おっさんが願うもの

猫の手

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王都編 〜密会とデート〜

138.おっさん、密会する

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 いつもの聖女仕様ではなく、かといって騎士のようでもなく、一般人だがお金持ち、という富裕層の青年の出立ちになった。
 髪をきちんとまとめ、化粧も薄く、スラリとしたスーツのような濃紺のセットアップに鏡の前で満足する。
「あら、似合うじゃない」
 ジャニスがフィッティングルームから出て来た俺に驚く。
「そうだな。いい所の坊ちゃんって感じか」
 オスカーがふむふむと顎を触る。
「坊ちゃんはないだろ」
「どう見てもどっかのお坊っちゃまだな」
 ロイも破顔して、俺の頬を撫でた。
「本日は大商会のご子息という設定でご用意させていただきました」
 衣装担当のクロエが楽しそうに微笑む。
「その姿でも言い寄る男が多そうですね…」
 ディーが顔を顰めつつ俺のことをじっと見つめる。
「ショーヘーは何着ても可愛いから~」
 ロイがいつものように俺を背後から抱きしめてスンスンと匂いを嗅ぐ。
「出来たかー?」
 そこに、グレイとアビゲイルがドアから入ってきた。
 2人とも、騎士服ではなく、上等な平服という出立ちになっていた。
 グレイは特に印象が変わることはないが、アビゲイルの姿にはうっとりと見惚れてしまった。
 平服とは言っても、ドレスに近い青いワンピース姿を見たのは初めてで、いつも騎士服に包まれて見えない足が綺麗でドキドキしてしまう。
「アビー、すごく綺麗だ」
 褒めると、アビゲイルがありがとうと嬉しそうに微笑んだ。
「そろそろお時間です」
 キースが促し、部屋を出た。

 玄関ロビーで見送りを受けるが、ロイとディーのそばに行き、俺の方から2人の手を握った。
 2人が食事に行った時に俺が不安になったように、2人も俺が他の女と食事に行くことに不安を感じている。
「行ってくる。ちゃんと仕事してくるよ」
 2人の気持ちが痛いほどわかるから、声をかけ、少し背伸びをしてその頬にキスをした。
「終わったら真っ直ぐ帰ってくるんだぞ」
 まるで子供に注意するようなセリフに破顔すると、チュッと唇に軽くキスをされた。



 これからシェリーとシャルルで会食をする。
 瑠璃宮からはいつもの王家の馬車ではなく、街にたくさん溢れている一般人が使うような馬車で移動する。
 シャルルの近くまで来たら馬車を降り、そこから少しだけ歩いて店に向かうことになっていた。
 もちろん、翔平もグレイもアビーも、馬車にも認識阻害魔法を施し、翔平が街中を歩いても誰にも聖女だと気付かれないようにしていた。

「行ってらっしゃいませ」
「グレイ、アビー、頼みますよ」
 みんなに見送られて出発する。
 約束の時間は午後5時。
 密会のような会食のため、シェリーを迎えに行くことはせずに、シャルルで落ち合うことになっていた。

「ご飯楽しみだなー」
 先日、ロイとディーが食事会をしたのもシャルルで、2人に食事の感想を聞いた。
「もうな…む………っちゃ美味かった!」
 ロイが溜めに溜めて言い、美味いと興奮していたのを思い出して笑う。
「グレイ、ジュリアさんと行ったのか?」
 ニヤニヤしながら、美食情報をロイに教えたグレイに聞いた。
「まぁな…」
 視線を逸らしながらグレイが照れる。
「よく予約とれたわね」
「たまたまキャンセルが出た直後でな。運が良かった」
「ジュリアさん、元気?会いたいな」
「ジュリアも会いたがってる。
 だが、まだ爵位もないしな。来月には叙爵式があるから、その時だな」
「気軽に外出出来れば遊びに行くのに…」
 グレイはすでに官舎と王都のイグリット邸を行き来しており、半同棲のような生活をしていると、先日聞いた。
 着実に2人の間は縮まり、愛を育んでいる様子に本当に嬉しくなった。
「いいわねぇ…。あたしもどっかにいい子いないかな…」
「アビーはどんなタイプが好きなんだ?」
「可愛い子」
 一言で即答され、ああ、そう、と笑う。
 アビゲイルは強いし、守ってあげたいと思う人がタイプなんだろうと思った。

 シャルルは、第3城壁ヴィスタと第4城壁エルゼの間の商業区にある。
 高級レストランと言われているが、実は価格はそんなに高くもなく、一般人でも利用できる価格設定にされていた。
 ただ、その料理の美味しさに富裕層や貴族も多く利用するため、シャルルという店の敷地内で、階級による区画分けがされていた。
 
「そろそろ降りるぞ」
 瑠璃宮を出て30分後、エルゼを抜けてしばらく走ってから、馬車道の停留所にゆっくりと停まる。
「すぐ後ろを歩くから、まっすぐ進め」
「わかった」
 さすが商業区とあって、人通りが多い。
 街に来る機会がほとんどなく、こんな風に歩けることが嬉しくて、自然と頬が紅潮した。
「あんまりキョロキョロすんなよ」
「はーい」
 引率のグレイの言うことを良く聞きつつ、シャルルに向かって歩き出す。
 アビゲイルが俺の左腕に腕を絡ませて並んで歩く。その後ろを護衛するようにグレイが歩いた。
 どっからどう見ても、金持ちの青年が彼女と歩いているようにしか見えないし、認識阻害魔法のせいで、誰も俺たちを気にする人もいなかった。
 時折り、通り沿いにある店のショーウィンドウに気も取られるが、ゆっくりと散策するように真っ直ぐ進んだ。
「あ。なぁグレイ、お金持ってる?」
「あ?ああ」
 くるりと後ろを振り向き、声をかけた。
「何買うんだ?」
「花を買って行こうかと。流石に手ぶらじゃね」
「確かにそうね。行きましょ。選んであげるわ」
 アビーが俺の腕をひっぱり、花屋に入った。
 どの花を選べばいいのかわからず、全部アビゲイルに選んでもらい、邪魔にならない程度の大きさの花束を作ってもらった。
 その花束が出来上がるのを待つ間、俺も店員に話しかけ、対になっている花を2輪追加で購入する。
「これは2人にね」
 その花をグレイとアビゲイルに差し出し、2人が破顔し、そっと胸ポケットに花を挿した。


 17時15分前、シャルルに到着し、グレイが入口にいるレセプションスタッフに声をかけ、予約名を伝える。
 すぐに案内されてレストラン内に入ると、奥へ通された。

 俺達が案内されたのは奥にある個室で、恭しくドアを開けられ中に通される。
 円卓に二つの席が用意されており、俺が座ると、グレイとアビゲイルが背後に立った。

 17時5分前になって、個室のドアがノックされ、シェリーが現れた。
 彼女も執事とメイドを1人づつ連れているが、2人ともこちらと同じように、仕事着ではなく普通の服を着ており、シェリーも夜会やお茶会で着ていたようなドレスではなく、上級なワンピースを見にまとっていた。
「シェリー嬢」
 席を立ち、そのまま彼女の前に立つと丁寧に頭を下げ、その手を取ると口付ける。
「本日は急なお誘いにも関わらず、ありがとうございます」
 男らしく彼女に微笑みかけ、グレイから花束を受け取ると彼女に手渡す。
「まぁ…、ご丁寧にありがとうございます」
 花束を受け取り、俺に微笑みかける。
 その嬉しそうな笑顔は本心だとわかった。

 やっぱり可愛いな。

 見た目は本当に可愛い。
 絶対に元の世界で街中を歩いていたら、スカウト間違いなしの整った顔に思わずデレてしまう。
 ロイやディーと同じ29歳だと聞いたが、20代前半にも見えるほど少女のようなあどけなさも残っていた。
 シェリーが花束を執事に渡し、俺が彼女をエスコートして円卓の席に案内すると、俺も向かいに座った。
 そして、互いに後ろにいる付き添いを振り向くと頷く。
「失礼します」
 グレイがスッと頭を下げ、そのまま部屋を出て行った。

 個室に2人きりになり、たっぷり2、3分無言の状態になる。
 最初の前菜が運ばれてきて、店の従業員が下がった所で、まずは乾杯をした。
 甘めの果実酒が美味しくて、口元が綻んだ。
 前菜にフォークを刺しながら、口火を切る。
「驚いたでしょう。いきなり俺から招待されて」
「そうでもありませんわ。必ず来ると思いましたから」
 シェリーがニコリと笑い、確信があったと言った。
「お茶会の最後に、忘れたフリをなさってましたけど、あれはこのことですわよね?」
 シェリーの頭の回転の早さに苦笑した。

 前菜を終え、スープ、魚料理、と続いて行く。
「美味しいですね…」
「ええ…本当に」
 シェリーと会話しつつ、料理が本当に美味しくて時々会話が止まってしまうほどだった。
 シェリーも同じだったようで、時折り、目を見張り、口元へ手を持っていき、美味しすぎて驚いた表情をしていた。

 最後のデザートから食後のお茶へ移り、世間話程度だった内容から核心へと移って行く。

「シェリー嬢は、なぜお父上のことを俺に話したんですか?」
「成り行き、ですわね」
 シェリーが口元をテーブルナプキンで拭きながら答えた。
「あの人は貴方を手に入れようと必死になっていますし、少しでも注意喚起出来れば、と思いまして」
「それはありがとうございます」
「それに、貴方は話しやすいんですもの」
「記憶がなくて、何も知らないことが、そう思わせるのかもしれませんね」
 ニコリと笑い、お茶を口に含む。


「もう回りくどく探り合うのは止めましょう」
 しばらく間が開き、突然シェリーが言った。
「聖女様」
 シェリーがじっと俺を真顔で見る。
「記憶がない、というのは嘘ですね?」
「なぜそう思うんですか?」
「話は出来すぎてますわ」
「そうですかね」
 シェリーの言葉に一才顔色を変えず、キョトンとした。

 だが頭の中では大嵐が吹き荒れていた。
 頭が良すぎるのも大概だなと、見えないところに冷や汗をかく。

「記憶がなく、短期間で諸々の所作を習得されたというのはかなり無理がありますわよ」
 シェリーは、俺を品定めしていたのではない。俺の動きを、その所作を見ていたと気付かされた。
「立ち姿、歩き方、覚えるには基本が出来ていてこそです。
 貴方はその基本が備わっている。
 それはどこで?」
 シェリーの言葉に黙り込み、まだ続きがあると思い、じっと彼女の目を見た。
「それに話し方です。
 立場が上だったり目上の者に対しての言葉使い、切り返し、反応、そういったものは付け焼き刃で覚えられるものではありません。
 だとすれば、貴方は元々貴族か、平民でも上流階級に近い位置にいた」
 次々と俺の嘘を見破る推論をあげていく。
「行方不明者を探す手立てがない中流以下の平民ならいざ知らず、お金がある上流階級の人間が、行方不明になった家族を何故探さないのかしら。
 貴方は聖女としてこの国に保護されて、大々的に発表され、絵姿だって出回っています。
 なのに、誰も家族だと名乗り出ない。
 おかしいですわよね?」
 シェリーが不敵に笑う。

 まいった。

 確かに彼女の言う通りだ。
 まさか俺がサラリーマン時代で培った営業トークで見破られるとは思わなかった。
 俺の言葉使いや話術は営業系サラリーマンには当然のスキルで、この世界でも貴族相手に通用したことに安心していたが、そこをつかれるとは思わなかった。

 だが、まだ逆転の可能性はある。限りなく負け戦だが。

「仮に、俺がそんな上流階級の者だとしても、家族に見捨てられていたとしたら?
 もしくは魔力暴走を起こした原因に家族も巻き込まれていて、みんな…」
「それもあり得ませんわ」
 シェリーが予測していた反論だと、被せ気味に返してくる。
「上流階級以上の者が何か事件に巻き込まれて、家族全員が行方不明になったなら、司法局が動く事件になっているはずで、話題にもなるはずです。
 それに、見捨てられたとおっしゃいましたけど、捨てた人が聖女として崇められていると知ったら、取り戻したいと思うのではなくて?」

 はい。おっしゃる通りです。

 思わず口元が歪み、するどい突っ込みに笑いが込み上げてくる。

「何か面白いこと言ったかしら」
「いえ、すみません」
 クスクスと笑い、彼女の頭の良さに感嘆を覚えつつ、楽しいと思った。
「ふぅ…」
 そして小さくため息をついて、シェリーをじっと見つめた。

「おっしゃる通りですよ。
 記憶がないというのは、真っ赤な嘘です」

 もう隠しても仕方がない。
 記憶喪失が嘘だとバレても、俺がジュノーであることがバレるわけではないし、彼女は俺が何か別の理由で嘘をついていると考えているのがわかったので、そこは素直に認めることにする。
 彼女の心を開くためにも、余計な疑いの芽は摘んでおいた方がいいと判断した。

「では貴方の目的は?」
「それは秘密です」
 茶化すように人差し指を立て、口の前に持って行き、ニコリと笑った。
「逆に俺も聞きたい。
 シェリー嬢、貴方は俺を使って何がしたいんですか?」
 シェリーが目をパチパチと瞬きし、そしてクスクスと笑う。
「貴方の秘密を一つ見破ったので、次は貴方の番ですわね」
 本当に楽しそうにシェリーが笑い、新たなお茶をもらうためにベルを鳴らした。



 店員がお茶を運び出て行った後、シェリーに再び問う。
「貴方は俺を利用して何かするつもりですね?」
 先ほどと同じ質問を投げかける。
「何故そう思われたの?」
 質問に質問を返されて苦笑しつつ、理由を言った。
「単純です。貴方がお父上を嫌いだとおっしゃったからです」
 ニコリと微笑む。
「ええ、大嫌いですわ」
 シェリーも笑うが、その目の奥は笑っていない。紛れもなく父親を嫌悪しているとわかる。
「お父上は俺を手に入れて、位階を上げたい。
 シェリー嬢はお父上が大嫌い」
 シェリーから視線を逸らせてティーカップの中のお茶を揺らす。
「俺を使って、侯爵を嵌めるおつもりですか?」
 先日ロイが言った推論を言い、微笑みながらシェリーを見た。
「ふふ…」
 シェリーが声に出して笑い出した。
 しばらくおかしそうに笑い、俺はずっとその笑い声を聞いていた。
「私が父を、シギアーノ侯爵を陥れるつもりだとおっしゃりたいの?」
「そうですね」
 シェリーの言葉に、まだ彼女は俺を警戒しているとはっきりとわかる。
「それを娘の私の前で公言することがどれだけ危険なことかお分かりになって?」
「もちろん。
 貴方がお父上を嫌いだと言ったことも、罵ったことも全て演技なら、俺は侯爵への不敬罪にあたりますね」
 お茶を飲みながら冷静に話す。
「貴方が俺の、聖女の本性を探るために、侯爵と結託しているのであれば、まんまと俺が嵌められたことになります」
 シェリーはまだ俺を試している。
「ですが…、お父上を嫌いなのは、本心でしょう?」
 顔を上げてニコリと笑った。
「ふふ…はは、あははは」
 シェリーが本当に楽しそうに笑った。
 令嬢のお淑やかな笑い方ではなく、口を開けて、大きな声で笑う姿に、俺も笑った。
「聖女様…」
「ショウヘイでいいですよ」
「…ショーヘイ様。申し訳ありません。試すようなことをして」
 苦笑しながら謝罪され、俺はただ微笑みだけで返事した。
「ショーヘイ様を利用しようと思ったのは事実です。
 単純に利用するだけなら、貴方に何も告げる必要はなかったんです。
 あの人が貴方に手を出すように裏で後押しして、それを断罪するだけで良かった」
 平然と裏工作に俺を巻き込むつもりだったと言ってのけるシェリーに苦笑する。
「ですが、記憶がないと嘘をおつきになっていることといい、お茶会での所作、会話の切り返し、誘いを簡単にかわす貴方を見て、あの人が貴方に手を出すのはまず無理なことだと確信しましたわ」
「なるほど。襲わせたいが襲えないだろうと」
 そう簡単に要約すると、シェリーが苦笑しながら頷いた。
「さらに、目的はわかりませんが、貴方は私に探りを入れてきた。
 私が何をしようとしているのか、会話で引き出そうとしましたよね?」
 お茶会で、俺があからさまにシェリーを煽ったことを言われて笑ってしまった。
「すみませんw」
「お互い様ですわ。互いに相手を見極めようと腹の探りあいでしたもの」
 シェリーも笑う。
「あの男では、貴方を手に入れるどころか、そばに近寄ることもできないでしょう。
 格が違いすぎますもの」
 シェリーが父親をはっきりと馬鹿にして言った。

 ここで少し話がずれ、侯爵は、位階を上げる目的を含めて、本当に俺を気に入って、本気で愛人にするべく動き出していることを教えてくれた。

「はっきりさせましょうか」
 少しだけ身を乗り出してシェリーを見つめる。
「貴方は俺を利用して、侯爵をその座から引きずりおろしたい。
 それであっていますか?」
「はい。あっています。
 貴方も何か目的があって私に探りを入れ、他貴族の御子息とお会いになっているのでしょう?」
「はい。その通りです」
 お互いにニコリと笑う。
 シェリーも、俺がリンドバーグ子爵家のヴィンスと観劇に行ったことを知っている。
「付け加えて言うなら、俺の目的を全てお話することは出来ませんが、貴方が侯爵を陥れたい理由を知ることも、目的の一つです」
「父親を蹴落としたい理由をですか?」
 シェリーの言葉が少しづつ砕けて行く。蹴落とすなんて言葉、令嬢が使うものではないだろう、とクスッと笑った。
「その理由を教えていただければ、俺もできうる限り貴方に協力しましょう」
「それを信じろと?」
「お互いに秘密を知った今、人質を取られたようなものです。
 貴方は理由を話すだけですが、貴方こそ俺に嘘をつくことも出来る。貴方が話す目的が真実かどうか、俺には知ることが出来ない。
 ですが、対価として俺が貴方に協力するならば、おそらく俺の身に何かがあるでしょう」
 シェリーの顔から笑顔が消え、真剣に俺の顔を見た。
「メリットとデメリットだけで考えるなら、俺には確実にメリットがないんですよ」
 微笑みながらシェリーを見る。

 彼女は真っ直ぐだ。言葉の節々に飾りがなく、取り繕いもしない。
 その頭の良さ、人を見抜く力、洞察力。そして彼女の目には強い信念が伺え、何かを成そうとしているのがわかる。
 その一端が父親である侯爵の断罪なのだと考えた。
 おそらく今までの言葉を聞くに、ロイの推論は当たっている。
 だが、それはきっと自身が父親に受けた仕打ちのせいだけではないと思った。
 彼女はもっと大局的に見ることの出来る人物で、個人の復讐のためだけに動いているわけではないと断言できる。
 もし彼女が話す理由が個人的な理由だけだったとしたら、それは確実に嘘で、彼女が簒奪者に関係しているという疑いは強くなる。

 シェリーの目が伏せられ、考え込むような仕草をした。
「ショーヘイ様は、それでもよろしいのですか?
 私が嘘をつくかもしれないのに?」
「嘘をつくんですか?」
 微笑みながら聞き返すと、彼女は苦笑し、そして俺の目を見た。
 その目に決意を固めたとわかった。

「お話します」

 そして静かに語り出した。



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