられて酷く落ち込んでしまった。
 出来ることなら、あの場で「ちょっと待ったあ!!」と某テレビ番組のように叫び、俺も2人に告白したかった。
 だが、俺は魔石を取っていない。
 だから2人にお願いしたのだ。
 森に連れて行ってほしい。狩りの仕方を教えて欲しい。
 魔石を取れるかは運次第。
 きっと俺が狩れる動物は難易度もかなり低い初心者向けの動物で、魔石持ちの可能性はかなり低い。
 魔石持ちを狙うなら高難易度の動物を狙いたいが、初心者の俺には無理だし、森の奥まで入る時間もない。
 さらに上手く動物を狩れたとして、それを解体、処理して、魔石を探すことも出来ない。処理済みの獲物をその場に放置するわけにもいかないし、街に運び入れなくてはならない。
 魔石を取りたいと思っても、自分1人では何も出来ないのだ。
 だからオスカーとジャニスに相談した。
 快く引き受けてくれた2人には感謝しかない。

「取れるかなぁ…」
 睡魔に襲われながら、1人呟く。
 自分が取った魔石を2人に贈ることを脳内で妄想する。
 喜ぶ2人の姿を想像しながら、眠りに落ちた。








 早朝6時、動きやすい服を衣装ケースの中から探し出して身につける。
 出来ればロイとディーに見つからないようにしようと、朝食会場には行かず、ジャニスが3人分の朝食を取りに行ってくれた。
 手早く朝食を済ませて、こっそりと天幕を出る。
 途中、騎士用天幕に近付き、巡回中のグレイに声をかけて呼び出すと、事情を説明した。
「なんだ、俺もそっちに行きたかったな」
 一緒に森に行きたいと笑いながら、ロイ達へのフォローを引き受けてくれた。
「気ぃつけて行ってこいよ」
 グレイに見送られて、3人でそそくさと立入禁止区域から足早に抜け出ると、コンテストが行われていた森へ向かった。



「そばから離れるなよ」
「獲物を見つけたら動かずじっとしてね」
 2人にレクチャーを受けながら慎重に森の奥へ入って行く。
 森の中はまだ早朝ということもあって薄暗かった。時折り鳥の鳴き声やガサガサと動物の移動する音がする。
 旅でも森の中を歩くことはあったが、それは人が行き交う道で、きちんと整備されていた。
 今は道もなく、周囲を見渡しても草木が視界に入るだけで、どこを見ても同じな景色に、絶対に1人で入ったら迷子になってしまうと思った。
 近くでガサッと何かが動く音がするたびに、ビクッと体をすくませて周囲を確認する。
「この辺の動物は草食しかいないから大丈夫だ」
 オスカーがビクビクしている俺に笑いながら教えてくれると、目の前を兎のような動物、シュタットがぴょんぴょんと跳ねながら数匹の群れをなして通過していく。
「シュタットは問題外ね」
 ジャニスが言い、狙うなら難易度3以上じゃないと、と言った。


 森に入って2時間。
 8時半を過ぎ、まだ獲物が見つからず、だんだん焦ってきていた。シュタットや難易度1や2の動物は頻繁に見かけていたが、それ以上の動物を見つかっていなかった。
 本当に見つかるのか焦りと不安が募る。
「焦んな。まだ時間はある」
 オスカーが察して声をかけてくる。
「しっ」
 ジャニスが人差し指を口に当てて俺たちを振り返った。
 そして、その指を前方に向ける。
 そのジャニスの行動に動くのをやめてじっとすると、ジャニスが示す指の先を目で追う。
「いた…」
 小さく声を出した。
 4、50m先に、巨大な太い角を持つ牛のような大きさの体躯に太いトカゲのような尻尾を持つ4速歩行の動物が居た。
「難易度5のシャンブルだ」
 オスカーが小さな声で教えてくれる。
「いいか。急所は首の付け根だ。見えるか?」
 言いながら、自分の首の後ろを指差しながら急所の位置を教えてくれる。
「もうちょっと近付くわよ。ゆっくり、そぉっとね」
 ジャニスが静かに一歩一歩進み始め、俺もそれに習って足元を確認しながら身を屈めてゆっくりと距離を縮めて行く。
「自分で狙えると思った位置まで進め。だが、あんまり近付くと逃げられるぞ」
 オスカーに教えられながら、慎重に進み、30mくらいまで近寄ると、2人に頷く。
「ここからやってみる」
 そう言うと、2人が微笑み、その場にしゃがみ、身を隠す。
 俺は指鉄砲を作って腕を前方に伸ばす。しっかりと右手を左手で掴んで、指先をシャンブルの首の後ろに向けて狙いを定めた。

 ゆっくり、静かに、慎重に。

 その指先に魔力をじわじわと集めて行く。そんなに多くの魔力はいらない。
 B玉のくらいの大きさに魔力を圧縮させると、その玉を弾丸の形に変形させた。

 トン

 ごく軽くその玉を発射した。
 放たれた弾丸の反動でほんの少し体が動くが、それほど強くない魔力のおかげでたいしたことはなかった。

 弾丸が真っ直ぐにシャンブルに向かい、その首の後ろに当たる。
 その瞬間、シャンブルがギャウッと鳴き声をあげ、ブルブルと痙攣したかと思うとその場にどさりと倒れた。
「よし!行くぞ!」
 オスカーがすかさず立ち上がり、走り出す。
 俺もジャニスもそれに続いた。
 地面に倒れたシャンブルに近付き見下ろすと、まだ死んではおらず、ビクビクと体を痙攣させて口から泡を吹いていた。
「ショーヘー。止めを刺してやれ。苦しめるな」
 真剣な目でそう言われて口を真横にキュッと結ぶと、2発目をその首に打ち込んだ。
「ごめんな…」
 2発目が撃ち込まれるのと同時にシャンブルが絶命して動きを止める。そんなシャンブルのそばにしゃがむと、そっとその体を撫でて、命を奪ったことに謝罪した。
「上手よ、ショーヘーちゃん」
 ジャニスが俺の肩をポンと叩き、初狩成功おめでとう、と言ってくれた。
「見事なもんだ」
 オスカーがシャンブルの首の後ろを確認し、たった1センチほどの穴で急所を貫いた翔平の弾丸魔法を褒める。
「よし、すぐに確認して処理しよう」
 オスカーがナイフを取り出し、ジャニスはシャンブルの体に両手を翳すと、その両手の前に20センチほどの魔法陣が出現し、魔石の反応を探していく。

 狩猟祭の集積場で、スタッフがスクロールをかざして同じ作業をしていたが、その魔法陣と同じものだと気付いた。

「あ、あった。あったわよ!」
 ジャニスがかざした魔法陣が光り、魔石の反応を示した。嬉しそうに微笑み俺を振り返る。
 シャンブルの足の付け根に反応を見つけ、オスカーがその場所にナイフを突き立てて裂いて行く。
 ナイフを何度か突き刺し切り込みを入れ、皮と肉を捲る作業に、血が流れ、鉄臭く生臭い匂いが充満した。
 その光景に顔を背けたくなったが、俺が命を奪った動物に対して敬意を表すために最後まできちんと見ることにした。
 オスカーが腕をズボッと切り裂いた肉の中に突っ込み、指先の感覚で魔石を探す。
「お」
 そしてその指に触れた硬い感触に声を出すと、見つけた魔石を握り腕を引きずり出した。
「水出してくれ」
 そう言われ、オスカーの前で両手を翳すと水魔法を使う。
 魔法陣からジャバジャバと流れる水で、腕と魔石についた血を洗い流す。
「初めてで、運がいいわね」
 オスカーの手に乗せられた魔石を見て、ジャニスが嬉しそうに笑った。
「ほら。お前のだ」
 手を差し出され、その魔石を受け取る。
 4、5センチの歪な形をした魔石を手にして嬉しくて俺も笑った。
「ありがとう」
 2人と、そしてシャンブルにも感謝した。

 それからはジャニスもナイフを取り出し、オスカーと2人で獲物の下処理を始める。
 腹を割き内臓を取り出して1箇所にまとめると、オスカーに指示されて、結界魔法で全てを包み込み、その中で火魔法を使って完全に燃やし尽くす。
 その間、2人は内臓のあった腹の中を水魔法でじゃぶじゃぶ洗い流す。
 ジャニスが持っていたロープで、シャンブルの足をきつく縛ると、適当な太さの枝にロープを引っ掛けて、身体強化の魔法を使いながらその巨体を木に吊るした。
 最後にオスカーが首元の動脈に切り込みを入れ血抜きをする。
 30分かけて下処理を終えて、丁寧に自分たちについた血を洗い流すと、最後にシャンブル周辺に結界と隠蔽の魔法を施した。
 肉食の動物が匂いに釣られてやってくるのを防ぐためと、他の狩猟者に見つからないようにするためだった。
「これでよし。このまま放置して、最後に取りに来よう」
 2人の手際の良さに感嘆する。
「すごいな…」
 生まれて初めて狩りをしたことも、その処理方法を最初から最後まで見たことにも感動した。
 動物を狩る、という行為が単純なものではないと、その意味を改めて認識した。
「よくやったぞ」
 オスカーがいい獲物だ、と褒めてくれる。
「1個は手に入れたけど、同じくらいの大きさにしないと、あの子達拗ねるわよ」
 ジャニスが言い、確かに、と笑った。




 その後30分くらいで次の動物を見つけて狩ったが、魔石持ちではなかった。
 さらに続けて2匹狩り、2匹とも魔石持ちではあったが、合計3つになった魔石の大きさが揃わず、さらに獲物を探す。





 朝ゆっくり起きて、しばらく騎士用天幕の中でダラダラしていたが、いつまでもそうしているのもな、と欠伸をしながら外に出た。
 翔平に会いに天幕に行くと、そこに姿はなく首を傾げる。
 一緒にいるはずのオスカーとジャニスも見当たらない。
「なぁ、ショーヘー見なかったか?」
 王族用天幕に近付き、シドニーに声をかけた。
「さぁ。わからないわ。さっきディーゼル様にも聞かれたけど…」
 シドニーが首を傾げる。
 天幕に入り、中にいるアランとキースにも聞くが、2人ともわからないと答えた。
「見つからないんですか?」
 キースが慌てたように立ち上がるが、それをアランが止める。
「オスカーもジャニスもいないから、きっと散歩にでも行ったんだと思うが…」
 護衛2人も一緒だろうと言うとキースがホッとする。
「もうちょっと探してみる」
 言いながらロイが出ていき、アランがすぐにキースに耳打ちして、翔平がどこにいるのかを教えた。
 アランは朝にグレイから翔平の行動を知らされていた。
 ロイとディーには内緒に、と微笑み、キースも翔平の行動力に笑う。
「あ、ロイ」
 ぶらぶらしながら翔平を探すのをディーが見つける。
「ディー、ショーヘー知らねーか」
「私も探してるんですよ…」
 2人で首を傾げる。
「何やってんだ」
 そこにグレイが通りかかり、2人に声をかけた。
「ショーヘーが」
「ショーヘイさんが」
 2人が同時に言い、グレイが笑う。
「ショーヘーなら、色々見てくるってオスカー達と出て行ったぞ」
「色々って」
「街の方も、後夜祭の準備も見にいくって言ってたぞ」
「そうなんだ…」
 2人が、翔平に置いて行かれたことに目に見えて不機嫌になった。
 そんな2人を見てグレイはほくそ笑む。
 お前らのために魔石を取りに行ってんだよ、と心の中で笑った。







 昼近くになって、獲物を回収する時間を考えると、次で最後という話になった。あれからさらに2匹狩ったが、魔石持ちではなく、手に入れたのは大きさがまちまちの3つだけだった。
「お、あれは…」
 オスカーが森の中の水場で水を飲んでいる動物を見つける。
「こんな浅い場所で珍しいな」
 見つけたのは、難易度10のメラという爬虫類のような姿をした動物だった。
 頭頂部から尻尾まで7、8mあり、その背中にびっしりと硬そうな突起が並び、全身を鱗が覆っていた。その口には下顎から突き出した牙が4本生えており、頭を水の中に突っ込んで水を飲んでいた。
「あれの急所は尾の付け根だ。かなり硬いから、少し魔力の出力を上げた方がいい」
「硬いってどのくらい?」
「そうね…。厚さ3センチの鉄板って感じかしら」
「あの大きさなら5センチの厚さはありそうだ」
 そう2人に助言されて、水場の反対側の低木の影に隠れながら、その尾の付け根を狙う。
 魔力の出力を言われた通り上げる。
 厚さ5センチの鉄板を撃ち抜く強度、とイメージしながら、今までの倍ほどの魔力を圧縮して弾丸に変換した。

 ドン

 しゃがんで狙っていたが、今までよりも弾丸を放った時の反動が大きくて、尻餅をついてしまった。

 弾丸が真っ直ぐメラに飛ぶ。
 だが、メラがその魔力に気付いて顔を上げると、逃げるような動きを見せた。
「あ、やば」
 外れる、と思い、咄嗟に飛んでいく弾丸の軌道を指先を動かして変更する。
 大きくカーブした弾丸がメラを襲い、その体に当たった瞬間、尻尾の付け根を外して背中の一部をボッと抉り取る。
 急所は完全に外したが、背中の三分の一を失ったメラがその場に倒れた。
「おいおい…」
 途中で魔法の軌道を変えるという荒技にオスカーが呆れたように笑った。
 しかも、撃ち抜かれた場所が消失するという威力にジャニスも笑う。
「やっぱり非常識ね~」
 2人に笑われながらも、水場を回り込んでメラの元に向かった。

 すぐにジャニスが魔石の確認をする。
「み~っけ」
 その胸のあたりに魔石の反応があり、オスカーが手早く取り出してくれた。
「お、大きさ揃ったな」
 3つの内の一つと大きさが揃い、3センチほどの魔石が2つになった。
「良かった~これで喧嘩にならずにすむ」
 ホッとして言うと、2人が声に出して笑った。

 硬い鱗に苦戦しながらも処理を終え、最後のメラは血抜きをする時間がないため傷口を焼いて止血した後、ロープを尻尾に括り付けると、身体強化の魔法で筋力を上げズルズルと引きずって歩き出す。
 戻りながら狩った獲物を回収していくが、流石に巨体もあるため、一度に回収は無理だと、持てる獲物だけを3人でそれぞれ引きずって行く。

 途中、森の中の数カ所に設けられた集積場に獲物を置くと、引き返して残りの獲物を回収した。
 その獲物を集積場に備え付けられたリアカーのような4輪の台車に積み込むとオスカーが引き、左右を2人で押して運んだ。
 身体強化の魔法をかけているため苦ではないが、それでも森から抜けるまで1時間以上かかり、そこからさらに街の処理場まで認識阻害の魔法を使いながら運んだ。まさか聖女が狩りをして獲物を運ぶ姿を見られるわけにも行かない。
 処理場で獲物を売却し、3人で少しだけ街を散策した後、天幕に戻った。






 天幕に戻った後すぐに着替えて、汚れた服をしまい、通常通りに戻る。
 何もなかったようにそのまま3人でお茶を飲んでいると、ロイとディーがやってきた。
「あーいたー!」
 ロイがやっと見つけたと、俺に近付きいつものように抱きついて匂いを嗅ぐ。
「色々散策してきた」
「酷いですよ、置いてくなんて」
 ディーがブーブーと不貞腐れながらも、ロイと同じように俺を抱きしめてくる。
 そんな2人の甘えた行動に笑いながら、ごめんごめんと頭を撫でる。
「後夜祭まであと数時間あるから、イチャイチャしよ~」
 2人に両腕を掴まれると、ズルズル引きずられてソファに移動させられた。
「お前達がいるなら俺たちは一度戻るわ」
 オスカーとジャニスが立ち上がり天幕を出ようとする。
「あ、オスカー、ジャニス。本当にありがとう」
 お礼を言うと2人がニコニコと手を上げて出ていった。
「なんだ?」
「街で甘いもの奢ってもらったんだ」
 そう答えると、2人とも何も疑問に思わずに、そうなんだ、とくっついてきた。

 後夜祭まで数時間あるが、その内の1時間はまた準備になる。
 1時間と少しの間、久しぶりに3人きりになり、まったりとした時間を過ごした。
 2人に甘えられ、俺も2人に甘える。
 時々キスをして、頭を腕を優しく撫でられる。
 こんな優しい時間がとても嬉しくて、癒された。


 2人に魔石を贈ったらどんな顔をするかな。喜んでくれるよな。


 その時を想像しながら甘い一時に心が満たされた。
 






 

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