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王都編 〜狩猟祭 ハニートラップ〜
164.おっさん、動物図鑑を見る
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シェリーが俺の前に絵本のような冊子を差し出した。
そんなに厚いものでもなく、カタログのような冊子のタイトルを読む。
“アストリア動物図鑑”
そのタイトルに興味をそそられる。
「アストリアで初めて狩りをされる方へ無料で配布している冊子なんです。
聖女様も初めてですから」
シェリーに言われ、そのページを捲ると、ここアストリアで狩ることの出来る全種類の動物が載っていた。
動物の絵、大きさ、出没場所、弱点、難易度などが細かく分類されて掲載されいた。
まんまモンスター図鑑だ。
元の世界でプレイしたゲームにもあった図鑑が実際目の前にあって、それだけでワクワクする。
旅の間ロイ達がよく狩っていたウサギのような動物は「シュタット」という名前だと初めて知った。難易度は星一つも無く、超初心者向けの獲物だとわかり、俺も狩れるかな、と本気で思ってしまった。
「森の奥に行けば行くほど、大物が出没しますが、難易度も上がっていくんです」
「へぇ~」
1ページづつ捲るにつれて、難易度が上がっていくようで、星1つ以下のシュタットから、星15個の超難易度でレア動物の「ゾマ」と呼ばれる長い毛を持つ熊のような動物が紹介されていた。
「本当にご存知ないのね…」
興味深々と冊子を眺めて熟読している俺の姿を見て、エリカが驚く。
「ええ…。初めて見る動物ばかりです…」
この世界での一般的な動物のことも忘れてしまっている記憶喪失の聖女に、エリカは同情の目を向ける。
「これから狩られた動物が運び込まれますから、後で近くまで見に行ってみますか?」
ニコールがそう言ってくれて、是非、と目を輝かせた。
「この辺の難易度が高い動物も見れますかね」
難易度の星がたくさんある動物のページを指差しながら聞いた。
「きっと見れますよ。
去年も最高ランクのゾマを狩った人がお二方いらっしゃいました」
「へ~。去年の優勝者ですか?」
「ええ。獣士団団長のグスタフ様と帝国の騎士ラファエル様です。
同じゾマなのですが、若干ラファエル様のゾマの方が大きく傷も少なくて、ラファエル様が優勝されました」
「今年はお二人とも参加されてないのが残念ですわね」
「現獣士団団長と元獣士団団長の戦いも見たかったですわ」
ニコールとエリカが残念だというように笑った。
「数年前にロイ様が優勝された時の記録は未だに破られていません。
狩ったのもやはりゾマだったのですが、その大きさが通常のものとは違っていて」
「ほんと、あれは凄かったですね」
ニコールがよく覚えていると言った。
通常のゾマは大きくても7~8m。だがその年にロイが狩ったゾマは14mで、倍の大きさだったという。
「あの時に取れた魔石、オークションにかけられて白金貨900枚の値がついたそうですわよ」
ブリアナが鼻息を荒くしながら興奮する。
「かなりの大きさでしたものね」
そんな女性達の会話を聞きながら、魔石という新たな言葉に宝石みたいなものか?と首を傾げつつ、出てきた金額を頭の中で計算してみた。
銅貨1枚が120円と仮定して、白金はその1000倍だから…。
1億800万!!??
その金額にピャッと体が反応し驚いてしまった。
もしかしてロイってかなりのお金持ち…?
そういえば、ディーは王族だからともかくとして、ロイやグレイがどのくらいのお給料をもらっているのかなんて考えたことがなかった。
というかこの世界の平均年収ってどのくらいなんだろうと、下世話なことを考える。
「色々と手数料や税金を差し引かれて、ロイ様の手元には白金貨400というところですわね」
俺の考えを見抜いたかのようにシェリーが教えてくれる。
それでも5,000万近いじゃん。
俺の年収の7年分じゃねーか。
ひょんなことで知ったロイの懐事情に何故か汗が出る。
それに付随して、買ってもらったペアピアスが一体幾らだったのか、ついていた値札を思い出そうとして、0の数が多かったということだけしか思い出せず、さらに汗が滲み出てしまった。
「あ、あの…魔石って、何ですか?」
お金の話から遠ざかりたくて、狩りの副産物らしい魔石のことを聞く。
「ああ…、そうですわよね。ご存知ないわよね」
ニコールがキョトンとした後、翔平の記憶喪失を思い出す。
「動物の中には、魔素が体内で結晶化した魔石を持つ個体がいるんです」
「へぇ…」
「ただ、魔石を持つのは全体の半分ほどで、見た目だけでは魔石持ちだとはわかりませんから、見つかればラッキーだったという感じです」
「それに、魔石の大きさも様々で、個体の大きさに比例しているわけでもないんです。
難易度が高い動物は魔石持ちの可能性は高いですが、危険でもあるんですよ」
「魔石を狙って大型の動物を狩っても魔石持ちじゃない、あっても1センチ以下なんて珍しくないですわね」
「通常見つかるのは大きくても3センチ程度で、そんなに高値にはなりません」
「それじゃ、そのロイが取った魔石って」
「30センチ以上はありましたね。
あんな大きさの魔石、初めて見ました」
ニコールが真剣に言う。
「コンテストの評価に魔石は入っていないんですか?」
「ええ。狩りの腕を競うコンテストですから、魔石は関係ありません」
「コンテストは、獲物の種類、大きさ、比重、状態、各100点満点の加点方式の合計点で順位が決まります」
シェリーが別の用紙を取り出すと、それを見せてくれる。そこには動物の種類が一覧になっており、点数がつけられていた。
もちろん、最高難易度のゾマは100点。最低ランクのシュタットは5点だった。
「なるほど~。
あ、でも、大きな個体はここに運べないんじゃ…」
「そこは専門のスタッフが運ぶことになっているんです。
参加者が狩って、運べない程の大きな獲物の場合は、信号弾を打ち上げもらい、スタッフが回収しに行く、という手筈になっています」
「すご…」
さすが何年も続いてきた狩猟祭。
その運営側の仕事の手厚さに感嘆する。
まさに、このような説明を昨日の会場案内の時に聞きたかった、と心の中でアレらを嘲笑った。
「シェリー様。魔石の話が出たので、もう一つのイベントの方も説明した方が…」
ブリアナがシェリーに詰め寄るように言った。
もう一つのイベントと聞いて、すぐに告白イベントを思い出す。
「聖女様はサブイベントの方はご存知ですか?」
「あー…、はい。教えてもらいました。
獲物を意中の相手に贈って告白するって…」
苦笑いをしつつ答える。
つい昨日の夜、獲物を捧げると公の場で公言されたばかりだ。
「まさにそのイベントで魔石が使われるんですよ!」
ブリアナが目をキラキラさせて俺に詰め寄る。
「魔石を…?」
「ええ!魔石は宝石と同格ですから、魔石を贈るんです!」
「は、はぁ…」
ブリアナが頬を紅潮させて鼻息を荒くする。
「毎年、もうあちこちでカップルが成立していて。私はそれを見るのが楽しみで…」
ブリアナが自分の頬を両手で包み、照れながら嬉しそうな表情を浮かべ、それを見ているだけで、俺も何故か嬉しくなってくる。
本当にこの女性は恋愛話が大好きなんだなと思った。
「聖女様は何方かお選びになるつもりですの?」
「え?」
ニコールとエリカ、ブリアナが興味津々と言った感じで俺の顔を見る。
「あ…あー…いえ…俺は…」
思わず素に戻ってしまった。
シェリーは扇子で顔を隠しながら、そんな俺にほくそ笑む。
彼女は俺とロイ、ディーの関係を知っているが、何も言えない。それでも、俺の反応が面白いらしく、扇子越しに見える目が笑っていた。
「昨日、メルヒオール様が聖女様に求婚なさった時、もう…キュンキュンしちゃいましたわー」
ブリアナが身をくねらせて身悶えらせ、俺はジャニスを想像してしまった。
「さらにバシリオ様や、ディーン様、デイヴィス様…錚々たる方達ですわ」
エリカも楽しそうに言い、ニヤけてしまうのを隠すかのように扇子を広げた。
「聖女様は昨日の方々の中で好みのタイプはいらっしゃらなかったの?」
ニコールも揶揄うように俺を見る。
「そう言われましても…」
苦笑しつつ答えるが、女性達のニヤケ顔は止まらない。
「昨日求婚された方達で、コンテストに参加された方は、間違いなく魔石を持っていらっしゃいますわよ。
魔石が上手く手に入れば、の話ですけど」
シェリーに追い討ちをかけられ、あははと乾いた笑いを漏らした。
「あ、でも、その魔石はどうしたらいいんですか?
受け取ったら了承したことになるんですか?」
断るつもり満々なのだが、差し出された魔石はどうすればいいのだろうと思った。
「それは贈り物ですから受け取ってください。
お気持ちに応えるかどうかは、言葉でお返事を」
「言葉…ですか…」
思わず、昔見た某テレビ番組の「ごめんなさい!」という申し込みを断るシーンを思い出し、自虐的に笑ってしまった。
断るのは確定しているが、どんな言葉を言えばいいんだろうと思い、まずは誰か別の人の告白を見たいな、出来れば断るシーンを、と考えた。
ニコールやエリカ、ブリアナも独身女性だ。シェリーはアビゲイルがいるから除くとして、彼女達に告白する人はいないのだろうか、とそっと女性陣の顔を見渡す。
そう言えばアントニーは…。
ニコールの弟は告白したい相手がいると言ってロイに狩りを教えてもらったはずだ。
この中にその相手がいるんだ、と周囲を見渡す。相手が貴族なのか一般人なのか、それはわからないが、彼の告白を早く見たいと思ってしまった。
そんな同席した女性陣達と会話が弾み時間は過ぎて行く。
まるで女子会の中の混ざったようで、何となく気恥ずかしくなってしまった。
ステージの方から、どこどこの誰が何の獲物を狙って逃げられた、など、色々な話が実況されていた。
スタート地点から森に3km程入った所で、ロイが木の上から2人組の男を見つける。
「ブラッド、グレイ。見つけたぞ。
さっき別れた所から北西に2km。双子岩から東に100mくらいの所だ」
「了解。5分で行く」
「了解」
ロイはそのまま気配を消し、じっと2人の行動を上から監視する。
シギアーノの私兵の装備を身につけ、1人は弓矢、1人は長剣を携えているが、先ほどからその場所を動かず、かといって獲物を探す風でもなく、倒木に腰掛けて雑談している。
そのまま様子を伺っていると、男の1人が持っていた鞄から何か筒状のものを取り出し、もう1人の方へ渡していた。
なんだありゃ。
数本の筒状のものをそれぞれが持ち、何やら指をさしながら場所を確認しているようだった。
きっかり5分後、ブラッドが近くまで来たことを通信で知らせてきた。さらにその1分後にはグレイからも通信が入る。
それぞれが木の上にいるが、互いの姿は見えていない。
「ブラッド。あいつらが見えるか」
「ああ、見えてる」
「俺もだ」
「顔はどうだ。ハイメか?」
「ヘッドガードのせいで顔までは見えんな」
「どうするよ、隊長」
「隊長止めろw」
ブラッドの押し殺した笑い声がする。
「見たところ大したことねぇな。一気に抑えるわ」
「了解」×2
「状況開始」
ブラッドの合図と当時に、一気に3人が木から地面に飛び降り、そのまま猛ダッシュで2人組に3角形の布陣で襲いかかった。
ザン!ザッザッザ
草木をかき分けて移動する音に2人組は何か動物が近くにいると思い、あたりを見渡す。
だが、向かってくるグレイの姿を見つけると、逆方向に背中を向けて慌てて逃げ出した。
それを、左右斜め方向から向かったロイとブラッドが瞬時に速度を上げ、2人組がロイ達に気付いた時には、目の前に迫っており、武器を構える間もなくあっさりと2人の拳で顔面を殴られて吹っ飛ばされていた。
「あっけねえな」
追ってきたグレイが、一発で気絶した2人組を見下ろして、全く自分の出番がなかったことに、面白くない、と文句を言いつつ、そのヘッドガードを取る。
「違うな。ハイメじゃない」
2人の顔を確認したブラッドが呟きつつ、持っていたロープで2人を拘束する。
ロイが2人が持っていた筒状のものを拾い上げて何かを確認する。
「ブラッド」
確認し、それを一本ブラッドに放り投げ、それを受け取ったブラッドが筒を縛っていた紐を解く。
「なるほどね…」
それは魔法陣が描かれたスクロールだった。
「何のスクロールだ?」
「時限発火魔法だな。しかもかなり派手だ。周囲に火が飛び散るように炸裂の陣も描かれてる」
ロイが、2人組が持っていたスクロールを全て拾い上げると、数えてから元の鞄にしまい込んだ。
「全部で8箇所にしかけるつもりだったってことか」
「発火時間は?」
「午後1時。約2時間後だな」
「で、隊長、この後は?」
「だから隊長止めろってww」
ブラッドが笑いながら拘束した2人をさらに木に括りつけ、周囲に隠蔽、遮音、結界を重ねがけした。
「こいつらは、終わった後で回収する」
よっこらせと、倒木に腰掛けると、ブラッドが少し考え込む。
それをロイとグレイはニヤニヤしながら黙って指示を待った。
「こいつらは陽動だな。
午後1時に発火魔法が起動して爆発炎上。ここまで派手な魔法なら会場警備の人員も消火に回されるはずだ。
おそらく警備が手薄になった所を狙うつもりなんだろうが…」
ブツブツと独り言を呟き、また黙り込む。
「よし。ロイ、そのスクロール寄越せ」
「はいよ」
ブラッドが投げられたカバンを受け取ると、ひっくり返して8本のスクロールを地面に落とした。
それを1枚1枚開くと、その上に手を翳し、魔力を注ぎ込む。
「解除、光…音…」
ブツブツ呟きながら描かれた魔法陣を書き換えて行く。
「相変わらず器用だな」
グレイが近付き、その作業を間近で見ながら感心したように言う。
「傭兵なんてものは、1人でなんでも出来ないと命がいくつあっても足りねえからな」
1枚づつ丁寧に8枚全ての魔法陣を書き換えた。
「これでよし。すまんが、手分けしてこれを仕掛けてきて欲しい」
ロイとグレイに4本づつ手渡す。
「後は1時までに会場に戻ってくれ」
「了解」
「説明頼むわ」
グレイが苦笑しながら言う。ロイはブラッドが何をしようとしているのかわかっているようで何も言わなかった。
「あ、ついでだから、これに喋ってくれ」
ロイが耳につけていたイヤーカフを外すとブラットに渡す。
「関係者に繋がってる」
それを聞いてブラッドが苦笑した。
自分達3人だけの通信用魔鉱石以外に、アランやディー達とも連絡を取り合っていたことを今知った。
「最初から言えよ」
受け取りながら文句を言い、あーあーと声を上げた。
「ブラッドだ」
「ブラッド。調子はどうです?」
ディーの声が聞こえる。
「こっちの状況を説明しろと、ロイに言われてな。
おい、これ、何人聞いてんだ」
イヤーカフを口元から離しロイに確認するが、その声も筒抜けで次々に、聞いてるよー、聞いてる、聞いてます、と返事が聞こえてきた。
「アランだ。状況説明を頼む」
「了解。
こっちで私兵2名を拘束した。残念ながらハイメじゃない。
ただし、持ち物からその目的がわかった。
コンテストに参加した2名は時限発火魔法のスクロールを持っていた。森の中にそれを仕掛け、午後1時に爆発炎上する手筈だったらしい」
「発火って、山火事を起こすつもりだったんですか」
「ああ。かなり大規模な火災になったはずだ。
ハイメはその火災の混乱で、侯爵が会場から脱出避難した所を狙う予定だったと思う」
「私兵警護として避難誘導し連れ出して人知れずってことね」
アビゲイルが納得したように応える。
「そうだ。まぁ、こっちで事前に捕まえたわけだから、もうそれはねえがな。
だが、ハイメを捕らえるために、この発火魔法を利用することにした。
魔法陣を書き換えて、爆発音と光だけが午後1時に起動する。勿論火魔法は解除済みだ」
「スクロールの書き換えが出来るのか。やるなぁ」
フィンが感心したように声を上げる。
「おそらく、ハイメは陽動が上手くいったと思い行動を起こすだろう。
音で会場もパニックになるかもしれんが、その中で侯爵を連れ出すはずだ」
「その連れ出した先で捕縛するわけだな」
「そうだ。おそらく奴は会場から離れ、予定している場所に向かうはずだ。
会場にいる奴らで、奴の監視を出来る奴はいるのか?」
「今、監視に1人ついている」
「出来れば、避難誘導先を先に把握しておきたい。
奴が頻繁に立ち寄る場所、出入りする場所を突き止めてくれ」
「了解。フィン、エミリア、監視と合流して場所を突き止めろ」
アランが指示を出すと、了解と2人がすぐに応えた。
「それから、侯爵が避難した後、混乱する会場の対応も頼む」
「それは私が」
シェリーが応え、その声にブラッドが驚く。
「は!?シェリー嬢か!?」
「俺もいるぞ」
翔平も応え、ブラッドがハハッと笑う。
「何がどうなってんだかw」
「オスカー、ジャニス、オリヴィエ。シェリーの指示に従ってくれ。
現時点でショーへーの護衛はキースだけに任せる」
さらにアランが翔平の護衛にも指示を出した。
「ブラッド」
アランが声をかける。
「ハイメの捕縛に全面的に協力するが、一つだけ頼みがある」
「なんだ」
「ハイメを雇ったのがジャレッドだというのは、まだ黙っていて欲しい。
あくまでもブラッドは指名手配犯の確保だけという体で。
勿論、こちらの件が済めば引き渡す」
「……まぁ、そちらさんも色々あるようだし…ジャレッドも侯爵暗殺の首謀者だからそっちの罪もな…。
わかった。俺はハイメだけに集中する」
「すまんな」
「それじゃ、そういうことでよろしく」
了解、と全員の声がして通信が終了した。
「何をしようとしてるんだか…」
ニヤニヤと笑いながらロイにイヤーカフを返した。
「終わればわかる」
ロイが笑いながら応え、元の耳に装着した。
「よし、それじゃ、俺は適当に何か狩って会場に戻るわ」
「俺たちも仕掛けたら、すぐに戻る」
「任せた」
3人でゴツンと拳をぶつけ合い、ブラッドがその場から立ち去る。
ロイとグレイもその場で別れ、スクロールを仕掛けに走った。
会場でブラッドからの通信が始まると、シェリーが俺を誘って静かに席を離れると、会場内の説明に回るフリをしながら隅の方へ移動した。
勿論、キースと護衛3人も一緒だ。
ブラッドからの作戦内容を聞きながら、一気に動き始めた状況に、少なからず興奮していた。
通信が終わるとすぐに、黒騎士アリーから連絡が入り、例の私兵3人の居場所が伝えられ、フィンとエミリアが監視に向かった。
現在午前11時過ぎ。
まだ獲物を持って戻ってきた者は1人もおらず、ランキングボードも真っ白なままだった。
約2時間後に、状況が大きく動き出す。
俺が出来ることは何もないだろうが、その行く末を見守ろうと心に決めた。
そんなに厚いものでもなく、カタログのような冊子のタイトルを読む。
“アストリア動物図鑑”
そのタイトルに興味をそそられる。
「アストリアで初めて狩りをされる方へ無料で配布している冊子なんです。
聖女様も初めてですから」
シェリーに言われ、そのページを捲ると、ここアストリアで狩ることの出来る全種類の動物が載っていた。
動物の絵、大きさ、出没場所、弱点、難易度などが細かく分類されて掲載されいた。
まんまモンスター図鑑だ。
元の世界でプレイしたゲームにもあった図鑑が実際目の前にあって、それだけでワクワクする。
旅の間ロイ達がよく狩っていたウサギのような動物は「シュタット」という名前だと初めて知った。難易度は星一つも無く、超初心者向けの獲物だとわかり、俺も狩れるかな、と本気で思ってしまった。
「森の奥に行けば行くほど、大物が出没しますが、難易度も上がっていくんです」
「へぇ~」
1ページづつ捲るにつれて、難易度が上がっていくようで、星1つ以下のシュタットから、星15個の超難易度でレア動物の「ゾマ」と呼ばれる長い毛を持つ熊のような動物が紹介されていた。
「本当にご存知ないのね…」
興味深々と冊子を眺めて熟読している俺の姿を見て、エリカが驚く。
「ええ…。初めて見る動物ばかりです…」
この世界での一般的な動物のことも忘れてしまっている記憶喪失の聖女に、エリカは同情の目を向ける。
「これから狩られた動物が運び込まれますから、後で近くまで見に行ってみますか?」
ニコールがそう言ってくれて、是非、と目を輝かせた。
「この辺の難易度が高い動物も見れますかね」
難易度の星がたくさんある動物のページを指差しながら聞いた。
「きっと見れますよ。
去年も最高ランクのゾマを狩った人がお二方いらっしゃいました」
「へ~。去年の優勝者ですか?」
「ええ。獣士団団長のグスタフ様と帝国の騎士ラファエル様です。
同じゾマなのですが、若干ラファエル様のゾマの方が大きく傷も少なくて、ラファエル様が優勝されました」
「今年はお二人とも参加されてないのが残念ですわね」
「現獣士団団長と元獣士団団長の戦いも見たかったですわ」
ニコールとエリカが残念だというように笑った。
「数年前にロイ様が優勝された時の記録は未だに破られていません。
狩ったのもやはりゾマだったのですが、その大きさが通常のものとは違っていて」
「ほんと、あれは凄かったですね」
ニコールがよく覚えていると言った。
通常のゾマは大きくても7~8m。だがその年にロイが狩ったゾマは14mで、倍の大きさだったという。
「あの時に取れた魔石、オークションにかけられて白金貨900枚の値がついたそうですわよ」
ブリアナが鼻息を荒くしながら興奮する。
「かなりの大きさでしたものね」
そんな女性達の会話を聞きながら、魔石という新たな言葉に宝石みたいなものか?と首を傾げつつ、出てきた金額を頭の中で計算してみた。
銅貨1枚が120円と仮定して、白金はその1000倍だから…。
1億800万!!??
その金額にピャッと体が反応し驚いてしまった。
もしかしてロイってかなりのお金持ち…?
そういえば、ディーは王族だからともかくとして、ロイやグレイがどのくらいのお給料をもらっているのかなんて考えたことがなかった。
というかこの世界の平均年収ってどのくらいなんだろうと、下世話なことを考える。
「色々と手数料や税金を差し引かれて、ロイ様の手元には白金貨400というところですわね」
俺の考えを見抜いたかのようにシェリーが教えてくれる。
それでも5,000万近いじゃん。
俺の年収の7年分じゃねーか。
ひょんなことで知ったロイの懐事情に何故か汗が出る。
それに付随して、買ってもらったペアピアスが一体幾らだったのか、ついていた値札を思い出そうとして、0の数が多かったということだけしか思い出せず、さらに汗が滲み出てしまった。
「あ、あの…魔石って、何ですか?」
お金の話から遠ざかりたくて、狩りの副産物らしい魔石のことを聞く。
「ああ…、そうですわよね。ご存知ないわよね」
ニコールがキョトンとした後、翔平の記憶喪失を思い出す。
「動物の中には、魔素が体内で結晶化した魔石を持つ個体がいるんです」
「へぇ…」
「ただ、魔石を持つのは全体の半分ほどで、見た目だけでは魔石持ちだとはわかりませんから、見つかればラッキーだったという感じです」
「それに、魔石の大きさも様々で、個体の大きさに比例しているわけでもないんです。
難易度が高い動物は魔石持ちの可能性は高いですが、危険でもあるんですよ」
「魔石を狙って大型の動物を狩っても魔石持ちじゃない、あっても1センチ以下なんて珍しくないですわね」
「通常見つかるのは大きくても3センチ程度で、そんなに高値にはなりません」
「それじゃ、そのロイが取った魔石って」
「30センチ以上はありましたね。
あんな大きさの魔石、初めて見ました」
ニコールが真剣に言う。
「コンテストの評価に魔石は入っていないんですか?」
「ええ。狩りの腕を競うコンテストですから、魔石は関係ありません」
「コンテストは、獲物の種類、大きさ、比重、状態、各100点満点の加点方式の合計点で順位が決まります」
シェリーが別の用紙を取り出すと、それを見せてくれる。そこには動物の種類が一覧になっており、点数がつけられていた。
もちろん、最高難易度のゾマは100点。最低ランクのシュタットは5点だった。
「なるほど~。
あ、でも、大きな個体はここに運べないんじゃ…」
「そこは専門のスタッフが運ぶことになっているんです。
参加者が狩って、運べない程の大きな獲物の場合は、信号弾を打ち上げもらい、スタッフが回収しに行く、という手筈になっています」
「すご…」
さすが何年も続いてきた狩猟祭。
その運営側の仕事の手厚さに感嘆する。
まさに、このような説明を昨日の会場案内の時に聞きたかった、と心の中でアレらを嘲笑った。
「シェリー様。魔石の話が出たので、もう一つのイベントの方も説明した方が…」
ブリアナがシェリーに詰め寄るように言った。
もう一つのイベントと聞いて、すぐに告白イベントを思い出す。
「聖女様はサブイベントの方はご存知ですか?」
「あー…、はい。教えてもらいました。
獲物を意中の相手に贈って告白するって…」
苦笑いをしつつ答える。
つい昨日の夜、獲物を捧げると公の場で公言されたばかりだ。
「まさにそのイベントで魔石が使われるんですよ!」
ブリアナが目をキラキラさせて俺に詰め寄る。
「魔石を…?」
「ええ!魔石は宝石と同格ですから、魔石を贈るんです!」
「は、はぁ…」
ブリアナが頬を紅潮させて鼻息を荒くする。
「毎年、もうあちこちでカップルが成立していて。私はそれを見るのが楽しみで…」
ブリアナが自分の頬を両手で包み、照れながら嬉しそうな表情を浮かべ、それを見ているだけで、俺も何故か嬉しくなってくる。
本当にこの女性は恋愛話が大好きなんだなと思った。
「聖女様は何方かお選びになるつもりですの?」
「え?」
ニコールとエリカ、ブリアナが興味津々と言った感じで俺の顔を見る。
「あ…あー…いえ…俺は…」
思わず素に戻ってしまった。
シェリーは扇子で顔を隠しながら、そんな俺にほくそ笑む。
彼女は俺とロイ、ディーの関係を知っているが、何も言えない。それでも、俺の反応が面白いらしく、扇子越しに見える目が笑っていた。
「昨日、メルヒオール様が聖女様に求婚なさった時、もう…キュンキュンしちゃいましたわー」
ブリアナが身をくねらせて身悶えらせ、俺はジャニスを想像してしまった。
「さらにバシリオ様や、ディーン様、デイヴィス様…錚々たる方達ですわ」
エリカも楽しそうに言い、ニヤけてしまうのを隠すかのように扇子を広げた。
「聖女様は昨日の方々の中で好みのタイプはいらっしゃらなかったの?」
ニコールも揶揄うように俺を見る。
「そう言われましても…」
苦笑しつつ答えるが、女性達のニヤケ顔は止まらない。
「昨日求婚された方達で、コンテストに参加された方は、間違いなく魔石を持っていらっしゃいますわよ。
魔石が上手く手に入れば、の話ですけど」
シェリーに追い討ちをかけられ、あははと乾いた笑いを漏らした。
「あ、でも、その魔石はどうしたらいいんですか?
受け取ったら了承したことになるんですか?」
断るつもり満々なのだが、差し出された魔石はどうすればいいのだろうと思った。
「それは贈り物ですから受け取ってください。
お気持ちに応えるかどうかは、言葉でお返事を」
「言葉…ですか…」
思わず、昔見た某テレビ番組の「ごめんなさい!」という申し込みを断るシーンを思い出し、自虐的に笑ってしまった。
断るのは確定しているが、どんな言葉を言えばいいんだろうと思い、まずは誰か別の人の告白を見たいな、出来れば断るシーンを、と考えた。
ニコールやエリカ、ブリアナも独身女性だ。シェリーはアビゲイルがいるから除くとして、彼女達に告白する人はいないのだろうか、とそっと女性陣の顔を見渡す。
そう言えばアントニーは…。
ニコールの弟は告白したい相手がいると言ってロイに狩りを教えてもらったはずだ。
この中にその相手がいるんだ、と周囲を見渡す。相手が貴族なのか一般人なのか、それはわからないが、彼の告白を早く見たいと思ってしまった。
そんな同席した女性陣達と会話が弾み時間は過ぎて行く。
まるで女子会の中の混ざったようで、何となく気恥ずかしくなってしまった。
ステージの方から、どこどこの誰が何の獲物を狙って逃げられた、など、色々な話が実況されていた。
スタート地点から森に3km程入った所で、ロイが木の上から2人組の男を見つける。
「ブラッド、グレイ。見つけたぞ。
さっき別れた所から北西に2km。双子岩から東に100mくらいの所だ」
「了解。5分で行く」
「了解」
ロイはそのまま気配を消し、じっと2人の行動を上から監視する。
シギアーノの私兵の装備を身につけ、1人は弓矢、1人は長剣を携えているが、先ほどからその場所を動かず、かといって獲物を探す風でもなく、倒木に腰掛けて雑談している。
そのまま様子を伺っていると、男の1人が持っていた鞄から何か筒状のものを取り出し、もう1人の方へ渡していた。
なんだありゃ。
数本の筒状のものをそれぞれが持ち、何やら指をさしながら場所を確認しているようだった。
きっかり5分後、ブラッドが近くまで来たことを通信で知らせてきた。さらにその1分後にはグレイからも通信が入る。
それぞれが木の上にいるが、互いの姿は見えていない。
「ブラッド。あいつらが見えるか」
「ああ、見えてる」
「俺もだ」
「顔はどうだ。ハイメか?」
「ヘッドガードのせいで顔までは見えんな」
「どうするよ、隊長」
「隊長止めろw」
ブラッドの押し殺した笑い声がする。
「見たところ大したことねぇな。一気に抑えるわ」
「了解」×2
「状況開始」
ブラッドの合図と当時に、一気に3人が木から地面に飛び降り、そのまま猛ダッシュで2人組に3角形の布陣で襲いかかった。
ザン!ザッザッザ
草木をかき分けて移動する音に2人組は何か動物が近くにいると思い、あたりを見渡す。
だが、向かってくるグレイの姿を見つけると、逆方向に背中を向けて慌てて逃げ出した。
それを、左右斜め方向から向かったロイとブラッドが瞬時に速度を上げ、2人組がロイ達に気付いた時には、目の前に迫っており、武器を構える間もなくあっさりと2人の拳で顔面を殴られて吹っ飛ばされていた。
「あっけねえな」
追ってきたグレイが、一発で気絶した2人組を見下ろして、全く自分の出番がなかったことに、面白くない、と文句を言いつつ、そのヘッドガードを取る。
「違うな。ハイメじゃない」
2人の顔を確認したブラッドが呟きつつ、持っていたロープで2人を拘束する。
ロイが2人が持っていた筒状のものを拾い上げて何かを確認する。
「ブラッド」
確認し、それを一本ブラッドに放り投げ、それを受け取ったブラッドが筒を縛っていた紐を解く。
「なるほどね…」
それは魔法陣が描かれたスクロールだった。
「何のスクロールだ?」
「時限発火魔法だな。しかもかなり派手だ。周囲に火が飛び散るように炸裂の陣も描かれてる」
ロイが、2人組が持っていたスクロールを全て拾い上げると、数えてから元の鞄にしまい込んだ。
「全部で8箇所にしかけるつもりだったってことか」
「発火時間は?」
「午後1時。約2時間後だな」
「で、隊長、この後は?」
「だから隊長止めろってww」
ブラッドが笑いながら拘束した2人をさらに木に括りつけ、周囲に隠蔽、遮音、結界を重ねがけした。
「こいつらは、終わった後で回収する」
よっこらせと、倒木に腰掛けると、ブラッドが少し考え込む。
それをロイとグレイはニヤニヤしながら黙って指示を待った。
「こいつらは陽動だな。
午後1時に発火魔法が起動して爆発炎上。ここまで派手な魔法なら会場警備の人員も消火に回されるはずだ。
おそらく警備が手薄になった所を狙うつもりなんだろうが…」
ブツブツと独り言を呟き、また黙り込む。
「よし。ロイ、そのスクロール寄越せ」
「はいよ」
ブラッドが投げられたカバンを受け取ると、ひっくり返して8本のスクロールを地面に落とした。
それを1枚1枚開くと、その上に手を翳し、魔力を注ぎ込む。
「解除、光…音…」
ブツブツ呟きながら描かれた魔法陣を書き換えて行く。
「相変わらず器用だな」
グレイが近付き、その作業を間近で見ながら感心したように言う。
「傭兵なんてものは、1人でなんでも出来ないと命がいくつあっても足りねえからな」
1枚づつ丁寧に8枚全ての魔法陣を書き換えた。
「これでよし。すまんが、手分けしてこれを仕掛けてきて欲しい」
ロイとグレイに4本づつ手渡す。
「後は1時までに会場に戻ってくれ」
「了解」
「説明頼むわ」
グレイが苦笑しながら言う。ロイはブラッドが何をしようとしているのかわかっているようで何も言わなかった。
「あ、ついでだから、これに喋ってくれ」
ロイが耳につけていたイヤーカフを外すとブラットに渡す。
「関係者に繋がってる」
それを聞いてブラッドが苦笑した。
自分達3人だけの通信用魔鉱石以外に、アランやディー達とも連絡を取り合っていたことを今知った。
「最初から言えよ」
受け取りながら文句を言い、あーあーと声を上げた。
「ブラッドだ」
「ブラッド。調子はどうです?」
ディーの声が聞こえる。
「こっちの状況を説明しろと、ロイに言われてな。
おい、これ、何人聞いてんだ」
イヤーカフを口元から離しロイに確認するが、その声も筒抜けで次々に、聞いてるよー、聞いてる、聞いてます、と返事が聞こえてきた。
「アランだ。状況説明を頼む」
「了解。
こっちで私兵2名を拘束した。残念ながらハイメじゃない。
ただし、持ち物からその目的がわかった。
コンテストに参加した2名は時限発火魔法のスクロールを持っていた。森の中にそれを仕掛け、午後1時に爆発炎上する手筈だったらしい」
「発火って、山火事を起こすつもりだったんですか」
「ああ。かなり大規模な火災になったはずだ。
ハイメはその火災の混乱で、侯爵が会場から脱出避難した所を狙う予定だったと思う」
「私兵警護として避難誘導し連れ出して人知れずってことね」
アビゲイルが納得したように応える。
「そうだ。まぁ、こっちで事前に捕まえたわけだから、もうそれはねえがな。
だが、ハイメを捕らえるために、この発火魔法を利用することにした。
魔法陣を書き換えて、爆発音と光だけが午後1時に起動する。勿論火魔法は解除済みだ」
「スクロールの書き換えが出来るのか。やるなぁ」
フィンが感心したように声を上げる。
「おそらく、ハイメは陽動が上手くいったと思い行動を起こすだろう。
音で会場もパニックになるかもしれんが、その中で侯爵を連れ出すはずだ」
「その連れ出した先で捕縛するわけだな」
「そうだ。おそらく奴は会場から離れ、予定している場所に向かうはずだ。
会場にいる奴らで、奴の監視を出来る奴はいるのか?」
「今、監視に1人ついている」
「出来れば、避難誘導先を先に把握しておきたい。
奴が頻繁に立ち寄る場所、出入りする場所を突き止めてくれ」
「了解。フィン、エミリア、監視と合流して場所を突き止めろ」
アランが指示を出すと、了解と2人がすぐに応えた。
「それから、侯爵が避難した後、混乱する会場の対応も頼む」
「それは私が」
シェリーが応え、その声にブラッドが驚く。
「は!?シェリー嬢か!?」
「俺もいるぞ」
翔平も応え、ブラッドがハハッと笑う。
「何がどうなってんだかw」
「オスカー、ジャニス、オリヴィエ。シェリーの指示に従ってくれ。
現時点でショーへーの護衛はキースだけに任せる」
さらにアランが翔平の護衛にも指示を出した。
「ブラッド」
アランが声をかける。
「ハイメの捕縛に全面的に協力するが、一つだけ頼みがある」
「なんだ」
「ハイメを雇ったのがジャレッドだというのは、まだ黙っていて欲しい。
あくまでもブラッドは指名手配犯の確保だけという体で。
勿論、こちらの件が済めば引き渡す」
「……まぁ、そちらさんも色々あるようだし…ジャレッドも侯爵暗殺の首謀者だからそっちの罪もな…。
わかった。俺はハイメだけに集中する」
「すまんな」
「それじゃ、そういうことでよろしく」
了解、と全員の声がして通信が終了した。
「何をしようとしてるんだか…」
ニヤニヤと笑いながらロイにイヤーカフを返した。
「終わればわかる」
ロイが笑いながら応え、元の耳に装着した。
「よし、それじゃ、俺は適当に何か狩って会場に戻るわ」
「俺たちも仕掛けたら、すぐに戻る」
「任せた」
3人でゴツンと拳をぶつけ合い、ブラッドがその場から立ち去る。
ロイとグレイもその場で別れ、スクロールを仕掛けに走った。
会場でブラッドからの通信が始まると、シェリーが俺を誘って静かに席を離れると、会場内の説明に回るフリをしながら隅の方へ移動した。
勿論、キースと護衛3人も一緒だ。
ブラッドからの作戦内容を聞きながら、一気に動き始めた状況に、少なからず興奮していた。
通信が終わるとすぐに、黒騎士アリーから連絡が入り、例の私兵3人の居場所が伝えられ、フィンとエミリアが監視に向かった。
現在午前11時過ぎ。
まだ獲物を持って戻ってきた者は1人もおらず、ランキングボードも真っ白なままだった。
約2時間後に、状況が大きく動き出す。
俺が出来ることは何もないだろうが、その行く末を見守ろうと心に決めた。
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