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王都編 〜密会とデート〜
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早朝、自然と目が覚めた。
昨夜のシェリーの話が強烈過ぎて脳が活性化してしまって熟睡することが出来ず、浅い眠りの中繰り返し夢を見ていたような気がする。
薄目を開け、隣で俺に背中を向けて眠るロイの後頭部が視界に入り、もぞもぞと体を動かしてそのロイの背中にぴったりとくっついた。
「あったけー…」
小さく呟き、そのままぎゅっとロイに抱きつく。
だが、不意に頭を撫でられて、逆隣に眠っていたディーが起きたことに気付いた。
ロイから体を離して振り返ると、ディーが微笑みながら俺を見ていた。
「おはようございます」
ロイを起こさないように声を極限まで抑えながら挨拶され、俺もおはようと返しながら、今度はディーの方へ体を寄せ、正面から抱きしめ合うようにピッタリとくっつく。
ディーに腕枕をされながら優しく頭を撫でられ、頬や唇に触れてくるディーの手が心地よくて目を閉じた。
「あまりよく眠れなかったみたいですね」
ディーの指が目の下にうっすら出来た隈をなぞった。
「んー…」
ディーの指を感じながら目を閉じる。
ディーの唇が瞼に触れ、頬に触れる。
こんな朝の微睡の中でも甘やかされて、気持ちよくて顔が自然に綻び微笑んだ。
ディーの指が何度も唇に触れ、なぞる。その動きにキスがしたいんだと思って薄目を開けると自分から顔を寄せた。
静かに唇が重なる。
気持ちい
素直にそう思い、そのまま唇を重ね続けた。
だが、ディーの手が背中に周りグッと力を込められてより体を引き寄せられると、口付けが深くなる。
開いた口の中へ舌を差し入れられると、そのまま舌を舐められ絡め取られた。
「ん」
ピクンと反応した俺の体にディーが微笑み、そのまま手が俺の体を撫で始めた。
「ん、ん」
舌を吸われる度、ディーの手が性感帯をなぞる度に、小さく声を出して反応する俺をさらに追い上げる。
ディーの指が寝夜着の上から乳首に触れて擦られると、あっさりとその存在を主張し始めた。
「ディー…、ロイが起きる…」
隣で規則的な寝息を立てて眠っているロイが気になる。
「静かに…ね。声、抑えてください」
ディーが微笑み、再び濃厚なキスが始まると、ジクジクと下半身に鈍痛のような疼きが走った。
両手で口を抑えながら、ディーの手で体勢を変えられ、ロイの方を向けさせられると、背後からディーに抱きしめられつつ、器用に下着ごと寝夜着の下をずり下ろされた。
ディーが背後からうなじを舐め、甘噛みし、耳を嬲る。
「ん…ふ…」
口を抑えても、ディーに与えられる快感に小さく喘ぎを漏らした。
ディーの手が後ろから愛撫で勃ち上がった俺のペニスに触れ、ゆっくりと扱きながら鈴口から溢れる蜜を掬い取り、そして、その蜜をアナルに塗り込める。
「!」
昨日の夜も2人に愛された。
激しくはなかったが、時間をかけて全身をほぐすようなSEXをして、その入口はまだ柔らかいままだった。
ヌチヌチと音を立ててディーの指がアナルに挿入され、その柔らかさを確かめると、ディーのペニスが添えられる。
「ふ…ぅ」
中にゆっくりとディーが入ってくる。
「は…ぁ…」
ゾクゾクと背筋に快感が走り、体が細かく痙攣する。
ぎゅっと目を瞑って口を抑えその快感に耐えた。
ヌクッヌクッとディーのペニスがアナルを出入りする度に前立腺を刺激されて射精感が込み上げてくる。
「ん…ふぅ…」
両手で必死に口を抑えて嬌声を堪えるが、その代わりに涙がこぼれ落ちた。
ディーの手が背後から前に回り、腰の動きに合わせてクチクチと俺のペニスを扱くと、声の代わりにボロボロと快感の涙が出てくる。
「わー…エローい」
不意に頭のそばでロイの声が聞こえ、パチっと目を開ける。
ばっちりロイと目線が合い、ずっと見られていたと悟り、かあぁぁと真っ赤になった。
「あ!」
その瞬間グンッと背後から強く突き上げられ、鈴口を撫でられて、声が上がった。
「あ!あぁ!」
そのままガクガクと腰を揺すられつつ、ペニスを扱かれて呆気なく絶頂に達した。
ギュウッと締まったアナルにディーも顔を顰めると翔平の中に射精し、ふぅふぅと荒い息を吐いた。
「起きたんですか」
射精の余韻に浸りながら、翔平の体を労るように優しく撫でる。
「そりゃ隣でヤラレたら誰だって起きるっつーの」
ロイがこちらを向き、肘をついて頭を支えたまま、呆れたようにディーと俺を見る。
「かあいそーに、こんなに泣かされて」
ロイがペロリと俺の涙を舐め、そのまま唇を重ねて舌を絡ませる。
「ん、あ」
ねっとりと舌を舐められ、ジュルッと唾液が音を立てた。
ヌポンとディーのペニスが引き抜かれると、ロイが俺に覆い被さり、足を大きく開かされた。
そして、ディーの精液がこぼれ落ちる前にロイが挿入する。
精液が潤滑油代わりになって、簡単にロイのペニスを受け入れ、最初から奥深くまで挿入された。
「おー…ヌルヌルだ…」
ははっと笑いながら、そのままゆっくりと腰を揺する。
「あぅ…ん…、あ、あ」
「今度は声、我慢しなくてもいいぞ」
言いながら大きく腰を揺らし、最奥の入口をノックしてさらに深く入ろうとしてきた。
「可愛い声、聞かせて。思いっきり啼いて」
「あ!あ、あぁ!」
先ほどイッたばかりなのに、自分とロイの腹にはさまれ擦られて、再び熱を帯び、張り詰める。
「はぁ…あ…ショーヘー…最高だ…」
パンパンと肉がぶつかり合う音と、ロイの歓喜の声に、頭の奥が痺れるような快感が襲う。
そして、グポッとロイが最奥にはまった瞬間、ギュウッとロイを両腕で強く抱きしめ、大きな嬌声を上げた。そのまま全身が痙攣し、さらにロイを締め付ける。
「あぁ…ショーヘー、ショーヘー」
何度も名前を呼ばれ、グポグポと最奥の壁を突き上げられた。
「ショーヘー!好きだ!」
「あ”!!」
体を強く抱きしめられ、ロイに叫ばれた瞬間、ほぼ同時に射精していた。
腹の中にロイの熱を感じ、ビクビクと何度も大きく痙攣した。
「あ…」
ロイの体から翔平の腕がパタリと落ち、強烈な快感の余韻に力が抜け、ハッハッと細かい息を吐く。
ロイが体を起こしてゆっくりとペニスを引き抜かれる時も、その刺激に翔平の体が震えた。
「ショーヘイさん…愛してます」
ディーが俺の頬を両手で包み上を向かせると、チュッチュッと軽いキスを落としてくる。
「朝っぱら盛るとか…ないわー」
照れ隠しに、そう文句なようなことを言った。
「いいじゃん、気持ちいいし」
はぁとため息をつきながら体を起こすと、ドロッとアナルから精液が溢れ出る感触に顔を顰めた。
「もう少し寝ます?」
時間は7時前。二度寝するには遅いと思った。
「では聞こうか」
サイファーが口火を切る。
瑠璃宮の会議室にいつものメンバーが揃う。
座る位置もほぼ固定化し、口の字に配置されたテーブルの上座に、サイファー、アラン、ギルバートが。一辺にディー、俺、ロイ、グレイ。もう一辺にフィッシャー、オスカー、ジャニス、アビゲイルが、ドア付近の末席にキースが座った。
「まずは…、記憶喪失だという嘘がバレました」
「バレて、認めたのか」
アランに聞かれて頷いた。
「取り繕うよりも、認めてしまった方が彼女から話を引き出せると判断したので」
「そうか。いい判断だ」
サイファーがニコリと笑う。
「ただバレたと言っても、嘘をついていたという事実だけで、俺がどこの誰なのかは詮索されませんでした。
おそらく、彼女にとってそこは重要ではないんでしょう」
「なんでバレたの? 今まで同情する人はいても疑う人なんていなかったのに」
ジャニスが不思議そうな表情をする。
「そこが彼女のすごい所なんだろうね。
俺の所作や言葉使いから、上流階級の出だと推察したそうだよ。
で、大々的に俺の存在を発表しているのに、家族ですと誰も名乗りでないのはおかしいって」
シェリーに言われた推論を言い、全員が納得したような表情になった。
確かに、その推論は間違っていないが、色々とツッコミどころもある粗い内容だ。言い返せば論破して記憶喪失が事実だと認めさせることは出来ただろう。
だがそれはあえてしなかった。
する必要がないと思ったからだ。
彼女は記憶喪失が嘘だと確信していたし、逆に、本当なんです!と言い張ることで、その確信を強めることになると思った。
だからあっさり嘘を認めたのだ。
「マーサも言ってたな。ショーヘーは基本の所作が出来ているから、あまり教えることはなかったって」
アランが言い、サイファーが頷く。
「ショーヘーちゃんは元の世界で貴族だったの?」
「へ?」
アビゲイルに言われて目が点になった。
「まさか!俺は平民の中の平民だよ。
それに、俺がいた国では貴族制度は何十年も前に廃止されていたし、俺が生まれた時代には、すでに全国民は平等だっていう概念が出来てた」
パタパタと両手で違う違うと手を振り、早口で言った。
「…全国民が平等?」
俺の言葉にギルバートが反応する。
「そうです。身分の差はありませんでした。貧富の差はありましたけど」
「じゃぁショーヘイのいた国では、みんながみんなお前みたいな話し方をするのか?」
「全員っていうわけではありませんが、ある程度の言葉使いや所作は覚えます。
特に俺のいた国では礼儀や礼節を重んじる国だったので」
俺の言葉に全員がポカンとするが、一緒に旅をしてきた3人の口元は笑っていた。
「以前、ショーヘイさんから聞いたんですが、ショーヘイさんがいた国では、全国民が幼少期から学校へ行くのが義務だそうです」
「義務…?」
「そうです。6歳から15歳まで教育を受けることが義務化されていて、大多数の子供はさらに18歳まで学校へ通います。その後は任意ですが、6割近くが22歳まで、さらに…」
「ちょ、ちょ、ちょっと待て」
サイファーが焦ったように俺の言葉を遮った。
「それじゃぁ、お前の言葉使いや所作っていうのは学校で学んだのか」
「親の躾と学校ですね。
言葉使いの授業もありますし。
後は大人になって仕事をするようになってから自然と身についたスキルです」
国語の授業で、丁寧語や尊敬語なども学んだことを思い出した。
「まさにこれこそがジュノーの知識ですよ。ショーヘイさんのいた世界のシステムは、今後、我が国を大きく変える」
ディーが真剣に兄2人に言った。
弟の言葉に、サイファーもアランも鳥肌が立った。
話がズレてしまい、軌道修正する。
「シェリーには記憶喪失が嘘だとばれたが、ショーヘイの出自については詮索されなかったと」
「そうです。
詮索されない代わりに、俺の目的を聞かれました」
「なんと答えたんだ?」
「秘密です、と」
シェリーにしたように、口元に人差し指を立ててニコリと微笑む。
「ただ、彼女がしようとしていることを知るのも、俺の目的の一つだと答えました」
「上手いな」
サイファーが面白そうに笑う。
「以前お茶会で、シェリーが父親の事を罵り嘲ったことを彼女に問いました。
なぜそれを俺に言ったのか。
何がしたいのか。
その理由を知りたい。
それを教えてくれるならば、協力もやぶさかではないと」
「答えは?」
「はっきりと侯爵をその座から蹴落としたいと」
ニコニコしながら言い、隣のロイを見る。
「ロイの言った通りだったよ」
「だろ?」
ロイがフンスと鼻息荒くドヤ顔し、キースがクスッと笑った。
「ロイ、話してくれ」
アランが催促し、ロイが推理したシェリーの目的を説明する。
シェリーは父親のジェロームをその座から引きずり下ろしたい。
そのために、シギアーノはすでにシェリーが掌握している。
そして、翔平を囮にしてジェロームを嵌める気である。
「彼女の口から、同じことを聞きました。現在領地経営など諸々は全てシェリーが管理しており、侯爵は勿論、領地にいる後継の兄もシェリーの指示に従っているだけだと」
「であれば、ジェロームが身分を剥奪されても領地は安泰というわけですね」
「はい」
「ちょっと待て。ショーヘーを囮にってことは、侯爵にお前を襲わせるってことか」
グレイが手を挙げて発言した。
その表情が曇り、イグリットで翔平が実行した計画と同じじゃないか、と言った。
それにはロイもディーも顔を顰める。
「そうなんだ。何回目の囮かなw」
茶化すように言うと、グレイに笑い事じゃねーぞ、と怒られてしまい、慌ててごめん、と謝る。
「シェリーがしたいことはわかった。
だが、その理由はなんだ。
なぜそこまでして父親を蹴落としたいんだ」
アランが身を乗り出すようにして俺に聞いた。
「政略結婚に利用された復讐、ですか?」
ディーが聞いた。
「それもあった」
「それも?」
頷きながら、少しだけ眉を顰めて悲しそうに笑う。
「彼女は、自分が政略結婚のせいで傷物にされたと言いました。
ですので、個人的な恨みも勿論あった。だけど、それだけじゃなかったんです」
少しだけ俯いて目を伏せ、ここからが一番重要だと気持ちを引き締めた。
「今から話すことが真実かどうかはわかりません。
シェリーが俺を利用したいがためについた嘘であるという可能性もあります。
それを踏まえた上で、聞いてください」
姿勢を正し、真剣な表情で全員を見た。
「彼女は…、シェリーは、ジェローム・シギアーノの娘ではありませんでした」
俺の言葉に、全員が驚愕した。
シェリーがジェロームの腹違いの弟であるブレンダンの娘であることから始め、シェリーが何故生まれたのかを説明した。
なるべくシェリーが言った内容そのままに、自分の感情を含めた憶測を一才含めずに、聞いた内容だけを話す。
「なんということだ…」
サイファーが若干青ざめ、口元を手で押さえる。
ロイも腕を組んで黙って聞き、一点を見つめたまま動かなかった。
ロイとキースで話した時、彼女の個人的復讐のため、という言葉が出た。確かにその理由もあった。
だが、実際はそれは理由の一つでしかなく、もっと深いものがあった。
ロイはそれを考え、じっと考え込んでいる。
「アルヴィン」
ギルバートがフィッシャーに声をかける。
「事実の確認を」
「かしこまりました」
すぐにフィッシャーが立ち上がりかけたが、それを止める。
「待ってください。まだ続きがあるんです」
俺の言葉に、数人がまだあるのか、という顔を隠さずに表に出す。
おそらく、次が彼女の最大の目的。
それを全員に告げる。
「ジェロームを侯爵の座から引きずり下ろすことは、彼女の計画の一端でしかありません」
「復讐が最終地点じゃないのか」
アランが訝しみ、俺は頷く。
「彼女は、この国の世襲制度そのものを廃止することが目的だと言いました」
俺の言葉に全員が息を呑んだ。
ギルバートですら、目を見開き驚いている。
この世襲制度があるから、ジェロームという能無しが侯爵になり、ブレンダンという優秀な者が搾取され自害に追い込まれた。
シギアーノだけじゃない。
イグリットでも、現伯爵であるアーノルドとその後継であるデニスは能無しでクズだった。
さらに、現在国の重鎮となっているはずの各局に勤める爵位持ちや後継が、仕事をせずに、そこにいるだけのただのお飾りになっている姿を何人も見た。
勿論、テイラー侯爵家のように、しっかりとその役割を認識し、務めを果たそうとしている貴族もいることも事実。
以前、ディーと世襲制の話をした時も、頭が痛い問題だと言っていた。
だが、実際にシェリーの話を聞いた今、頭が痛いという問題どころではないと思ってしまう。
早急に手を打たなければ、この国は。
…ん?
思考を巡らせていて、ふと小さな引っ掛かりを覚えた。
慌ててその引っ掛かりがなんだったのか、再び同じことを考えようとする。
「世襲制度を廃止に、か」
サイファーが呟き、その言葉に意識が持っていかれ、思考を中断された。
「それで、お前はなんと答えたんだ」
アランに続きを聞かれ、慌てて答える。
「それが、そのタイミングで邪魔が入ってしまって」
「黒から、侯爵がシェリーを探していると。しかも私兵まで放って居場所を突き止めようとしていました」
フィッシャーが代わりに答えてくれる。
「なので、急いで戻ってもらったので、最後まで話は出来ていません」
「そうか…」
サイファーもアランも腕を組み、体を背もたれに預けて考えこむ。
会議室内がシーンと静まりかえる。
誰しもがシェリーの話に口を閉ざし、じっと考えていた。
「それと…。
彼女から理由を聞いて、その対価として協力すると言ったんです。
ですが、曖昧なまま終わってしまったのが気がかりで…」
シェリーは今何を考えているだろうか。
この話が真実かどうかはわからないが、彼女はこちらが希望する目的と理由をきちんと話した。
ならば、こちらもその対価として彼女に協力しなくてはならない。
だが、それを確約する前に彼女は帰ってしまった。
「まずは事実の確認を」
ギルバートが言い、フィッシャーが会議室を出て行く。
「ショーヘイ君」
そして、ギルバートが真剣に俺を見る。
「君はシェリーの話をどう思うかね」
「俺は…、真実だと思います。
信じたいだけかもしれませんが、彼女の目は嘘をついているようには見えなかった。
彼女は、おそらくこの話を誰にも打ち明けていないのに、まだ3回しか会ったことのない俺に話した。
それは、俺を信用したわけじゃなくて、彼女が何らかの理由で追い込まれているからではないかと思ったんです。
何としても俺の協力が必要だと、そう考えたんだと思います」
「なるほど」
ギルバートがニコリと微笑む。
「簒奪者の件はどうだ。シェリーがそれになり得ると思うか」
サイファーが腕組みを解き、身を乗り出す。
「いいえ。思いません。
彼女は頭が良すぎます。目先ではなく、大局観を持ってる。
そんな人物が黒幕に操られるだけの傀儡にはなり得ません」
なんなら、こちら側に引き入れたいくらいだ、という言葉を飲み込んだ。
「わかった。
他に何か思うこと、言いたいことはあるか?」
サイファーが優しげな目で俺を見る。その目できっと俺が考えていることをもうわかっているんだろうと察して、俺も微笑んだ。
「彼女に協力したいです。
彼女の最終目的である世襲制の廃止に関してはこの際置いといて、復讐であるジェローム失脚の手伝いはしたい…。
そう思っています…。
シェリーは、ずっと1人で戦っている。誰にも打ち明けられず、ずっと1人で…」
俺の言葉に誰も答えなかった。
1人でいることの辛さは、経験からわかる。
ほんの短期間かもしれないが、協力することで彼女の心が少しでも軽くなるならと思った。
「よし、今日は終わりにしよう。
黒からの報告を持って、シェリーの対応を決める」
サイファーが打ち切り、席を立つ。
「ショーヘイ」
サイファーが俺に近づき、俺の肩をぽんと叩いた。
「よくやってくれた。ありがとう」
労いの言葉をかけられ、アランやギルバートも俺に声をかけてきた。
各々が席を立ち、俺も立ち上がる。
誰も無駄口を叩かず、玄関ロビーで護衛のジャニスを残して戻る者を見送った。
ロイとディーも、王宮や王城を出入りする者たちに詮索されないためにも、連日瑠璃宮に泊まることは出来ない。
別れ際、名残惜しそうに長めのキスをした後、それぞれの仕事に戻って行った。
2日後の夜、黒騎士から、調査報告が提出された。
シェリーの出生記録や聞き込み、当時のシギアーノ領の状況など全て調べ上げ、シェリーの話は9割以上の確率で真実に近いということが判明した。
こうして、翔平は新たな囮になるべく行動を開始することになった。
昨夜のシェリーの話が強烈過ぎて脳が活性化してしまって熟睡することが出来ず、浅い眠りの中繰り返し夢を見ていたような気がする。
薄目を開け、隣で俺に背中を向けて眠るロイの後頭部が視界に入り、もぞもぞと体を動かしてそのロイの背中にぴったりとくっついた。
「あったけー…」
小さく呟き、そのままぎゅっとロイに抱きつく。
だが、不意に頭を撫でられて、逆隣に眠っていたディーが起きたことに気付いた。
ロイから体を離して振り返ると、ディーが微笑みながら俺を見ていた。
「おはようございます」
ロイを起こさないように声を極限まで抑えながら挨拶され、俺もおはようと返しながら、今度はディーの方へ体を寄せ、正面から抱きしめ合うようにピッタリとくっつく。
ディーに腕枕をされながら優しく頭を撫でられ、頬や唇に触れてくるディーの手が心地よくて目を閉じた。
「あまりよく眠れなかったみたいですね」
ディーの指が目の下にうっすら出来た隈をなぞった。
「んー…」
ディーの指を感じながら目を閉じる。
ディーの唇が瞼に触れ、頬に触れる。
こんな朝の微睡の中でも甘やかされて、気持ちよくて顔が自然に綻び微笑んだ。
ディーの指が何度も唇に触れ、なぞる。その動きにキスがしたいんだと思って薄目を開けると自分から顔を寄せた。
静かに唇が重なる。
気持ちい
素直にそう思い、そのまま唇を重ね続けた。
だが、ディーの手が背中に周りグッと力を込められてより体を引き寄せられると、口付けが深くなる。
開いた口の中へ舌を差し入れられると、そのまま舌を舐められ絡め取られた。
「ん」
ピクンと反応した俺の体にディーが微笑み、そのまま手が俺の体を撫で始めた。
「ん、ん」
舌を吸われる度、ディーの手が性感帯をなぞる度に、小さく声を出して反応する俺をさらに追い上げる。
ディーの指が寝夜着の上から乳首に触れて擦られると、あっさりとその存在を主張し始めた。
「ディー…、ロイが起きる…」
隣で規則的な寝息を立てて眠っているロイが気になる。
「静かに…ね。声、抑えてください」
ディーが微笑み、再び濃厚なキスが始まると、ジクジクと下半身に鈍痛のような疼きが走った。
両手で口を抑えながら、ディーの手で体勢を変えられ、ロイの方を向けさせられると、背後からディーに抱きしめられつつ、器用に下着ごと寝夜着の下をずり下ろされた。
ディーが背後からうなじを舐め、甘噛みし、耳を嬲る。
「ん…ふ…」
口を抑えても、ディーに与えられる快感に小さく喘ぎを漏らした。
ディーの手が後ろから愛撫で勃ち上がった俺のペニスに触れ、ゆっくりと扱きながら鈴口から溢れる蜜を掬い取り、そして、その蜜をアナルに塗り込める。
「!」
昨日の夜も2人に愛された。
激しくはなかったが、時間をかけて全身をほぐすようなSEXをして、その入口はまだ柔らかいままだった。
ヌチヌチと音を立ててディーの指がアナルに挿入され、その柔らかさを確かめると、ディーのペニスが添えられる。
「ふ…ぅ」
中にゆっくりとディーが入ってくる。
「は…ぁ…」
ゾクゾクと背筋に快感が走り、体が細かく痙攣する。
ぎゅっと目を瞑って口を抑えその快感に耐えた。
ヌクッヌクッとディーのペニスがアナルを出入りする度に前立腺を刺激されて射精感が込み上げてくる。
「ん…ふぅ…」
両手で必死に口を抑えて嬌声を堪えるが、その代わりに涙がこぼれ落ちた。
ディーの手が背後から前に回り、腰の動きに合わせてクチクチと俺のペニスを扱くと、声の代わりにボロボロと快感の涙が出てくる。
「わー…エローい」
不意に頭のそばでロイの声が聞こえ、パチっと目を開ける。
ばっちりロイと目線が合い、ずっと見られていたと悟り、かあぁぁと真っ赤になった。
「あ!」
その瞬間グンッと背後から強く突き上げられ、鈴口を撫でられて、声が上がった。
「あ!あぁ!」
そのままガクガクと腰を揺すられつつ、ペニスを扱かれて呆気なく絶頂に達した。
ギュウッと締まったアナルにディーも顔を顰めると翔平の中に射精し、ふぅふぅと荒い息を吐いた。
「起きたんですか」
射精の余韻に浸りながら、翔平の体を労るように優しく撫でる。
「そりゃ隣でヤラレたら誰だって起きるっつーの」
ロイがこちらを向き、肘をついて頭を支えたまま、呆れたようにディーと俺を見る。
「かあいそーに、こんなに泣かされて」
ロイがペロリと俺の涙を舐め、そのまま唇を重ねて舌を絡ませる。
「ん、あ」
ねっとりと舌を舐められ、ジュルッと唾液が音を立てた。
ヌポンとディーのペニスが引き抜かれると、ロイが俺に覆い被さり、足を大きく開かされた。
そして、ディーの精液がこぼれ落ちる前にロイが挿入する。
精液が潤滑油代わりになって、簡単にロイのペニスを受け入れ、最初から奥深くまで挿入された。
「おー…ヌルヌルだ…」
ははっと笑いながら、そのままゆっくりと腰を揺する。
「あぅ…ん…、あ、あ」
「今度は声、我慢しなくてもいいぞ」
言いながら大きく腰を揺らし、最奥の入口をノックしてさらに深く入ろうとしてきた。
「可愛い声、聞かせて。思いっきり啼いて」
「あ!あ、あぁ!」
先ほどイッたばかりなのに、自分とロイの腹にはさまれ擦られて、再び熱を帯び、張り詰める。
「はぁ…あ…ショーヘー…最高だ…」
パンパンと肉がぶつかり合う音と、ロイの歓喜の声に、頭の奥が痺れるような快感が襲う。
そして、グポッとロイが最奥にはまった瞬間、ギュウッとロイを両腕で強く抱きしめ、大きな嬌声を上げた。そのまま全身が痙攣し、さらにロイを締め付ける。
「あぁ…ショーヘー、ショーヘー」
何度も名前を呼ばれ、グポグポと最奥の壁を突き上げられた。
「ショーヘー!好きだ!」
「あ”!!」
体を強く抱きしめられ、ロイに叫ばれた瞬間、ほぼ同時に射精していた。
腹の中にロイの熱を感じ、ビクビクと何度も大きく痙攣した。
「あ…」
ロイの体から翔平の腕がパタリと落ち、強烈な快感の余韻に力が抜け、ハッハッと細かい息を吐く。
ロイが体を起こしてゆっくりとペニスを引き抜かれる時も、その刺激に翔平の体が震えた。
「ショーヘイさん…愛してます」
ディーが俺の頬を両手で包み上を向かせると、チュッチュッと軽いキスを落としてくる。
「朝っぱら盛るとか…ないわー」
照れ隠しに、そう文句なようなことを言った。
「いいじゃん、気持ちいいし」
はぁとため息をつきながら体を起こすと、ドロッとアナルから精液が溢れ出る感触に顔を顰めた。
「もう少し寝ます?」
時間は7時前。二度寝するには遅いと思った。
「では聞こうか」
サイファーが口火を切る。
瑠璃宮の会議室にいつものメンバーが揃う。
座る位置もほぼ固定化し、口の字に配置されたテーブルの上座に、サイファー、アラン、ギルバートが。一辺にディー、俺、ロイ、グレイ。もう一辺にフィッシャー、オスカー、ジャニス、アビゲイルが、ドア付近の末席にキースが座った。
「まずは…、記憶喪失だという嘘がバレました」
「バレて、認めたのか」
アランに聞かれて頷いた。
「取り繕うよりも、認めてしまった方が彼女から話を引き出せると判断したので」
「そうか。いい判断だ」
サイファーがニコリと笑う。
「ただバレたと言っても、嘘をついていたという事実だけで、俺がどこの誰なのかは詮索されませんでした。
おそらく、彼女にとってそこは重要ではないんでしょう」
「なんでバレたの? 今まで同情する人はいても疑う人なんていなかったのに」
ジャニスが不思議そうな表情をする。
「そこが彼女のすごい所なんだろうね。
俺の所作や言葉使いから、上流階級の出だと推察したそうだよ。
で、大々的に俺の存在を発表しているのに、家族ですと誰も名乗りでないのはおかしいって」
シェリーに言われた推論を言い、全員が納得したような表情になった。
確かに、その推論は間違っていないが、色々とツッコミどころもある粗い内容だ。言い返せば論破して記憶喪失が事実だと認めさせることは出来ただろう。
だがそれはあえてしなかった。
する必要がないと思ったからだ。
彼女は記憶喪失が嘘だと確信していたし、逆に、本当なんです!と言い張ることで、その確信を強めることになると思った。
だからあっさり嘘を認めたのだ。
「マーサも言ってたな。ショーヘーは基本の所作が出来ているから、あまり教えることはなかったって」
アランが言い、サイファーが頷く。
「ショーヘーちゃんは元の世界で貴族だったの?」
「へ?」
アビゲイルに言われて目が点になった。
「まさか!俺は平民の中の平民だよ。
それに、俺がいた国では貴族制度は何十年も前に廃止されていたし、俺が生まれた時代には、すでに全国民は平等だっていう概念が出来てた」
パタパタと両手で違う違うと手を振り、早口で言った。
「…全国民が平等?」
俺の言葉にギルバートが反応する。
「そうです。身分の差はありませんでした。貧富の差はありましたけど」
「じゃぁショーヘイのいた国では、みんながみんなお前みたいな話し方をするのか?」
「全員っていうわけではありませんが、ある程度の言葉使いや所作は覚えます。
特に俺のいた国では礼儀や礼節を重んじる国だったので」
俺の言葉に全員がポカンとするが、一緒に旅をしてきた3人の口元は笑っていた。
「以前、ショーヘイさんから聞いたんですが、ショーヘイさんがいた国では、全国民が幼少期から学校へ行くのが義務だそうです」
「義務…?」
「そうです。6歳から15歳まで教育を受けることが義務化されていて、大多数の子供はさらに18歳まで学校へ通います。その後は任意ですが、6割近くが22歳まで、さらに…」
「ちょ、ちょ、ちょっと待て」
サイファーが焦ったように俺の言葉を遮った。
「それじゃぁ、お前の言葉使いや所作っていうのは学校で学んだのか」
「親の躾と学校ですね。
言葉使いの授業もありますし。
後は大人になって仕事をするようになってから自然と身についたスキルです」
国語の授業で、丁寧語や尊敬語なども学んだことを思い出した。
「まさにこれこそがジュノーの知識ですよ。ショーヘイさんのいた世界のシステムは、今後、我が国を大きく変える」
ディーが真剣に兄2人に言った。
弟の言葉に、サイファーもアランも鳥肌が立った。
話がズレてしまい、軌道修正する。
「シェリーには記憶喪失が嘘だとばれたが、ショーヘイの出自については詮索されなかったと」
「そうです。
詮索されない代わりに、俺の目的を聞かれました」
「なんと答えたんだ?」
「秘密です、と」
シェリーにしたように、口元に人差し指を立ててニコリと微笑む。
「ただ、彼女がしようとしていることを知るのも、俺の目的の一つだと答えました」
「上手いな」
サイファーが面白そうに笑う。
「以前お茶会で、シェリーが父親の事を罵り嘲ったことを彼女に問いました。
なぜそれを俺に言ったのか。
何がしたいのか。
その理由を知りたい。
それを教えてくれるならば、協力もやぶさかではないと」
「答えは?」
「はっきりと侯爵をその座から蹴落としたいと」
ニコニコしながら言い、隣のロイを見る。
「ロイの言った通りだったよ」
「だろ?」
ロイがフンスと鼻息荒くドヤ顔し、キースがクスッと笑った。
「ロイ、話してくれ」
アランが催促し、ロイが推理したシェリーの目的を説明する。
シェリーは父親のジェロームをその座から引きずり下ろしたい。
そのために、シギアーノはすでにシェリーが掌握している。
そして、翔平を囮にしてジェロームを嵌める気である。
「彼女の口から、同じことを聞きました。現在領地経営など諸々は全てシェリーが管理しており、侯爵は勿論、領地にいる後継の兄もシェリーの指示に従っているだけだと」
「であれば、ジェロームが身分を剥奪されても領地は安泰というわけですね」
「はい」
「ちょっと待て。ショーヘーを囮にってことは、侯爵にお前を襲わせるってことか」
グレイが手を挙げて発言した。
その表情が曇り、イグリットで翔平が実行した計画と同じじゃないか、と言った。
それにはロイもディーも顔を顰める。
「そうなんだ。何回目の囮かなw」
茶化すように言うと、グレイに笑い事じゃねーぞ、と怒られてしまい、慌ててごめん、と謝る。
「シェリーがしたいことはわかった。
だが、その理由はなんだ。
なぜそこまでして父親を蹴落としたいんだ」
アランが身を乗り出すようにして俺に聞いた。
「政略結婚に利用された復讐、ですか?」
ディーが聞いた。
「それもあった」
「それも?」
頷きながら、少しだけ眉を顰めて悲しそうに笑う。
「彼女は、自分が政略結婚のせいで傷物にされたと言いました。
ですので、個人的な恨みも勿論あった。だけど、それだけじゃなかったんです」
少しだけ俯いて目を伏せ、ここからが一番重要だと気持ちを引き締めた。
「今から話すことが真実かどうかはわかりません。
シェリーが俺を利用したいがためについた嘘であるという可能性もあります。
それを踏まえた上で、聞いてください」
姿勢を正し、真剣な表情で全員を見た。
「彼女は…、シェリーは、ジェローム・シギアーノの娘ではありませんでした」
俺の言葉に、全員が驚愕した。
シェリーがジェロームの腹違いの弟であるブレンダンの娘であることから始め、シェリーが何故生まれたのかを説明した。
なるべくシェリーが言った内容そのままに、自分の感情を含めた憶測を一才含めずに、聞いた内容だけを話す。
「なんということだ…」
サイファーが若干青ざめ、口元を手で押さえる。
ロイも腕を組んで黙って聞き、一点を見つめたまま動かなかった。
ロイとキースで話した時、彼女の個人的復讐のため、という言葉が出た。確かにその理由もあった。
だが、実際はそれは理由の一つでしかなく、もっと深いものがあった。
ロイはそれを考え、じっと考え込んでいる。
「アルヴィン」
ギルバートがフィッシャーに声をかける。
「事実の確認を」
「かしこまりました」
すぐにフィッシャーが立ち上がりかけたが、それを止める。
「待ってください。まだ続きがあるんです」
俺の言葉に、数人がまだあるのか、という顔を隠さずに表に出す。
おそらく、次が彼女の最大の目的。
それを全員に告げる。
「ジェロームを侯爵の座から引きずり下ろすことは、彼女の計画の一端でしかありません」
「復讐が最終地点じゃないのか」
アランが訝しみ、俺は頷く。
「彼女は、この国の世襲制度そのものを廃止することが目的だと言いました」
俺の言葉に全員が息を呑んだ。
ギルバートですら、目を見開き驚いている。
この世襲制度があるから、ジェロームという能無しが侯爵になり、ブレンダンという優秀な者が搾取され自害に追い込まれた。
シギアーノだけじゃない。
イグリットでも、現伯爵であるアーノルドとその後継であるデニスは能無しでクズだった。
さらに、現在国の重鎮となっているはずの各局に勤める爵位持ちや後継が、仕事をせずに、そこにいるだけのただのお飾りになっている姿を何人も見た。
勿論、テイラー侯爵家のように、しっかりとその役割を認識し、務めを果たそうとしている貴族もいることも事実。
以前、ディーと世襲制の話をした時も、頭が痛い問題だと言っていた。
だが、実際にシェリーの話を聞いた今、頭が痛いという問題どころではないと思ってしまう。
早急に手を打たなければ、この国は。
…ん?
思考を巡らせていて、ふと小さな引っ掛かりを覚えた。
慌ててその引っ掛かりがなんだったのか、再び同じことを考えようとする。
「世襲制度を廃止に、か」
サイファーが呟き、その言葉に意識が持っていかれ、思考を中断された。
「それで、お前はなんと答えたんだ」
アランに続きを聞かれ、慌てて答える。
「それが、そのタイミングで邪魔が入ってしまって」
「黒から、侯爵がシェリーを探していると。しかも私兵まで放って居場所を突き止めようとしていました」
フィッシャーが代わりに答えてくれる。
「なので、急いで戻ってもらったので、最後まで話は出来ていません」
「そうか…」
サイファーもアランも腕を組み、体を背もたれに預けて考えこむ。
会議室内がシーンと静まりかえる。
誰しもがシェリーの話に口を閉ざし、じっと考えていた。
「それと…。
彼女から理由を聞いて、その対価として協力すると言ったんです。
ですが、曖昧なまま終わってしまったのが気がかりで…」
シェリーは今何を考えているだろうか。
この話が真実かどうかはわからないが、彼女はこちらが希望する目的と理由をきちんと話した。
ならば、こちらもその対価として彼女に協力しなくてはならない。
だが、それを確約する前に彼女は帰ってしまった。
「まずは事実の確認を」
ギルバートが言い、フィッシャーが会議室を出て行く。
「ショーヘイ君」
そして、ギルバートが真剣に俺を見る。
「君はシェリーの話をどう思うかね」
「俺は…、真実だと思います。
信じたいだけかもしれませんが、彼女の目は嘘をついているようには見えなかった。
彼女は、おそらくこの話を誰にも打ち明けていないのに、まだ3回しか会ったことのない俺に話した。
それは、俺を信用したわけじゃなくて、彼女が何らかの理由で追い込まれているからではないかと思ったんです。
何としても俺の協力が必要だと、そう考えたんだと思います」
「なるほど」
ギルバートがニコリと微笑む。
「簒奪者の件はどうだ。シェリーがそれになり得ると思うか」
サイファーが腕組みを解き、身を乗り出す。
「いいえ。思いません。
彼女は頭が良すぎます。目先ではなく、大局観を持ってる。
そんな人物が黒幕に操られるだけの傀儡にはなり得ません」
なんなら、こちら側に引き入れたいくらいだ、という言葉を飲み込んだ。
「わかった。
他に何か思うこと、言いたいことはあるか?」
サイファーが優しげな目で俺を見る。その目できっと俺が考えていることをもうわかっているんだろうと察して、俺も微笑んだ。
「彼女に協力したいです。
彼女の最終目的である世襲制の廃止に関してはこの際置いといて、復讐であるジェローム失脚の手伝いはしたい…。
そう思っています…。
シェリーは、ずっと1人で戦っている。誰にも打ち明けられず、ずっと1人で…」
俺の言葉に誰も答えなかった。
1人でいることの辛さは、経験からわかる。
ほんの短期間かもしれないが、協力することで彼女の心が少しでも軽くなるならと思った。
「よし、今日は終わりにしよう。
黒からの報告を持って、シェリーの対応を決める」
サイファーが打ち切り、席を立つ。
「ショーヘイ」
サイファーが俺に近づき、俺の肩をぽんと叩いた。
「よくやってくれた。ありがとう」
労いの言葉をかけられ、アランやギルバートも俺に声をかけてきた。
各々が席を立ち、俺も立ち上がる。
誰も無駄口を叩かず、玄関ロビーで護衛のジャニスを残して戻る者を見送った。
ロイとディーも、王宮や王城を出入りする者たちに詮索されないためにも、連日瑠璃宮に泊まることは出来ない。
別れ際、名残惜しそうに長めのキスをした後、それぞれの仕事に戻って行った。
2日後の夜、黒騎士から、調査報告が提出された。
シェリーの出生記録や聞き込み、当時のシギアーノ領の状況など全て調べ上げ、シェリーの話は9割以上の確率で真実に近いということが判明した。
こうして、翔平は新たな囮になるべく行動を開始することになった。
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