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王都編 〜夜会〜
おっさん、仲間ができる
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アランの手がゆっくりとキースの胸の傷痕を撫でる。そして、唇から首筋に、胸にキスを降らせ、傷痕を舌でなぞった。
「ん…」
ピクリとキースが反応し、小さく喘いだ。
「キース…、好きだ」
「アラン様…」
キースの腕が上がり、そっとアランの頭を撫でた。
「申し訳、ありません…」
「何がだ…?」
首筋に、胸に舌を這わせながら、アランが聞き返した。
「今まで…ぁ」
アランの舌が胸に咲く乳首を捉え、舌先で転がすと、キースの言葉が喘ぎに消される。
「あ、あぁ…」
舌で、指で嬲られ、チュウと強く吸われると、ピンと固くなった乳首が存在を主張する。
「今まで、お待たせ、して、あ、ん」
アランの手が内腿を撫で、そのままキースのペニスに触れると手で包み込み、ゆるゆると上下に扱いた。
「19年だ」
アランの手がぎゅっとペニスを握り込む。
「んぅ!」
「15歳でお前を愛してると自覚して、19年経った」
喋りながら乳首を舐める。
「プロポーズして5年」
トロトロと溢れる蜜がアナルまで流れ落ち、アランの指が入口を撫でるとゆっくりと中を犯す。
「あぁ…あ」
ゾクゾクと背筋を這い上がる快感にキースの目が潤み、アランを見つめた。
そして、両腕が上がるとアランの頭を抱きしめる。
「アラン様…。好きです。愛しています」
キースのその行動と言葉にアランが耐えきれず、キースの両足を抱え上げると一気に挿入した。
「ああ!」
そのまま何度もキースの中を掻き乱し、突き上げる。
「あ!あ!」
いつもは声を我慢するキースがその快感に素直に嬌声をあげ、アランにしがみつくように抱きついた。
「アラン様、アラン様!」
それに応えるようにアランもキースを抱きしめ、貪るように唇を重ねた。
「はぁ…キース…好きだ。愛してる」
互いに舌を絡ませ、全てが一つになるように抱きしめ合い、ほぼ同時に絶頂を迎えた。
そのまま抱き合いながら余韻に浸り、何度もキスをした。
「アラン様…」
うっとりとアランを見つめ、微笑むキースにアランは何度も何度もキスの雨を降らせた。
そして、再び腰を揺らす。
繋がった箇所から濡れた音が聞こえ、キースの耳がピコンと揺れた。
その動きにアランが笑い、優しく耳を撫でた。
今までの隙間を埋めるように、何度も求め合い愛を伝え合った。
そして今、数年前と同じように、アランはキースの腕の中に包まれ、頭を撫でられる。
「懐かしいな、この感じ」
アランが優しいキースの手を感じ、自ら頭を擦り寄せる。
「懐かしいですね…体はすっかり私よりも大きくなってしまいましたけど」
キースが笑いながら包み込むように抱きしめる。
「本当に…申し訳ありません…時間がかかってしまって」
「全くだ」
そう言いつつもアランは笑う。
アランが体を起こすと、今度はアランがその胸にキースを抱きしめる。
「何を考えていたのかは、もういい。
お前が俺を好きで、愛してくれていたのは知っているからな」
言いつつ、キースの額にキスをする。
「…私は…、貴方から離れようと…」
「そうだな」
肯定しつつもおかしそうに笑う。
「言葉や表情では俺を拒絶してたが…。本心じゃないのはわかってたよ」
キースがアランの言葉に、顔をあげた。
「何度もプロポーズして断られ続けても諦めきれなかったのは、お前が俺を愛してると知ってたからだ」
断られて悔しくて泣いてたけどな、と笑う。
「…どういうことですか?」
キースが不思議そうにアランを見つめる。
確かにSEXは受け入れていた。
だが、ここ数年はアランに触れもしていない。
それに、アランに告白したのは、1回目のプロポーズの時だけ。それ以外でキースから告げたことは一度もない。
アランが破顔すると、そっとキースのウサ耳を撫でた。
「目は口ほどに物を言う。
お前の場合は、目じゃなくて、耳な」
そう言い、おかしそうに笑う。
「耳…?」
「ああ。自分でも気付いてないのか」
「耳がどうしたんですか?」
キースが自分でも耳を触り、何かついているのかと確認する。
「動きだよ。
表情に喜怒哀楽は出ていなくても、耳はしっかりと動いてた。
俺の声を聞いた時、俺と話す時、俺とSEXする時…」
アランが自分の頭に両手を持って行き、ウサ耳の形を作ると、ピコピコと動かす。
「その耳が全力で、嬉しいって、こう動いてたぞ」
アランの手がさらに動き、その時の様子をキースに伝える。
「…え…?」
「今、困惑してるだろう。今はこう動いてる」
そう言いながら、左右に手を細かく揺らした。
「今は、恥ずかしい?」
そして、今度は手を少しお辞儀させるような動きをする。
キースの顔がみるみるうちに赤くなった。本当に感情を言い当てられて、驚くのと同時にものすごく恥ずかしくなった。
「その可愛い耳で、お前の感情が手に取るようにわかるんだよ」
「嘘…」
「嘘じゃねーよ」
アランがあははと声に出して笑う。
「俺がお前に好きだ、愛してるって言うとな、ものすごく耳が嬉しそうに動くんだ。
たとえ顔は無表情で、言葉では拒絶していても、本心は違うってすぐわかる」
アランが両手を下ろすと、キースの頬を撫ぜる。
「好きだよ、キース」
顔を寄せて囁くと、ピコンと耳が動く。
「ほら、動いた。嬉しいって思ったろ」
あはははは!とアランが笑った。
また感情を言いあてられ、キースはますます赤面した。
まさか、感情が耳の動きに現れていたなんて、全く気づかなかったし、言われたこともなかった。
それだけアランが自分を見ていたという証拠でもあり、嬉しくなる。
「本心は違うと、お前が俺を愛してくれているとわかっていたから諦めきれなかった。
19年、いや、出会った時から21年、お前だけをずっと見てきた。
お前だけを愛していた。
今も、これからもだ」
アランが優しく微笑み、唇を重ねる。
「愛してるよ、キース」
何度も何度も愛を告げ、キスを落とし、ぎゅっと抱きしめられた。
「アラン様…」
アランの肩に頭を乗せ、抱きしめられながらポツリと呟く。
「今まで断ってきた理由をお話しします…。聞いていただけますか?」
小さく震える声で話すキースに、ああ、と返事をする。
そしてキースはアランに打ち明けた。
布団と仲良くなりすぎて、なかなか出られない。
起きようと体を起こすが、その数秒後には再び布団に潜り込む、ということを何回か繰り返していた。
「ダメだ、起きよう」
昨日、思い切り寝坊してしまったし、今日は起きないと、と決意してベッドから出る。
寝室から出るとすぐに顔を洗ってシャキッとするとリヴィングに戻る。
そこにキースが居た。
「おはようございます」
「おはよう」
いつのまに来たのか、キースがお茶の用意を始めている。
「いつ戻ったんだ?」
「ついさっきです」
「さっき…へぇ…」
ニヤァと思わず口元が歪む。
「アランにちゃんと伝えられた?」
「はい…」
恥ずかしそうに言うキースに満面の笑みを浮かべた。
「そっかぁ、良かったなぁ」
ニコニコと自分のことのように喜ぶ翔平を見て、キースの心が温かくなる。
「どうぞ」
円卓にお茶を置かれ、キースも向かい側に座って、一緒に朝のお茶をする。
「プロポーズされた?受けるんだろ?」
お茶を一口飲んだ後に、改めて確認する。
「次プロポーズされたら、受けるつもりです…」
少しだけ頬を染めながら答え、でも、少しだけ煮え切らないような言い方が気になる。
「まだ何かあるのか?」
「私達のことではなく、ショーヘイさんとディーゼル様、ロイ様を差し置いて…」
「あ…」
言われて、今更ながらそうだったと思い出した。
「皆さんはまだ公表出来ず、結婚どころか婚約も出来ないのに」
キースが言い淀む。
つまり、自分たちが先にというのが気がかりということなんだろう。
「それは関係ないよ。気にする所じゃない」
苦笑しながら言うが、キースは気にしているようだった。
やっぱりまだどこかで現在の主人である俺よりも先になんて、という気持ちがあるんだろうと気付いた。
これについては真面目で頑固なキースの性格の問題もあるし、強く言うことでもないと思った。
俺としては今までずっと想いを秘めてきて、ようやっと表に出せるんだから、すぐにでも公表して婚約なりなんなりして欲しいと思うのだが。
これに関してはきっとアランがキースを説得してくれるだろうと、これ以上は何も言わないことにする。
「キース。俺たち、兄弟になるんだな」
「え…、あ」
キースが今気づいたという表情になる。
「キースお兄ちゃんになるのかw」
そう言ってニカッと笑うと、キースも破顔する。
「実はさ、キースが専属執事になるって聞いた時、アランの好きな人だっていうのも聞いてさ。
なんだろ…、仲間意識みたいなこと思ってたんだよな」
「仲間?」
「うん。ほら、俺は一般人だし、そんな俺が王族と結婚とか…、夢物語みたいなもんじゃん」
「ショーヘイさんは一般人じゃありませんよ。ジュノーで聖女様ですから」
「いやいや立場的な話じゃなくて、意識っていうの?
俺は元の世界じゃ、凡人の中の凡人だったしな。
それがこっちの世界に来て、王族や英雄と結婚とか…」
ティーカップのお茶に視線を落として話す。
「ちょっとさ…、怖いって思ってたんだよな。
あ、ディーやロイには言わないでくれよ」
顔をあげて自虐的に笑った翔平を見て、彼の気持ちがなんとなくわかった。
「仲間ですか…。そうですね。それこそ私は一般人で、使用人です。
そんな立場の人間が王族と結婚だなんて、おっしゃる通り夢物語ですよ。
なんとなく、ショーヘイさんの気持ち、わかります」
「本当に俺でいいのか、とか、王族と結婚して周りにどう思われるんだろう、とか、上手くやっていけるか、とか…。
なんか色々考えちゃってさ…。
こういうことを話せる人が欲しかったんだよね…」
キースをチラチラ見ながら話す。
「なるほど…王族に嫁ぐ仲間、ですか」
キースが言いつつクスクスと笑う。
「笑うなよ。これでも、色々と不安なこともたくさんあるんだから」
翔平が苦笑しつつ目を伏せる。
「昨日話したけど、この世界の男女区別や恋愛の価値観に、まだ完全に馴染めてないんだ。
だから無償に不安になることもあってさ…」
価値観を受け入れて納得もした。
実際に俺は性別の垣根を超えて、2人を愛してしまった。
だが、それでもたった4ヶ月ちょっとで39年間の価値観を覆せるわけじゃない。
本当に時々ではあるが、1人になった時についついそのことについて考えてしまうことはあった。
「ショーヘイさん、私で良ければいつでも話を聞きますよ。
王族に嫁ぐ仲間ですからね」
キースが笑う。
「ありがとう。キースが、仲間がいると心強いよ」
翔平も破顔する。
「仲間と言うなら、もう1人いますよ」
「もう1人?」
キースがニッコリと笑う。
「でも、お話しする前に朝食に行きましょうか」
時計を見ると7時を過ぎており、そうだな、と食堂へ向かった。
向かう途中、ちょうどグレイとジャニスに出会う。
「おはよう」
挨拶を交わしながら一緒に食堂に向かった。
「今日は何か予定あるのか?」
「いえ、今のところは何も。
今はまだ夜会の後始末でごたついてますし、例の件についてはもう少し後になるかと」
朝食後、キースが今朝届いた贈り物のチェックをしながらグレイに応える。
贈り物の数はまた増えていた。
夜会襲撃後のヒールで、ますます聖女ショーヘイを射止めようとする意識が高まり、各貴族達が躍起になっていた。
相変わらず、王宮も王城も花で溢れていた。
「これ、食っていいか」
キースがチェックして安全だと判定されたスイーツを、グレイが狙う。
「あら、ほんと美味しそう」
「どうぞ」
キースが目録を作成するのを尻目に、開けられたクッキーやケーキに手を出そうとしたので、行儀が悪い、と皿に移して2人の前に置いた。
「やだー、これ、行列必至のお店のじゃない。なかなか手に入らないのよー」
ジャニスが役得だと言いながらバクバクとスイーツを食べるのを見て、思わず太るぞ、と突っ込んだ。
「こんなに食べられないから、戻る時に持って帰ってくれると助かる。
日持ちするものは、孤児院にでも」
そう言いながら、クッキー類をよりわけて箱や袋に詰めていく。
「もーショーヘーちゃん、優しいんだから」
ジャニスが笑顔で言った。
護衛の交代の時間になると、ロイとオスカーがやってきた。
「ショーヘー!」
いつものようにハートマークを撒き散らしながらロイが飛び込んで来て、チュッチュッと顔や耳、首筋にキスの雨を降らせて、見ていたみんながドン引きした。
「それじゃ、お菓子ありがとな」
グレイとジャニスがお菓子の入った箱や袋を抱えて官舎に戻っていった。
「2人にせっかく来てもらったんだけど、今日は何の予定もないんだよね」
「そうか…」
オスカーがしばらく考え、ロイに向き直る。
「ロイ、ちょっと鍛錬に付き合えや」
「えー、やだよ」
そう言いながら、俺に抱きついてすりすりと首筋に顔を寄せる。
「やだ、離れたくない」
オスカーに首根っこを掴まれて無理やり剥がされ、そのまま引き摺られて行く。
「窓から見える所にいるから、何かあったら呼んでくれや」
「わかりました」
いやいや引きずられて行ったロイが出て行き、しばらく窓の外を見ていると2人が外に出てくる。
そして、突然2人の模擬戦が始まった。
「訓練?」
その様子に首を捻る。
お互いに体術を駆使して戦う姿に、訓練なのかガチなのか、素人にはわからなかった。
「さすがですね、お二人とも」
一緒に窓から見ていたキースが少しだけ、ウズウズしているように見える。
「もしかして、キースも参加したい…?」
「私には無理ですね。近接戦闘とはいえ、私は肉弾戦には向いていないので」
苦笑しながらキースが答えた。
確かに、体つきが全然違う。キースはとても細く柔軟性がある。おそらく、力よりもスピードを重視しているんだろうと思った。
しばらく2人の訓練の様子を眺めていたが、朝の話の続きを、と窓側に円卓を寄せると、そこに向かい合って座った。
もう1人の仲間、とは一体誰のことなのか。
「ダリア様です」
「ダリア…? ああ、サイファー様の…」
「ええ。あの方も王族に嫁いだ身ですから、相談するには最適だと思いますよ」
ニコニコとキースが話し、その話ぶりからダリアが良い人なんだと思った。
「ダリア様ってどんな人?」
「私に、ショーヘイさんの専属執事になるよう勧めた方ですよ」
それを聞いて、そういえば聞いていなかったと思い出した。
「そういや、キースってなんで俺の専属を希望したんだ?」
「それは…」
キースが語り出す。
ちょうど、俺が王都に到着する1週間前、サイファーの妻ダリアが里帰りと外交のために帝国に出発した。
キースも執事として同行していた。
元々決められていたため、予定を変更することが出来ず、俺に会えないとかなり嘆いていたそうだ。
そのダリアが、キースに俺の専属になるよう勧めたのだという。
その理由として、自分と同じく王族へ嫁ぐことになる俺を守るため、かつ、その心理面をサポートして欲しいと頼まれたそうだ。
さらに言うなら、キースもいずれ王族に嫁ぐことになるのだから、と言われたそうだ。
その時のキースは結婚しないと思っていたため、ダリアに少し反発したが、それでも、王族に惚れられてプロポーズされた者の気持ちはわかるでしょ?と、その心情面を慮っていたと聞いた。
その言葉で、キースは自分が力になれるなら、と専属になることを申し出たのだという。
ダリアは第1王位継承権を持つサイファーの妻として、将来の王妃として、同じく嫁いでくる俺をかなり心配していると教えてくれた。
「ダリア様は、私もいつかアラン様と結婚すると確信されていたようです。
その通りになりそうですけど」
そう言って、キースが笑う。
だから、私達は「嫁仲間」になるんです、と笑った。
「嫁仲間…」
男の俺が嫁という立場にも、まだかなり違和感を感じるが、王族を伴侶にする、という点では、その心情に共通点があり、気遣ってくれたということなのだろう。
「ダリア様はいつお戻りに?」
「雪の降る前には帰国する予定です」
「そっか」
会いたいな、と心から思った。
会って、王族の伴侶になるということの心構えみたいなものがあったら教えて欲しいと、本気で思った。
「ダリア様は、お強いですし、頭もキレる方です。
サイファー様が惚れ込んで、アラン様ほどではないですが、何度もアタックして、結婚するまで数年かかりました」
キースがその当時のことを思い出しながらクスクスと笑う。
「へぇ……ん?お強い?」
精神的に強いということだろうか、と首を傾げた。
「言葉通りです。ダリア様は騎士ですから」
「……ええ!!?」
想像していたダリアは、先日の夜会にも居たドレスに身をつつんだ女性の姿。
名前からして女性で間違いないと思うが、まさか騎士だとは思わなかった。
「ダリア様は、帝国侯爵家の次女としてお生まれになったのですが、とある貴族と結婚させられそうになって、この国に逃げてきたんですよ。
いわゆる政略結婚が嫌で」
「はぁ…すごいな…」
政略結婚が嫌で逃げてきた先で王族に見初められたってことか。
「逃げるってありなのか?」
「まあその辺は色々あったみたいですけど…。
ダリア様自身、帝国騎士でしたから、こちらの騎士団へ出向という形でいらっしゃいまして」
「へぇ…」
「その時に一緒にいらっしゃったのが、オスカー様です」
「え!」
また以外な関係を知ってさらに声を出して驚いた。
少し前、オスカーがサイファーと会った時にダリアを気にしていたのはそのせいか、と思い至った。
「ダリア様は数年騎士団第1部隊に所属し、その後近衞騎士になりました。
そこでサイファー様が…」
「はー…」
「ご結婚されるまで、ご生家から勘当されたも同然だったのですが、サイファー様とのご結婚が決まると、手の平を返したように態度を変えまして。
ダリア様もご自身が政略結婚から逃げたことで、弟様や妹様に被害が及ぶのではないかと気にされていて…。
今ではこうして里帰り出来るまでに関係は回復なさいました」
「そうなんだ…」
それにしても、なんだかディーの兄弟達はそれぞれが大恋愛をしているんだな、と感想を抱く。
父親であるレイブンもソフィア王妃と大恋愛だと言っていたし。
「ますます会ってみたくなったな。ダリア様に」
「きっとすぐに打ち解けられると思いますよ。とても気さくでお優しい方ですから」
そう言って、キースが微笑んだ。
外を見ると、ロイとオスカーがちょうどお互いに拳を入れあって、互いに弾き飛ばされる所だった。
「あー!」
その様子を見て、慌てて部屋を出る。
外に出ると、互いに痣だらけで、地面に座って休んでいる所だった。
「本当にただの訓練か!?」
そう言いながら2人にヒールをかけて、怪我を治す。
「いつものことだ。本気でやらんと鍛錬にならん」
オスカーが言い、ロイも平然としている。
「ギルに比べりゃ、まだ全然」
そう言って笑う2人に苦笑する。
そういや、ルメリアでギルバートの鍛錬を受けボコボコになっていたな、と思い出した。
「治してくれてありがとな」
チュッと頬にキスされて、オスカーには頭を撫でられた。
「聖女ちゃんがいれば、鍛錬も進むなぁ。午後から騎士団官舎に行くか?」
と誘われ苦笑した。
午後、騎士団官舎には行かなかったが、時間を持て余して、図書室にあった本の中から、ジュノーについて書かれたものを見つけ、それを読み耽った。
そこには、今まで見つかったジュノーのことが年代に別れて書いてあり、ジュノーの知識として何が伝えられたのかが詳しく書かれていた。
ただ、一番新しい5年前に発見されたジュノーのことが、たった3行でしか記入がなく、そういえば、ディーが苦虫を噛み潰したような表情をしていたことを思い出す。
たった3行。
どんなジュノーだったのか、それが気になって仕方がなかった。
「ん…」
ピクリとキースが反応し、小さく喘いだ。
「キース…、好きだ」
「アラン様…」
キースの腕が上がり、そっとアランの頭を撫でた。
「申し訳、ありません…」
「何がだ…?」
首筋に、胸に舌を這わせながら、アランが聞き返した。
「今まで…ぁ」
アランの舌が胸に咲く乳首を捉え、舌先で転がすと、キースの言葉が喘ぎに消される。
「あ、あぁ…」
舌で、指で嬲られ、チュウと強く吸われると、ピンと固くなった乳首が存在を主張する。
「今まで、お待たせ、して、あ、ん」
アランの手が内腿を撫で、そのままキースのペニスに触れると手で包み込み、ゆるゆると上下に扱いた。
「19年だ」
アランの手がぎゅっとペニスを握り込む。
「んぅ!」
「15歳でお前を愛してると自覚して、19年経った」
喋りながら乳首を舐める。
「プロポーズして5年」
トロトロと溢れる蜜がアナルまで流れ落ち、アランの指が入口を撫でるとゆっくりと中を犯す。
「あぁ…あ」
ゾクゾクと背筋を這い上がる快感にキースの目が潤み、アランを見つめた。
そして、両腕が上がるとアランの頭を抱きしめる。
「アラン様…。好きです。愛しています」
キースのその行動と言葉にアランが耐えきれず、キースの両足を抱え上げると一気に挿入した。
「ああ!」
そのまま何度もキースの中を掻き乱し、突き上げる。
「あ!あ!」
いつもは声を我慢するキースがその快感に素直に嬌声をあげ、アランにしがみつくように抱きついた。
「アラン様、アラン様!」
それに応えるようにアランもキースを抱きしめ、貪るように唇を重ねた。
「はぁ…キース…好きだ。愛してる」
互いに舌を絡ませ、全てが一つになるように抱きしめ合い、ほぼ同時に絶頂を迎えた。
そのまま抱き合いながら余韻に浸り、何度もキスをした。
「アラン様…」
うっとりとアランを見つめ、微笑むキースにアランは何度も何度もキスの雨を降らせた。
そして、再び腰を揺らす。
繋がった箇所から濡れた音が聞こえ、キースの耳がピコンと揺れた。
その動きにアランが笑い、優しく耳を撫でた。
今までの隙間を埋めるように、何度も求め合い愛を伝え合った。
そして今、数年前と同じように、アランはキースの腕の中に包まれ、頭を撫でられる。
「懐かしいな、この感じ」
アランが優しいキースの手を感じ、自ら頭を擦り寄せる。
「懐かしいですね…体はすっかり私よりも大きくなってしまいましたけど」
キースが笑いながら包み込むように抱きしめる。
「本当に…申し訳ありません…時間がかかってしまって」
「全くだ」
そう言いつつもアランは笑う。
アランが体を起こすと、今度はアランがその胸にキースを抱きしめる。
「何を考えていたのかは、もういい。
お前が俺を好きで、愛してくれていたのは知っているからな」
言いつつ、キースの額にキスをする。
「…私は…、貴方から離れようと…」
「そうだな」
肯定しつつもおかしそうに笑う。
「言葉や表情では俺を拒絶してたが…。本心じゃないのはわかってたよ」
キースがアランの言葉に、顔をあげた。
「何度もプロポーズして断られ続けても諦めきれなかったのは、お前が俺を愛してると知ってたからだ」
断られて悔しくて泣いてたけどな、と笑う。
「…どういうことですか?」
キースが不思議そうにアランを見つめる。
確かにSEXは受け入れていた。
だが、ここ数年はアランに触れもしていない。
それに、アランに告白したのは、1回目のプロポーズの時だけ。それ以外でキースから告げたことは一度もない。
アランが破顔すると、そっとキースのウサ耳を撫でた。
「目は口ほどに物を言う。
お前の場合は、目じゃなくて、耳な」
そう言い、おかしそうに笑う。
「耳…?」
「ああ。自分でも気付いてないのか」
「耳がどうしたんですか?」
キースが自分でも耳を触り、何かついているのかと確認する。
「動きだよ。
表情に喜怒哀楽は出ていなくても、耳はしっかりと動いてた。
俺の声を聞いた時、俺と話す時、俺とSEXする時…」
アランが自分の頭に両手を持って行き、ウサ耳の形を作ると、ピコピコと動かす。
「その耳が全力で、嬉しいって、こう動いてたぞ」
アランの手がさらに動き、その時の様子をキースに伝える。
「…え…?」
「今、困惑してるだろう。今はこう動いてる」
そう言いながら、左右に手を細かく揺らした。
「今は、恥ずかしい?」
そして、今度は手を少しお辞儀させるような動きをする。
キースの顔がみるみるうちに赤くなった。本当に感情を言い当てられて、驚くのと同時にものすごく恥ずかしくなった。
「その可愛い耳で、お前の感情が手に取るようにわかるんだよ」
「嘘…」
「嘘じゃねーよ」
アランがあははと声に出して笑う。
「俺がお前に好きだ、愛してるって言うとな、ものすごく耳が嬉しそうに動くんだ。
たとえ顔は無表情で、言葉では拒絶していても、本心は違うってすぐわかる」
アランが両手を下ろすと、キースの頬を撫ぜる。
「好きだよ、キース」
顔を寄せて囁くと、ピコンと耳が動く。
「ほら、動いた。嬉しいって思ったろ」
あはははは!とアランが笑った。
また感情を言いあてられ、キースはますます赤面した。
まさか、感情が耳の動きに現れていたなんて、全く気づかなかったし、言われたこともなかった。
それだけアランが自分を見ていたという証拠でもあり、嬉しくなる。
「本心は違うと、お前が俺を愛してくれているとわかっていたから諦めきれなかった。
19年、いや、出会った時から21年、お前だけをずっと見てきた。
お前だけを愛していた。
今も、これからもだ」
アランが優しく微笑み、唇を重ねる。
「愛してるよ、キース」
何度も何度も愛を告げ、キスを落とし、ぎゅっと抱きしめられた。
「アラン様…」
アランの肩に頭を乗せ、抱きしめられながらポツリと呟く。
「今まで断ってきた理由をお話しします…。聞いていただけますか?」
小さく震える声で話すキースに、ああ、と返事をする。
そしてキースはアランに打ち明けた。
布団と仲良くなりすぎて、なかなか出られない。
起きようと体を起こすが、その数秒後には再び布団に潜り込む、ということを何回か繰り返していた。
「ダメだ、起きよう」
昨日、思い切り寝坊してしまったし、今日は起きないと、と決意してベッドから出る。
寝室から出るとすぐに顔を洗ってシャキッとするとリヴィングに戻る。
そこにキースが居た。
「おはようございます」
「おはよう」
いつのまに来たのか、キースがお茶の用意を始めている。
「いつ戻ったんだ?」
「ついさっきです」
「さっき…へぇ…」
ニヤァと思わず口元が歪む。
「アランにちゃんと伝えられた?」
「はい…」
恥ずかしそうに言うキースに満面の笑みを浮かべた。
「そっかぁ、良かったなぁ」
ニコニコと自分のことのように喜ぶ翔平を見て、キースの心が温かくなる。
「どうぞ」
円卓にお茶を置かれ、キースも向かい側に座って、一緒に朝のお茶をする。
「プロポーズされた?受けるんだろ?」
お茶を一口飲んだ後に、改めて確認する。
「次プロポーズされたら、受けるつもりです…」
少しだけ頬を染めながら答え、でも、少しだけ煮え切らないような言い方が気になる。
「まだ何かあるのか?」
「私達のことではなく、ショーヘイさんとディーゼル様、ロイ様を差し置いて…」
「あ…」
言われて、今更ながらそうだったと思い出した。
「皆さんはまだ公表出来ず、結婚どころか婚約も出来ないのに」
キースが言い淀む。
つまり、自分たちが先にというのが気がかりということなんだろう。
「それは関係ないよ。気にする所じゃない」
苦笑しながら言うが、キースは気にしているようだった。
やっぱりまだどこかで現在の主人である俺よりも先になんて、という気持ちがあるんだろうと気付いた。
これについては真面目で頑固なキースの性格の問題もあるし、強く言うことでもないと思った。
俺としては今までずっと想いを秘めてきて、ようやっと表に出せるんだから、すぐにでも公表して婚約なりなんなりして欲しいと思うのだが。
これに関してはきっとアランがキースを説得してくれるだろうと、これ以上は何も言わないことにする。
「キース。俺たち、兄弟になるんだな」
「え…、あ」
キースが今気づいたという表情になる。
「キースお兄ちゃんになるのかw」
そう言ってニカッと笑うと、キースも破顔する。
「実はさ、キースが専属執事になるって聞いた時、アランの好きな人だっていうのも聞いてさ。
なんだろ…、仲間意識みたいなこと思ってたんだよな」
「仲間?」
「うん。ほら、俺は一般人だし、そんな俺が王族と結婚とか…、夢物語みたいなもんじゃん」
「ショーヘイさんは一般人じゃありませんよ。ジュノーで聖女様ですから」
「いやいや立場的な話じゃなくて、意識っていうの?
俺は元の世界じゃ、凡人の中の凡人だったしな。
それがこっちの世界に来て、王族や英雄と結婚とか…」
ティーカップのお茶に視線を落として話す。
「ちょっとさ…、怖いって思ってたんだよな。
あ、ディーやロイには言わないでくれよ」
顔をあげて自虐的に笑った翔平を見て、彼の気持ちがなんとなくわかった。
「仲間ですか…。そうですね。それこそ私は一般人で、使用人です。
そんな立場の人間が王族と結婚だなんて、おっしゃる通り夢物語ですよ。
なんとなく、ショーヘイさんの気持ち、わかります」
「本当に俺でいいのか、とか、王族と結婚して周りにどう思われるんだろう、とか、上手くやっていけるか、とか…。
なんか色々考えちゃってさ…。
こういうことを話せる人が欲しかったんだよね…」
キースをチラチラ見ながら話す。
「なるほど…王族に嫁ぐ仲間、ですか」
キースが言いつつクスクスと笑う。
「笑うなよ。これでも、色々と不安なこともたくさんあるんだから」
翔平が苦笑しつつ目を伏せる。
「昨日話したけど、この世界の男女区別や恋愛の価値観に、まだ完全に馴染めてないんだ。
だから無償に不安になることもあってさ…」
価値観を受け入れて納得もした。
実際に俺は性別の垣根を超えて、2人を愛してしまった。
だが、それでもたった4ヶ月ちょっとで39年間の価値観を覆せるわけじゃない。
本当に時々ではあるが、1人になった時についついそのことについて考えてしまうことはあった。
「ショーヘイさん、私で良ければいつでも話を聞きますよ。
王族に嫁ぐ仲間ですからね」
キースが笑う。
「ありがとう。キースが、仲間がいると心強いよ」
翔平も破顔する。
「仲間と言うなら、もう1人いますよ」
「もう1人?」
キースがニッコリと笑う。
「でも、お話しする前に朝食に行きましょうか」
時計を見ると7時を過ぎており、そうだな、と食堂へ向かった。
向かう途中、ちょうどグレイとジャニスに出会う。
「おはよう」
挨拶を交わしながら一緒に食堂に向かった。
「今日は何か予定あるのか?」
「いえ、今のところは何も。
今はまだ夜会の後始末でごたついてますし、例の件についてはもう少し後になるかと」
朝食後、キースが今朝届いた贈り物のチェックをしながらグレイに応える。
贈り物の数はまた増えていた。
夜会襲撃後のヒールで、ますます聖女ショーヘイを射止めようとする意識が高まり、各貴族達が躍起になっていた。
相変わらず、王宮も王城も花で溢れていた。
「これ、食っていいか」
キースがチェックして安全だと判定されたスイーツを、グレイが狙う。
「あら、ほんと美味しそう」
「どうぞ」
キースが目録を作成するのを尻目に、開けられたクッキーやケーキに手を出そうとしたので、行儀が悪い、と皿に移して2人の前に置いた。
「やだー、これ、行列必至のお店のじゃない。なかなか手に入らないのよー」
ジャニスが役得だと言いながらバクバクとスイーツを食べるのを見て、思わず太るぞ、と突っ込んだ。
「こんなに食べられないから、戻る時に持って帰ってくれると助かる。
日持ちするものは、孤児院にでも」
そう言いながら、クッキー類をよりわけて箱や袋に詰めていく。
「もーショーヘーちゃん、優しいんだから」
ジャニスが笑顔で言った。
護衛の交代の時間になると、ロイとオスカーがやってきた。
「ショーヘー!」
いつものようにハートマークを撒き散らしながらロイが飛び込んで来て、チュッチュッと顔や耳、首筋にキスの雨を降らせて、見ていたみんながドン引きした。
「それじゃ、お菓子ありがとな」
グレイとジャニスがお菓子の入った箱や袋を抱えて官舎に戻っていった。
「2人にせっかく来てもらったんだけど、今日は何の予定もないんだよね」
「そうか…」
オスカーがしばらく考え、ロイに向き直る。
「ロイ、ちょっと鍛錬に付き合えや」
「えー、やだよ」
そう言いながら、俺に抱きついてすりすりと首筋に顔を寄せる。
「やだ、離れたくない」
オスカーに首根っこを掴まれて無理やり剥がされ、そのまま引き摺られて行く。
「窓から見える所にいるから、何かあったら呼んでくれや」
「わかりました」
いやいや引きずられて行ったロイが出て行き、しばらく窓の外を見ていると2人が外に出てくる。
そして、突然2人の模擬戦が始まった。
「訓練?」
その様子に首を捻る。
お互いに体術を駆使して戦う姿に、訓練なのかガチなのか、素人にはわからなかった。
「さすがですね、お二人とも」
一緒に窓から見ていたキースが少しだけ、ウズウズしているように見える。
「もしかして、キースも参加したい…?」
「私には無理ですね。近接戦闘とはいえ、私は肉弾戦には向いていないので」
苦笑しながらキースが答えた。
確かに、体つきが全然違う。キースはとても細く柔軟性がある。おそらく、力よりもスピードを重視しているんだろうと思った。
しばらく2人の訓練の様子を眺めていたが、朝の話の続きを、と窓側に円卓を寄せると、そこに向かい合って座った。
もう1人の仲間、とは一体誰のことなのか。
「ダリア様です」
「ダリア…? ああ、サイファー様の…」
「ええ。あの方も王族に嫁いだ身ですから、相談するには最適だと思いますよ」
ニコニコとキースが話し、その話ぶりからダリアが良い人なんだと思った。
「ダリア様ってどんな人?」
「私に、ショーヘイさんの専属執事になるよう勧めた方ですよ」
それを聞いて、そういえば聞いていなかったと思い出した。
「そういや、キースってなんで俺の専属を希望したんだ?」
「それは…」
キースが語り出す。
ちょうど、俺が王都に到着する1週間前、サイファーの妻ダリアが里帰りと外交のために帝国に出発した。
キースも執事として同行していた。
元々決められていたため、予定を変更することが出来ず、俺に会えないとかなり嘆いていたそうだ。
そのダリアが、キースに俺の専属になるよう勧めたのだという。
その理由として、自分と同じく王族へ嫁ぐことになる俺を守るため、かつ、その心理面をサポートして欲しいと頼まれたそうだ。
さらに言うなら、キースもいずれ王族に嫁ぐことになるのだから、と言われたそうだ。
その時のキースは結婚しないと思っていたため、ダリアに少し反発したが、それでも、王族に惚れられてプロポーズされた者の気持ちはわかるでしょ?と、その心情面を慮っていたと聞いた。
その言葉で、キースは自分が力になれるなら、と専属になることを申し出たのだという。
ダリアは第1王位継承権を持つサイファーの妻として、将来の王妃として、同じく嫁いでくる俺をかなり心配していると教えてくれた。
「ダリア様は、私もいつかアラン様と結婚すると確信されていたようです。
その通りになりそうですけど」
そう言って、キースが笑う。
だから、私達は「嫁仲間」になるんです、と笑った。
「嫁仲間…」
男の俺が嫁という立場にも、まだかなり違和感を感じるが、王族を伴侶にする、という点では、その心情に共通点があり、気遣ってくれたということなのだろう。
「ダリア様はいつお戻りに?」
「雪の降る前には帰国する予定です」
「そっか」
会いたいな、と心から思った。
会って、王族の伴侶になるということの心構えみたいなものがあったら教えて欲しいと、本気で思った。
「ダリア様は、お強いですし、頭もキレる方です。
サイファー様が惚れ込んで、アラン様ほどではないですが、何度もアタックして、結婚するまで数年かかりました」
キースがその当時のことを思い出しながらクスクスと笑う。
「へぇ……ん?お強い?」
精神的に強いということだろうか、と首を傾げた。
「言葉通りです。ダリア様は騎士ですから」
「……ええ!!?」
想像していたダリアは、先日の夜会にも居たドレスに身をつつんだ女性の姿。
名前からして女性で間違いないと思うが、まさか騎士だとは思わなかった。
「ダリア様は、帝国侯爵家の次女としてお生まれになったのですが、とある貴族と結婚させられそうになって、この国に逃げてきたんですよ。
いわゆる政略結婚が嫌で」
「はぁ…すごいな…」
政略結婚が嫌で逃げてきた先で王族に見初められたってことか。
「逃げるってありなのか?」
「まあその辺は色々あったみたいですけど…。
ダリア様自身、帝国騎士でしたから、こちらの騎士団へ出向という形でいらっしゃいまして」
「へぇ…」
「その時に一緒にいらっしゃったのが、オスカー様です」
「え!」
また以外な関係を知ってさらに声を出して驚いた。
少し前、オスカーがサイファーと会った時にダリアを気にしていたのはそのせいか、と思い至った。
「ダリア様は数年騎士団第1部隊に所属し、その後近衞騎士になりました。
そこでサイファー様が…」
「はー…」
「ご結婚されるまで、ご生家から勘当されたも同然だったのですが、サイファー様とのご結婚が決まると、手の平を返したように態度を変えまして。
ダリア様もご自身が政略結婚から逃げたことで、弟様や妹様に被害が及ぶのではないかと気にされていて…。
今ではこうして里帰り出来るまでに関係は回復なさいました」
「そうなんだ…」
それにしても、なんだかディーの兄弟達はそれぞれが大恋愛をしているんだな、と感想を抱く。
父親であるレイブンもソフィア王妃と大恋愛だと言っていたし。
「ますます会ってみたくなったな。ダリア様に」
「きっとすぐに打ち解けられると思いますよ。とても気さくでお優しい方ですから」
そう言って、キースが微笑んだ。
外を見ると、ロイとオスカーがちょうどお互いに拳を入れあって、互いに弾き飛ばされる所だった。
「あー!」
その様子を見て、慌てて部屋を出る。
外に出ると、互いに痣だらけで、地面に座って休んでいる所だった。
「本当にただの訓練か!?」
そう言いながら2人にヒールをかけて、怪我を治す。
「いつものことだ。本気でやらんと鍛錬にならん」
オスカーが言い、ロイも平然としている。
「ギルに比べりゃ、まだ全然」
そう言って笑う2人に苦笑する。
そういや、ルメリアでギルバートの鍛錬を受けボコボコになっていたな、と思い出した。
「治してくれてありがとな」
チュッと頬にキスされて、オスカーには頭を撫でられた。
「聖女ちゃんがいれば、鍛錬も進むなぁ。午後から騎士団官舎に行くか?」
と誘われ苦笑した。
午後、騎士団官舎には行かなかったが、時間を持て余して、図書室にあった本の中から、ジュノーについて書かれたものを見つけ、それを読み耽った。
そこには、今まで見つかったジュノーのことが年代に別れて書いてあり、ジュノーの知識として何が伝えられたのかが詳しく書かれていた。
ただ、一番新しい5年前に発見されたジュノーのことが、たった3行でしか記入がなく、そういえば、ディーが苦虫を噛み潰したような表情をしていたことを思い出す。
たった3行。
どんなジュノーだったのか、それが気になって仕方がなかった。
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