おっさんが願うもの

猫の手

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王都編 〜夜会〜

109.おっさん、見つかる

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「私と聖女様は、一つになるのです。
 私達はそういう運命の元に出会った。
 これは必然なのですよ」

 ロドニーが薄ら笑いを浮かべながら俺に近付き、両腕を頭上で拘束され、三角座りをしている俺の右足首を掴み、引っ張る。
「離せ!誰がてめぇなんかと!!!」
 掴まれていない左足を思い切り振り上げ、ロドニーの胸元を蹴り飛ばした。
 ロドニーの体は簡単にひっくり返り、部屋の隅の椅子に座っていた男が、プッと噴き出し、肩を震わせて声を押し殺しながら笑った。
「足癖が悪いですね…」
 胸元を蹴られて、少しだけ咳をしながら、今度は正面ではなく、横から回り込むと、俺を跨ぐように足の上に座って体重をかけ動けなくした。
「さぁ聖女様…大人しく…」
 必死に足を動かそうとするが、体重をかけられてはどうすることも出来なかった。
 ロドニーが両手を壁に付き、顔を近付けると、唇から頬をベロリと舐めた。
「ヒゥ」
 その生暖かく濡れた感触に悲鳴をあげ悪寒が走る。必死に顔を背けその舌から逃げる。
「往生際が悪いですよ。貴方はこれから私とSEXするんです。
 たっぷりと可愛がってあげますからね…」
 ベロベロと顔を舐められ、鳥肌が全身を包んだ。
「んぅ!」
 顎を掴まれて、無理やり唇を重ねられ、唇を吸われ、ベロリと舐められ、吐き気が込み上げた。
「いい、加減に…」
 唇が離れると、頭を後ろにのけぞらせ、ロドニーの顔面に思い切り勢いをつけて頭突きを食らわせた。
「へぶっ!!」
 その衝撃でロドニーが後ろに転び、両方の鼻の穴からボタボタと鼻血を吹き出した。
「ッグ!アハハハハ!!」
 それを見ていた男が堪えきれず吹き出し爆笑する。
 拘束された俺に蹴られ、頭突きを受けて鼻血を出すロドニーに、弱すぎんだろ!と涙を流して笑った。
 ロドニーが起き上がると、ボタボタと止まらない鼻血に慌て、部屋の中にあるキャビネットからタオルを取り出し、鼻を抑える。
 真っ白いタオルがみるみるうちに赤く染まり、その量と痛みから鼻の骨が折れたとわかった。
「うるさい!!笑うな!!」
 ロドニーが必死に鼻を抑えながら男に怒鳴る。
 そして、別の引き出しを開けると小瓶を取り出して、急いでそれを顔面にかけた。
 シュウウゥと音を立てて、折れた鼻が治り、鼻血も止まった。
「エリクサー…」
 そんなものまで用意しているなんて、と、弱いが用意周到なロドニーを睨みつける。
「聖女様…少し大人しくなってもらえませんかね…」
 ロドニーが低い声で呟くと、ズカズカと大股で戻り、横から俺の右頬を思い切り拳で殴ってきた。
 ガシャッと反動で鎖が揺れて音を立てる。
「おい、鎖の位置を変えろ」
 命令された男が面倒くさそうに立ち上がるとマットレスに近寄り、壁にかけられていた鎖を外す。
 ロドニーが俺の腰を掴むと一気に引きずり下ろして仰向けの状態にし、馬乗りになる。
「そこでいい」
 ロドニーが鎖の位置を指示し、男が再び鎖を壁に固定した。
「暴れられるものなら、やってみろ」
 ロドニーが興奮した目で俺を見下ろし、拳を振り下ろす。
 ガッ、ゴッと音を立てて、頭を、顔面を、胸を、脇腹を、何度も両手の拳で交互に殴り付ける。
 殴られる度に拘束された両手首が手枷に擦られ傷付き血が流れた。
「ぅ…」
 弱いとはいえ、男の力で何度も殴られ、衝撃と痛みに小さく呻いた。
 先ほどのロドニーと同じように両鼻から鼻血を出し、唇も切れて頬を血が伝う。
「どうした!抵抗してみろ!」
 再び拳で顔を殴られる。
「お前はこれから私に犯されるんだ!」
 逆側を殴られる。
「たっぷり私の精子をお前に注いでやる!!」
 ロドニーが興奮と暴力で体力を使いハァハァと呼吸を荒げる。
 何度も殴られて、最早声も出せなくなっていた。頭を掴まれ何度も揺すられたせいで、目が回って意識が朦朧とした。
「おい、出て行け」
「へいへい」
 ロドニーに命令されると、男は小さなため息と共に部屋を出て行く。
 出る時に小さく、可哀想に…、と翔平に同情を向ける言葉を呟いた。

 意識はあるが、ピクリとも動かなくなった翔平のベルトに手をかけ外し、ボタンも外すと一気に下着ごと引きずり下ろし、下半身を露にする。
 元々破れていた上着を捲り、その胸も露にすると、しゃぶりつくようにその乳首を口に含んで、舌で転がした。
 ジュルジュルと音を立てて舐め、吸い上げ、反対側の乳首を指でこね回す。
 だが、翔平の体は全く反応しなかった。
 それでも、ロドニーの動きは止まらない。
「はぁ…聖女様…」
 うっとりと翔平の下半身を眺め、膝裏に手を入れると、大きく左右に開いた。
「ああ…私のものだ…私の…」
 右手で翔平のペニスを掴むと乱暴に上下に扱くが、全く反応する気配はなく萎れたままだった。
 それでも、指をアナルへ這わせて、入口をなぞり、その中へ指を一本差し入れると、翔平の体がビクリと反応した。
 それはただの生理的な反応で翔平が小さく呻く。
 それをロドニーが勘違いし、指を何度もアナルに突き刺す。
「ぅ…うぅ…」
 翔平が呻き、痛みから逃れようと僅かに体を動かすが、体を襲う激痛にさらに呻いた。
「聖女様、聖女様」
 ハァハァと1人で興奮したロドニーの妄想の中で、翔平が喘いでいると錯覚を引き起こしていた。
 アナルを犯す指を引き抜くと、一度マットレスから降り、翔平の秘部を見ながら、ゆっくりと服を脱ぐ。
 そのペニスはすでに大きく怒張し、ビクビクと何度も跳ねていた。
 翔平の裸体を見ながら、我慢出来なくなったのか、ペニスを扱き出す。
 そして、あっという間に絶頂に達して、翔平の足へ精液を飛ばしていた。



「やれやれ…」
 男が廊下に出てどこで時間を潰そうか考えながら、歩き始める。
 確かこの先を左に曲がった所に部屋があったはずだ。廊下で寝るよりはマシだと、その部屋に向かって歩き出したが、その横を風が通り抜けた。

 風? どこから?

 男の顔がキョトンとした瞬間、壁に縫い付けられていた。
「動くと、頭と胴がお別れしますよ」
 男の目線の先に、金色の瞳が揺れる。
 そして首の左右に触れる冷たい感触と、ちりっとした痛みが走り、ハサミのように首を刃物が挟んでいることに気付いた。
 全く気配を感じなかった。
 目の前にいる男の金色の瞳が発光するように揺らめき、目尻からこめかみにかけて見える鱗に、この男が誰なのかすぐにわかった。
「竜神…、ギルバート…」
 全く動けない状況に男の額から汗が落ちる。
「彼はどこです?」
「あ…あっち…」
 男がゆっくりと左手をあげると、歩いて来た方向を指さす。
「案内なさい」
「は…はい…」
 ギルバートがゆっくりと男の首を挟んでいた漆黒の短剣を下ろす。
「こ、こっち、です…」
 男が首が繋がっていることを手で摩って確認しながら、ギルバートを案内する。
「私が誰だか知っているということは、抵抗が無駄だということもお分かりでしょう?」
 ギルバートの静かな声に怒りが含んでいることを感じ、男の背筋に氷水をぶっかけられたような悪寒が走る。


 冗談じゃねぇ。
 ここはバレないんじゃなかったのか。
 たった100枚の金貨で命なんてかけられるか。


 男が流れ出る冷や汗を拭いながら、後ろから襲ってくるギルバートの殺気に怯えた。

「あの部屋です」
 男が見えたドアを指差し、そのまま通路の端へ避ける。
「ご苦労」
 ギルバートの右手が僅かに動いた瞬間、男の体が壁によしかかり、そのままズルズルと崩れ落ちた。
 殺してはいない。
 一瞬で男の首を短剣の峰で打ち昏倒させていた。



 ロドニーが翔平の両足を抱え上げると、ペニスの鈴口をアナルに押し付ける。
「ぅ…や、やめ、ろ」
 ボコボコに殴られて、顔が腫れ上がり、まともに喋ることも出来ない。
 だが、震える腕を動かして抵抗を示す。カシャカシャと鎖が小さく揺れた。
 足も必死に動かしてもがくが、少しでも体を動かすだけで、殴られた体が激痛を訴えた。
「まだ抵抗しようとするとは、見上げたものです」
 挿入しやすいように、鈴口から流れる蜜をアナルに擦り付ける。
「さぁ聖女様…結ばれましょう」
 腰に力を入れた瞬間、部屋のドアが吹き飛んだ。
 そして、ドアが床に落ちるよりも前に、ロドニーの体が翔平から剥がされ、ギルバートの左手で首を掴まれ持ち上げられた。
 その直後バタンとドアが床に落ちた。
「ロドニー・コークス」
 ギルバートの目が怒りに満ち、ロドニーの首を握る手に力が込められ、その爪が首に食い込み、穴を開けて血が流れ落ちる。
「ぐ…が…」
 バタバタと両手足を揺らしてギルバートの腕や体へぶつけるが、なんの効果もない。
 ロドニーがメキッと自分の首の骨が音を立てるのを聞き、失禁した。
「ギル様!!」
 アランが部屋に飛び込み、ギルの腕を掴む。
「殺してはなりません!!」
 怒りに我を忘れそうになっているギルバートを必死に宥める。
「ギル様!!」
 アランの必死な声に、ギルバートの目がゆっくりと細められると、ゆっくりと力を抜き、ロドニーの首から手を離した。
 ドサリと床に落ちたロドニーが、呼吸が出来るようになって必死に空気を吸い込んでいた。
「ショーヘイ様…」
 部屋の入口にキースが立つ。
「キース…」
 アランがその声に気付き振り返る。そこに呆然と立ち尽くすキースがいた。

 ロイ達も、ギルバート達と同様に入り組んだ通路に、次々と別れて捜索していた。
 そして、たまたま一番最初にここに辿り着いたのがキースだった。

「ショーヘイ様…、ショーヘイ様!!」
 全裸に近い状態でマットレスに横たわる翔平。
 両腕を鎖で繋がれ、その顔は腫れ上がり、腕からは血が流れ、胸や腹に無数の痣を作っている。
 その姿を見て、キースの昔の記憶が蘇り、フラッシュバックを起こした。
「ああああああ!!!!」
 悲鳴に近い雄叫びをあげると、カシャンと漆黒の短剣を一瞬で出し、ロドニーに向かって突進した。
 アランの視界から一瞬でキースの姿が消え、マズいと思いロドニーを振り返る。
「貴様!!貴様が!!!よくも!!!よくもショーヘイ様を!!!!」
 アランの目でも追えなかったキースを、ギルバートが背後から腕ごと抱え、暴れるその体を完璧に押さえ込んでいた。
「殺してやる!!殺してやる!!!」
「キース!落ち着け!!」
 アランが怒鳴る。
 だが、キースは完全に我を忘れて、ギルバートの腕に押さえ込まれても暴れ続け、ロドニーに向かって行こうとする。
「離せ!!!殺す!!!殺してやる!!」
 顔を歪ませ、辛そうな表情をしたアランがキースの首の後ろを手刀で打つ。
 途端にキースの動きも叫びも止まり、気を失った。
 ギルバートはガックリと首を垂れたキースを床に下ろし、握っていた短剣に触れその袖の中に収める。
 アランが跪き、ギルバートからキースを受け取ると苦悶の表情を浮かべながら力強く抱きしめた。
「我を失うとは…我が弟子ながら情けない…」
 そう呟いたギルバートにアランが顔を顰める。
「人のこと言えないでしょう」
 アランが止めに入らなければ、ギルバートは確実にロドニーを殺していた。
 あと1秒遅れていたら、とアランが苦笑する。
「私も修行が足りませんね」
 そんなアランにギルバートが微笑む。
 そしてマットレスの脇に置かれていた真っ白いシーツを取り翔平に近付くと、手枷から腕を解放しゆっくりと痛みが出ないように下げてやる。
 翔平が受けた暴行の跡に顔を歪ませつつ、持っていたハンカチやかたわらに重ねられていたタオル類で翔平の体を丁寧に拭いていく。
 そしてそっとシーツを体にかけた。
「ショーヘイ君、よく頑張りましたね」
「ギル、さ、ま」
 腫れ上がった口を動かして、ギルバートの名を呼ぶ。
「少し痛みますよ」
 ギルバートが翔平の体をそっと動かし、シーツで丁寧に包む。
 動かされて激痛が走るのを必死に耐えた。
「数箇所骨折しています。魔法を使える所に行けば、ヒールで治せますね?」
 ギルバートにそのまま姫抱きに抱き上げられる。
「は、い」
 翔平が答える。

「ロドニー・コークス」
 アランがキースを抱きしめたまま、床で蹲りガタガタと震えている全裸のロドニーに声をかける。
「服を着ろ。全裸のまま地上に出るつもりか」
 怒りを含んだアランの声に、ビクリと反応し、大きく震える腕を伸ばして脱ぎ捨てた服を拾い着ようとするが、震える腕に時間がかかりそうだと、顔を顰めた。

 その時バタバタと通路を走ってくる音が複数聞こえ、アランやキースの声を聞いたロイ達が駆け込んできた。
「ショーヘー!!」
「ショーヘイさん!!」
 ギルバートに抱えられた翔平を見て、2人の顔が青ざめる。
「酷い…」
 翔平の腫れ上がり所々変色している顔を見たアビゲイルが口を両手で覆い、目に涙を浮かべる。
「貴様…」
 ロイがロドニーを睨みつける。
「ヒイィ!」
 そのロイの殺気にロドニーが服を着る手を止めて頭を抱え込んだ。
「ロイ、もう終わったんです」
「いいや、終わってねぇ。こいつが生きてる」
 犬歯を覗かせ、ガルルルと唸るロイにギルバートが苦笑する。
 ロイが爆発寸前になっているが、翔平を抱えているギルバートに止めることは出来ない。止める気もないのだが。
 ロイがロドニーへ近付こうとした時、その隣を静かにディーが通過し、ロイが拍子抜けしてしまう。
 そして、座っているロドニーの頭を鷲掴むと、そのまま床に顔面を思い切り叩きつけた。
 その一撃で鼻が再び折れ、前歯も折れる。
「が…あ…」
 叩きつけた頭を再び持ち上げ、再び床に顔面を叩きつけた。
 立ち上がり、ピクピクと痙攣し動かなくなったロドニーの脇腹を足先で蹴り上げると、仰向けにした。
 そして、その股間を思い切り踏みつけようとし足をあげる。
「ディーゼル!!」
 アランの声でピタリとディーの動きが止まり、ゆっくりと足を下ろした。
 ディーの目がアランを睨みつけるが、目が合うとゆっくりと怒りの表情を抑え、我を忘れた自分に顔を顰めた。
「全く…我を失う奴が多過ぎる…」
 アランがため息をついた所で、ドカドカと大きな足音を立てて部屋に入ってきたグレイが、転がっているロドニーを思い切り蹴り上げた。
 おかしな声を上げてロドニーが壁にぶち当たるとドシャッと床に落ち、さらにグレイがロドニーへ向かおうとするのを、今度はディーが止めた。
「…グレイ…、お前もか…」
 アランが呆れたように呟く。
「ショーヘーちゃ~ん…」
 ジャニスがドアの所に立ち、翔平の姿を見て、マントを手繰り寄せてハンカチ代わりにしながらおいおいと泣くのを、同じく泣いているアビゲイルが慰める。
「おいおい、どういう状況だ?」
 次に現れたオスカーが顔を顰め、最後に現れたミネルヴァが翔平の姿を見て言葉を失った。




 全員が揃った所で、地上に上がる。
 倉庫へ続く通路へ出て階段を上がり、その途中にあった、倉庫と同じ装飾を引くと、簡単に床の扉が開いた。
 グレイがロドニーが羽織っている上着の後ろ首を掴み、乱暴に引きずりながら連行した。
 ロイが翔平を寄越せ、とギルバートに迫るが、動かすと痛むのでこのままと言われ、渋々引き下がった。
 キースは意識を失ったままで、アランが姫抱きに抱えて運ぶ。時折り、キースの額にキスをし顔を寄せ、心配そうな表情を浮かべていた。



 流石に貴族達がいる所へ翔平を連れていくことは出来ず、宮殿の外へ出ると裏手に周った。
「ショーヘイ君、ここなら大丈夫です」
 ギルバートに言われ、ゆっくりと魔力を解放する。
「ヒール」
 小さく呟くと、ギルバートの腕の中でみるみる怪我が治っていく。
 折れた骨が繋がり、殴られた箇所の内出血が消え、腫れも引く。手枷で傷ついた手首の擦過傷も綺麗になくなると、目を開けた。
「復活です」
 抱き上げているギルバートを下から見上げ、ニコリと微笑む。
「お見事」
 ギルバートも微笑み、俺にキスしようと顔を寄せてくるが、ロイがすかさず顔と顔の間に手で壁を作った。
「もういいだろ。降ろせ」
 ムッとしたロイがギルバートを睨みつけるが、ギルバートはギュッと俺を抱きしめたまま離さない。
「ギル!」
「役得です」
 笑いながらロイを揶揄う。
「ギル様、降ろしてください」
 俺が言うと、ギルバートはすぐに俺を降ろしてくれた。
 地面に着地して、少しだけふらついたが、シーツを被ったままロイとディーの所へ行く。
「ロイ、ディー」
 その胸に飛び込んだ。
 ロイが、ディーが両腕でしっかりと俺を抱きしめてくれる。
「良かった…」
 ディーが目を潤ませて頭を撫でる。
「ショーヘー、何もされてないよな!?」
「あー…痴漢まがいなことはされたけど…。でも未遂だよ」
 大丈夫だと、笑いながら答えた。
「きっと来てくれるって思ってたから、なるべく話をして時間を稼いでた」
 2人がホッとした表情を浮かべる。
「ああ、そうだ…」
 2人から体を離し、シーツを体に巻き付け直しながら両腕を外に出すと、アビゲイルに近寄る。
「アビー、大丈夫?」
 アビゲイルの顔に血の跡が残っている。果実酒のボトルで殴られて額を切っていた。
「じっとして。美人な顔に傷が残ったら大変だ」
 アビゲイルの顔を包むように手を翳すとヒールを使う。
「温かい…」
 アビゲイルが目を閉じて、翔平の魔力にうっとりする。そして、自分の傷が消えていくのを感じた。
「ありがと、ショーヘイ」
 アビゲイルが、俺の頬にチュッとキスしてくれて、思わず顔を赤くした。
「あたし!あたしも怪我してるわよ!」
 はいはいと手を上げてジャニスも主張するが、周囲から何処にだよ、と突っ込まれて笑いが起こる。
「アラン様、他に怪我人は?」
「正面側にいる騎士や貴族達がな」
「わかりました」
 そう言って、一瞬で魔力を膨らませ、宮殿周辺を包み込むように魔力を解放する。
 目を閉じ、座り込んでいた貴族や、後処理をしていた騎士達、宮殿の執事やメイド達。その人たちに意識を集中して魔力を高めていく。
 そして宮殿を取り囲むように魔法陣が浮き上がった。

 正面側で後処理をしていた騎士や貴族達がいきなり足元に浮かび上がった魔法陣にざわめく。
「聖女様だ!」
「我らを癒してくださるぞ!」
 誰かが叫ぶ。

 全員を包み込んだと、認識出来た所で、詠唱した。
「ヒール」
 宮殿の向こう側から、歓声が聞こえてくる。
 その声で、治せたと確信できた。
 重傷者がいないせいか、魔力もさほど大量に使われることなく、体はなんともなかった。
「ショーヘー、すまんな…」
 アランが守れなかったこと、今ここでヒールを使わせたこと、全てに謝罪する。
「いいえ。大丈夫です。
 時間稼ぎのためにロドニーと話したんですが、今回の事、ペラペラと喋ってくれましたよ」
「わかった。こちらの処理が終わったら聞かせてもらいたい」
 頷くとアランに近寄り、キースを心配そうに見つめた。
「キースは…」
「ああ、眠ってるだけだ」
 アランに抱えられて眠っているキースの肩に触れる。
 あの時、キースは何故あんなに…と、我を忘れてロドニーに襲いかかった尋常じゃない様子を思い出していた。
「連れて戻ってもいいですか?」
「ああ。そうしてくれると助かる」
「ロイ、頼む」
 俺に言われて、ロイがアランからキースを受け取る。
「俺は向こうへ戻る。馬車をこっちへ回すから瑠璃宮へ戻ってくれ。
 ディーゼル、お前もショーヘーと行け」
「…いえ、残ります」
 ディーが一瞬悩んだが、すぐに残ると返した。
「ショーヘイさん…、また後で…」
 ディーが俺の前に来ると、頬に手を添え唇を重ねた。
「無事で…本当に良かった」
 コツンと額をくっつけ、俺の手を握る。
「ありがとう、助けてくれて」
 ニコリと微笑み、再びキスをした。
「じゃぁ後始末に行ってきます」
 名残惜しそうにディーが離れると、手を振って見送る。
「ショーヘー。後で俺にもキス」
 キースを抱えたロイがムーっと口を尖らせながら言い、はいはい、と笑って答える。
「ギル様」
 ロイの後ろにいるギルバートが何か言いたげな顔でこっちを見ていた。
「ギル様、助けていただいてありがとうございます。貴方が来てくださらなければ俺は今頃…」
 ギルバートの方へ進みながら、話しかけている途中で、唇を奪われた。
「ん」
 ギュッと腰と背中に腕を回し、強く抱きしめられ、舌を絡め取られる。
「ギル!」
 ロイが叫び、グレイやオスカー達があ~あと、呆れたようにため息をつく。
「ん…ぁ…」
 ギルバートの長い舌が俺の舌を絡め取り、口内の性感帯をなぞる。
 唇を貪られ離されると、ギルバートが微笑む。
「ショーヘイ君、やはり君は素晴らしい」
 ペロリと唇を舐められ、ゾクッと鳥肌がたった。
「ギ~ル~」
 ロイが悔しそうに歯をギリギリ鳴らす。キースを抱えているので、ギルバートに何も出来ずかなり悔しそうにしていた。
 そんなロイにギルバートがわざとらしく、俺の背中を撫で、尻を弄る。
「あ、ちょ、ギル様」
「冗談です」
 際どい所に指が這わされて流石に抗議すると、ギルバートはニコッと微笑みながら俺を離した。
 冗談にしては濃厚なキスだった、と顔を赤くする。
「ショーヘイ君。キースをお願いしますね」
 突然ギルバートが真顔になる。
「え」
 その意味を聞こうとしたが、再び微笑んだギルバートにはぐらかされた。
 その時、表から馬車が到着する。
「さぁ、後処理は任せて、戻りなさい」
 ギルバートが馬車のドアを開けた。
「アビー、お前も戻れ」
 オスカーが治ったとはいえ、唯一怪我をしたアビゲイルを気遣って言った。
 そんなオスカーに苦笑しつつ、アビゲイルは素直に従うことにする。
 馬車に俺とロイ、キース、アビゲイルが乗り込み、瑠璃宮に向けて動き出した。

 宮殿の脇を通過し、正面側に回ると、貴族達も続々とお迎えの馬車に乗り込み、帰路につくのが見える。

 
 大変な夜会だったな、とふぅと息をはいた。そして、鼻がむずむずし、
「へっくし!」
 くしゃみが出た。
 裸にシーツ1枚で外にいたことで、体が冷えたんだと思った。
「風邪引くなよ」
 ロイが真顔で言う。
 ズズッと鼻をすすった。



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