おっさんが願うもの

猫の手

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王都編 〜夜会〜

110.おっさん、上書きする

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 翔平が行方不明にってから40分後、王宮に戻ったレイブンとサイファーが執務室で貧乏ゆすりを繰り返していた。
「やはり、戻る」
「駄目です」
 5分おきにずっと同じ台詞を繰り返していた。
 そしてまた沈黙が訪れる。
「やはり…」
「駄目です」
 サイファーにピシャリと言われ、レイブンがシュンとした。
「ワシだって…騎士じゃもん…まだ現役のもんには負けんぞ」
「王が周りでチョロチョロすると騎士達の気が散るので止めてください」
 小さな子供を叱るような息子の言い方にブーブーと文句を言い口を尖らせた。
 どちらが父か子かわからないような会話の中、執務室のドアがノックされる。
「父上、サイファー兄様」
「ユリアか。どうした?」
 2人とも可愛い姿にデレっとしつつ微笑む。
「お願いがあって参りました」
 ユリアが中に入ってくると、レイブンに書類を手渡す。
「なんだね?」
 受け取って目を通す。
 内容を読むにつれ、笑顔から真顔に、そして険しくなった。
「間違いないな?」
「はい」
「よし、許可する」
 レイブンがペンを持つと、書類の下にサラサラと署名し、それをサイファーに渡した。
 さらにユリアから渡される書簡にも続けてサインし、サイファーも同じようにサインした。
「それでは」
 ユリアが署名入りの書類と書簡を受け取り、微笑みながら執務室を出て行った。
 ユリアが出て行き、しばらく動かなかった2人だが、ほぼ同時にため息をついた。
「末恐ろしい子だ…」
 レイブンが呟き、サイファーが全くです、と答えた。


 うふふ、と上機嫌でユリアが廊下を歩き自室へ向かう。
「シーゲル」
 微笑みながら誰もいない空間に向かって呼ぶ。
「はい」
 ユリアの後ろにいつのまにかお仕着せを着たシーゲルが付き従っていた。
「許可が降りたわ」
 シーゲルに持っていた書類と書簡を渡す。
「かしこまりました」
「あ、徹底的にね」
「心得ております」
「ショーヘー兄様には、悪いことしちゃったわ…。もう少し早ければ…」
 ユリアの表情が曇る。
 少しだけ悔しそうに呟いた。
「あの方は大丈夫です。強いお方ですから…」
 シーゲルが遺跡で強制的な魔力抽出に耐え抜いた翔平を思い出す。
 さらに、彼は黒騎士のことを短時間で理解した。影が何故影であるのか理解し、かつその存在を肯定してくれた。
 シーゲルが目を細め静かに微笑む。
「シーゲル…貴方がそんな風に微笑むなんて…ちょっと妬けちゃうわね」
 ユリアがわざとらしく頬を膨らませ、シーゲルも破顔した。
「お願いね、シーゲル」
「かしこまりました」
 ユリアが自室の前に着くと、その後ろにシーゲルの姿はもうなかった。





 瑠璃宮に到着すると、通いの使用人が帰りを待っていた。
 到着するなり、俺の格好と、ロイに抱き抱えられたキースを見て慌てる。
「気を失っているだけで、大丈夫だ」
 心配そうにする使用人に伝え、そのまま全員で3階の翔平の自室に向かう。
 ロイが隣のキースの部屋に行こうとしたが、それを止める。
「俺のベッドに。それと、寝夜着に着替えさせてあげてください」
 キースが目を覚ました時にそばに居てやりたいのと、キースのベッドよりも俺のベッドの方が広いから、自室の寝室に寝かせてもらった。
 翔平が使用人達にお願いし、自分もフィッティングルームに入り着替え、少し肌寒かったので、ローブを羽織った。
 リヴィングに戻ると、着替えさせ終わった使用人が寝室から出てくる所だった。
「ありがとうございます。今日はもう大丈夫ですから。
 遅くまでお疲れ様です」
 ニコリと微笑むと、まだ心配そうな表情をしつつ、頭を下げて部屋を出て行く。
「アビーも、今日はもう休んで」
 アビゲイルにも微笑みかける。
「そうね。もう私に出来ることはないし。休ませてもらうわ」
「アビー、ありがとう」
 アビゲイルに近寄ると、その手を握って礼を言った。
「本当に無事で良かったわ。おやすみ」
 アビゲイルが安堵した表情を浮かべ、静かに2階の部屋に戻った。
 ドアが閉まり、翔平がしばらくその場で立ち尽くす。
 ロイが静かに翔平に近寄った。
 そして、突然その場に崩れ落ちるように膝を折った翔平を素早く支えた。
「よく頑張ったな」
 ロイが翔平を抱きしめる。
「っふ…ぅ」
 床に座り込み、涙が込み上げてくるのを抑えられない。
 体が震え、足に力が入らない。
 ロイと2人になって、今になって体が悲鳴を上げ、立っていられなくなった。

 もうとっくに限界を超えていた。
 レイプ目的で連れ去られ、時間を稼ぐためにたくさん考えて、必死に抵抗して、さんざん殴られた。
 暴行を受け、痛くて苦しくて。
 ヒールを使って怪我はすぐに治せたが、心に受けた傷はそう簡単に癒えない。
 それでも、俺にはまだやるべきことがある。
 巻き込まれた人達の治療を。
 俺を守ろうとしてくれた皆に無事だと笑顔を見せること。

 大丈夫です。
 俺は大丈夫だから。
 助けてくれてありがとう。

 そう伝えるために、必死に我慢した。
 心が怪我をしてボロボロになっていたが、それを見せることは出来なかった。
 精神力だけで、立って話して笑顔を作った。

 でも、もう限界だ。

「う…あぁ、あ」
 嗚咽が漏れる。
 我慢していた恐怖が、辛さが一気に溢れ出して止めることが出来なかった。
 ロイは何も言わず、俺を抱きしめ俺の顔を自分の胸に押し付ける。
 そのロイの背中に腕を回し、ギュウッと服を強く握りしめ、大声で泣いた。
 ロイが、泣き、ガタガタと体が震える俺を抱えるとソファに移動し膝に座らせ、ただ黙って抱きしめ頭を撫でてくれる。

 怖かった。
 本当は、助けて、誰か助けて、と泣き叫びたかった。
 だけど必死に気持ちを押し殺して、自分が出来ることを、それだけを考えた。

 ロイは翔平が必死に耐えて、我慢しているのをわかっていた。
 ディーもそれに気付いていて、戻れと言われた時に逡巡したが、王族としての立場を優先させた。
 翔平が必死に周囲のために自分を押し殺しているのに、自分だけが務めを放棄するなんて出来ないと思った。
 それにロイがいる。
 ロイが自分の分も翔平を支えてくれると信頼し、任せた。
 ディーに目配せされ、一瞬で理解したロイが小さく頷き、ディーは安心して残った。

 そして、アビゲイルも退室して2人きりになると、翔平は崩れた。


 そうだ、それでいい。
 俺の前で取り繕う必要はないんだ。


 ロイが翔平を抱きしめる。
 触れている箇所から、その体を心を癒すように、魔力を静かにゆっくりと注ぎ包み込んだ。



 ロイの肩に頭を預けて、ロイの愛がこもった温かい魔力を受け、徐々に落ち着きを取り戻す。
 以前、ロイの前で我慢しなくてもいいと言われ、2人きりになったことで歯止めが効かなくなった。
 ロイには曝け出せる。それはディーの前でも同じ。
 2人は自分の弱さを受け止めてくれると確信があった。
「ロイ、ありがとう」
 ロイの肩に手を置いて、少しだけ体を離し、照れくさそうに笑った。
「ショーヘー…」
 ロイの手が俺の顔に触れ、涙を指で優しく拭ってくれる。指が唇に触れ、涙で濡れた唇をなぞった。
 どちらから、というわけでもなく口付ける。
 重ねるだけの長いキスを交わし、一度離れるが、今度は貪るように深いキスを交わした。
 ロイの頭を抱えるように両腕で抱きしめ、ロイの舌を受け入れ自分から絡ませる。
 ジクジクと快感が下から迫り上がってくるのを理性で抑え込むことはせず、ロイの唇と舌を味わった。
「はぁ…ロイ…」
 口を離すと違いの舌の間に唾液が糸を引き、それを掬い取るようにペロリとロイの舌を舐めた。
「SEXしよう…したい。ロイ…愛してくれ…」
 囁くように言うと、ロイが俺を抱き上げ、俺もロイの首へ両腕を回し、足をロイの腰に絡めた。
 正面で抱き合い、ロイに持ち上げられ、バスルームに向かう。
 その間も何度もキスを繰り返した。

 あいつ、ロドニーに触られ、舐められた感触が今も体に残っている。
 ロイに抱かれることで、その感触を消し去りたかった。
 ロイの愛で上書きして欲しいと心から願った。
 
 ロイがバスルームに入ると、器用に足でドアを閉め、俺を下ろすと、腰くらいの高さのキャビネットの上に座らせた。
 キスをしながらロイの手がローブの紐をほどきはだけると、ズボンを下着ごと乱暴に下ろした。
 そして、俺のペニスをゆっくりと扱き、徐々に溢れてくる蜜を塗りつけるようにアナルへ指を這わせる。
「あ、あぁ…、あん」
 自分から舌を突き出して、キスをねだる。ロイが与えてくれる快感をひたすら追い求め、貪る。
「ロイ…ロイ…」
 アナルに指が挿入され、中をほぐすように動き、キスをしながらくぐもった喘ぎ声をあげた。
 ロイのもう一本の手が上着の中に入り、乳首をクリクリと弄り、上着を捲ると、胸を舐め舌で乳首を転がす。
 その刺激でプックリと膨れ固くなった乳首が存在を主張すると、ロイが甘噛みしつつアナルをほぐす指の動きを強める。
「あ、あ、ロイ、もう、いい、いいから!」
 アナルを指で犯されながら、ロイに懇願した。
 ロイが指をギュンギュンに締め付けるアナルに興奮し、ハァハァと荒い呼吸を繰り返し、俺の言葉に指を引きぬくと、俺の体をキャビネットから下ろし、後ろを向かせた。
 着たままだったローブをたくし上げ、尻をロイに突き出す姿勢をとらされ、キャビネットに上半身をうつ伏せに倒す。
 素早く己のペニスを取り出したロイが、手を添えてアナルとその鈴口をキスさせる。
「んぅ!」
 グプッと、指で慣らされたアナルにロイが挿入される。
「あ…はぁ…あぁ」
 ゆっくりだが、確実に奥まで入ってくるロイに、強烈な快感が背筋を駆け抜け、ブルブルと体を震わせた。
「あぁ…ロイ…」
 ゾクゾクと下半身を直撃する快感に無意識に腰が揺れる。
「ショーヘー…」
 ロイの手が着たままだった服の中に差し入れられ、背中を優しく撫でながら、律動を開始した。
「あ!あぁ!」
 パチュッパチュンと繋がった部分から音が鳴る。
 浅いストロークを繰り返し、ロイのペニスが腸壁を擦り、翔平の感じる部分を狙って突き上げた。
「あ!あ、あ」
 次第にもっと奥を突き上げるような動きに変わると翔平の口から動きに合わせて嬌声が漏れる。
「ロイ、んぅ!あ」
 ゴツゴツと前立腺にぶつかり、悲鳴のような嬌声があがる。
「ショーヘー…」
 ロイの手が翔平の胸元に伸び、胸を撫で乳首を引っ掻くように擦り上げると、ビクビクと体が跳ねた。
 背後から抱きしめるように翔平に重なると、大きく何度も翔平の中を抉るように突き上げる。
「あ!あぁ!ロ、イ!」
 ブルブルと翔平の体が痙攣を始め、絶頂が近いことをロイに知らせると、ロイが両手で翔平の腰を掴み、叩きつけるように腰を打ち付けた。
「うぁ!あ“!」
 奥を突き上げられ、翔平が上半身を反らせると、ロイが後ろから強く抱きしめ、ほぼ同時に絶頂に達した。
「ぁ…」
 中に注がれたロイの精液に熱いため息をつく。
 ゆっくりとペニスが引き抜かれると、トロッとアナルから精液がこぼれ落ちた。
 正面を向かせて強く抱きしめ合い、何度もキスを交わす。
「愛してる…ショーヘー、愛してるよ…」
「俺も…愛してる。ロイ、好き…」
 キスしながら、何度も何度も愛の言葉を囁き合い、クリーンを掛け合った。
 情事の後の気怠い感覚に浸りながらも、汚してしまったキャビネットをタオルで拭き、寝夜着に着替え、諸々を洗濯籠に放り込んだ。
「さぁ、おねんねの時間だ」
 ロイが子供にするように正面から抱っこし、俺も笑いながらロイの首に両腕を回し、足を絡ませる。
 ベッドへ運ばれる間も何度もキスをする。
「前が見えない」
 ロイへ悪戯するようにチュッチュッとキスを繰り返し、進もうとするロイの視界を遮る。
 フラフラと何度も家具や壁にぶつかり、そのたびに笑った。
 寝室に入ると、ロイに下され、ベッドに近寄ってキースの顔を覗き込む。
「…一緒に寝るのか」
「広いし、問題ないだろ」
 静かに眠っているキースを見てホッとして、ロイは微妙な表情になった。
「キース、様子がおかしかったんだよ」
 地下宮殿で俺を見つけた時、明らかにキースは普通じゃなかった。
「パニックを起こしてたと思う…」
「キースが?」
 小さな声で話し、ロイが信じられないと目を丸くした。
「だから、側に居てやりたいんだ」
「そうか…あのキースがな…」
 ロイもキースの顔を覗き込み、すぐに俺を見る。
「キースを襲うわけじゃないよな」
 茶化すように笑ったロイの頭を叩く。
「おやすみ」
 叩く俺の手を取り、軽くキスをする。
「おやすみ」
 俺からもキスを返すと、ロイが微笑み寝室から出て行く。
 静かにドアが閉まり、そのすぐ後に部屋のドアが閉まる音がした。
 キースの反対側に回ると、布団に潜り込み、キースの横顔をしばらく眺める。

 彼に何があったのか。

 俺のあの時の状況がキースのパニックを引き起こした。
 そっと手を伸ばし、キースの頭を撫でた。
 耳と同じようなサラサラの髪の毛にいつまでも触れていたくなったが、手を引っ込め、キースの方を向いてじっと見つめていると、やがて眠りに引きこまれ、ゆっくりと目が閉じた。






 何か夢を見ていたような気がするが、目が覚めた瞬間に忘れてしまう。
 薄く目を開けて天井を見上げ、いつベッドに入ったんだっけ、と目線を動かす。
 そして、見たことのない天井と天蓋から下がるカーテンに、微睡んでいた目をぱちっと見開いた。

 どこだ、ここ。

 ガバッと上半身を起こし、いつのまにか寝夜着を着ていることにも驚いてしまった。
 状況が理解出来ずに、心臓がバクバクと脈打ち、胸のあたりをギュッと握りしめた。



 浅い眠りのせいで、隣のキースが起き上がった振動を感じ、眠りから引き起こされた。
 目を開けて、キースがベッドの上に座っていることに気付き、俺も体を起こす。
「目、覚めた?」
 ふわぁと欠伸をしながらキースに話しかけると、キースが俺を見て、はっきりと狼狽した。
「え、あ、えぇ!?」
 キースがはっきりと慌てている。
 そんな姿を見るのは初めてで、思わず笑ってしまった。
「ショ、ショーヘイ様!?え!?何で私」
 慌ててベッドから降りようとするキースの腕を掴んで引き留める。
「落ち着け、キース。ちゃんと説明するから。とにかく落ち着け」
 翔平に手首を握られ、ベッドから降りるのを妨げられる。
 落ち着けと主人に言われ、この状況に納得いかないが、とりあえず深呼吸して体の力を抜いた。
 ここは瑠璃宮で、翔平の寝室だと気付く。
「どこまで覚えてる?」
 落ち着いたキースと向かい合うように改めて座り直すとじっと目を見る。
「…貴方を探して…」
 キースが数時間前の記憶をゆっくりと掘り起こす。
 倉庫で隠し通路を見つけて中に入った。
 通路が分岐する度に、1人づつ離れて、私も1人で捜索していて…。
「アラン様の声を聞いた…」
 ギル様と叫ぶアランの声を聞いて、その方向へ走り出した。
「あ…」
 順番に記憶を掘り起こし、最後に記憶に残っている光景を思い出した。

 ほぼ全裸で拘束された翔平の姿。
 顔は腫れ上がり、上半身に痣を作って、横たわっていた。

 キースがその姿を思い出すと、いきなり俺の肩を掴んでベッドに縫い付けると顔を覗き込み、おもむろに寝夜着の上着をバッと捲って痣を確認する。
「大丈夫だよ。もう治したから」
 いきなりキースに押し倒されるとは思わなかったと、苦笑する。
 途端にキースが顔をクシャクシャに歪めると、ぼたぼたと上から涙の雨を降らせた。
「ショーヘイ様…良かった…ショーヘイ様…」
 ギュッとそのまま抱きしめられ、キースにベッドに縫い止められた状態で、キースの背中をポンポンと軽く叩いて、背中を撫でる。
 キースが落ち着くまで、しばらくそのままにさせた。

 しばらくするとキースが落ち着いたのか、体を起こし、ベッドの上に座った。
 手で涙を拭って、恥ずかしそうに視線を逸らす。
「すみません…醜態を晒しました…」
「キース、ありがとう」
 体を起こし、向かい合って座る。
「私は何も…」
「必死に探してくれただろう?」
「それは執事として当然のことで…」
「俺のために怒ってくれただろう?」
「それはショーヘイ様が…」
「俺が?」
 キースが言い淀み、ゴニョゴニョと何かを呟くが、はっきりとは聞こえない。
「あ、寝ている場合では…」
 キースが慌ててベッドから出て行こうとしたのをその手首を掴んで止める。
「アラン様やディーが対処してるよ。それにもう真夜中だ」
「しかし…」
 キースの顔が曇る。
「宮殿に戻らなくても、せめて自室に…。主人と同衾するなんて…」
 キースの顔が少しだけ赤くなった。
「あはは、同衾ってw」
 笑いながら手を離すとベッドから降りた。
「ちょっと待ってて。逃げるなよ」
「逃げはしませんけど…」
 キースが顔を顰め、そのままベッドに座ったまま俺を不安げに見てきた。
「そこで待ってて」
 キースを残し寝室から出て、お茶とお菓子の用意をしてお盆に乗せて戻る。
「はい」
 お盆をベッドの上に置くと、ベッドの上に戻り、キースにお茶を渡す。
「ありがとうございます…」
 本来であれば自分の仕事なのに、と言いたげな表情でお茶受け取って飲む姿に、クスッと笑った。
「キース、パジャマトークしようか」
 俺もお茶を飲むとじっとキースを見つめた。
「ぱじゃま、トーク?」
「そう。寝夜着着て、布団の上でお茶したりゴロゴロしたりしながら喋るんだ」
「はぁ…」
 パジャマトークなんて、自分でも時代遅れの言葉を思い出したもんだと、心の中で笑った。
 まぁここは異世界だし、時代遅れも何もないが。
「今、お互いに寝夜着で無防備な状態だよな?
 ぶっちゃけて本音を話そうってことだよ」
 俺が片膝を立ててだらしなく座り、キースに笑いかける。
「私は…執事で…」
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 俺に聞かれてキースがうっと言葉を詰まらせる。

 この人はわざとなんだろうか。

 キースは翔平の仕草に戸惑った。
 首を傾げて少しだけ上目遣いで聞いてくる仕草に照れてしまい、視線を逸らした。
 そして、逸らした視線の先に、きちんと畳まれた執事服と、その上に仕込んでいる数々の暗器が目に入る。

 今自分は暗器を全て外して、この人の前に無防備な姿を晒している。

 その事実を見て、目を細めた。

「わかりました…。話しましょうか」
 そう答えると、翔平がパアッと表情を明るくさせて破顔した。

 敵わないな…。

 そう思った。


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