おっさんが願うもの

猫の手

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王都編 〜観劇〜

124.おっさん、情報を聞き出す

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「ヴィンス様は、普段何をされているんですか?」
 探りを入れると言っても、何をどう話せばいいのか分からず、とりあえずきっかけになるような話題を振ってみた。
「私は普段芸術家達の支援活動をしています。
 この劇団もそうですが、資金集めに回ったり、後援会の会合に参加したり…」
「資金集めは大変そうですね」
「ええ、まぁ…。それでも、今回のように大成功を収めた時は頑張ってきて良かったと思えます」
 確かに、今日の劇場は満員御礼だった。窓から見える場所に空席は一つもなかったから、それなりの収益は出ているはずだ。
「まだまだこういった芸術を理解してくれる人も少なくて。
 一度観たり聞いたりすれば、とても良いものだとわかってもらえるんですが…」
 恐縮したように力なく笑う。
「夜会で、お仲間もいるとおっしゃってましたよね」
「ええ。ジェンキンス侯爵家ウォルター様、ルメール伯爵家ザカリー様、ローレン男爵家ヴァージル様、ブルーノ男爵家ダミアン様と私の5人で、芸術を愛する会を。
 皆様は普段他の仕事をされているので、会の事務局や芸術家のサポートなどは私1人で」
「え、お一人で!? それは大変ですね」
「私は好きでやっていますので、そんなに苦とは感じていないんです。
 応援している俳優や演奏家たちが名声を上げていくのは、本当に嬉しいことですよ」
 今回のシュウ役の人族の俳優も、昔から援助してきたと言った。
「才能があっても、支援者に恵まれなければ、大舞台には立てません。
 ですので、芸術家個人を支援してくれるスポンサーを探すのも私の仕事なのです」
 ようするに、ヴィンスは無職ではなく、芸術家の支援団体の仕事をしているが、その仕事内容が世間には理解されないのだろうと思った。
 おそらく彼の役割は、集めた支援金のやりくりや、芸術家や支援者へのサポートなどの事務的なことを引き受けているのだろう。
「本当に芸術を愛されてるんですね」
 ニコリと微笑むと、ヴィンスが照れたように小さく笑った。
「私は、子爵家の末子で貴族とは名ばかりの身分です。
 昔から兄や姉達が優先で、出来が良くない私はほとんど親からも相手にされなかった」
 ヴィンスが自分の手元を見ながら、俯き加減に語る。
「そんな時、王都の下町に来ていた旅一座のお芝居を見たんです。
 その時の感動を今だに忘れられません。演じることで別人になる俳優に憧れて、一度はその道に進むことを考えたんですよ」
「俳優になろうとしたんですか?」
「ええ。でも、まるっきり才能がありませんでした。
 それに、家族に貴族がなる職業ではないと」
 悲しそうに笑う。
「低い身分であっても貴族は貴族なんです。
 貴族らしくあれ、と何度も言われましたが、私には貴族であるという誇りすら持てないほど何も才能がありません。
 かと言って、身分を捨てたとしても何も出来ないから生きてもいけないでしょう」
 その言い方に自分自身をものすごく卑下する男だと思った。
「ただ、お芝居や音楽などは誰よりも好きで、教養の一環で観劇に行くのが唯一の楽しみでした。
 お芝居を見ている時は、全てを忘れさせてくれる」
 芸術が好きだと、心からそう思っているようで、満面の笑みを浮かべる。
「そんな時、ウォルター様に声をかけていただいたのです。
 ウォルター様も私と同じでした。
 芸術方面に進みたいが貴族であるが故に何も出来ない。
 ただ、ウォルター様は私と違って、貴族として芸術に関わる方法を考えていらっしゃった」
「それが、支援団体…ですか」
「その通りです」
「目から鱗でした。
 才能がなくても芸術に関われる。
 なので私はウォルター様の考えられた会に参加し、芸術家を支援する活動を始めたのです。
 幸い、私は何も仕事をしていませんでしたので、他の方達に変わって行動することが出来ます。
 ウォルター様やザカリー様達が支援する内容や案を提案してくださるので、私はそれを実現する仕事をしているのです」
 ヴィンスが楽しそうに話すが、それって、良いように使われてるだけじゃないか、と心の中で突っ込みを入れていた。
 他のメンバーが本当に芸術が好きなのかはわからないが、思いついたことをヴィンスにやらせているだけだと感じた。
 だが、ヴィンスはとても嬉しそうにしているし、彼は納得している、というか気付いていないんだろう。
「この国では、まだまだ芸術は娯楽の域を脱していないのです。
 娯楽イコール遊びです。
 ですが芸術は、お芝居や音楽は人の心を、感性を豊にする。
 私は、もっと大勢の人達に芸術の素晴らしさを知ってもらいたい。
 芸術分野をもっと高尚なものにしたいのです」
 最後のヴィンスの言葉には俺も少しだけ賛同した。
 確かに人の感性というものは生まれながらのものもあるだろうが、養うことも出来る。そのためには芸術が必要不可欠だとは思う。
 だが、俺自身芸術というものに今まで全く興味を持っていなかったため、おそらくこれからも、ヴィンスほどのめり込みはしないだろうと思った。
「ヴィンス様のお気持ちは良くわかりました。
 私も今回初めて観劇させていただいて、とても良いものだと感じました。
 またお誘いくださると嬉しいです」
 そう心にも無いが、次の段階へ進むべきかな、と判断した。
 ヴィンスではなく、他のメンバーに探りを入れるべきだと考える。
「私にお手伝い出来ることがあれば…」
 と取ってつけたようなセリフも言った。
 その途端ヴィンスの表情が目に見えて明るくなる。
 頬を紅潮させて興奮しているのがわかる。
「ありがとうございます。
 是非次回開催される予定の演奏会に来ていただけないでしょうか」
「演奏会?」
「はい。まだ日時は決まっていないのですが、若手演奏家の修練の場として、少人数の演奏会を不定期に開催しているのです」
「私なんかが行っても大丈夫ですか?」
「何をおっしゃいますか。聖女様の前で演奏するんです。演奏家にとっても大変勉強になると思います」
「そうでしょうか…」
 苦笑しながら答えるが、ヴィンスは鼻息荒く誘ってきた。
「次回はブルーノ男爵家の邸宅で開催予定なのですが…。招待状を送ってもよろしいでしょうか?」
 男爵家の私邸と聞き、確実にヴィンス以外のメンバーが来ることがわかった。
「確実に出席出来るとお約束は出来ませんが…それでもよろしければ…」
 と恐縮したように返事をすると、ヴィンスがニコリと笑った。
「ご都合が悪ければ断っていただいても構いません」
 それでもニコニコとしているヴィンスに笑顔を向ける。
「それでは、よろしくお願いいたします」
 軽く頭を下げつつ返事をした。
 ヴィンスが本当に嬉しそうに笑顔を振り撒く。
「是非、君たちも一緒に」
 そう言いながら振り向きジャニスとアビゲイルも誘う。
「我々は聖女様の護衛なので、その時に担当になっていれば、是非参加させていただきます」
 ジャニスが男らしく爽やかに答える。
 本当にこのヴィンスという男は、言葉は悪いが芸術バカなんだと思った。

 話が一区切りつき間が空いた。
「あの…、聖女様」
 おそらくこれ以上の情報収集は無理かな、と考えているとヴィンスに話しかけられる。
「一つだけお伺いしたことがあるのですが…」
「なんでしょうか」
 少しだけ首を傾げてヴィンスを見ると、途端に頬を染めた。
「あの…、聖女様は恋人が居たという記憶は…」
「え?」
 ヴィンスが頬を紅潮させながら視線を逸らす。
「右耳に、ピアスホールがあるので…」
 ヒュッと息を呑んだ。
 
 右は守ってくれる人がいる。
 左は守るべき人がいる。

 そういう意味を持ったペアピアスの跡を見られて、若干動揺した。
 わざわざ右耳と言ったというこは、左耳にピアスホールがないことも確認済みということで、その意味をヴィンスも当然知っているからこその質問だった。
「ぁ…」
 どう答えるべきか一瞬悩み言葉に詰まったが、タイミングよくドアがノックされた。
 アビゲイルが対応し、順番が回ってきましたと、告げた。
「か、帰りましょう」
 すかさず話題を逸らして立ち上がる。
 明らかに強引な逸らし方だと自分でも思ってしまい、チラリとヴィンスを見ると、やはり答えを待っている表情のままだった。
「…どうぞ…」
 ヴィンスが立ち上がり、来た時同様、俺をエスコートする。
 その左肘に手を添えながら、返事をどうするか必死に考えた。

 ロビーにはもう客もまばらになっていた。
 男爵以上の貴族はすでに帰路についており、当然シギアーノの姿もなくホッとする。
 再び、ザワザワと注目を集めるが、気にすることなく馬車へ乗り込んだ。
 というか、周囲の視線など気にしている暇はなかった。

 無言で来た時と同じ席順で馬車に乗り、出発する。
「ヴィンス様」
 このままにしておくわけにもいかず、ピアスホールの意味を説明する。
「実はですね、記憶を失くしてディーゼル殿下やロイ様、グレイ様に助けられ保護されて、それからここに来るまで4ヶ月ほど一緒に旅をしてきました」
「はい」
 これは父親から聞いて知っているのだろう。
「その旅の途中でですね、その…」
 少し俯き加減で、言いづらそうにしつつ説明する。
「かなりの頻度で言い寄られたり、襲われたり…、危険な目に遭うことが多くて…」
 言いながら右耳に触れた。
「それで、殿下達と話し合って、恋人であると偽装しよう、ということになりまして…」
 自分で言って、ズキと心が痛んだ。

 違う。このピアスホールは、2人との愛の証だ。
 俺たちは恋人で、結婚の約束もしている。

 だが、それを偽装だと言わなければならないことが辛かった。
 おそらくそれが表情に出ていたのだろう。ヴィンスが同情するような目で俺を見る。
「偽装…ですか」
「はい。殿下とロイ様とペアピアスをつけて恋人であると偽装しました。
 …おかげで、言い寄られることも襲われることもほぼなくなって…」
 言いながらズキズキと心が痛む。
「ここに到着してからは、もう必要ないので外しました」

 ヤバい。泣きそうだ。

 囮になるために、3人の関係を隠すと決めて外した。
 もし何か言われたら偽装だと言えばいいと、自分で言ったにも関わらず、実際に口にすると、その事実に打ちのめされた。
「辛い思いをされたんですね…」
 辛いこと、と言われたが、俺とヴィンスの考えている意味は違う。
 おそらくヴィンスは襲われたことを言っているのだろうが、俺は隠すことそのものが辛かった。
「ショーへー様は、それ以外でも聖女教会に何度も狙われて大変辛い思いをされたんです。
 出来れば、この件に関しては触れることを控えていただけると」
 ジャニスが静かに言い、ヴィンスが頭を下げた。
 つい1週間ほど前の夜会で聖女教会に襲撃されたばかりで、ヴィンスがその事実を思い出して青ざめた。
「申し訳ございません。バカな質問を致しました」
「いえ…」
 短く返し、ヴィンスもそれ以上聞いてくることはなかった。

 とりあえず、乗り切れた。
 俺たちの関係はバレていない。
 だが、今後もピアスホールに気付く奴は出てくる。自分で偽装だと言いたくはないが、慣れなくてはならないと、そう思った。

 20分かけて瑠璃宮に戻り、玄関前に到着すると、すぐにキースが出迎える。
「お帰りなさいませ」
 馬車からジャニスのエスコートで降り、ヴィンスを振り返る。
「今日はありがとうございました」
 丁寧にお辞儀をする。
「またお誘いしてもよろしいでしょうか…」
 先ほどの件を気にしているのか、ヴィンスが遠慮気味に聞いてくる。
「はい。よろしくお願いします」
 そう無理矢理笑顔を向ける。
「ありがとうございます。
 それではまた…」
 ヴィンスが俺の手を取り口付け、馬車へ乗り込むと瑠璃宮から去って行った。
 そのまま馬車を見送り、見えなくなった途端、くるりと後ろを振り返る。
「キース、ただいま!ロイとディー、いる?」
 キースにすぐに確認する。
「お部屋に…」
 その返事を聞くが否や、大急ぎで自室へ走って向かった。
 そんな俺の様子にキースが驚き、ジャニスとアビゲイルを見て確認する。
「ちょっと辛いことがあってね」
 アビゲイルが苦笑しながら言い、3人で翔平を追いかけた。

「ロイ!ディー!」
 バタバタと走り、バタンと思い切りドアを開けると、2人がソファから驚いた表情で俺を見る。
「お、お帰り」
「お帰りなさい…」
 キョトンとした表情で俺を見る2人の顔を見て、一気に安心感が襲ってきた。
「ただいま」
 両手を広げて2人に飛びつく。
「どうした?」
「何かあったんですか?」
 ソファから立ち上がって、俺を受け止めてくれた2人を思い切り抱きしめ、顔を交互に2人の胸元に押し付けた。
 そこにキースとジャニス、アビゲイルが部屋に入ってくる。
「何があったんだ?」
 ロイが眉根を寄せて険しい表情になる。
「安心して、何もされてないから。ただね…」
 ジャニスが言いながら自分の右耳を指差す。
「ピアスホールを見られちゃって。
 恋人がいるのかって聞かれちゃったのよ」
「そ。それで、旅で身を守るために殿下とロイと恋人関係を偽装したって、自分から言う羽目になっちゃったの」
 アビゲイルが悲しそうな表情を浮かべた。
「ショーへイさん…」
 ロイとディーに抱きついたまま顔を上げようとしない翔平に、2人の目が細められる。ピアスを外す時、泣いていた翔平を思い出し、たまらなく切なくなった。
「そうか…」
 ロイが俺の頭を撫で、ディーも背中を撫でてくれた。
 しばらく撫でられた後、ザワザワとした不安に似た辛さが徐々に薄まり、もう一度2人にスリスリと顔を寄せた後、離れた。
「ごめん、もう大丈夫。落ち着いたよ」
 あれだけ辛いと思った感情が、2人に触れて抱きしめられてすっかり解消される。
「なんだ、もういいんですか?」
 ディーが残念そうに言い、せっかくショーヘイさんから抱きついてくれたのに、と茶化すように言われて破顔した。
「明日午前中にサイファー様、アラン様、皆様いらっしゃいます。
 今日はもう遅いので、お休みになられてください」
 もうすでに0時を回り、今から寝る準備をしても夜中の1時だ。
「色々聞きたいが、全部明日だな」
 無事に俺が帰ってきたことにロイが安堵のため息をつく。
「もう一回確認しますけど、ヴィンスに触られたとか、抱きしめられたとか、なかったんですね?」
「ないよ」
 即答で返すと、ディーもホッとしたような表情になった。
 そして、再びギュッと抱きしめられ、頭を撫でられる。
「あ、ずるい。俺も」
 ロイがすかさず割り込んで来て、ロイにも抱きしめられた。
「それじゃあたし達は部屋に戻るわね。
 ショーへーちゃん、お疲れ様」
「ああ。ジャニスもアビーもありがとう。お疲れ様」
 2人に手を振って見送る。
「ショーヘイ様、着替えましょう」
 キースに促されバスルームに向かう。
 ロイとディーは再びソファに座り、2人はこのまま泊まるつもりだな、と思ったが何も言わなかった。

「お芝居は如何でした?」
 バスルームで縛った髪を解いてもらいながら聞かれた。
「すごい面白かった。感動して無茶苦茶泣いたよ」
 笑いながら言い、一緒に行ったのがヴィンスじゃなければな、と毒付いた。
 それにキースも笑いながら、聖女仕様の複雑な服を脱ぐのを手伝ってくれ、顔の化粧をクリーンをかけて入念に落とした。
「湯浴みはどうなさいますか?」
「うーん…けっこう疲れたから浸かりたいかも…」
 クリーンで綺麗にはなるが、湯船に浸かって温まり癒されたいと思った。
「ではお湯にしますね」
 キースがすぐにバスタブに貼られた水に火の玉を放り込んで適温まで温めてくれる。
 何度も見ても一瞬でお湯に変わる様に便利だなぁ、と思ってしまった。
「それではごゆっくりどうぞ」
 そう言ってタオルを用意してくれた後にバスルームを出て行った。
 全裸になり、ゆっくりとバスタブに全身を沈め、あ”ーとおっさんらしい声を上げた。


「ショーヘイ様は湯浴みなさるそうです」
「本当風呂好きだな」
 ロイが笑う。
「キース、今日はもういいですよ。私達がいますから」
 ディーがニコリと笑い、キースもニコッと微笑みを返す。
「お二人とも、ショーヘイ様を労ってくださいね。
 今日はとてもお疲れだと思うので」
 暗にSEXするな、というキースの言葉に2人がグッと言葉に詰まる。
「し、しませんよ」
 吃りながらディーが返し、ロイもそこまで鬼畜じゃないと言い返す。
「それならいいんですけど」
 クスクスと笑いながら答え、翔平を待つ間に使ったティーセット類を片付けた。
「それでは私はこれで」
 片付け終わって振り返るとニコリと2人に微笑むが、静かに圧をかけるのを忘れない。
「お休みなさいませ」
「おやすみ…なさい」
 ぐぬぬとなりながら挨拶した。
「仕方ないですよね…」
 2人してソファに座りガックリと項垂れる。
「我慢出来っかな…」
「それね…」
 2人同時にはぁ~となんとも言えないため息をついた。

 ゆっくりと体を温めてからほかほかになった状態でリヴィングに戻る。
「あれ?キースは?」
「今日はもう上がってもらいましたよ」
 時刻は深夜1時だ。
 だが、きっとキースが自ら戻ったのではなく、2人がそうしたんだと思った。
「俺寝るけど…」
「そうだな、もう寝るか」
 ロイが立ち上がり大きく背伸びをすると力を抜いて当然のように寝室に向かい、その後ろをディーが続いた。
「……」
 やっぱり泊まるのか、と思いつつ俺も寝室に向かう。
 そしてちゃっかり寝夜着まで用意して着替えている2人に呆れた。
 確かに今日はジャニスとアビゲイルが護衛のため、2人はフリーではある。
 いそいそと着替えてベッドに潜り込む2人をじっと見つめ、俺もベッドに上がった。
「ショーヘー真ん中な」
 ポンポンと叩いて寝る場所を示されて2人の間に静かに滑り込む。
 仰向けに寝ると2人も仰向けになって天井を見上げている。
「…あのさ」
「なんだ?」
「なんですか?」
「…しないの?」
 2人の様子がいつもと違うことに戸惑い、思わず聞いてしまった。
「キースに、疲れてるから労われって釘刺された」
 ロイの言葉に吹き出した。
「ああ、そういうこと。そっかそっか」
 ちゃんと俺を気遣ってくれたのかと笑う。
「ありがとう。ごめんな」
 せっかく一緒に寝ているのに、我慢している2人にお礼を言うと、2人が同時に俺の方を向いて両側から抱きつかれた。
「今日はしない。疲れてるだろうしな。でもさ」
 言いながらロイが顔を寄せる。
「キスさせて」
 間近で真剣に言われ、破顔しつつキスを受け入れる。
「私にも」
 ロイとのキスが終わると、ディーの手が頬に触れ、向きを変えさせられると唇を重ねた。
「ロイ、ディー。大好きだよ」
 笑いながら言うと、2人がグゥとおかしな声をあげる。
「お願いだから煽らないで…」
 ディーが頭をすりすりと肩に押し付けてくる。
「はぁ~」
 ロイが思い切りため息をついた。

 ごめんな。

 心の中で謝る。
 俺もしたい、とは思うけどさすがに自分でも疲れていると感じていた。
 体が、というよりも、精神的な疲労を感じ、2人にはさまれてその温かさを感じながら目を閉じるとすぐに睡魔に襲われた。



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